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第九章
419:前社長の置き土産
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「東部探索隊」の決起集会となる宴は和やかに進んだが、二名ほど居難そうな様子を見せている者があった。
最初の一名は当然のごとくメイである。
この日の宴でわかったことだが、メイはコナカの話を聞き、それに対して意志を示すことはできるようだった。
意志、といっても単語や短い言葉で反応する程度のものではあるのだが。
他人の言葉であっても、時と場合によってはメイも多少の意思表示ができるようである。
しかし、コナカが相手の場合、他人が相手であるときと比較して取れるコミュニケーションの量が格段に多い。また、その幅も広い。
オイゲン相手のときとは較べるまでもないが、コナカがメイとコミュニケーションが取れるというのは「東部探索隊」にとっても収穫である。
もう一人、居辛そうにしていたのはエリックである。
彼は、単にこの手の店に慣れていないので、必死で周りのやり方に合わせて食事をしていたのだ。
そこにレイカからの突然の指名である。落ち着かないことこの上なかった、という訳である。
コース料理が進み、メインディッシュが片付けられた頃、おもむろにミヤハラが立ち上がった。
「今日、ここに集まってもらったのは『東部探索隊』の皆に英気を養ってもらうためなのだが、最後に出したいものがある」
ミヤハラの声が急に厳かになったので、皆が驚いた表情を見せた。
「あまり湿っぽい話をするのも縁起でもないかもしれないが、クルス君がいいことを言ってくれたので、遠慮無く出させてもらうことにする。メルツ室長、頼む」
ミヤハラがレイカに向かって合図を出した。
するとレイカが一本の古びたワインを持ってきた。
通常、この店では店のソムリエがワインを開ける筈なのだが、今回はレイカがその役割を務めるようだ。
「これは……イナ、前の社長が、トワマネージャーに託したものだ。そして、トワマネージャーが亡くなられたので、クルス君に引き継ごうと思ったのだが、彼が我々に寄贈してくれたので、この場にある。
クルス君がさっき言ったように、これはイナの意思とトワマネージャーの遺志を継いだプロジェクトになる。二人の手を渡ったこのワインを開けるのは今日しかないと思ってな、こうして持ってきた」
ミヤハラは言い終えてからレイカに目で合図する。
レイカは洗練された美しい動作でワインのコルクを抜いた。
一流のソムリエ顔負けの動作でミヤハラのグラスに瓶の中の液体を注ぐ。
それは透きとおった濃い黄金色をした液体であった。
セスやロビーなどが知る白ワインの色と比較すると明らかに色が濃い。
ミヤハラは大げさにグラスを揺すってから黄金色の液体を口に含む。
「……いいだろう」
すると、レイカが皆のグラスに、少しずつワインを注いでいった。
「……これはな、イナが俺やトワマネージャーなんかに『何年かしたら一緒に飲もう』と常々言っていたワインなんだ。イナも行方が知れず、トワマネージャーも亡くなった。こういう機会でもないと飲めないだろう。ワインについての薀蓄はメルツ室長、よろしく。飲むのはその後だ」
「……イナ社長は、このワインを二本持たれていました。一本は最近になってイナ社長から注文を受けて、私が買い付けたものです。
それから……皆さんも早く飲まれたいでしょうから、これと合わせるものを運んでもらいましょう」
レイカが外に向かって合図をした。
店員が運んできたのは、デザートのフルーツタルトの皿である。
「おいおい、ケーキでワインを飲むのかよ?」
ミヤハラが顔をしかめた。
もともと彼は辛党で酒にしろ食べ物にしろ、甘いものはあまり好きではない。
先ほどテイスティングしたワインもかなりの甘口であるのだが、一気に飲み込んでしまったため、あまり気にはならなかった。
しかし、一緒に甘いタルトがつくとなると話が違う。
サクライもタルトの皿を前に腕を組んで考え込んでいる。
レイカは悪戯っぽく笑った。
「皆さん、このワインは貴重なものですし、少しずつ口に含むようにして楽しまれると良いのではないかと思います。フルーツタルトと一緒に楽しまれても大丈夫ですよ」
レイカの表情からは何か確信めいたものが感じられた。
最初の一名は当然のごとくメイである。
この日の宴でわかったことだが、メイはコナカの話を聞き、それに対して意志を示すことはできるようだった。
意志、といっても単語や短い言葉で反応する程度のものではあるのだが。
他人の言葉であっても、時と場合によってはメイも多少の意思表示ができるようである。
しかし、コナカが相手の場合、他人が相手であるときと比較して取れるコミュニケーションの量が格段に多い。また、その幅も広い。
オイゲン相手のときとは較べるまでもないが、コナカがメイとコミュニケーションが取れるというのは「東部探索隊」にとっても収穫である。
もう一人、居辛そうにしていたのはエリックである。
彼は、単にこの手の店に慣れていないので、必死で周りのやり方に合わせて食事をしていたのだ。
そこにレイカからの突然の指名である。落ち着かないことこの上なかった、という訳である。
コース料理が進み、メインディッシュが片付けられた頃、おもむろにミヤハラが立ち上がった。
「今日、ここに集まってもらったのは『東部探索隊』の皆に英気を養ってもらうためなのだが、最後に出したいものがある」
ミヤハラの声が急に厳かになったので、皆が驚いた表情を見せた。
「あまり湿っぽい話をするのも縁起でもないかもしれないが、クルス君がいいことを言ってくれたので、遠慮無く出させてもらうことにする。メルツ室長、頼む」
ミヤハラがレイカに向かって合図を出した。
するとレイカが一本の古びたワインを持ってきた。
通常、この店では店のソムリエがワインを開ける筈なのだが、今回はレイカがその役割を務めるようだ。
「これは……イナ、前の社長が、トワマネージャーに託したものだ。そして、トワマネージャーが亡くなられたので、クルス君に引き継ごうと思ったのだが、彼が我々に寄贈してくれたので、この場にある。
クルス君がさっき言ったように、これはイナの意思とトワマネージャーの遺志を継いだプロジェクトになる。二人の手を渡ったこのワインを開けるのは今日しかないと思ってな、こうして持ってきた」
ミヤハラは言い終えてからレイカに目で合図する。
レイカは洗練された美しい動作でワインのコルクを抜いた。
一流のソムリエ顔負けの動作でミヤハラのグラスに瓶の中の液体を注ぐ。
それは透きとおった濃い黄金色をした液体であった。
セスやロビーなどが知る白ワインの色と比較すると明らかに色が濃い。
ミヤハラは大げさにグラスを揺すってから黄金色の液体を口に含む。
「……いいだろう」
すると、レイカが皆のグラスに、少しずつワインを注いでいった。
「……これはな、イナが俺やトワマネージャーなんかに『何年かしたら一緒に飲もう』と常々言っていたワインなんだ。イナも行方が知れず、トワマネージャーも亡くなった。こういう機会でもないと飲めないだろう。ワインについての薀蓄はメルツ室長、よろしく。飲むのはその後だ」
「……イナ社長は、このワインを二本持たれていました。一本は最近になってイナ社長から注文を受けて、私が買い付けたものです。
それから……皆さんも早く飲まれたいでしょうから、これと合わせるものを運んでもらいましょう」
レイカが外に向かって合図をした。
店員が運んできたのは、デザートのフルーツタルトの皿である。
「おいおい、ケーキでワインを飲むのかよ?」
ミヤハラが顔をしかめた。
もともと彼は辛党で酒にしろ食べ物にしろ、甘いものはあまり好きではない。
先ほどテイスティングしたワインもかなりの甘口であるのだが、一気に飲み込んでしまったため、あまり気にはならなかった。
しかし、一緒に甘いタルトがつくとなると話が違う。
サクライもタルトの皿を前に腕を組んで考え込んでいる。
レイカは悪戯っぽく笑った。
「皆さん、このワインは貴重なものですし、少しずつ口に含むようにして楽しまれると良いのではないかと思います。フルーツタルトと一緒に楽しまれても大丈夫ですよ」
レイカの表情からは何か確信めいたものが感じられた。
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