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第三章
ウンディーネの逆鱗?
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「ほれ、アーベル先生とやらも飲まんかい。ここのアンブロシア酒を飲まずして、アンブロシアを知ったとは言わせぬぞ」
「ちょっと! アンブロシア酒を造っているカーリンはアーベルと契約しているんだって!」
精霊からの質問に答える場のはずがカオスになってきた。
精霊も私のような魂霊も酒には酔わないはずなのだが、精霊たちとの距離が詰まってきたというか遠慮が無くなってきたような気がする。
「そういえば人間ってお酒飲むと性格が変わるよね~。何でだろう?」
そう尋ねられたが、さすがに酔いのメカニズムを説明する気にはなれない。
それこそおざなりな説明で済ませてしまったが、これは人間をそう造った原初の精霊や一部の初期の精霊が答えるべき質問だと思う。
目の前の初期の精霊には責任を自覚してもらいたいものだ。
話を聞いているうちにわかってきたのは、精霊は人間とのコミュニケーションでかなり苦労しているらしいということだ。
時間の感覚についてはかなり情報が行きわたっているためか質問こそなかったが、愚痴の類は多く聞かされた。
質問会を始める前は、外国の人に日本の習慣とか文化を説明するような感覚で答えればいいかと思っていた。
しかし、実際に話を聞いてみると、ぶち当たっている問題を解決するための答えやヒントを提示する必要があるなと考えを改めた。
存在界で精霊界への移住の宣伝をするのに、彼らも必死なのだということを思い知らされた。
「そういえばアーベルさんもそうだけど、魂霊って愚痴っぽい話をしても怒ったり嫌がったりしないよね?」
シルキーという家事を司る女性型の精霊の一体が不意にそう言った。
この場にシルキーは四体ばかりいるのだが、同じような姿で区別がつかない上に、私はそのうちの誰の名前も知らない。
「そういうものか? 嫌な話だとは思わないし、そういうのあるよな、と思うことが多いが……」
正直なところ、私の反応に対して不満を持たれなければ別に愚痴の類を聞くのは気にならない。
むしろ興味深く感じられるものや、同意できるものが少なくないように思う。今ここで聞いているのもそういったタイプのものだ。
「相談所に行くかどうか迷っている人間から相談されたとき、答えに困るんだよね。アーベルさん、どうしたらいいかなあ?」
それは私が同じ立場になっても困る質問だ。状況がわかれば多少はマシな回答ができるかもしれないが……
「一緒について行こうか、って誘うかな。申し訳ないけど何が正解だか私にもよくわからない」
「そうかぁ、人間やっていてもわからないことあるんだね」
質問した精霊は残念そうな顔をしたが、その通りだとしか言いようがない。
「本当に申し訳ない。私も人間をよく知っているか? と言われると自身がない」
私にできるのはそう謝ることくらいか。
「私服のセンスを何とかしろと知っている人間に言われるのだが……どうしたらよいだろうか?」
また答えにくい質問だ。正直私にも服のセンスはないと断言しておく。
今こちらで来ている服は、パートナーたちが作ってくれたものなのだ。
「専門じゃないからわからないけど、知っている人間に洋服を売っているお店に連れて行ってもらうのがいいかな。お店の人に聞けばうまく組み合わせてくれると思う。ちょっとお金はかかるけど、そういうのをアドバイスしてくれるサービスもあると思うから、存在界に行ったらネットで調べてみるといいんじゃないかな」
これでいいのだろうかと私も疑問に思うが、このくらいしか答えられない。
「はーい、今度は私。男の人に追いかけられないようにするにはどうしたらいいの?」
この質問は問題児のバネッサだ。
彼女はセイレーンという歌を司る精霊だ。
その声には人間の男性を魅了する力があり、彼女は存在界で男性に言い寄られてはトラブルになる、というのを繰り返している。
力のことを考えると存在界に送るメンバーとしては人選、いや精霊選? ミスじゃないかという気もする。
「それは精霊としての力の問題のような気が……」
「存在界の習慣とか関係ないよね?」
さすがにこの質問は周囲の精霊たちも私に聞く内容ではないと思ったらしく、バネッサは他の精霊たちの手によってずるするとアイリスの前に引っ張られていった。
確かにアイリスの方が解答者として適任だ。仕事をしてくれ、初期の精霊。
「なかなか難しいものだな。人間の言葉は同じ発音なのにまったく意味の違うものもあるしな。『そのうち』なんていつのことだかさっぱりわからん」
「確かに。給料アップの『そのうち』はいつまで経っても来ないのに、仕事の期限の『そのうち』は三日後だったりするからな」
隣のテーブルから声が聞こえてきた。
これについては、日本語が悪いような気がする。彼らに心の中ですみませんと謝っておいた。
「そういうのはよくあるわよ。アーベルなんてそれでこの名前にしたのだから」
アイリスが身を乗り出して隣のテーブルの会話に割り込んできた。その話をするということは多分誤解があるような気がするのだが、私は別のことが気になった。
カウンターの後ろにパートナーであるニーナの姿が見えたのだ。用事が済んだのだろうか?
「!!」
ニーナが私に気付いたようで、こちらへと向かってきた。
これはまずい。
「アイリス、ニーナが来るよ」
私はアイリスにそう注意したのだが、彼女はそれを無視して話を続けている。
「アーベルって、人間だったときの名前が『レイヤ』なのよ。精霊の言葉だったら『今いる場所』じゃない! 混乱するから私が名前を変えさせたのよ。人間の名前って精霊からすれば変な意味のものもあるのよね~」
アイリスが大声で言った。私はその前に注意したからな。
ニーナがこちらに近づいてきたが、私の正面には立たず、アイリスの背後へと回り込んだ。
「……アイリス、それは一体どういうことでしょうか?」
アイリスの肩にポンと手を置きながらニーナが尋ねた。
目は真剣だし、口調はかなり厳しい。
「へ? アーベルの名前の話よ、ってニーナさん?!」
振り向いたアイリスの額から汗が流れ落ちた。一瞬恨めしそうに私の方を見たが、私は注意したぞ。
「わたくしの契約者様のお名前がどうしたのでしょうか? 変な意味と仰られたように思われますが?」
「ちょ、ちょっと、ニーナ? その、じょ、冗談よ……イタタタタ」
ニーナがアイリスの肩を掴む手に力を入れたように思われた。
周囲がしんと静まり返った。
ニーナの表情はうっすらと笑みを浮かべているが、その双眸はアイリスを射抜いている。
「ちょ、ちょっとアーベル。何とか言ってよ」
アイリスが私に助けを求めたが、これは逆効果だということを私は知っている。
これではニーナの怒りが更にヒートアップしてしまう。
ニーナは水の精霊ウンディーネである。ウンディーネは冷静な性質だが、契約相手のことを馬鹿にされると手が付けられないくらいに激怒するのだ。
アイリスはこれで何度か地雷を踏んでいるのだが……懲りないというか……
「アイリス。わたくしはともかくアーベル様を小馬鹿にするような言動、とても看過できません。ですが、わたくしも鬼というわけではありませんので贖罪の機会を設けましょう。アーベル様、それでよろしいでしょうか?」
「ニーナ、君に任せる」
こう私が答えたのは、アイリスに対する慈悲だ。
私が何か言えばさらにニーナはヒートアップして、とんでもない罰を加えるだろうから。
「アーベル様、ありがとうございます。ユーリ、キンキンエールをひとつ、こちらに頂けますか?」
ニーナが手を挙げてユーリに注文をいれた。
「キンキンエールね? わかったわ」
苦笑いしながらユーリが答えた。彼女なら多少手加減するだろう。
流れる水の属性を持つアイリスは、止まった水である冷たい飲み物が大の苦手だ。
彼女に対する拷問で一番手っ取り早いのが冷たい飲み物を飲ませることなのだ。
「はい、キンキンエール。ここに置いておくから」
ユーリがエールのジョッキをテーブルに置き、ニーナがアイリスの前にすっと差し出した。
「アイリス、贖罪を」
「……」
アイリスがジョッキを目の前にして固まった。
陶器製のジョッキだが、周囲には水滴がうっすらと浮いている。
「どうされました?」
ニーナがアイリスの顔を覗き込んだ。
「わ、わかったわよ」
覚悟を決めてアイリスがジョッキに口をつけたが……
「ぎゃぁぁぁぁっ! 揺らぐ、揺らいじゃうってばぁ!」
大声で喚いてバタバタと暴れ出した。
「贖罪がまだ足りないと思いませんか?」
ニーナがジョッキをアイリスに押し付けた。
「ひ、ひぇぇぇぇぇっ! やる、やるってば! ずず……」
涙目になりながら、アイリスがジョッキからエールをすする。
その顔はぐしゃぐしゃになっているが、倒れたりするようなダメージはなさそうだ。
恐らくユーリが手加減して少し温度の高いエールを注いでいるはずだ。
「贖罪は終わりましたか? まだ、罪が残されているようですが」
ニーナがジョッキをのぞき込んで首を横に振った。
存在界では完全にアルハラなのだが、アルコールの影響を受けない精霊に対してはどういう扱いになるのだろう?
それにしても、このような場合のニーナは非常に厳しい。
私が止めに入らないのは、止めるとかえってニーナがヒートアップする、というのもある。
だが、最大の理由はニーナがやっていることは精霊のルールに抵触しないからだ。
精霊の目の前で契約相手を侮辱した場合、仕返しされても文句は言えないというのがルールらしい。
先日の研修でも講師のガネーシャに確認したから間違いない。
「ひぃぃぃぃっ、飲んだ、飲んだわよ! ぜいぜいぜい……」
涙目のまま肩で息をしながらアイリスがジョッキを逆さにして、空になったことをアピールした。
「アーベル様、すみません、これでよろしいでしょうか?」
ニーナが私に微笑みかけたが、私から見てもちょっと怖い。
「……十分だ」
私もそれ以上答えることができなかった。
このままなし崩し的に私への質問会はお開きになった。
ニーナの怒りは治まったようだが、周囲の精霊たちが彼女を恐れて近づいてこない。
私がこのままここに残っても意味が無さそうだ。
私はニーナを連れて「ケルークス」を後にした。
私の人間時代の本名ネタはそろそろ卒業してほしかったから、今回のことはアイリスにとって良い薬になったと思う。
……まあ、次回出勤したらアイリスには少しだけ優しく接するか。上司に対して偉そうだけど。
「ちょっと! アンブロシア酒を造っているカーリンはアーベルと契約しているんだって!」
精霊からの質問に答える場のはずがカオスになってきた。
精霊も私のような魂霊も酒には酔わないはずなのだが、精霊たちとの距離が詰まってきたというか遠慮が無くなってきたような気がする。
「そういえば人間ってお酒飲むと性格が変わるよね~。何でだろう?」
そう尋ねられたが、さすがに酔いのメカニズムを説明する気にはなれない。
それこそおざなりな説明で済ませてしまったが、これは人間をそう造った原初の精霊や一部の初期の精霊が答えるべき質問だと思う。
目の前の初期の精霊には責任を自覚してもらいたいものだ。
話を聞いているうちにわかってきたのは、精霊は人間とのコミュニケーションでかなり苦労しているらしいということだ。
時間の感覚についてはかなり情報が行きわたっているためか質問こそなかったが、愚痴の類は多く聞かされた。
質問会を始める前は、外国の人に日本の習慣とか文化を説明するような感覚で答えればいいかと思っていた。
しかし、実際に話を聞いてみると、ぶち当たっている問題を解決するための答えやヒントを提示する必要があるなと考えを改めた。
存在界で精霊界への移住の宣伝をするのに、彼らも必死なのだということを思い知らされた。
「そういえばアーベルさんもそうだけど、魂霊って愚痴っぽい話をしても怒ったり嫌がったりしないよね?」
シルキーという家事を司る女性型の精霊の一体が不意にそう言った。
この場にシルキーは四体ばかりいるのだが、同じような姿で区別がつかない上に、私はそのうちの誰の名前も知らない。
「そういうものか? 嫌な話だとは思わないし、そういうのあるよな、と思うことが多いが……」
正直なところ、私の反応に対して不満を持たれなければ別に愚痴の類を聞くのは気にならない。
むしろ興味深く感じられるものや、同意できるものが少なくないように思う。今ここで聞いているのもそういったタイプのものだ。
「相談所に行くかどうか迷っている人間から相談されたとき、答えに困るんだよね。アーベルさん、どうしたらいいかなあ?」
それは私が同じ立場になっても困る質問だ。状況がわかれば多少はマシな回答ができるかもしれないが……
「一緒について行こうか、って誘うかな。申し訳ないけど何が正解だか私にもよくわからない」
「そうかぁ、人間やっていてもわからないことあるんだね」
質問した精霊は残念そうな顔をしたが、その通りだとしか言いようがない。
「本当に申し訳ない。私も人間をよく知っているか? と言われると自身がない」
私にできるのはそう謝ることくらいか。
「私服のセンスを何とかしろと知っている人間に言われるのだが……どうしたらよいだろうか?」
また答えにくい質問だ。正直私にも服のセンスはないと断言しておく。
今こちらで来ている服は、パートナーたちが作ってくれたものなのだ。
「専門じゃないからわからないけど、知っている人間に洋服を売っているお店に連れて行ってもらうのがいいかな。お店の人に聞けばうまく組み合わせてくれると思う。ちょっとお金はかかるけど、そういうのをアドバイスしてくれるサービスもあると思うから、存在界に行ったらネットで調べてみるといいんじゃないかな」
これでいいのだろうかと私も疑問に思うが、このくらいしか答えられない。
「はーい、今度は私。男の人に追いかけられないようにするにはどうしたらいいの?」
この質問は問題児のバネッサだ。
彼女はセイレーンという歌を司る精霊だ。
その声には人間の男性を魅了する力があり、彼女は存在界で男性に言い寄られてはトラブルになる、というのを繰り返している。
力のことを考えると存在界に送るメンバーとしては人選、いや精霊選? ミスじゃないかという気もする。
「それは精霊としての力の問題のような気が……」
「存在界の習慣とか関係ないよね?」
さすがにこの質問は周囲の精霊たちも私に聞く内容ではないと思ったらしく、バネッサは他の精霊たちの手によってずるするとアイリスの前に引っ張られていった。
確かにアイリスの方が解答者として適任だ。仕事をしてくれ、初期の精霊。
「なかなか難しいものだな。人間の言葉は同じ発音なのにまったく意味の違うものもあるしな。『そのうち』なんていつのことだかさっぱりわからん」
「確かに。給料アップの『そのうち』はいつまで経っても来ないのに、仕事の期限の『そのうち』は三日後だったりするからな」
隣のテーブルから声が聞こえてきた。
これについては、日本語が悪いような気がする。彼らに心の中ですみませんと謝っておいた。
「そういうのはよくあるわよ。アーベルなんてそれでこの名前にしたのだから」
アイリスが身を乗り出して隣のテーブルの会話に割り込んできた。その話をするということは多分誤解があるような気がするのだが、私は別のことが気になった。
カウンターの後ろにパートナーであるニーナの姿が見えたのだ。用事が済んだのだろうか?
「!!」
ニーナが私に気付いたようで、こちらへと向かってきた。
これはまずい。
「アイリス、ニーナが来るよ」
私はアイリスにそう注意したのだが、彼女はそれを無視して話を続けている。
「アーベルって、人間だったときの名前が『レイヤ』なのよ。精霊の言葉だったら『今いる場所』じゃない! 混乱するから私が名前を変えさせたのよ。人間の名前って精霊からすれば変な意味のものもあるのよね~」
アイリスが大声で言った。私はその前に注意したからな。
ニーナがこちらに近づいてきたが、私の正面には立たず、アイリスの背後へと回り込んだ。
「……アイリス、それは一体どういうことでしょうか?」
アイリスの肩にポンと手を置きながらニーナが尋ねた。
目は真剣だし、口調はかなり厳しい。
「へ? アーベルの名前の話よ、ってニーナさん?!」
振り向いたアイリスの額から汗が流れ落ちた。一瞬恨めしそうに私の方を見たが、私は注意したぞ。
「わたくしの契約者様のお名前がどうしたのでしょうか? 変な意味と仰られたように思われますが?」
「ちょ、ちょっと、ニーナ? その、じょ、冗談よ……イタタタタ」
ニーナがアイリスの肩を掴む手に力を入れたように思われた。
周囲がしんと静まり返った。
ニーナの表情はうっすらと笑みを浮かべているが、その双眸はアイリスを射抜いている。
「ちょ、ちょっとアーベル。何とか言ってよ」
アイリスが私に助けを求めたが、これは逆効果だということを私は知っている。
これではニーナの怒りが更にヒートアップしてしまう。
ニーナは水の精霊ウンディーネである。ウンディーネは冷静な性質だが、契約相手のことを馬鹿にされると手が付けられないくらいに激怒するのだ。
アイリスはこれで何度か地雷を踏んでいるのだが……懲りないというか……
「アイリス。わたくしはともかくアーベル様を小馬鹿にするような言動、とても看過できません。ですが、わたくしも鬼というわけではありませんので贖罪の機会を設けましょう。アーベル様、それでよろしいでしょうか?」
「ニーナ、君に任せる」
こう私が答えたのは、アイリスに対する慈悲だ。
私が何か言えばさらにニーナはヒートアップして、とんでもない罰を加えるだろうから。
「アーベル様、ありがとうございます。ユーリ、キンキンエールをひとつ、こちらに頂けますか?」
ニーナが手を挙げてユーリに注文をいれた。
「キンキンエールね? わかったわ」
苦笑いしながらユーリが答えた。彼女なら多少手加減するだろう。
流れる水の属性を持つアイリスは、止まった水である冷たい飲み物が大の苦手だ。
彼女に対する拷問で一番手っ取り早いのが冷たい飲み物を飲ませることなのだ。
「はい、キンキンエール。ここに置いておくから」
ユーリがエールのジョッキをテーブルに置き、ニーナがアイリスの前にすっと差し出した。
「アイリス、贖罪を」
「……」
アイリスがジョッキを目の前にして固まった。
陶器製のジョッキだが、周囲には水滴がうっすらと浮いている。
「どうされました?」
ニーナがアイリスの顔を覗き込んだ。
「わ、わかったわよ」
覚悟を決めてアイリスがジョッキに口をつけたが……
「ぎゃぁぁぁぁっ! 揺らぐ、揺らいじゃうってばぁ!」
大声で喚いてバタバタと暴れ出した。
「贖罪がまだ足りないと思いませんか?」
ニーナがジョッキをアイリスに押し付けた。
「ひ、ひぇぇぇぇぇっ! やる、やるってば! ずず……」
涙目になりながら、アイリスがジョッキからエールをすする。
その顔はぐしゃぐしゃになっているが、倒れたりするようなダメージはなさそうだ。
恐らくユーリが手加減して少し温度の高いエールを注いでいるはずだ。
「贖罪は終わりましたか? まだ、罪が残されているようですが」
ニーナがジョッキをのぞき込んで首を横に振った。
存在界では完全にアルハラなのだが、アルコールの影響を受けない精霊に対してはどういう扱いになるのだろう?
それにしても、このような場合のニーナは非常に厳しい。
私が止めに入らないのは、止めるとかえってニーナがヒートアップする、というのもある。
だが、最大の理由はニーナがやっていることは精霊のルールに抵触しないからだ。
精霊の目の前で契約相手を侮辱した場合、仕返しされても文句は言えないというのがルールらしい。
先日の研修でも講師のガネーシャに確認したから間違いない。
「ひぃぃぃぃっ、飲んだ、飲んだわよ! ぜいぜいぜい……」
涙目のまま肩で息をしながらアイリスがジョッキを逆さにして、空になったことをアピールした。
「アーベル様、すみません、これでよろしいでしょうか?」
ニーナが私に微笑みかけたが、私から見てもちょっと怖い。
「……十分だ」
私もそれ以上答えることができなかった。
このままなし崩し的に私への質問会はお開きになった。
ニーナの怒りは治まったようだが、周囲の精霊たちが彼女を恐れて近づいてこない。
私がこのままここに残っても意味が無さそうだ。
私はニーナを連れて「ケルークス」を後にした。
私の人間時代の本名ネタはそろそろ卒業してほしかったから、今回のことはアイリスにとって良い薬になったと思う。
……まあ、次回出勤したらアイリスには少しだけ優しく接するか。上司に対して偉そうだけど。
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