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第九章

375:社長を捜せ!

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 ホンゴウは自ら「オーシャンリゾート」に赴き、昨夜の爆発事件について、関係者から情報を集めることにした。
「オーシャンリゾート」では爆発の直前まで宴の場にハドリと同席していたという女性従業員たちの話を聞くことができた。
 彼女たちの多くは爆発に巻き込まれ負傷していたが、爆発の中心部からはやや離れた位置にいたため、話ができないような重傷者は少なかった。
 彼女等によれば、爆発直前の出来事は次のようなものであった。

 まず、爆発の一五分ほど前にオイゲンが席を立った。
 このとき、オイゲンは既に酔っており言葉は正常であったが、足元はややおぼつかない様子であった。席を立った表向きの理由はトイレか何かだったと思われる。
 それから数分後にハドリが散会を命じ、女性従業員たちがイベントホール棟を後にした。
 ハドリは女性従業員に同行せずに、三階のホールに残っていた。
 それから一〇分ほどして、イベントホール棟で爆発が起こった。

 情報を整理した後にホンゴウが真っ先に疑ったのはオイゲンである。
 爆発の直前に姿を消し、現在も本人が行方不明というのでは、疑われても仕方ない。
 オイゲンの立場からすれば、ハドリによって無理矢理に自分の会社を飲み込まれたという見方ができる。
 そして、現在ハドリと敵対している相手のトップは、彼の元部下である。
 喧嘩別れだという情報を得ているが、昨日のオイゲンの話ではそれも疑わしい。

(それにしても……人は見かけによらないということだろうか?)
 しかし、ホンゴウはこれだけの情報でオイゲンが犯人だと決めつける愚は犯さなかった。
(あの、純朴そうな青年が……やはり考えにくいな)
 オイゲン以外にも動機のある者は大勢いる。
「タブーなきエンジニア集団」やOP社グループ労働者組合などは、組織全体が動機を持っているといっても過言ではない。
 彼等のうちの誰かがこのようなテロリズム的な行為に臨んだとしても不思議ではないのだ。むしろ、直接戦っていることを考慮すれば彼等のほうにこそより強い動機があるともいえるが、決定的なものではない。
 ホンゴウは動機の面からの犯人捜しを一旦中断し、今度は爆発に使われた爆発物を調べてみることにした。
 すぐに「オーシャンリゾート」の支配人からイベントホール棟の地下に保管されていた爆発物についての情報が得られた。

(何故、そのようなものがこの施設に……)
 ホンゴウが疑わしげな目を支配人に向けた。
 宿泊施設に近い場所に爆発物を保管する、という状況はホンゴウの理解を超えていたからだ。
 すると、支配人は職員を呼んで一通の書面をもって来させた。
 それはOP社の関連会社の一社と「オーシャンリゾート」との間で結ばれた、爆発物の保管契約書であった。
 契約書によれば、この関連会社の依頼で「オーシャンリゾート」が爆発物を預かることになっている。
 また、「オーシャンリゾート」側では、爆発物の移動ができないことになっており、現支配人はできるだけイベントホール棟を使用しないことで危険を避けていたようであった。
 契約を結んだOP社の関連会社はインデストの鉱山開発が開始された直後に設立され、「オーシャンリゾート」の近所に本社を構えていた。設立当時、この会社はOP社との資本関係がなかった。
 後にOP社に吸収された際、現在の採掘場の近くに移転したのだが、そのときに爆発物を預けたままになっており、現在に至っている様子であった。
 要するに資本関係が変わったことと、移転のゴタゴタが原因で爆発物が動かされることなく現在に至ったということらしい。

 ホンゴウが調べた限り、爆発物について知っている者は極少数であった。
 彼にとって不運だったのは、「オーシャンリゾート」の先代の女性支配人が二年ほど前に他界しており、現在の支配人は爆発物が地下に置かれていた背景を詳しく知らない者であったことだった。
 ホンゴウは爆発物の面からは「オーシャンリゾート」か、契約を結んだOP社の関連会社、またはOP社の関係者が怪しいと判断せざるを得なかった。
 ハドリ自身が芝居を打った可能性も考えた。
 しかし、女性従業員たちの証言から、ハドリが爆発から逃れるのが非常に困難な状況にあることがわかっている。
 犠牲者が少ないところが疑わしいが、予想される状況からハドリが無事に逃れ、隠れて何者かを見張っているという可能性はほとんどゼロに等しいように思われる。
 また、ホンゴウは捜索に当たった者から、砂浜にあった何かを引きずったような跡があることについても報告を受けていた。
「砂浜で何かを引きずった……? で、その跡はどこへ向かっている?」
 答は「海の中」であった。
「海の中……? 戻った跡はあるのか?」
「それが……見当たりません」
「見当たらない? だったら、海の中にでも入ったというのか? それとも波打ち際に近くて、波で洗われたんじゃないのか?」
「現在、その可能性を調査中です」
 不審なことが多すぎる、とホンゴウは思った。
 大人数をハドリの捜索に割いたのは正解だったかもしれない。
 この場で何が起きたのかを知るために、調べることはかなり多いようだ。
 そして、ホンゴウはこの捜索にあまり時間をかけたくはなかった。
 本社から遠く離れた場所に多くの人員を集めている。
 その分、人員を集中させるべき本社周辺が手薄になっている。
 ここは早急にハドリの捜索を完了し、しかるべき手を打って、人員を本社に戻すことが最善だと思われた。
 会社を辞めることを決めていても、目の前の仕事は自分がやるべきことと認識していれば確実に遂行する。これがホンゴウのやり方だ。

 瓦礫の山となったイベントホール棟では、瓦礫の除去と生存者の捜索が行われている。
 それと同時に、「オーシャンリゾート」の支配人の協力を受けて、「オーシャンリゾート」の従業員および宿泊者の確認も実施している。
 ハドリやオイゲンの捜索も重要であるが、他に行方がわからなくなっている者があれば、その捜索も必要になるからだ。
 捜索の途中、街中に残してきた部隊から、「ウォーリー・トワ率いる十数名が、包囲の輪を破り逃走した」という報告があった。
「追ってくれ。行き先だけを確認してくれればいい。手出しは無用だ。攻撃を受けそうならば、退いても構わない」
 報告に対し、ホンゴウはそう返答した。
 包囲を突破されるのは構わない。ウォーリーの居場所さえ掴んでいれば現時点では十分だ、と判断したのだ。
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