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第二章
アーベル、パートナーと旅行する その2
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「アーベルさん、設置終わりました」
「ベッドも設置しました。準備万端です」
カーリンとリーゼがテントの中から外に出てきた。
「パラソルと椅子も準備したよ」
「いい感じに準備できた! これで明日からバッチリね」
こちらの担当は私とメラニーだ。ちなみにテントとベッドは家から持ち込んだが、パラソルと椅子は借りたものだ。
それにしても、荷物がやたら大きいと思ったら折り畳みのベッドまで運んできていたのか……
「ニーナはどこかな? 多分お酒やウケの準備をしていると思うのだけど……」
私は周囲を見回してニーナの姿を探す。
「アーベルさん、海の方にいます」
カーリンが私から見て左側を指差した。しゃがんでいるニーナの姿があった。
そこは周囲より地面の高さが低いのか、かなり手前側まで海水が入り込んでいる。
精霊界に潮の満ち引きがあるかどうか私は知らないのだが、干潮時にはタイドプールになるのではないかと思われる場所だ。
「ニーナ、何をしているんだ?」
私はニーナの方に駆け寄った。
「アーベル様。お酒の樽を洗って冷やしておりました」
ニーナが指差した先には、海水に浸かっている酒の樽があった。
手を海水に浸してみると、少しヒヤッとする。
「このあたり、地下から冷たい水が湧いているようです」
言われてみれば、砂浜からポコポコと気泡が上がっているのが見える。
海の方は中に入ってもほとんど冷たいとは感じなかったので、湧き水の温度が少し低いのだろう。
「樽が冷えるまではもう少しかかりそうかい? ならテントで少し休もう」
「ここなら樽が流される心配もないですから、お言葉に甘えます」
ニーナは礼儀正しく私に頭を下げた後、テントに向かう私の後をついてきた。
「アーベル、いい感じになっているよ」
テントの中で待ち構えていたメラニーが中に設置されたテーブルとベッドを指し示した。
テントは直径六、七メートルくらいの玉ねぎ型で、中は結構広い。
手前の方に丸テーブルと五つの椅子が置かれ、奥には大きなベッドが置かれている。
「こんなに大きなテントが家にあったなんて知らなかったが……」
「これはニーナが『家に何かあったときに備えて』って準備したものです。アーベルさま」
私が茫然としていると、耳元でさっとリーゼが教えてくれた。
ニーナには後でテントを調達した理由をしっかり聞いておいた方が良いと思った。彼女は他の三体と違って、本来一ヶ所に定住するタイプの精霊ではないからだ。
「今日は時間も遅いですから、お酒の準備ができたところで呑みませんか?」
カーリンが木のコップを並べながら私に上目遣いで訴えてきた。私は彼女のこの視線に弱い。
彼女はリーゼの次に背が低いので立っている私に目線を合わせようとすると、必然的に上目遣いになるのではあるが……
「そうするか。確か二つ樽を冷やしていたと思うけど、小さい方はそろそろいいかもしれない」
「でしたら私が取りに行きます。アーベル様は座ってお待ちいただけますか?」
ニーナが名乗り出たので、樽の回収をお願いする。
一方で、私はカーリンと一緒につまみを準備することにした。
私はとっておきのポテチを出すことにする。
「ケルークス」に入荷していたので、ユーリに頼んで三袋ばかり分けてもらったのだ。
もちろん代金は支払っている。相談員の仕事で給与は発生しているので、そこから払ったのだ。
今回、カーリンはネクタル酒を持ってきた。アンブロシア酒は「ケルークス」に卸しているし、どちらかというと量を飲む酒ではない。
ネクタル酒はカーリンお手製とのことだが、滅多に造らないということで楽しみだ。
「アーベル様、準備できました。遅くなりましてすみません」
ニーナがいつの間にか戻っていて、全員のコップにネクタル酒を注ぎ終えていた。
仕事を終えてから移動してきたので、現在の時刻はニ〇時くらいだ。
「光の砂浜」のある場所は常に日光が降り注ぐ場所なので、何時になろうと暗くなることはない。
外が常に昼間ということであれば、少なくとも海を楽しむのは明日からでいいだろう。
「アーベルさま。ポテチをもってきたんですね。素晴らしいです」
リーゼがポテチの袋を目ざとく見つけた。私のパートナーの中で最も存在界の情報に接しているので、存在界の品物には鼻が利くようだ。
「私にもちょーだい」
メラニーが手を伸ばした。彼女が存在界の菓子を好むことは知っていたから、今回こうして持ってきたのだ。
まあ、目的は達成できたというところだ。
「アーベル。私、別のレイヤに来たの初めてなのだけど、こういうのって新鮮。人間は別のレイヤに出かけたりするものなの?」
メラニーがしなだれかかりながら尋ねてきた。
ニーナが抗議するような視線を向けたが、メラニーのこれはいつものことだ。
「存在界にはレイヤという考え方はないけど、遠くに旅行する人は結構多いと思う。今日くらいの移動時間の旅行なら、年に二、三回していたんじゃないかな」
「へぇ~。ちょっと私じゃ考えられないかな」
メラニーの反応にカーリンとリーゼもうんうんとうなずいている。
ニーナを除く三体は定住型の精霊で、その行動半径はかなり狭い。
精霊は人間と比較して移動速度が速いが、定住型の精霊の行動範囲は移動時間がニ〇分以内くらいの広さのはずだ。
「アーベルさんとお出かけするのはそれだけで楽しいですけど、私たち精霊同士で遠くに出かけるというのはあまり気が進まないです」
「普段は『ケルークス』に行くくらいしか外に出ないですし、それで十分です」
カーリン、リーゼの姉妹がポテチの袋を受け渡しながら話している。
カーリンはあまりネガティヴなことを言わない性質だと思っていたのだが、意外な一面を見ることができた。
「わかるわー。私も面倒を見ている木から遠く離れるのってちょっと不安になるもの。アーベルと一緒なら全然平気なのだけど」
メラニーがそう言ってコップの中のネクタル酒を一気に空にした。
「ニーナはどうだい? 私と契約する前は、今の家と違うレイヤにいたのだっけ?」
「はい。青の水の五レイヤにおりました。三方を海に囲まれた半島にある泉に住んでおりまして、海と泉を行ったり来たりしていました」
そういえばニーナの過去の話は、初めて聞いた気がする。
「今の家だと狭く感じたりしていないかい?」
泉はともかく海に出入りしていたとなると、他の三体とは行動範囲がかなり違うのではないだろうか?
今回旅行してみる気になったのも、主に彼女が本来の性質と異なる生活をしていると思われるので、これを解消するためだった。
「いえ、今の生活はわたくしにとってものすごく充実したものなので、そのようなことは……」
「ニーナ、気になることがあったら話した方がいいわ」
「そうです。ニーナはちょっと遠慮が過ぎると思います」
「そ、それは……」
メラニーとリーゼに詰め寄られてニーナがたじろいだ。
「ニーナさん、気分が悪いとかでなければもう少し呑んでみたらどうですか? 話しやすくなると思いますよ?」
カーリンは樽を抱えて笑みを浮かべている。
精霊は酒で気分が高揚することはあるそうだけど、二日酔いや気分が悪くなるようなことはないらしいので、多少は呑ませても良いだろう。
ニーナも酒は好きなはずだから。
「はい。いただきます……」
ニーナはコップを差し出して酒を注いでもらうと、一息で半分くらいの量を飲み干した。
「アーベル様、わたくし、一つ知りたいことがあります」
「何だい? 私に答えられることであれば答えるよ」
「ありがとうございます。わたくし、アーベル様が存在界でどのような暮らしをされていたのか知りたいのです。存在界でのお楽しみがあれば、私もこちらでアーベル様と一緒に楽しみたくて……」
不覚にもニーナがそんな望みを持っているとは気付いていなかった。私に合わせてくれるためにそう言ってくれているのかも知れないが。
「存在界での仕事や、こちらに移住してくるいきさつについては話したと思うけど、知っているよね?」
「……はい」
「もちろん」
「私たちも」「です」
私が移住してきた経緯については何度か話をしているためか、皆理解してくれていた。
一方、それ以外の存在界時代の話をあまりしていないのは、ここで存在界の暮らしを再現しようと考えていなかったからだ。
郷に入れば郷に従え、程度に考えていたのだ。
それでもリーゼなどは存在界の本やゲームに興味を持っていたからそれらを入手したし、メラニーも存在界の菓子に興味を持っていたので今日もポテチを持ってきた。
ただ、それ以外の要素を精霊界に持ち込もうとはあまり考えていなかった。
敢えて言えば家には風呂やシャワーがあるが、これらは私が移住する前から、精霊界でもそれなりに普及していたものだ。
「それ以外って言うと、仕事をしている以外は友人たちと旅行しているか、呑みに行っているか、家で本を読んでいるかゲームをしているかくらいだったのだよ。それ以外に趣味らしい趣味はなかったし、今こうして皆と話したり飲み食いしている方がよっぽど充実している」
今になって存在界時代の自分を顧みると、楽しみって休みの日の友人たちと出かけることと、自宅でのんびり本を読むことくらいしか無かったのだよな。
仕事を除けばカーリン、リーゼ、メラニーといった定住型の精霊と行動範囲に大差ないと思う。
それでも楽しかったとは思うし、存在界で思い残すこともなかった。
そういった意味だと、こちらに移住してからの生活はとんでもなく充実している。
「……アーベル様。今日、わたくしはアーベル様と皆さんと一緒にお出かけして楽しいですし、できればまたお出かけしたいです。それと、家で食事したりお酒を呑んだりする回数を増やしませんか?」
「そ、そうね……」
「お酒は私も楽しみたいです。旅行も楽しいです」
「いいと思う……」
ニーナの勢いに圧倒されたのか、メラニー、カーリン、リーゼが少し間をおいてからニーナの意見に賛成した。
「何か気を遣わせてしまったみたいだ。ありがとう」
「いえ、わたくしの方こそワガママに付き合って下さってありがとうございます。ただ、どうしても存在界時代のアーベル様のことを知りたかったのです。お詫びと言っては何ですが、わたくしの昔のこともお話ししたいと思います。すみません、もう少しワガママにお付き合いください……」
そう言うとニーナは自分で樽からネクタル酒をコップに注いだ。
「ベッドも設置しました。準備万端です」
カーリンとリーゼがテントの中から外に出てきた。
「パラソルと椅子も準備したよ」
「いい感じに準備できた! これで明日からバッチリね」
こちらの担当は私とメラニーだ。ちなみにテントとベッドは家から持ち込んだが、パラソルと椅子は借りたものだ。
それにしても、荷物がやたら大きいと思ったら折り畳みのベッドまで運んできていたのか……
「ニーナはどこかな? 多分お酒やウケの準備をしていると思うのだけど……」
私は周囲を見回してニーナの姿を探す。
「アーベルさん、海の方にいます」
カーリンが私から見て左側を指差した。しゃがんでいるニーナの姿があった。
そこは周囲より地面の高さが低いのか、かなり手前側まで海水が入り込んでいる。
精霊界に潮の満ち引きがあるかどうか私は知らないのだが、干潮時にはタイドプールになるのではないかと思われる場所だ。
「ニーナ、何をしているんだ?」
私はニーナの方に駆け寄った。
「アーベル様。お酒の樽を洗って冷やしておりました」
ニーナが指差した先には、海水に浸かっている酒の樽があった。
手を海水に浸してみると、少しヒヤッとする。
「このあたり、地下から冷たい水が湧いているようです」
言われてみれば、砂浜からポコポコと気泡が上がっているのが見える。
海の方は中に入ってもほとんど冷たいとは感じなかったので、湧き水の温度が少し低いのだろう。
「樽が冷えるまではもう少しかかりそうかい? ならテントで少し休もう」
「ここなら樽が流される心配もないですから、お言葉に甘えます」
ニーナは礼儀正しく私に頭を下げた後、テントに向かう私の後をついてきた。
「アーベル、いい感じになっているよ」
テントの中で待ち構えていたメラニーが中に設置されたテーブルとベッドを指し示した。
テントは直径六、七メートルくらいの玉ねぎ型で、中は結構広い。
手前の方に丸テーブルと五つの椅子が置かれ、奥には大きなベッドが置かれている。
「こんなに大きなテントが家にあったなんて知らなかったが……」
「これはニーナが『家に何かあったときに備えて』って準備したものです。アーベルさま」
私が茫然としていると、耳元でさっとリーゼが教えてくれた。
ニーナには後でテントを調達した理由をしっかり聞いておいた方が良いと思った。彼女は他の三体と違って、本来一ヶ所に定住するタイプの精霊ではないからだ。
「今日は時間も遅いですから、お酒の準備ができたところで呑みませんか?」
カーリンが木のコップを並べながら私に上目遣いで訴えてきた。私は彼女のこの視線に弱い。
彼女はリーゼの次に背が低いので立っている私に目線を合わせようとすると、必然的に上目遣いになるのではあるが……
「そうするか。確か二つ樽を冷やしていたと思うけど、小さい方はそろそろいいかもしれない」
「でしたら私が取りに行きます。アーベル様は座ってお待ちいただけますか?」
ニーナが名乗り出たので、樽の回収をお願いする。
一方で、私はカーリンと一緒につまみを準備することにした。
私はとっておきのポテチを出すことにする。
「ケルークス」に入荷していたので、ユーリに頼んで三袋ばかり分けてもらったのだ。
もちろん代金は支払っている。相談員の仕事で給与は発生しているので、そこから払ったのだ。
今回、カーリンはネクタル酒を持ってきた。アンブロシア酒は「ケルークス」に卸しているし、どちらかというと量を飲む酒ではない。
ネクタル酒はカーリンお手製とのことだが、滅多に造らないということで楽しみだ。
「アーベル様、準備できました。遅くなりましてすみません」
ニーナがいつの間にか戻っていて、全員のコップにネクタル酒を注ぎ終えていた。
仕事を終えてから移動してきたので、現在の時刻はニ〇時くらいだ。
「光の砂浜」のある場所は常に日光が降り注ぐ場所なので、何時になろうと暗くなることはない。
外が常に昼間ということであれば、少なくとも海を楽しむのは明日からでいいだろう。
「アーベルさま。ポテチをもってきたんですね。素晴らしいです」
リーゼがポテチの袋を目ざとく見つけた。私のパートナーの中で最も存在界の情報に接しているので、存在界の品物には鼻が利くようだ。
「私にもちょーだい」
メラニーが手を伸ばした。彼女が存在界の菓子を好むことは知っていたから、今回こうして持ってきたのだ。
まあ、目的は達成できたというところだ。
「アーベル。私、別のレイヤに来たの初めてなのだけど、こういうのって新鮮。人間は別のレイヤに出かけたりするものなの?」
メラニーがしなだれかかりながら尋ねてきた。
ニーナが抗議するような視線を向けたが、メラニーのこれはいつものことだ。
「存在界にはレイヤという考え方はないけど、遠くに旅行する人は結構多いと思う。今日くらいの移動時間の旅行なら、年に二、三回していたんじゃないかな」
「へぇ~。ちょっと私じゃ考えられないかな」
メラニーの反応にカーリンとリーゼもうんうんとうなずいている。
ニーナを除く三体は定住型の精霊で、その行動半径はかなり狭い。
精霊は人間と比較して移動速度が速いが、定住型の精霊の行動範囲は移動時間がニ〇分以内くらいの広さのはずだ。
「アーベルさんとお出かけするのはそれだけで楽しいですけど、私たち精霊同士で遠くに出かけるというのはあまり気が進まないです」
「普段は『ケルークス』に行くくらいしか外に出ないですし、それで十分です」
カーリン、リーゼの姉妹がポテチの袋を受け渡しながら話している。
カーリンはあまりネガティヴなことを言わない性質だと思っていたのだが、意外な一面を見ることができた。
「わかるわー。私も面倒を見ている木から遠く離れるのってちょっと不安になるもの。アーベルと一緒なら全然平気なのだけど」
メラニーがそう言ってコップの中のネクタル酒を一気に空にした。
「ニーナはどうだい? 私と契約する前は、今の家と違うレイヤにいたのだっけ?」
「はい。青の水の五レイヤにおりました。三方を海に囲まれた半島にある泉に住んでおりまして、海と泉を行ったり来たりしていました」
そういえばニーナの過去の話は、初めて聞いた気がする。
「今の家だと狭く感じたりしていないかい?」
泉はともかく海に出入りしていたとなると、他の三体とは行動範囲がかなり違うのではないだろうか?
今回旅行してみる気になったのも、主に彼女が本来の性質と異なる生活をしていると思われるので、これを解消するためだった。
「いえ、今の生活はわたくしにとってものすごく充実したものなので、そのようなことは……」
「ニーナ、気になることがあったら話した方がいいわ」
「そうです。ニーナはちょっと遠慮が過ぎると思います」
「そ、それは……」
メラニーとリーゼに詰め寄られてニーナがたじろいだ。
「ニーナさん、気分が悪いとかでなければもう少し呑んでみたらどうですか? 話しやすくなると思いますよ?」
カーリンは樽を抱えて笑みを浮かべている。
精霊は酒で気分が高揚することはあるそうだけど、二日酔いや気分が悪くなるようなことはないらしいので、多少は呑ませても良いだろう。
ニーナも酒は好きなはずだから。
「はい。いただきます……」
ニーナはコップを差し出して酒を注いでもらうと、一息で半分くらいの量を飲み干した。
「アーベル様、わたくし、一つ知りたいことがあります」
「何だい? 私に答えられることであれば答えるよ」
「ありがとうございます。わたくし、アーベル様が存在界でどのような暮らしをされていたのか知りたいのです。存在界でのお楽しみがあれば、私もこちらでアーベル様と一緒に楽しみたくて……」
不覚にもニーナがそんな望みを持っているとは気付いていなかった。私に合わせてくれるためにそう言ってくれているのかも知れないが。
「存在界での仕事や、こちらに移住してくるいきさつについては話したと思うけど、知っているよね?」
「……はい」
「もちろん」
「私たちも」「です」
私が移住してきた経緯については何度か話をしているためか、皆理解してくれていた。
一方、それ以外の存在界時代の話をあまりしていないのは、ここで存在界の暮らしを再現しようと考えていなかったからだ。
郷に入れば郷に従え、程度に考えていたのだ。
それでもリーゼなどは存在界の本やゲームに興味を持っていたからそれらを入手したし、メラニーも存在界の菓子に興味を持っていたので今日もポテチを持ってきた。
ただ、それ以外の要素を精霊界に持ち込もうとはあまり考えていなかった。
敢えて言えば家には風呂やシャワーがあるが、これらは私が移住する前から、精霊界でもそれなりに普及していたものだ。
「それ以外って言うと、仕事をしている以外は友人たちと旅行しているか、呑みに行っているか、家で本を読んでいるかゲームをしているかくらいだったのだよ。それ以外に趣味らしい趣味はなかったし、今こうして皆と話したり飲み食いしている方がよっぽど充実している」
今になって存在界時代の自分を顧みると、楽しみって休みの日の友人たちと出かけることと、自宅でのんびり本を読むことくらいしか無かったのだよな。
仕事を除けばカーリン、リーゼ、メラニーといった定住型の精霊と行動範囲に大差ないと思う。
それでも楽しかったとは思うし、存在界で思い残すこともなかった。
そういった意味だと、こちらに移住してからの生活はとんでもなく充実している。
「……アーベル様。今日、わたくしはアーベル様と皆さんと一緒にお出かけして楽しいですし、できればまたお出かけしたいです。それと、家で食事したりお酒を呑んだりする回数を増やしませんか?」
「そ、そうね……」
「お酒は私も楽しみたいです。旅行も楽しいです」
「いいと思う……」
ニーナの勢いに圧倒されたのか、メラニー、カーリン、リーゼが少し間をおいてからニーナの意見に賛成した。
「何か気を遣わせてしまったみたいだ。ありがとう」
「いえ、わたくしの方こそワガママに付き合って下さってありがとうございます。ただ、どうしても存在界時代のアーベル様のことを知りたかったのです。お詫びと言っては何ですが、わたくしの昔のこともお話ししたいと思います。すみません、もう少しワガママにお付き合いください……」
そう言うとニーナは自分で樽からネクタル酒をコップに注いだ。
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