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第九章
413:新戦力
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ECN社四階の社長室には、社長のミヤハラ、副社長のサクライ、そしてエリックの姿がある。
ミヤハラがロビー・タカミから提出された島東部探索の計画を承認したので、これに参加するメンバーを選ぶ必要がある。
「まあ、人は社内で希望者を募ってみようじゃないか」
ミヤハラの提案にサクライ、エリックとも異存は無い。
「クルス君の病状が気になります。できるだけ早く準備を済ませたいですね」
それはこの部屋にいる誰もが望むところだった。
正直なところ、車椅子の彼は多少なりとも道が整備されている「はじまりの丘」まで行くのが目一杯だろうと思われる。
そこから、本隊にドガン山脈越えをさせて島の東部を探索し、戻ってくるまでの期間を考えると、出発は一日でも早い方が良い。
残された命の時間が短いセスの望みはかなえてやりたいのが本音だ。
「正直なところ、経過には私も興味ありますからね。自分の仕事を少し他の人にも振りたいと思っています。そうすれば、こっちも経過を見ながら動けると思うのですが」
サクライがミヤハラの方に向けて身を乗り出してきた。
確かに現在、彼の業務負荷はかなり高くなっている。
財務戦略が彼の本職であるが、現在彼に要求されているのは他にも「タブーなきエンジニア集団」の資源の分配問題であるとか、現在の状況を鑑みた経営戦略の立案、従業員からの意見や苦情の処理、マスコミ対応など多岐にわたる。
このうち特にサクライが嫌がっているのが、苦情処理とマスコミ対応である。
「なら……前任の部門が気に入らんから気が進まんが、その手の人間を募集するか?」
ミヤハラの意見にサクライは是非やってください、と答えた。
ミヤハラが「気が進まない」と言ったのは、サクライが任せたいと言っている業務の多くを担当していたのが経営企画室であったからだ。
経営企画室が無くなった後は、オイゲンと一部の役員がその業務を代行していた。
しかし、オイゲンは行方知れずであるし、ミヤハラが社長代行に就任して以来、多くの役員は表舞台に立とうとしなかった。
ECN社はOP社との提携内容を見直して、「タブーなきエンジニア集団」との統合を済ませたばかりで、社内はお世辞にも落ち着いた状態とはいえない。
先代社長のオイゲンが行方不明になっている件についても、予想以上に社内に影響があることが判明した。
ECN社が社長不在であった期間は二ヶ月足らずに過ぎないのだが、その間に積み上げられた問題の半分近くが未処理だったのだ。
サクライやミヤハラは、こうした問題の処理にも追われていた。
エリックも彼等の片腕として、問題解決に尽力していたが、いかんせん人が少なすぎる。
このような厳しい状況の中で、わざわざリスクを取りにくる人材がいるとは考えにくく、サクライの分身が容易に得られるとは誰もが思っていなかった。
彼らは半信半疑で社内外を問わず人材を募集した。
ただ、「経営企画室」という名前は気分が良くないということで「広報企画室」という名称で、そのトップを求めることになった。
意外にも募集開始の当日に手が挙げる者がいた。社外の人間である。
その手の主は若い女性であった。そして、面接官を務めたミヤハラとサクライの前でこう言ってのけたのだ。
「先代の社長さんのときに、何度か御社の中を拝見したことがあります。
私の専門はマーケティングですから、求められているものと少し違うかもしれませんが、御社であれば、役立てることもあると思います。
先代の社長さんは、私のお客様でもありましたし……」
思わずミヤハラとサクライとが顔を見合わせた。
相手のことはミヤハラもサクライもよく知っている。
顔は過去に何度も見ているし、言葉を交わしたこともある。
しかし、先代、すなわちオイゲンが社長の時代にECN社に出入りしていた、という話は聞いたことがない。
ましてやオイゲンが彼女の顧客であったなど、信じがたい話だと思えた。
「私などではとてもその任には耐えない、とお考えでしょうか?」
サクライが、とんでもない、と手を振った。
彼女の実力はサクライも十分に認めている。
サクライの答を聞くと空色のパンツスーツに身を包んだその女性は、トレードマークとなっている赤いスカーフに手をやり、さっと乱れを直した。
女性はレイカ・メルツであった。
この地でもっとも有名な女性マーケターで、職業学校の元教官でもある。
最近では、「タブーなきエンジニア集団」に外部から協力し、ジンでの決起集会に姿を見せたこともある。
広報宣伝役としてこれ以上の人材を得るのは非常に難しい。
こうしてミヤハラとサクライが面接した翌日、レイカ・メルツのECN社広報企画室長就任が決定した。
ミヤハラがロビー・タカミから提出された島東部探索の計画を承認したので、これに参加するメンバーを選ぶ必要がある。
「まあ、人は社内で希望者を募ってみようじゃないか」
ミヤハラの提案にサクライ、エリックとも異存は無い。
「クルス君の病状が気になります。できるだけ早く準備を済ませたいですね」
それはこの部屋にいる誰もが望むところだった。
正直なところ、車椅子の彼は多少なりとも道が整備されている「はじまりの丘」まで行くのが目一杯だろうと思われる。
そこから、本隊にドガン山脈越えをさせて島の東部を探索し、戻ってくるまでの期間を考えると、出発は一日でも早い方が良い。
残された命の時間が短いセスの望みはかなえてやりたいのが本音だ。
「正直なところ、経過には私も興味ありますからね。自分の仕事を少し他の人にも振りたいと思っています。そうすれば、こっちも経過を見ながら動けると思うのですが」
サクライがミヤハラの方に向けて身を乗り出してきた。
確かに現在、彼の業務負荷はかなり高くなっている。
財務戦略が彼の本職であるが、現在彼に要求されているのは他にも「タブーなきエンジニア集団」の資源の分配問題であるとか、現在の状況を鑑みた経営戦略の立案、従業員からの意見や苦情の処理、マスコミ対応など多岐にわたる。
このうち特にサクライが嫌がっているのが、苦情処理とマスコミ対応である。
「なら……前任の部門が気に入らんから気が進まんが、その手の人間を募集するか?」
ミヤハラの意見にサクライは是非やってください、と答えた。
ミヤハラが「気が進まない」と言ったのは、サクライが任せたいと言っている業務の多くを担当していたのが経営企画室であったからだ。
経営企画室が無くなった後は、オイゲンと一部の役員がその業務を代行していた。
しかし、オイゲンは行方知れずであるし、ミヤハラが社長代行に就任して以来、多くの役員は表舞台に立とうとしなかった。
ECN社はOP社との提携内容を見直して、「タブーなきエンジニア集団」との統合を済ませたばかりで、社内はお世辞にも落ち着いた状態とはいえない。
先代社長のオイゲンが行方不明になっている件についても、予想以上に社内に影響があることが判明した。
ECN社が社長不在であった期間は二ヶ月足らずに過ぎないのだが、その間に積み上げられた問題の半分近くが未処理だったのだ。
サクライやミヤハラは、こうした問題の処理にも追われていた。
エリックも彼等の片腕として、問題解決に尽力していたが、いかんせん人が少なすぎる。
このような厳しい状況の中で、わざわざリスクを取りにくる人材がいるとは考えにくく、サクライの分身が容易に得られるとは誰もが思っていなかった。
彼らは半信半疑で社内外を問わず人材を募集した。
ただ、「経営企画室」という名前は気分が良くないということで「広報企画室」という名称で、そのトップを求めることになった。
意外にも募集開始の当日に手が挙げる者がいた。社外の人間である。
その手の主は若い女性であった。そして、面接官を務めたミヤハラとサクライの前でこう言ってのけたのだ。
「先代の社長さんのときに、何度か御社の中を拝見したことがあります。
私の専門はマーケティングですから、求められているものと少し違うかもしれませんが、御社であれば、役立てることもあると思います。
先代の社長さんは、私のお客様でもありましたし……」
思わずミヤハラとサクライとが顔を見合わせた。
相手のことはミヤハラもサクライもよく知っている。
顔は過去に何度も見ているし、言葉を交わしたこともある。
しかし、先代、すなわちオイゲンが社長の時代にECN社に出入りしていた、という話は聞いたことがない。
ましてやオイゲンが彼女の顧客であったなど、信じがたい話だと思えた。
「私などではとてもその任には耐えない、とお考えでしょうか?」
サクライが、とんでもない、と手を振った。
彼女の実力はサクライも十分に認めている。
サクライの答を聞くと空色のパンツスーツに身を包んだその女性は、トレードマークとなっている赤いスカーフに手をやり、さっと乱れを直した。
女性はレイカ・メルツであった。
この地でもっとも有名な女性マーケターで、職業学校の元教官でもある。
最近では、「タブーなきエンジニア集団」に外部から協力し、ジンでの決起集会に姿を見せたこともある。
広報宣伝役としてこれ以上の人材を得るのは非常に難しい。
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