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第一章
ユーリの問題意識
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「アーベルさん、アイリス! ちょっといいですか?!」
ある日私が出勤して「ケルークス」の店内にいると、店長のユーリから声をかけられた。
私が出勤してからの相談客はゼロ。さっきまでフランシスとコレットが店内にいたけど、今日は見込なさそうと帰ってしまっていた。
「すぐに相談客が来るような様子はないからいいよ」
「そうね、何かしら?」
どうせヒマなので、ユーリの話を聞くくらいどうってことはない。
「サリと話をしていると『こっちに来てみるまで知らなかったことが多くて新鮮』ってよく言われるのよ。これって問題じゃない?」
ユーリが開いている席に座ってこちらに訴えてきた。
「……いいことじゃないの? 最初っから精霊界に飽きていたらそれはそれで問題よね?」
アイリスはぽかんとした顔をしている。
「「アーベルはどう思う?」」
ユーリとアイリスが同時に私に同意を求めてきた。
どっちも言っていることはある意味正しい。
「ユーリが気にしているのは、移住してくる前に入ってくるこっちでの暮らしの情報が足りないってことだと思う。サリが新鮮だというのもそのあたりが影響しているのだと思う」
「そうよね! こっちの暮らしがわからないから、移住を躊躇している相談客って結構いると思うの」
ユーリが手を叩いて、それ見たか、という顔をアイリスに向けた。
「……その一方で、精霊界の暮らしは存在界と比較して変化が少ないようだから、人によっては事前の過度なネタバレは困るという人もいるだろう」
「そうそう」
今度はアイリスがドヤ顔をユーリの方に向けた。
別に意見に優劣があるわけじゃなくて、適用する相手が違うだけだと思うのだが……
それを言うと両者が気分を損ねるような気がする。
こういう場合どうしたらいいのか? 未だによくわからない。
私のパートナーたちは、こうした自分の方がというアピール合戦をしてこないので、正直面食らう。
「「……それで、どうするの?」」
何故か私に結論を出せというときだけはアイリスとユーリの意見が一致する。
だったら、二人で折り合いをつけて欲しいところだが……
「ユーリがどうしたいのかを聞いてみたい」
そう答えると、ユーリがアイリスに勝ち誇った顔を向け、アイリスはユーリを鬼の形相で睨みつけた。
ただ、アイリスは落ち込んだみたいでテーブルにのの字を書きながら、ときどき私に恨みがましい視線を向けてきている。器用なものだ。
「精霊界での暮らしを体験するツアーを組めないかな、って思うのだけど、どうかな?」
ユーリが上目づかいでこっちをチラチラと見ている。
彼女のいるテーブル席の椅子より、私の座っているカウンター席の椅子の方が高いから、必然的に上目遣いにはなるわけだが……
「アイリス、人間のままだとどこまで出入りできるのだろう?」
ユーリの発想は面白いと思う。「精霊界移住相談所」で会う精霊はアイリスか、他の相談員のパートナーくらいだ。
運がよければ「ケルークス」の客に会うこともあるが、彼らとコミュニケーションを取る機会はほぼない。
ツアーを組めば予定が立つので、アイリスや相談員のパートナー以外の精霊とのコミュニケーションの機会が得られるかもしれない。
一方で、人間のままでは精霊界に出入りできないので、ツアーを組んだとして、どこまで精霊界の暮らしを知ることができるのかは微妙なのだが……
「そうねぇ……人間のままではこの建物の中だけね。それと資料室はダメ」
「一時的に精霊界に出入りできるようにする魔法とかはないでしょうか?」
「……あったら苦労しないのよ。人間の造りがそうなっていないし……」
アイリスがこちらから目をそらした。恐らく人間を造る際に何かあったのだろう。
「それって設計ミス、じゃないの?」
アイリスが目をそらしたのを見逃さず、ユーリが突っ込んだ。
「……否定はしないけどね」
アイリスは人間の造りがそうなった理由を語らなかった。表情から推測すると、語れない、の方かもしれない。
「その点は問題解決に時間がかかりそうだから、できることから先にやればいい。この建物の中のツアーならできそうじゃないかな?」
「店での食事会と、二階の使っていない部屋を使えば寝泊まりくらいはできるかな……」
ユーリが色々と考えだした。
「事前に精霊界の暮らしぶりがわかる内容、と明らかにしておけばネタバレを嫌う人間は参加しないと思う。これならアイリスの気にしている点も解決できるとは思うけど……」
「アーベル、意見ないの?」
「へっ?」
「意見ないの?」はアイリスからの「揺らぐぞ」という警告というか脅迫だ。
私の対応がマズかった、ということなのだろうが、彼女は私の上司なのだからもうちょっと自分で自分の面倒を見て欲しい気はする。
「希望者だけ参加にすれば、必要ない人に情報は行かないと思いますけど?」
「……ま、いいか」
アイリスは私の顔をジーッと見つめてから、引き下がってくれた。
溢壊に達していない精霊なのだからかもしれないが、引き際は弁えている。
「精霊の暮らしぶりはここへ来ていても普段もあまり変わらないから、色々な精霊を集めればいいでしょ。そのくらいならアテはあるわ」
ようやくアイリスがユーリの案に乗ってきた。所長がやると決めれば実現までそれほど困難はないはずだ。
「宿泊用に使える部屋は五つね。予備は一室いるでしょうから、ツアーは最大四人までにして!」
「所長がアレだからそんなに相談客が来たことがないし、『ケルークス』の店内も広くないから大丈夫じゃない」
「……心配いらなかったわね」
「ユーリ、お風呂って使っているの? シャワーだけじゃなくてお風呂も必要よね?」
「使っているから大丈夫だけど、時間で男女分ける必要があるわね。シャワーは二ヶ所あるからこっちは問題ないかな」
アイリスとユーリがドンドン話を進めていく。
私が入り込む余地はなさそうだ。
ただ、不意にこちらに話を振ってくる可能性があるので油断はできない。
「ユーリ、ここのことを肌で理解してもらおうとなると十日くらい必要じゃない?」
「さすがに日本の社会人だと現実的に休み取れないですよ。二泊三日くらい、ううん、一泊二日でも……」
「短すぎない?! 三日なんてあっという間よ、無理無理!」
「アーベル! アイリスの感覚違いすぎるよ! ちょっと言ってやって!」
やっぱり来たか。
ここは人間としての経験がある私やユーリと、精霊のアイリスとで大きく感覚が異なるところだ。
少なくとも、いきなり十日間はハードルが高すぎる。
「アイリス、人間にとっての一泊二日は精霊の二週間とか一ヶ月くらいの感覚だと思う。相談客には仕事をしている人も多いから、いきなりはそんなに休めないだろうし……」
「そういうものなの? 確かに存在界で仕事をしているメンバー見るとそんな気がするけど……」
存在界や人間の事情については、アイリスは比較的こちらの話を受け入れてくれるので助かる。
「初回は一泊二日にしましょう。慣れてきた人向けには長期のプランがあっても良いと思いますが、それは個別相談ということで」
「アーベルの言う通りね。それなら仕事をしている人でも受け入れやすいと思うわ」
ユーリが私の案に納得してくれた。
それを見てアイリスも理解してくれたようで、最初は短い一泊二日のツアーで良いと言ってくれた。
こうして次々とツアーの計画が決まっていった。
精霊たちには「ケルークス」に来てもらって直接参加者と話をしたり食事をしたりしてもらう。
精霊界での娯楽についても、その場で話してもらうことにする。
人間に興味のある精霊は少なくないので、精霊側の参加者を集めるのには苦労しないだろうとアイリスが太鼓判を押した。
順調に計画が進み、このまま参加者募集にまでこぎ着けられるか、と思ったところ重大な問題にぶち当たった
「……気になるのは食事かな? 外へ食べに行ったりできないから、ここで毎回出さないといけないよね……?」
ユーリが恐る恐る私に尋ねてきた。
「一泊二日だと初日の集合時間によるけど、三食か四食はいるかな……それに飲み物も必要だ。買いには行けないからね」
「……うちにあるものだけだとあっという間に飽きられるかも……」
ユーリが青ざめた。
精霊や魂霊は食事や水を必要としないので、食事や飲み物のバリエーションは存在界と比較して多くない。
「でも、こっちの世界の生活を知ってもらうなら、ありのままの食生活を教えてあげた方がいいんじゃないの?」
アイリスの言うことももっともだ。
ただ、人間は生命維持に食事や水が必要なので、出さないという選択肢はない。
「精霊たちも楽しめると思うので、アイリスとユーリさえよければ食べ物や飲み物の持ち込みは目をつぶってもらうのはどうですか? こちらからは精霊界の食事と飲み物を出すということで」
「……ちょっと心配だけどなー。持ち込みは私は別に問題ないけど、アイリスはどう思う?」
ユーリは食べ物や飲み物のことが気になるらしい。
確かに過去「ケルークス」を訪れた相談客からの精霊界の食べ物や飲み物への評判は、決して良いものではなかったからだ。
これが原因で移住を断念した人間も少なくない。
「ねえ、ユーリ。ツアーの目的って何?」
「……精霊界の暮らしを相談客に知ってもらうこと、ですけど?」
「なら、ありのままでいいんじゃないかしら?」
すっとぼけたり、相談客や相談員をからかう悪い癖はあるが、仕事人としてのアイリスはデキる精霊だ。
というより、私が能力を評価するなどおこがましい存在である。
精霊であるためか、人間の心理や感覚にはやや疎いところもあるが、他の相談所と比較すると先進的な取り組みをいくつも実施している。
相談客数、移住者数ともに彼女の相談所はトップの実績を誇っているのだ。
それでも暇を持て余しているという状況は、この際放っておくことにしよう。
「そうですね。ただ、いきなりだとちょっと刺激が強いというか……まあいいか。うちで存在界みたいな食事は出せないし」
ユーリも一応納得してくれたようだ。
「そこは持ち込みでカバーしてもらおう。で、いいですか、所長?」
「いいに決まっているじゃない。別に『ケルークス』の運営で儲ける気ないからね、うちは」
所長の許可も出たので、食事や水の件も片付きそうだ。
必要なことがだいたい決まったので、近いうちに存在界に行っているメンバーがツアーの宣伝をすることになるだろう。
ツアーが開催されたらどんな感じになるのか、興味はある。
相談員の参加が認められるかどうかわからないが、後でアイリスに相談してみよう。
参加希望者が……いるといいが。
ある日私が出勤して「ケルークス」の店内にいると、店長のユーリから声をかけられた。
私が出勤してからの相談客はゼロ。さっきまでフランシスとコレットが店内にいたけど、今日は見込なさそうと帰ってしまっていた。
「すぐに相談客が来るような様子はないからいいよ」
「そうね、何かしら?」
どうせヒマなので、ユーリの話を聞くくらいどうってことはない。
「サリと話をしていると『こっちに来てみるまで知らなかったことが多くて新鮮』ってよく言われるのよ。これって問題じゃない?」
ユーリが開いている席に座ってこちらに訴えてきた。
「……いいことじゃないの? 最初っから精霊界に飽きていたらそれはそれで問題よね?」
アイリスはぽかんとした顔をしている。
「「アーベルはどう思う?」」
ユーリとアイリスが同時に私に同意を求めてきた。
どっちも言っていることはある意味正しい。
「ユーリが気にしているのは、移住してくる前に入ってくるこっちでの暮らしの情報が足りないってことだと思う。サリが新鮮だというのもそのあたりが影響しているのだと思う」
「そうよね! こっちの暮らしがわからないから、移住を躊躇している相談客って結構いると思うの」
ユーリが手を叩いて、それ見たか、という顔をアイリスに向けた。
「……その一方で、精霊界の暮らしは存在界と比較して変化が少ないようだから、人によっては事前の過度なネタバレは困るという人もいるだろう」
「そうそう」
今度はアイリスがドヤ顔をユーリの方に向けた。
別に意見に優劣があるわけじゃなくて、適用する相手が違うだけだと思うのだが……
それを言うと両者が気分を損ねるような気がする。
こういう場合どうしたらいいのか? 未だによくわからない。
私のパートナーたちは、こうした自分の方がというアピール合戦をしてこないので、正直面食らう。
「「……それで、どうするの?」」
何故か私に結論を出せというときだけはアイリスとユーリの意見が一致する。
だったら、二人で折り合いをつけて欲しいところだが……
「ユーリがどうしたいのかを聞いてみたい」
そう答えると、ユーリがアイリスに勝ち誇った顔を向け、アイリスはユーリを鬼の形相で睨みつけた。
ただ、アイリスは落ち込んだみたいでテーブルにのの字を書きながら、ときどき私に恨みがましい視線を向けてきている。器用なものだ。
「精霊界での暮らしを体験するツアーを組めないかな、って思うのだけど、どうかな?」
ユーリが上目づかいでこっちをチラチラと見ている。
彼女のいるテーブル席の椅子より、私の座っているカウンター席の椅子の方が高いから、必然的に上目遣いにはなるわけだが……
「アイリス、人間のままだとどこまで出入りできるのだろう?」
ユーリの発想は面白いと思う。「精霊界移住相談所」で会う精霊はアイリスか、他の相談員のパートナーくらいだ。
運がよければ「ケルークス」の客に会うこともあるが、彼らとコミュニケーションを取る機会はほぼない。
ツアーを組めば予定が立つので、アイリスや相談員のパートナー以外の精霊とのコミュニケーションの機会が得られるかもしれない。
一方で、人間のままでは精霊界に出入りできないので、ツアーを組んだとして、どこまで精霊界の暮らしを知ることができるのかは微妙なのだが……
「そうねぇ……人間のままではこの建物の中だけね。それと資料室はダメ」
「一時的に精霊界に出入りできるようにする魔法とかはないでしょうか?」
「……あったら苦労しないのよ。人間の造りがそうなっていないし……」
アイリスがこちらから目をそらした。恐らく人間を造る際に何かあったのだろう。
「それって設計ミス、じゃないの?」
アイリスが目をそらしたのを見逃さず、ユーリが突っ込んだ。
「……否定はしないけどね」
アイリスは人間の造りがそうなった理由を語らなかった。表情から推測すると、語れない、の方かもしれない。
「その点は問題解決に時間がかかりそうだから、できることから先にやればいい。この建物の中のツアーならできそうじゃないかな?」
「店での食事会と、二階の使っていない部屋を使えば寝泊まりくらいはできるかな……」
ユーリが色々と考えだした。
「事前に精霊界の暮らしぶりがわかる内容、と明らかにしておけばネタバレを嫌う人間は参加しないと思う。これならアイリスの気にしている点も解決できるとは思うけど……」
「アーベル、意見ないの?」
「へっ?」
「意見ないの?」はアイリスからの「揺らぐぞ」という警告というか脅迫だ。
私の対応がマズかった、ということなのだろうが、彼女は私の上司なのだからもうちょっと自分で自分の面倒を見て欲しい気はする。
「希望者だけ参加にすれば、必要ない人に情報は行かないと思いますけど?」
「……ま、いいか」
アイリスは私の顔をジーッと見つめてから、引き下がってくれた。
溢壊に達していない精霊なのだからかもしれないが、引き際は弁えている。
「精霊の暮らしぶりはここへ来ていても普段もあまり変わらないから、色々な精霊を集めればいいでしょ。そのくらいならアテはあるわ」
ようやくアイリスがユーリの案に乗ってきた。所長がやると決めれば実現までそれほど困難はないはずだ。
「宿泊用に使える部屋は五つね。予備は一室いるでしょうから、ツアーは最大四人までにして!」
「所長がアレだからそんなに相談客が来たことがないし、『ケルークス』の店内も広くないから大丈夫じゃない」
「……心配いらなかったわね」
「ユーリ、お風呂って使っているの? シャワーだけじゃなくてお風呂も必要よね?」
「使っているから大丈夫だけど、時間で男女分ける必要があるわね。シャワーは二ヶ所あるからこっちは問題ないかな」
アイリスとユーリがドンドン話を進めていく。
私が入り込む余地はなさそうだ。
ただ、不意にこちらに話を振ってくる可能性があるので油断はできない。
「ユーリ、ここのことを肌で理解してもらおうとなると十日くらい必要じゃない?」
「さすがに日本の社会人だと現実的に休み取れないですよ。二泊三日くらい、ううん、一泊二日でも……」
「短すぎない?! 三日なんてあっという間よ、無理無理!」
「アーベル! アイリスの感覚違いすぎるよ! ちょっと言ってやって!」
やっぱり来たか。
ここは人間としての経験がある私やユーリと、精霊のアイリスとで大きく感覚が異なるところだ。
少なくとも、いきなり十日間はハードルが高すぎる。
「アイリス、人間にとっての一泊二日は精霊の二週間とか一ヶ月くらいの感覚だと思う。相談客には仕事をしている人も多いから、いきなりはそんなに休めないだろうし……」
「そういうものなの? 確かに存在界で仕事をしているメンバー見るとそんな気がするけど……」
存在界や人間の事情については、アイリスは比較的こちらの話を受け入れてくれるので助かる。
「初回は一泊二日にしましょう。慣れてきた人向けには長期のプランがあっても良いと思いますが、それは個別相談ということで」
「アーベルの言う通りね。それなら仕事をしている人でも受け入れやすいと思うわ」
ユーリが私の案に納得してくれた。
それを見てアイリスも理解してくれたようで、最初は短い一泊二日のツアーで良いと言ってくれた。
こうして次々とツアーの計画が決まっていった。
精霊たちには「ケルークス」に来てもらって直接参加者と話をしたり食事をしたりしてもらう。
精霊界での娯楽についても、その場で話してもらうことにする。
人間に興味のある精霊は少なくないので、精霊側の参加者を集めるのには苦労しないだろうとアイリスが太鼓判を押した。
順調に計画が進み、このまま参加者募集にまでこぎ着けられるか、と思ったところ重大な問題にぶち当たった
「……気になるのは食事かな? 外へ食べに行ったりできないから、ここで毎回出さないといけないよね……?」
ユーリが恐る恐る私に尋ねてきた。
「一泊二日だと初日の集合時間によるけど、三食か四食はいるかな……それに飲み物も必要だ。買いには行けないからね」
「……うちにあるものだけだとあっという間に飽きられるかも……」
ユーリが青ざめた。
精霊や魂霊は食事や水を必要としないので、食事や飲み物のバリエーションは存在界と比較して多くない。
「でも、こっちの世界の生活を知ってもらうなら、ありのままの食生活を教えてあげた方がいいんじゃないの?」
アイリスの言うことももっともだ。
ただ、人間は生命維持に食事や水が必要なので、出さないという選択肢はない。
「精霊たちも楽しめると思うので、アイリスとユーリさえよければ食べ物や飲み物の持ち込みは目をつぶってもらうのはどうですか? こちらからは精霊界の食事と飲み物を出すということで」
「……ちょっと心配だけどなー。持ち込みは私は別に問題ないけど、アイリスはどう思う?」
ユーリは食べ物や飲み物のことが気になるらしい。
確かに過去「ケルークス」を訪れた相談客からの精霊界の食べ物や飲み物への評判は、決して良いものではなかったからだ。
これが原因で移住を断念した人間も少なくない。
「ねえ、ユーリ。ツアーの目的って何?」
「……精霊界の暮らしを相談客に知ってもらうこと、ですけど?」
「なら、ありのままでいいんじゃないかしら?」
すっとぼけたり、相談客や相談員をからかう悪い癖はあるが、仕事人としてのアイリスはデキる精霊だ。
というより、私が能力を評価するなどおこがましい存在である。
精霊であるためか、人間の心理や感覚にはやや疎いところもあるが、他の相談所と比較すると先進的な取り組みをいくつも実施している。
相談客数、移住者数ともに彼女の相談所はトップの実績を誇っているのだ。
それでも暇を持て余しているという状況は、この際放っておくことにしよう。
「そうですね。ただ、いきなりだとちょっと刺激が強いというか……まあいいか。うちで存在界みたいな食事は出せないし」
ユーリも一応納得してくれたようだ。
「そこは持ち込みでカバーしてもらおう。で、いいですか、所長?」
「いいに決まっているじゃない。別に『ケルークス』の運営で儲ける気ないからね、うちは」
所長の許可も出たので、食事や水の件も片付きそうだ。
必要なことがだいたい決まったので、近いうちに存在界に行っているメンバーがツアーの宣伝をすることになるだろう。
ツアーが開催されたらどんな感じになるのか、興味はある。
相談員の参加が認められるかどうかわからないが、後でアイリスに相談してみよう。
参加希望者が……いるといいが。
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