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第九章
398:凶報襲来
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LH五一年六月四日一八時半過ぎ、ジンにある医療施設「メディット」の救急搬入口へ十数名の集団が息を切らせて駆け込んできた。
彼等は手製の担架を運んでおり、そこには一人の青年が寝かされていた。
青年は身動き一つせず、目を閉じて横たわっている。
「TM、サクライさん、すみません……」
集団の先頭にいた若者が沈痛な表情で声を絞り出すようにして言った。
集団を出迎えたのは二人の男だった。
二人もまた、沈んだ表情を見せている。
目の前に突きつけられた現実を受け入れがたい、という表情に見えないこともない。
ジンの手前にあるニジョウの町はずれで携帯端末による通信が可能となったため、若者はこの二人には予め事情は伝えていた。
それでも、現実を目の当たりにするまで、二人は状況を理解していなかったのではないかと思われる、そんな表情であった。
「こっちにアイネス先生が待機している」
背の小さい方が扉を指差した。サクライである。
その言葉に扉へと走ったのがエリックだった。
エリックが扉を開き担架を中の救急病室へと導き入れる。
中にはメディットの副院長ヴィリー・アイネスが待機していた。
アイネスは少しの間ウォーリーの身体を調べてから、力なく首を横に振った。
「……既に亡くなられています」
予想されていた回答ではあるが、現実として突きつけられるとその衝撃は計り知れないものだった。
「……身内の方に連絡をお願いします」
アイネスの言葉にミヤハラ、サクライ、エリックの三人が顔を見合わせた。
その目は皆「誰がセス・クルスにこのことを伝えるんだ?」と訴えていた。
その訴えに答える者はこの場にはない。
永遠にも及ぼうかとした沈黙は不意にミヤハラによって破られた。
「……仕方ないだろう。俺がセス・クルスに伝えてくる。アイネス先生と二人は待っていてくれ」
その言葉にサクライとエリックが無言でうなずいた。
ミヤハラはいかにも「仕方ない」という様子でその場を去った。
現在残された「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの中では彼が最上位になる。
セスへの伝達役はその責任、と考えたのかもしれなった。
十数分後、ミヤハラはロビーと車椅子に乗ったセスとを連れて救急病室へと戻ってきた。モリタの姿はない。
肝心のセスは車椅子に座ったままうつむいている。車椅子はロビーが押してきた。
エリックが心配そうにセスの様子を窺う。
ミヤハラが重い口を開いた。
「クルス君……この通りだ。マネージャーは数時間前に亡くなられた」
セスは現実が理解できていないという様子で、落ち着きなくアイネスとウォーリーの亡骸とを交互に見やっている。
「一体どういうことなんだ?」
ロビーが静かにミヤハラの方へと詰め寄った。
声こそ落ち着いているが、怒りを押し殺しているのは容易に理解できる。
「死因についてはアイネス先生がこれから詳細に調査することになるが、他殺ではないと思う」
ミヤハラが表面上は平然とそう答えた。
「詳細な死因については解剖をして調査をしたいと思います。本人が希望したという証拠があればすぐに解剖を行いたいと思います。また、それが無ければどなたか関係者の方の署名をいただく必要があります」
アイネスは淡々と説明を行った。彼の仕事は人の死と常に向き合っている。いちいち感情を昂ぶらせていては身も心も持たないのであろう。
「それなら、ここに本人が解剖を希望していたという証拠があります」
そう言ってエリックは持っていた携帯端末を示した。
そこには、ウォーリーが今際の際に言い残した言葉が映像として克明に記録されている。
エリックがその映像を流したことで、部屋にいた全員がウォーリーの希望を確認した。
アイネスが皆に向かって告げる。
「解剖は本人の希望なので、こちらで実施させていただきます」
その言葉に異存のある者はなかった。
次にアイネスはセスのほうに歩み寄り、ひざを曲げて車椅子のセスに視線を合わせた。
「クルス君、ウォーリー・トワ氏は貴方との兄弟関係の確認のため、DNA鑑定を求めています。貴方はDNA鑑定を希望しますか?」
アイネスの問いに、セスは困ったようにロビーとアイネスとを交互に見やる。
それに気づいたロビーがセスの背中を押す。
「このまま知らずに終わったら、セス、お前は一生後悔するんじゃないか? 事実を知ることから逃げるな! 俺が言いたいのはそれだけだ」
その言葉に一同の視線がセスに集中する。
セスはうつむいて、辛うじて聞き取れるほどの小さな声で答える。
「……確認を、お願いします……」
するとアイネスは内線で一人の医師を呼び出し、セスを別室に案内するように指示した。
ロビーもそれに同行しようとするが、部屋を出る際にこの世のものとは思えないほどの怒りを込めた声でこう言い残した。
「何でこんなことになったんだ? 今まであんた等はどういう管理をしていたんだ?! ことの次第によっちゃ、俺はセスに代わってあんた等を断罪するからな。覚悟を決めておいてくれよ!」
「ああ、覚悟は決めている。『タブーなきエンジニア集団』の幹部としての責任は果たさせてもらう」
そう答えたのはサクライだった。
セスとロビーが去った後、アイネスも解剖のため部屋を去った。
解剖が終わった後、詳細について説明するので救急病室脇の二番の部屋に関係者を集めて欲しい、と言い残して。
彼等は手製の担架を運んでおり、そこには一人の青年が寝かされていた。
青年は身動き一つせず、目を閉じて横たわっている。
「TM、サクライさん、すみません……」
集団の先頭にいた若者が沈痛な表情で声を絞り出すようにして言った。
集団を出迎えたのは二人の男だった。
二人もまた、沈んだ表情を見せている。
目の前に突きつけられた現実を受け入れがたい、という表情に見えないこともない。
ジンの手前にあるニジョウの町はずれで携帯端末による通信が可能となったため、若者はこの二人には予め事情は伝えていた。
それでも、現実を目の当たりにするまで、二人は状況を理解していなかったのではないかと思われる、そんな表情であった。
「こっちにアイネス先生が待機している」
背の小さい方が扉を指差した。サクライである。
その言葉に扉へと走ったのがエリックだった。
エリックが扉を開き担架を中の救急病室へと導き入れる。
中にはメディットの副院長ヴィリー・アイネスが待機していた。
アイネスは少しの間ウォーリーの身体を調べてから、力なく首を横に振った。
「……既に亡くなられています」
予想されていた回答ではあるが、現実として突きつけられるとその衝撃は計り知れないものだった。
「……身内の方に連絡をお願いします」
アイネスの言葉にミヤハラ、サクライ、エリックの三人が顔を見合わせた。
その目は皆「誰がセス・クルスにこのことを伝えるんだ?」と訴えていた。
その訴えに答える者はこの場にはない。
永遠にも及ぼうかとした沈黙は不意にミヤハラによって破られた。
「……仕方ないだろう。俺がセス・クルスに伝えてくる。アイネス先生と二人は待っていてくれ」
その言葉にサクライとエリックが無言でうなずいた。
ミヤハラはいかにも「仕方ない」という様子でその場を去った。
現在残された「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの中では彼が最上位になる。
セスへの伝達役はその責任、と考えたのかもしれなった。
十数分後、ミヤハラはロビーと車椅子に乗ったセスとを連れて救急病室へと戻ってきた。モリタの姿はない。
肝心のセスは車椅子に座ったままうつむいている。車椅子はロビーが押してきた。
エリックが心配そうにセスの様子を窺う。
ミヤハラが重い口を開いた。
「クルス君……この通りだ。マネージャーは数時間前に亡くなられた」
セスは現実が理解できていないという様子で、落ち着きなくアイネスとウォーリーの亡骸とを交互に見やっている。
「一体どういうことなんだ?」
ロビーが静かにミヤハラの方へと詰め寄った。
声こそ落ち着いているが、怒りを押し殺しているのは容易に理解できる。
「死因についてはアイネス先生がこれから詳細に調査することになるが、他殺ではないと思う」
ミヤハラが表面上は平然とそう答えた。
「詳細な死因については解剖をして調査をしたいと思います。本人が希望したという証拠があればすぐに解剖を行いたいと思います。また、それが無ければどなたか関係者の方の署名をいただく必要があります」
アイネスは淡々と説明を行った。彼の仕事は人の死と常に向き合っている。いちいち感情を昂ぶらせていては身も心も持たないのであろう。
「それなら、ここに本人が解剖を希望していたという証拠があります」
そう言ってエリックは持っていた携帯端末を示した。
そこには、ウォーリーが今際の際に言い残した言葉が映像として克明に記録されている。
エリックがその映像を流したことで、部屋にいた全員がウォーリーの希望を確認した。
アイネスが皆に向かって告げる。
「解剖は本人の希望なので、こちらで実施させていただきます」
その言葉に異存のある者はなかった。
次にアイネスはセスのほうに歩み寄り、ひざを曲げて車椅子のセスに視線を合わせた。
「クルス君、ウォーリー・トワ氏は貴方との兄弟関係の確認のため、DNA鑑定を求めています。貴方はDNA鑑定を希望しますか?」
アイネスの問いに、セスは困ったようにロビーとアイネスとを交互に見やる。
それに気づいたロビーがセスの背中を押す。
「このまま知らずに終わったら、セス、お前は一生後悔するんじゃないか? 事実を知ることから逃げるな! 俺が言いたいのはそれだけだ」
その言葉に一同の視線がセスに集中する。
セスはうつむいて、辛うじて聞き取れるほどの小さな声で答える。
「……確認を、お願いします……」
するとアイネスは内線で一人の医師を呼び出し、セスを別室に案内するように指示した。
ロビーもそれに同行しようとするが、部屋を出る際にこの世のものとは思えないほどの怒りを込めた声でこう言い残した。
「何でこんなことになったんだ? 今まであんた等はどういう管理をしていたんだ?! ことの次第によっちゃ、俺はセスに代わってあんた等を断罪するからな。覚悟を決めておいてくれよ!」
「ああ、覚悟は決めている。『タブーなきエンジニア集団』の幹部としての責任は果たさせてもらう」
そう答えたのはサクライだった。
セスとロビーが去った後、アイネスも解剖のため部屋を去った。
解剖が終わった後、詳細について説明するので救急病室脇の二番の部屋に関係者を集めて欲しい、と言い残して。
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