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しおりを挟む確かに『突然』だった。
哲太の中の和志の最後の記憶は、病院のベッドで今にも泣きそうな程不安そうにしていた姿だった。
今から6年前。まだ2人が小学生だった頃、和志の母が運転する車が事故を起こしたのだ。
後部座席に乗っていた和志は幸いな事に軽傷で済んだが、運転していた母は頭を酷く打ち付け重体だった。当時父は既に他界していて、母と2人暮らしだった和志は、退院後一時的に児童相談所が保護する予定になっていた。
和志の母が親戚付き合いを一切しておらず、それがいるのかも不明な状態だったからだ。
母に会うことも出来ず、全ての生活が変わることに、まだ子供の和志が不安にならない訳が無かった。しかし泣きもせず気丈に振る舞う和志を哲太は毎日見舞った。
時間が許す限り病院に通い、共に過ごした。
それが退院を目前に控え、突然和志が姿を消したのだ。看護師に聞いても「親戚の家に行った」そう答えが返ってきただけだった。
「叔父さんて……おばさんの兄弟……?」
「……父さんの………弟……」
目を逸らし、言った和志の顔が微かに曇ったように見える。
「最後哲太に会った日の夜……弁護士が来たんだ。父さんの弟が会いたがってるって……それで……そのまま俺と母さんの面倒見てくれてる」
和志から感じる違和感に、哲太は眉をひそめた。
当時哲太の両親が、母が退院出来るまで和志を引き取りたいと申し出たが、血縁関係もない者からの申し出はすぐに却下された。それを考えれば、“叔父に引き取られた”というのは満更嘘とは思えない。しかし、和志の笑顔が昔のそれとは明らかに違い、今現在和志が“幸せ”なのだとは思えなかった。
───けど……そんなの俺が言っていい事じゃねぇよな…………
会ったことも無い親戚と暮らすのだから、何かしらの苦労があって当たり前なのかもしれない、と哲太は口を噤んだ。
「そっか…………おばさん元気になったんなら…良かった」
その言葉にすら憂いを帯びた瞳は机の上のコーラを見つめたまま微笑んだ。
「俺のことなんかよりさ、哲太彼女いたんだ?」
短い沈黙の後、重くなってしまった空気を変えるように和志の明るい声が響いた。
「え……まぁ…それなりにな」
「へぇ……小学校の頃から哲太モテたもんね。どんな子?可愛かった?」
「……まぁ………普通じゃね……?」
「普通ねぇ………何人いたの?」
「何人て…………5人……くらい………」
「へぇ、すごいじゃん。あ……でも……人数多いってことは…………」
「うるせぇよ……」
そこでまたくすくす笑いだした和志に、哲太の頬が微かに染まった。和志と好きな子や、まして彼女の話などした事が無かったからだ。
「…………今は……?」
「───え…………」
「今はいないの?」
不意に真直ぐに向けられた表情が、イヤに意味ありげにみえる。
多分、見たことが無い表情だ。
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