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第九章
386:押し付け合い
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ウォーリーからハドリ、オイゲンの捜索打ち切りの知らせを受けたミヤハラとサクライは互いに無言でメンバーへの報告役を押し付けあっていた。
この二人でさえも、話しにくいことはあるものだ。
すったもんだした挙句、サクライが特にオイゲンと関係の深いメンバーを呼び出す間に、ミヤハラがメンバー向けに説明する情報の取りまとめを行うこととなった。
インデスト郊外の爆発事件でハドリとオイゲンが行方不明になったことは、既に一部の報道でも伝えられており、それほど驚きをもたれることはなかった。
やはりそうだったか、という空気が圧倒的であった。
OP社の力をもってしても、完全に情報を隠蔽することなどできなかったのである。
サクライは業務上でオイゲンと直接関わったと思われるメンバーに声をかけた。
すなわち、セス・クルス、ロビー・タカミ、タカシ・モリタ、アケミ・カネサキ、ユミ・オオイダ、サユリ・コナカ、そしてレイカ・メルツの七人である。
本来、業務上でオイゲンともっとも関係が深かったのは秘書のメイ・カワナである。
彼女に声をかけなかったのはサクライも彼女を苦手としているからであった。
彼女相手では会話すら成立しないし、正直なところ何を考えているのかわからないのだ。
サクライやミヤハラが決起してからも、彼女はずっとあてがわれた部屋に閉じこもったままで、外へ出た姿を見た者が数人いる、という程度である。それも、帽子にサングラス、マスクに薄いコートを羽織った完全武装の姿である。
常人の感覚からすれば、近寄りがたい雰囲気が感じられるのである。サクライやミヤハラもこの点においては例外ではない。二人が常人の感覚を持っているかどうかについては見解が分かれるところだろうが。
サクライは声をかけた七人に「TMから話があるから」と事態の説明をミヤハラに押し付けて事務所へと戻ってきた。
ここでミヤハラとサクライの間で事態の説明役の押し付け合いがあったのだが、サクライが折れた。
サクライは七人にハドリとオイゲンが爆発事件に巻き込まれて行方不明であること、そしてその捜索が打ち切られたことを伝えた。
事実を伝えられた七人は皆一様に沈痛な表情を浮かべていたが、セスが口火を切ってミヤハラに問う。
「秘書さんには、この話をされたのですか?」
「「……」」
この問いには、ミヤハラもサクライも押し黙ってしまう。一番聞かれたくない問いだった。
モリタはそっぽを向いてしまうし、ロビーも頭を抱えている。
気まずい沈黙が場を支配したが、それも長い時間のことではなかった。
「あのコミュニケーションスキルゼロの娘? 聞きにきたら教えればいいんじゃない? 口があるんだから、聞きたいことは聞けばいいのよ」
沈黙を破ったのはオオイダだった。
「まあ、そう決め付けるのもどうかね」
ミヤハラがオオイダを制止する。
「そんなもの、いい年した大人なんだから、本人の責任よ! ね、メルツ先生!」
だが、オオイダの言葉は容赦ない。
同意を求められたレイカは少し考えてから、
「でも……一度伝えてあげた方がいいと思うわ。あまりよく知らない人だけど、知っていることを伝えないのは、かえって疑いをもたれると思うわ。彼女と一番親しい人が伝えに行くのがいいと思うけど……」
と答えた。
レイカからすれば事実をメイに伝えなかったことで、メイから恨まれるのは避けたいところである。それにレイカ自身の感情として、自分だけ蚊帳の外にされるのは気分が悪い。
「親しい人って……」
カネサキの言葉に、皆の視線がミヤハラに集中する。
この場のメンバーでECN社時代の役職が一番高い。社長秘書と接する機会も多いだろうと思われている。
また、メイが「タブーなきエンジニア集団」を尋ねてきたとき、その相手をしたのはミヤハラである。彼女と一番親しいと思われても仕方がない。
ミヤハラは慌てて首を横に振った。この男でも慌てるということがあるらしい。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺は、ここに彼女が来たときに相手はしたが、一言も会話はできなかったぞ!? 女性の方がいいんじゃないか?」
セスとレイカがミヤハラの意見に賛同する。
「秘書さんも女性です。夜の時間に一人暮らしの女性を訪ねるのだから、女性の方に行ってもらった方がいいでしょう」
「クルス君の言うとおりだと思うわ。コナカさん、そう思わない?」
レイカに名指しされたコナカは私ですか、と言ったところで口ごもった。
今度は全員の視線がコナカに集中する。その視線は明らかにコナカに救いを求めるそれであった。
「わ、私は……」
「コナカ、メルツ先生のご指名だよ。行かなきゃ」
オオイダが尻込みするコナカの肩を叩いた。オオイダ自身はコナカに役割を押し付ける気満々である。
コナカはカネサキとレイカを交互に見やって助けを求めている。
「……わかったよ。ここで悩んでいたって仕方ない。コナカさん、秘書さんのところに行こうぜ」
ロビーが折れて、「はぁ」と大きく息を吐いてからコナカを手招きした。
この二人でさえも、話しにくいことはあるものだ。
すったもんだした挙句、サクライが特にオイゲンと関係の深いメンバーを呼び出す間に、ミヤハラがメンバー向けに説明する情報の取りまとめを行うこととなった。
インデスト郊外の爆発事件でハドリとオイゲンが行方不明になったことは、既に一部の報道でも伝えられており、それほど驚きをもたれることはなかった。
やはりそうだったか、という空気が圧倒的であった。
OP社の力をもってしても、完全に情報を隠蔽することなどできなかったのである。
サクライは業務上でオイゲンと直接関わったと思われるメンバーに声をかけた。
すなわち、セス・クルス、ロビー・タカミ、タカシ・モリタ、アケミ・カネサキ、ユミ・オオイダ、サユリ・コナカ、そしてレイカ・メルツの七人である。
本来、業務上でオイゲンともっとも関係が深かったのは秘書のメイ・カワナである。
彼女に声をかけなかったのはサクライも彼女を苦手としているからであった。
彼女相手では会話すら成立しないし、正直なところ何を考えているのかわからないのだ。
サクライやミヤハラが決起してからも、彼女はずっとあてがわれた部屋に閉じこもったままで、外へ出た姿を見た者が数人いる、という程度である。それも、帽子にサングラス、マスクに薄いコートを羽織った完全武装の姿である。
常人の感覚からすれば、近寄りがたい雰囲気が感じられるのである。サクライやミヤハラもこの点においては例外ではない。二人が常人の感覚を持っているかどうかについては見解が分かれるところだろうが。
サクライは声をかけた七人に「TMから話があるから」と事態の説明をミヤハラに押し付けて事務所へと戻ってきた。
ここでミヤハラとサクライの間で事態の説明役の押し付け合いがあったのだが、サクライが折れた。
サクライは七人にハドリとオイゲンが爆発事件に巻き込まれて行方不明であること、そしてその捜索が打ち切られたことを伝えた。
事実を伝えられた七人は皆一様に沈痛な表情を浮かべていたが、セスが口火を切ってミヤハラに問う。
「秘書さんには、この話をされたのですか?」
「「……」」
この問いには、ミヤハラもサクライも押し黙ってしまう。一番聞かれたくない問いだった。
モリタはそっぽを向いてしまうし、ロビーも頭を抱えている。
気まずい沈黙が場を支配したが、それも長い時間のことではなかった。
「あのコミュニケーションスキルゼロの娘? 聞きにきたら教えればいいんじゃない? 口があるんだから、聞きたいことは聞けばいいのよ」
沈黙を破ったのはオオイダだった。
「まあ、そう決め付けるのもどうかね」
ミヤハラがオオイダを制止する。
「そんなもの、いい年した大人なんだから、本人の責任よ! ね、メルツ先生!」
だが、オオイダの言葉は容赦ない。
同意を求められたレイカは少し考えてから、
「でも……一度伝えてあげた方がいいと思うわ。あまりよく知らない人だけど、知っていることを伝えないのは、かえって疑いをもたれると思うわ。彼女と一番親しい人が伝えに行くのがいいと思うけど……」
と答えた。
レイカからすれば事実をメイに伝えなかったことで、メイから恨まれるのは避けたいところである。それにレイカ自身の感情として、自分だけ蚊帳の外にされるのは気分が悪い。
「親しい人って……」
カネサキの言葉に、皆の視線がミヤハラに集中する。
この場のメンバーでECN社時代の役職が一番高い。社長秘書と接する機会も多いだろうと思われている。
また、メイが「タブーなきエンジニア集団」を尋ねてきたとき、その相手をしたのはミヤハラである。彼女と一番親しいと思われても仕方がない。
ミヤハラは慌てて首を横に振った。この男でも慌てるということがあるらしい。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺は、ここに彼女が来たときに相手はしたが、一言も会話はできなかったぞ!? 女性の方がいいんじゃないか?」
セスとレイカがミヤハラの意見に賛同する。
「秘書さんも女性です。夜の時間に一人暮らしの女性を訪ねるのだから、女性の方に行ってもらった方がいいでしょう」
「クルス君の言うとおりだと思うわ。コナカさん、そう思わない?」
レイカに名指しされたコナカは私ですか、と言ったところで口ごもった。
今度は全員の視線がコナカに集中する。その視線は明らかにコナカに救いを求めるそれであった。
「わ、私は……」
「コナカ、メルツ先生のご指名だよ。行かなきゃ」
オオイダが尻込みするコナカの肩を叩いた。オオイダ自身はコナカに役割を押し付ける気満々である。
コナカはカネサキとレイカを交互に見やって助けを求めている。
「……わかったよ。ここで悩んでいたって仕方ない。コナカさん、秘書さんのところに行こうぜ」
ロビーが折れて、「はぁ」と大きく息を吐いてからコナカを手招きした。
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