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しおりを挟む「……和志……?」
哲太は顔を真赤に染めこちらを向いたまま僅かに俯いた幼馴染の顔を見つめた。
色が白いせいか首元まで赤くしたその肌が、イヤに艶めかしく見え哲太の喉の奥が小さく音を立てた。
見るでも無く、まだ微かにチョコレートが着いた、ふっくらとした桜色の唇に目が奪われる。
初めてできた彼女と、初めてキスをした時のような高揚感が湧き上がり、哲太の胸を埋めつくした。
───触りたい───
哲太の指が再び和志の顎に触れ、親指が先程より優しく唇を拭うと、俯いたままの顔をゆっくりと上げた。
黒目がちの瞳が微かに戸惑いながら逸らされる事無く、哲太の視線に応えるように見つめ返した。
真直ぐに見つめ返す深い海のような青色を含んだ黒い瞳が、赤く染めた柔らかな肌が、ひどく愛おしい。その想いだけに囚われたまま哲太はゆっくりと顔を近付けた。
熱い息がかかり、それが唇の熱にも感じられ、苦しい程の鼓動を一層激しくさせる。
───……和志に…………
しかし唇が触れる直前、すぐ後ろの、学校の体育館特有の鉄の扉が周りの空気まで振動させるような大きな音を立て、2人を現実へと引き戻した。
「悪ぃ悪ぃ……邪魔しちゃった?───ついムカついてドア蹴っちゃった」
赤く染めた細い髪が風に揺れ、切れ長の鋭い目が、立ち上がり振り返った2人を捉えた。
笑っている口元とは裏腹に赤い髪から覗く瞳は怒りの色を隠すことさえしていない。
「…………なんだお前……?」
その瞳に挑むように、哲太の凄みのある声が響いた。
しかし哲太の言葉を無視するように鼻で笑うと、的場は和志を見据えた。
「授業サボって新しいオモチャ探しか?……あぁ…………悪ぃ……オモチャはお前だっけか?──和志」
「───的場ッ!」
明らかに挑発しようとしている的場に、のせられるように怒鳴った和志を、哲太は咄嗟に振り向いた。
先程まで美しく飾っていた薄紅色の頬が、今はその影すらなく青ざめている。
「……そう怒るなよ……。これでも心配してお前を探しに来たんだぜ?」
哲太などまるで見えていないかのように手を伸ばすと、的場は細い手首を掴み抗おうとしない和志を自分へと引き寄せた。
「お前の担任……木島って言ったっけ?保健室で寝てる筈のお前がいないって探し回ってんぞ」
和志の耳元でそう言うと、掴んでいた手首を上げ、チョコレートの着いた指先に舌を這わせた。
「マズイんじゃねぇの?……あのクソ野郎に知られたらさ……」
和志を見つめながら続けた言葉に、今度は先程とは違い“棘”が無いように聞こえる。そして向けられた眼差しには和志に対して憂いさえ感じられた。
「───おい……」
しかし和志から離すように的場の腕を掴むと、哲太は自分が盾になるように2人の間に割って入った。
「…………さっきっから意味解んねぇことばっか言いやがって……なんなんだテメェは」
的場を睨んだ瞳が、怒りの色を濃く含んでいる。
自分のことを完全に無視しているこの赤髪の男にも、抗うことすらしない和志にも苛立っていた。
自分よりこの男のことを“優先”しているように見える。
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