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第九章
381:共同調達
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翌五月五日、インデストの「サウスセンター」前では、敵同士となった集団の奇妙な連携が形成されていた。
きっかけはこの朝、食料や水を調達してきたウォーリーに「サウスセンターに詰められている方ですか?」と敵であるOP社の職員が声をかけてきたことであった。
声をかけられたウォーリーは「だからどうした。文句があるなら言ってみろ」と応じたのだが、相手の反応は予想と正反対であった。
「あの……お金は出しますので、飲み物とか少し分けてもらえないでしょうか?」
「はぁ?!」
意外な申し出にウォーリーは、素っ頓狂な声をあげた。
「事情を話してみろ。俺が納得できる理由なら、考えないでもない」
すると、その職員は上司が行方不明になってしまい指示が得られない上に、持ち場を離れる許可ももらえないので途方に暮れている、とウォーリーに訴えたのである。
「あのな……
お前、立派な社会人だろう?
そのくらい自分で判断して、飯なり飲み物なり買ってくればいいじゃねえか。無理なら誰かに頼むとかだな……」
ウォーリーはその場で相手に向かって説教を始めてしまう。
こうしたところが彼の彼たる所以である。
「……OP社ってのは、上司がいないと自分で何も判断できない連中の集まりなのか?
社員教育がなってねえ! お前の上司を出せ! 俺が上司のあり方ってものを教育してやるわ!」
すると、ウォーリーに叱責されていた職員が恐る恐る手を挙げて発言する。
「あの……私はECN社の社員で、OP社に出向しているのです。トワさん、いや、マネージャーの顔を存じていたので声をかけたのです」
「ちっ! まったく……俺がいないとECN社も駄目、ってことか。さすがにあのボンクラ社長にはちょっと荷が重いのか……」
「すみません、ECN社と違って、OP社は何かと制約が多くて……」
ウォーリーは呆れたよ、と言いながらも買ってきたものの中から、菓子パンとお茶を分けてやる。
そして、
「他にも困っている奴がいるなら、ここに集めておいてくれ。俺たちから奪った、って言えば話もつけやすいだろうよ。また後で来るぜ」
と言い残して「サウスセンター」の建物へと戻ったのである。
その後、ウォーリーやアカシなど「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合の連合チームの幹部が中心となって、食料や飲料の調達を繰り返し、敵味方でそれらを分け合うという奇妙な活動が行われたのである。
いつの間にか止められていた「サウスセンター」の水道も復旧している。
「ここまでしちゃっていいのでしょうか?」
エリックが心配そうにウォーリーに尋ねたが、ウォーリーは構わないという。
時間の経過とともに、別のエリアに詰めていたOP社側のメンバーも集まってきたため、「サウスセンター」前の大通りは、敵味方入れ乱れての大配給大会になったのである。
「おい、OP社の組合以外の奴! てめえら金払えよ! こっちはポケットマネーでやってるんだ、そんなにたかられたら俺の財布だって空になっちまうよ!」
ウォーリーはそう怒鳴りながらも何故か嬉しそうだった。
夕方までかかって食料や飲料の配布を終え、ウォーリーやエリック、アカシなどが「サウスセンター」の建物の中に引き上げていく。
「まったく、ハドリの会社もどうかしているぜ。あれじゃ、社長が倒れたら一月も持たないで会社が潰れるぞ」
引き上げる途中、ウォーリーは愚痴とも文句ともつかない言葉を発していた。
そしてこの言葉は、半ば的中してしまうのである。
その夜のことであった。
ウォーリーとアカシ宛てに、OP社パトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウから書簡が届けられたのである。
内容は一時停戦と、明日五月六日正午からの会合の申し出であった。
ウォーリーにしろアカシにしろ、戦闘は望むところではない。
あくまでハドリを会合のテーブルに引っ張り出すのがベストであると考えている。
ウォーリーの心は決まっていた。
ハドリが行方不明らしいという情報もエリックから教えられていたので、その真偽も明日の会合で確認する必要がある。
エリックから教えられた情報はかなり信憑性のあるものと考えられる。
その証拠に書簡の署名がハドリではなく、パトロール・チームのリーダーになっている。
ハドリが健在であれば書簡にはハドリの名前で署名するだろう、と思われた。
どの程度の地位にある者かはよくわからない。
だが、OP社による治安改革活動の中で何度も登場している名前だったので、一定の決定権を持つ者であるだろうとウォーリーは推測した。
念のためアカシにも確認したが、ウォーリーの推測と大差なかった。
OP社はハドリが圧倒的に高い地位にあるだけで、あとは何名かのわずかな裁量権を持つ幹部が存在するというのがアカシの答えであった。ホンゴウはその何名かのうちの一人だそうだ。
エリックが書簡について偽装の可能性を指摘したが、ウォーリーとアカシはその意見を採らなかった。そもそもハドリが行方不明、という情報はエリックから得られたものなのだから。
しかし、エリックが連絡の取れないジン・ヌマタの所在を確認するよう進言したことに関しては、ウォーリーは明日の交渉で話題にすることを約束した。
きっかけはこの朝、食料や水を調達してきたウォーリーに「サウスセンターに詰められている方ですか?」と敵であるOP社の職員が声をかけてきたことであった。
声をかけられたウォーリーは「だからどうした。文句があるなら言ってみろ」と応じたのだが、相手の反応は予想と正反対であった。
「あの……お金は出しますので、飲み物とか少し分けてもらえないでしょうか?」
「はぁ?!」
意外な申し出にウォーリーは、素っ頓狂な声をあげた。
「事情を話してみろ。俺が納得できる理由なら、考えないでもない」
すると、その職員は上司が行方不明になってしまい指示が得られない上に、持ち場を離れる許可ももらえないので途方に暮れている、とウォーリーに訴えたのである。
「あのな……
お前、立派な社会人だろう?
そのくらい自分で判断して、飯なり飲み物なり買ってくればいいじゃねえか。無理なら誰かに頼むとかだな……」
ウォーリーはその場で相手に向かって説教を始めてしまう。
こうしたところが彼の彼たる所以である。
「……OP社ってのは、上司がいないと自分で何も判断できない連中の集まりなのか?
社員教育がなってねえ! お前の上司を出せ! 俺が上司のあり方ってものを教育してやるわ!」
すると、ウォーリーに叱責されていた職員が恐る恐る手を挙げて発言する。
「あの……私はECN社の社員で、OP社に出向しているのです。トワさん、いや、マネージャーの顔を存じていたので声をかけたのです」
「ちっ! まったく……俺がいないとECN社も駄目、ってことか。さすがにあのボンクラ社長にはちょっと荷が重いのか……」
「すみません、ECN社と違って、OP社は何かと制約が多くて……」
ウォーリーは呆れたよ、と言いながらも買ってきたものの中から、菓子パンとお茶を分けてやる。
そして、
「他にも困っている奴がいるなら、ここに集めておいてくれ。俺たちから奪った、って言えば話もつけやすいだろうよ。また後で来るぜ」
と言い残して「サウスセンター」の建物へと戻ったのである。
その後、ウォーリーやアカシなど「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合の連合チームの幹部が中心となって、食料や飲料の調達を繰り返し、敵味方でそれらを分け合うという奇妙な活動が行われたのである。
いつの間にか止められていた「サウスセンター」の水道も復旧している。
「ここまでしちゃっていいのでしょうか?」
エリックが心配そうにウォーリーに尋ねたが、ウォーリーは構わないという。
時間の経過とともに、別のエリアに詰めていたOP社側のメンバーも集まってきたため、「サウスセンター」前の大通りは、敵味方入れ乱れての大配給大会になったのである。
「おい、OP社の組合以外の奴! てめえら金払えよ! こっちはポケットマネーでやってるんだ、そんなにたかられたら俺の財布だって空になっちまうよ!」
ウォーリーはそう怒鳴りながらも何故か嬉しそうだった。
夕方までかかって食料や飲料の配布を終え、ウォーリーやエリック、アカシなどが「サウスセンター」の建物の中に引き上げていく。
「まったく、ハドリの会社もどうかしているぜ。あれじゃ、社長が倒れたら一月も持たないで会社が潰れるぞ」
引き上げる途中、ウォーリーは愚痴とも文句ともつかない言葉を発していた。
そしてこの言葉は、半ば的中してしまうのである。
その夜のことであった。
ウォーリーとアカシ宛てに、OP社パトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウから書簡が届けられたのである。
内容は一時停戦と、明日五月六日正午からの会合の申し出であった。
ウォーリーにしろアカシにしろ、戦闘は望むところではない。
あくまでハドリを会合のテーブルに引っ張り出すのがベストであると考えている。
ウォーリーの心は決まっていた。
ハドリが行方不明らしいという情報もエリックから教えられていたので、その真偽も明日の会合で確認する必要がある。
エリックから教えられた情報はかなり信憑性のあるものと考えられる。
その証拠に書簡の署名がハドリではなく、パトロール・チームのリーダーになっている。
ハドリが健在であれば書簡にはハドリの名前で署名するだろう、と思われた。
どの程度の地位にある者かはよくわからない。
だが、OP社による治安改革活動の中で何度も登場している名前だったので、一定の決定権を持つ者であるだろうとウォーリーは推測した。
念のためアカシにも確認したが、ウォーリーの推測と大差なかった。
OP社はハドリが圧倒的に高い地位にあるだけで、あとは何名かのわずかな裁量権を持つ幹部が存在するというのがアカシの答えであった。ホンゴウはその何名かのうちの一人だそうだ。
エリックが書簡について偽装の可能性を指摘したが、ウォーリーとアカシはその意見を採らなかった。そもそもハドリが行方不明、という情報はエリックから得られたものなのだから。
しかし、エリックが連絡の取れないジン・ヌマタの所在を確認するよう進言したことに関しては、ウォーリーは明日の交渉で話題にすることを約束した。
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