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第二章
私(アーベル)の最初の契約 後編
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「すみません、先日はご迷惑をおかけしました」
「チャンスをいただき、ありがとうございます」
私とカーリン、リーゼの姉妹の二度目の顔合わせは、二体の謝罪と感謝の言葉から始まった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。調子が悪いときはお互い様だし、こっちもチャンスをもらったんだ。こちらこそ感謝なのだが……」
溢壊という特殊な事情が原因なので、最初の顔合わせで契約を決められなかったことに対して二体の落ち度はない。
私が態度を決めかねていたのも原因の一つだから、謝られたり感謝されたりするのはしっくりこない。
「前置きはそのくらいにして、始めたら?」
アイリスの言葉で顔合わせを再開する。
「では、私から宿題にお答えします」
「宿題……?」
「あなたと何をしたいか、と前回問われました」
確かに前回リーゼにはそう尋ねたのだが、よく覚えていたなと感心してしまった。
「リーゼ、言って欲しい」
「ふたつあります。一つはお姉ちゃんと仲良くお酒を造ってほしいです。もう一つはあなたが存在界で楽しんでいたことを私に教えて欲しいです」
変わったことを言うな、と思った。
一般的な精霊はあまり存在界のことに興味を持っていないとアイリスから聞かされていたからだ。
「それは構わないが、私はそんなに多趣味ではないよ。こっちで楽しめるのとなると存在界の本くらいだと思うが……」
存在界にいたときの私の趣味は仲間と飲み食いすること、読書、ゲーム機によるゲームくらいだ。
確か同じ相談員のフランシスが何とかしてゲーム機をこちらに持ち込もうとしているが、まだ実験段階だったはずだ。
既に本の持ち込みには成功しているから、本ならこちらでも楽しめると思う。
「はい。私は本というものを楽しんでみたいです」
リーゼが満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。本が何だか理解していないような気もするが……
それにしてもこんな表情もできるのだと驚いた。
感情に乏しいタイプ、ということでもないようだ。
「その……アーベルさん、私から聞いていいでしょうか?」
カーリンが恐る恐る尋ねてきた。前回よりは状態は良さそうだが、本来の状態ではないように思える。
「どうぞ」
「もし、アーベルさんが私たちと契約したら、何をしたいでしょうか?」
「私か……そうだね……」
そういえば、私は自分の希望を彼女らに何一つ伝えていなかった。
これでは彼女たちが判断に困るだろう。大失態といってよい。
私は彼女たちに詫びてから、自らの希望を話し始めた。
「そうだな……カーリンの酒造りというのは手伝ってみたい。人間時代はあまり呑めるクチではなかったが、呑んだり食べたりして語らうのは嫌いじゃない。ただ、際限なく徹夜するとかはあまり得意じゃないんだ……」
カーリンがクスクス笑った。リーゼは興味深そうに私を見ている。
「あとは本を読んだり話をしたりしてのんびり暮らしたい。相談員の仕事は当分続けるつもりだけどね。私はギスギスしたのが苦手だし、駆け引きも苦手だ。それと激しすぎる感情表現もあまり好きじゃない。じわじわと笑えるような、そんな過ごし方ができればいいと思っているが……抽象的すぎるだろうか?」
とりとめのない話になってしまったな、と思いながら私はカーリンとリーゼに目をやった。
「そうですね、私たちの住んでいる場所なら相談所も近くですよ」
「お姉ちゃん、契約するならお家が必要かも……私たちのように水辺で過ごすという訳にはいかないです、よね?」
「すまない。私は寝るのが好きなので、屋根とベッドのある寝室が欲しい。シャワーか風呂があるとなおありがたいのだが……」
屋根といったあたりで一瞬リーゼの目が光ったように見えた。
「屋根のある寝室には興味があります。私たちニンフは水辺で過ごすことが多いので、屋根の下で暮らすことはあまりないのです」
リーゼは変わったところにツボがあるなと思ったが、悪い反応ではない。
「屋根ということは建物の中、ということですよね? お酒を造る作業場なども建物の中に造ることができるでしょうか?」
どうやらカーリンも建物に興味を持ったようだ。
「大丈夫じゃないかな。私のいた存在界では建物の中で酒を造っていたからね。問題は私に建物を建てる技術がないことだが……」
「それは大丈夫です。建物を建てる精霊に知り合いがいますから」
カーリンが身を乗り出してきた。顔の位置が近い。
改めて近くで見ると、私には勿体ないくらい整った顔立ちをしている。
多少テンションが上がっているように思うが、私から見て苦手なタイプの感情表現ではない。
向こうが受け入れてくれるのなら、こちらから契約をお願いしたい。
「お姉ちゃん、気が早すぎです。でも、寝室のための建物には興味があります」
リーゼがニコニコしながら私とカーリンのやり取りを見ている。
「建物くらいなら私だって建てられるから手を貸すわよ。アーベルが手伝えるところもあると思うよ」
それまで無言を貫いていたアイリスがようやく割り込んできた。
これで私の心は決まった。あとは向こうが何と答えるかだ。
「アイリス、私は十分話ができた。カーリンとリーゼはどうだろうか?」
「アーベルさん、私も十分お話しできました」「大丈夫です」
「わかったわ。アーベル、どうするの?」
アイリスが尋ねてきたが、既に私の答えはわかっているだろう。
「カーリン、リーゼ、契約をお願いします」
私はできるだけ平静を装ってそう頼んだ。
「カーリンとリーゼはどうする?」
アイリスの問いにカーリンとリーゼが顔を見合わせた。
「お姉ちゃんの思う答えでお願いします」
リーゼの言葉にカーリンが大きくうなずいた。そして私の方へ向き直った。
「アーベルさん」
カーリンは私の名前を呼んで大きく息を吸い込んだ。
「ありがとうございます。契約をお願いします。末永く私とリーゼをよろしくお願いします」
「あー、それじゃ契約書を作るわよ。ちゃちゃっと済ませたいから、すぐに手を当てる!」
何故かアイリスが私たちを急かして、契約書に手を当てさせた。
紙がぽうっと光り、三つの炎となって私、カーリン、リーゼに吸い込まれた。
これで契約完了だそうだ。
※※
「と、こんな感じね。顔合わせを二度三度やるのは普通だから、アーベルが特別な例、ではないわよ」
アイリスが一人で説明してしまったので、私が口を挟む場面はほとんどなかった。
「カーリンさんが溢壊していたのは聞いていたけど、かなりマズい状況だったのではないかしら?」
ユーリが呆れた様子でアイリスに尋ねてきた。
「実際存在界に被害は出ていたらしいのよね。契約直後にアーベルがカーリンをなだめてからは溢壊しなくなったけど」
「ってアーベル、何したの?」
ユーリが食いついてくるように私の方を見たが、私の代わりにアイリスが耳打ちした。
「え~、カーリンってそういうの好きなんだ……」
ユーリが絶句している。アイリスは何を話したのだろうか? 大したことは要求されなかったし、こちらも大したことはしていない。
ちなみに最初に私が求められたのは、髪をくしゃっとするように頭を撫でること。
カーリンは今でもこれを求めることがあるが、このくらいは契約パートナー間では普通のことだと思うのだが……
「こちら側から精霊に要求はできないの? アーベルは何も要求しなかったみたいだけど……」
「?? 住むところを要求したのだけで過大な要求だと思うのだが……」
「あ、そうか、それで建てたのが今住んでいる家?」
「そうよ。私も手伝ったんだから。アーベル用のベッドルームは大小二つにしなさい、ってアドバイスして作らせたのよ。それと……」
「他は何をしたのですか?」
「ええとね……」
何故か私を差し置いてアイリスとユーリが盛り上がっている。
そういえば、事の発端はユーリの契約相手探しなのだから、これが本来の姿なのかもしれない。
「あーっ! 私も早く契約相手が欲しい~っ! アイリス、いい相手見つからないの?」
「ユーリは条件が難しいのよね。手は打ってあるから、がっつかないでもうちょっと待ちなさい」
「がっついてなんかいないですよ、もぅ」
ユーリとアイリスが言い争っているようにも見えたのだが、不意に二人ともが私に意味ありげな視線を向けてきた。
「何か質問とかでも?」
「今は大丈夫よ」
「別に今は、ね」
「??」
この二人、何かを企んでいるのかもしれないが今の時点で大丈夫というのであれば、私にもそれ以上追求する理由はない。
カーリン、リーゼの姉妹が私と契約した経緯はアイリスが話した通りであるから、求めが無ければ補足や訂正は不要だ。
「所長さん、この前サリって人が精霊と契約したって聞いたけど、他に男の精霊を求めている女性はいないかい?」
テーブル席の客が不意にアイリスに尋ねてきた。話が聞こえていたのだろう。
「そこにユーリがいるけど」
「ユーリちゃんは魅力的だけど、俺のような火の精霊を求めていないことは知っているさ」
そう言うと、客は人から燃えるような赤い蜥蜴へと姿を変えた。どうやら火の精霊サラマンダーのようだ。
「ごめんなさいね。私、合う属性が難しいみたいなの……」
ユーリが申し訳なさそうに頭を下げた。
「あー、別にユーリちゃんが謝ることはないさ。俺はまだまだ『揺らぎ』が小さいみたいだし、所長さんが移住者をたくさん連れてくるのを待っているからさ!」
「ふふん、任せなさい」
アイリスがわざとらしく胸を張った。
「所長さんのお墨付きなら任せて大丈夫だぞ。何せ所長さんは自分の契約相手を必死に探しているからな」
先ほどのサラマンダーの客の連れがそう言うと、店内はどっと笑いに包まれた。
「何よ、私だって夢見たっていいじゃない」
アイリスが拗ねたが、多分形だけだろう。
「我々相談員も努力しますので、暖かく見守ってください」
私がそう挨拶すると、先ほどのサラマンダーから「おう、期待しているぞ」と背中をポンと叩かれた。
アイリスを含めて、契約相手を求めている精霊の数は非常に多い。
私の力など微力というのもおこがましいくらい小さいものだが、少しでも彼らのような精霊たちに合った人に移住してもらえるよう、やれることをやっていきたい。
「チャンスをいただき、ありがとうございます」
私とカーリン、リーゼの姉妹の二度目の顔合わせは、二体の謝罪と感謝の言葉から始まった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。調子が悪いときはお互い様だし、こっちもチャンスをもらったんだ。こちらこそ感謝なのだが……」
溢壊という特殊な事情が原因なので、最初の顔合わせで契約を決められなかったことに対して二体の落ち度はない。
私が態度を決めかねていたのも原因の一つだから、謝られたり感謝されたりするのはしっくりこない。
「前置きはそのくらいにして、始めたら?」
アイリスの言葉で顔合わせを再開する。
「では、私から宿題にお答えします」
「宿題……?」
「あなたと何をしたいか、と前回問われました」
確かに前回リーゼにはそう尋ねたのだが、よく覚えていたなと感心してしまった。
「リーゼ、言って欲しい」
「ふたつあります。一つはお姉ちゃんと仲良くお酒を造ってほしいです。もう一つはあなたが存在界で楽しんでいたことを私に教えて欲しいです」
変わったことを言うな、と思った。
一般的な精霊はあまり存在界のことに興味を持っていないとアイリスから聞かされていたからだ。
「それは構わないが、私はそんなに多趣味ではないよ。こっちで楽しめるのとなると存在界の本くらいだと思うが……」
存在界にいたときの私の趣味は仲間と飲み食いすること、読書、ゲーム機によるゲームくらいだ。
確か同じ相談員のフランシスが何とかしてゲーム機をこちらに持ち込もうとしているが、まだ実験段階だったはずだ。
既に本の持ち込みには成功しているから、本ならこちらでも楽しめると思う。
「はい。私は本というものを楽しんでみたいです」
リーゼが満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。本が何だか理解していないような気もするが……
それにしてもこんな表情もできるのだと驚いた。
感情に乏しいタイプ、ということでもないようだ。
「その……アーベルさん、私から聞いていいでしょうか?」
カーリンが恐る恐る尋ねてきた。前回よりは状態は良さそうだが、本来の状態ではないように思える。
「どうぞ」
「もし、アーベルさんが私たちと契約したら、何をしたいでしょうか?」
「私か……そうだね……」
そういえば、私は自分の希望を彼女らに何一つ伝えていなかった。
これでは彼女たちが判断に困るだろう。大失態といってよい。
私は彼女たちに詫びてから、自らの希望を話し始めた。
「そうだな……カーリンの酒造りというのは手伝ってみたい。人間時代はあまり呑めるクチではなかったが、呑んだり食べたりして語らうのは嫌いじゃない。ただ、際限なく徹夜するとかはあまり得意じゃないんだ……」
カーリンがクスクス笑った。リーゼは興味深そうに私を見ている。
「あとは本を読んだり話をしたりしてのんびり暮らしたい。相談員の仕事は当分続けるつもりだけどね。私はギスギスしたのが苦手だし、駆け引きも苦手だ。それと激しすぎる感情表現もあまり好きじゃない。じわじわと笑えるような、そんな過ごし方ができればいいと思っているが……抽象的すぎるだろうか?」
とりとめのない話になってしまったな、と思いながら私はカーリンとリーゼに目をやった。
「そうですね、私たちの住んでいる場所なら相談所も近くですよ」
「お姉ちゃん、契約するならお家が必要かも……私たちのように水辺で過ごすという訳にはいかないです、よね?」
「すまない。私は寝るのが好きなので、屋根とベッドのある寝室が欲しい。シャワーか風呂があるとなおありがたいのだが……」
屋根といったあたりで一瞬リーゼの目が光ったように見えた。
「屋根のある寝室には興味があります。私たちニンフは水辺で過ごすことが多いので、屋根の下で暮らすことはあまりないのです」
リーゼは変わったところにツボがあるなと思ったが、悪い反応ではない。
「屋根ということは建物の中、ということですよね? お酒を造る作業場なども建物の中に造ることができるでしょうか?」
どうやらカーリンも建物に興味を持ったようだ。
「大丈夫じゃないかな。私のいた存在界では建物の中で酒を造っていたからね。問題は私に建物を建てる技術がないことだが……」
「それは大丈夫です。建物を建てる精霊に知り合いがいますから」
カーリンが身を乗り出してきた。顔の位置が近い。
改めて近くで見ると、私には勿体ないくらい整った顔立ちをしている。
多少テンションが上がっているように思うが、私から見て苦手なタイプの感情表現ではない。
向こうが受け入れてくれるのなら、こちらから契約をお願いしたい。
「お姉ちゃん、気が早すぎです。でも、寝室のための建物には興味があります」
リーゼがニコニコしながら私とカーリンのやり取りを見ている。
「建物くらいなら私だって建てられるから手を貸すわよ。アーベルが手伝えるところもあると思うよ」
それまで無言を貫いていたアイリスがようやく割り込んできた。
これで私の心は決まった。あとは向こうが何と答えるかだ。
「アイリス、私は十分話ができた。カーリンとリーゼはどうだろうか?」
「アーベルさん、私も十分お話しできました」「大丈夫です」
「わかったわ。アーベル、どうするの?」
アイリスが尋ねてきたが、既に私の答えはわかっているだろう。
「カーリン、リーゼ、契約をお願いします」
私はできるだけ平静を装ってそう頼んだ。
「カーリンとリーゼはどうする?」
アイリスの問いにカーリンとリーゼが顔を見合わせた。
「お姉ちゃんの思う答えでお願いします」
リーゼの言葉にカーリンが大きくうなずいた。そして私の方へ向き直った。
「アーベルさん」
カーリンは私の名前を呼んで大きく息を吸い込んだ。
「ありがとうございます。契約をお願いします。末永く私とリーゼをよろしくお願いします」
「あー、それじゃ契約書を作るわよ。ちゃちゃっと済ませたいから、すぐに手を当てる!」
何故かアイリスが私たちを急かして、契約書に手を当てさせた。
紙がぽうっと光り、三つの炎となって私、カーリン、リーゼに吸い込まれた。
これで契約完了だそうだ。
※※
「と、こんな感じね。顔合わせを二度三度やるのは普通だから、アーベルが特別な例、ではないわよ」
アイリスが一人で説明してしまったので、私が口を挟む場面はほとんどなかった。
「カーリンさんが溢壊していたのは聞いていたけど、かなりマズい状況だったのではないかしら?」
ユーリが呆れた様子でアイリスに尋ねてきた。
「実際存在界に被害は出ていたらしいのよね。契約直後にアーベルがカーリンをなだめてからは溢壊しなくなったけど」
「ってアーベル、何したの?」
ユーリが食いついてくるように私の方を見たが、私の代わりにアイリスが耳打ちした。
「え~、カーリンってそういうの好きなんだ……」
ユーリが絶句している。アイリスは何を話したのだろうか? 大したことは要求されなかったし、こちらも大したことはしていない。
ちなみに最初に私が求められたのは、髪をくしゃっとするように頭を撫でること。
カーリンは今でもこれを求めることがあるが、このくらいは契約パートナー間では普通のことだと思うのだが……
「こちら側から精霊に要求はできないの? アーベルは何も要求しなかったみたいだけど……」
「?? 住むところを要求したのだけで過大な要求だと思うのだが……」
「あ、そうか、それで建てたのが今住んでいる家?」
「そうよ。私も手伝ったんだから。アーベル用のベッドルームは大小二つにしなさい、ってアドバイスして作らせたのよ。それと……」
「他は何をしたのですか?」
「ええとね……」
何故か私を差し置いてアイリスとユーリが盛り上がっている。
そういえば、事の発端はユーリの契約相手探しなのだから、これが本来の姿なのかもしれない。
「あーっ! 私も早く契約相手が欲しい~っ! アイリス、いい相手見つからないの?」
「ユーリは条件が難しいのよね。手は打ってあるから、がっつかないでもうちょっと待ちなさい」
「がっついてなんかいないですよ、もぅ」
ユーリとアイリスが言い争っているようにも見えたのだが、不意に二人ともが私に意味ありげな視線を向けてきた。
「何か質問とかでも?」
「今は大丈夫よ」
「別に今は、ね」
「??」
この二人、何かを企んでいるのかもしれないが今の時点で大丈夫というのであれば、私にもそれ以上追求する理由はない。
カーリン、リーゼの姉妹が私と契約した経緯はアイリスが話した通りであるから、求めが無ければ補足や訂正は不要だ。
「所長さん、この前サリって人が精霊と契約したって聞いたけど、他に男の精霊を求めている女性はいないかい?」
テーブル席の客が不意にアイリスに尋ねてきた。話が聞こえていたのだろう。
「そこにユーリがいるけど」
「ユーリちゃんは魅力的だけど、俺のような火の精霊を求めていないことは知っているさ」
そう言うと、客は人から燃えるような赤い蜥蜴へと姿を変えた。どうやら火の精霊サラマンダーのようだ。
「ごめんなさいね。私、合う属性が難しいみたいなの……」
ユーリが申し訳なさそうに頭を下げた。
「あー、別にユーリちゃんが謝ることはないさ。俺はまだまだ『揺らぎ』が小さいみたいだし、所長さんが移住者をたくさん連れてくるのを待っているからさ!」
「ふふん、任せなさい」
アイリスがわざとらしく胸を張った。
「所長さんのお墨付きなら任せて大丈夫だぞ。何せ所長さんは自分の契約相手を必死に探しているからな」
先ほどのサラマンダーの客の連れがそう言うと、店内はどっと笑いに包まれた。
「何よ、私だって夢見たっていいじゃない」
アイリスが拗ねたが、多分形だけだろう。
「我々相談員も努力しますので、暖かく見守ってください」
私がそう挨拶すると、先ほどのサラマンダーから「おう、期待しているぞ」と背中をポンと叩かれた。
アイリスを含めて、契約相手を求めている精霊の数は非常に多い。
私の力など微力というのもおこがましいくらい小さいものだが、少しでも彼らのような精霊たちに合った人に移住してもらえるよう、やれることをやっていきたい。
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