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第九章

377:ナンバーツーは誰か?

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 ホンゴウはヤマガタとの間に通信を開いた。既に彼自身は覚悟は決めている。
「ヤマガタさん、爆発事件の処理について思うところがあります。話を聞いていただけないでしょうか?」
「……何ですか?」
「明日の捜索が完了した時点で、社長が指示を出せる状態ではなかった場合、こちらにいる人員を本社に戻したいのです」
「何ですと? 本社に人員を戻す?」
 ホンゴウの言葉にヤマガタが驚愕の表情を見せた。

 通信画面には、震える手で社内規程を検索しているヤマガタの姿が映し出されている。
 ハドリが不在の状態で勝手に判断を行うのである。
 規程上問題がないか、確認を取りたくなるヤマガタの気持ちも理解できる。
 OP社とて、社長の意思が社内規程やルールに優先するわけではない。
 むしろ、社長であるハドリは、社内でもっとも厳格に規程やルールを遵守しているとも言えるくらいだ。もっとも、その規程やルールはハドリに都合よく作られてはいるのだが。
 他人に対して冷徹な男ではあるが、自分自身に対しても非常に厳しいのである。
 そうでなければ、一八万の従業員数を誇る企業を一代で築き上げることなどできなかったに違いない。
 このような男が社長であるからこそ、部下は社長に従って動くのだろう。
 社長が不在であれば社内規程やルールに従うのである。
 ハドリがこれほど長い間、誰にも指示を与えずにいることは、OP社設立以来初めての出来事である。
 だから、ヤマガタも慎重に規程を調べている。

 一〇分ほど社内規程とにらめっこを続けた後、ヤマガタが顔を上げた。
「残念ですが、私にはインデストに展開している従業員へ指示を出す権限がありません。権限を持つのはリーダーかオソダ支店長代理です。社長から権限を委譲するという指示は受けていますか?」
「いいえ。行方不明となっていますから、特に指示は受けていません」
「それは困ったことになります。社長に許可も得ずにこのようなことを勝手に実行してよいものか……」
「例外規定はありませんか?」
「あるにはありますが。もし、社長が無事であれば、規程に反することになります。それを許可するわけには……」
「しかし、既にまる一日近く、社長の指示がないことで従業員も動揺しています。オオカワセンター長も行方不明となった今、これ以上従業員を混乱させる訳にはいきません」
「……」
 その言葉にヤマガタも考え込んでしまった。
 インデストに駐留している人員を本社に呼び戻したいという気持ちはヤマガタにもあるだろうということをホンゴウは理解していた。むしろ、ヤマガタがその重要性をもっともよく知っている。
 しかし、インデストの人員を呼び戻す許可をハドリから得ておらず、その権限もない状態では、勝手に人員を呼び戻すことはできない。
 ヤマガタはあくまでもルールと秩序の人であった。
 ホンゴウもその点は重々承知している。
 知っていて敢えてヤマガタに話を通しているのは、現在無事な最上位者に現状を知ってもらうためである。
 あってはならないことだが、ホンゴウ自身が倒れた場合、治安改革部隊を制御できると思われる人員が不在なのだ。
 混乱に陥ってからでは手遅れである。
 治安改革部隊はハドリなどによる厳しい管理の下でこそ秩序を保てる組織である。
 常に彼等と接しているホンゴウであるからこそ、理解できることなのであろう。
 ハドリという強大な枷が外れた後、彼等がどのように動くかは見当もつかない。
 彼等もフジミ・タウンとインデストの攻略という、抑圧された状況に長期間置かれてきたのだ。
 少しでも早く彼等を抑圧下から解放しなければ、OP社内にも悪影響が及ぶことは容易に予想がつく。それほどに、彼等の心身は疲弊しているのだ。

「ヤマガタさん、明日、社長が見つからなければ、社長の命は絶望的だ、と私は考えます。インデストも今回の活動で市民が混乱しており、事態を無意味に長期化させるのは望ましくありません
 発電事業に障害がある今、早急に発電事業の回復を図るべきだと考えます」
 その言葉に沈黙を守っていたヤマガタが、ようやく口を開いた。
「……わかりました。リーダーの判断で行動してください。私は、一切感知しません。規程上、リーダーの判断を承認するにしても否認するにしても権限がありません」
 画面に映るヤマガタがホンゴウから目を逸らした。
 ホンゴウには苦しいヤマガタの立場がよく理解できる。
 ヤマガタが言うとおり、彼には本来、この件に関して口を挟む権限はない。
 しかし、現在健在であるOP社の最上位者として、ホンゴウに行動の自由を認めたのである。
 ハドリが健在であれば、ヤマガタはハドリによって処断されることを免れないであろう。
 それでもヤマガタはホンゴウに行動の自由を許したのである。これがヤマガタができる精一杯の対応であるようにホンゴウには思われた。
 ホンゴウはその意思に全力で答えることを決意したのであった。
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