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第八章
362:ひとときの休息
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一方、「サウスセンター」では、アカシが労働者組合のメンバーを引き連れて打って出ると通告してきた。
慌てたのはエリックである。
現在、ウォーリーとの連絡が取れていない。
しかし、OP社の動きがほとんど見られないことから、一進一退の攻防が続いているのだろうと予想されている。
だからこそ、打って出て戦況を有利に持っていこう、というのがアカシの主張である。
そもそも交渉ではなく予告もなしに武力で制圧するなど、とても会社として誠意のある回答とは思えない。そのような相手であれば、こちらから攻撃するのも止むなし、というのである。
その主張はエリックにも理解できる。
十分な戦力があれば、エリックでも打って出ることを選択したかもしれない。
しかし、ここには戦える者も、武器もほとんどないのだ。
「本当に打って出るのですか……?」
エリックの問いにアカシはそれしかなかろう、と答える。
長くウォーリーの部下を務めてきたエリックが、強攻策を唱えるのなら理解できる。
だが、現実に強攻策を唱えているのはウォーリーと付き合いの浅いアカシの方だ。
それしかなかろうと答えたアカシの目には一切の迷いがなかった。
「何故……そこまで?」
「トワさんは身を削って競争相手の我々が組合を作るのに尽力してくれた……
トワさんがいなければこれだけの組合を作ることなどできなかっただろうし、会社と戦う事だってできなかった……
今、トワさんが窮地に陥っているかもしれない。我々はトワさんのお荷物では終わりたくないのだ。
対等な付き合いができればよいと思っている。たとえ実態がお荷物でも、少しでも対等に近づきたい、ということだ」
アカシの眼には決意の色がありありと見てとれた。
エリックは自分も同行する、と意思を伝えたうえで、出撃を翌日の早朝まで待つよう依頼した。アカシの決意が固い以上、エリック一人がのうのうと安全な場所に残るという選択肢はあり得ない。
エリックはウォーリーからもしもの場合の後事を託されている。
だが、それはもしもの場合が生じた後のことだ。
それ以上に「もしもの場合」を生じさせないことが重要だとエリックは考えた。「もしもの場合」を生じさせないためのより良い選択肢はアカシに同行すること、と判断したのだ。
「明日の早朝って、まだ一〇時間近くあるじゃないか! そんなに悠長に待てる状況ではないぞ!」
アカシが話にならない、と言いたげに声を荒げた。
だが、アカシの反論にエリックは冷静に応じる。
「いえ……ここに集まった人たちは、連日の活動で疲弊しています。幸い、OP社の動きはほとんどない。今のうちに十分に休息を取って、回復してから打って出ましょう」
「だが……寝こみを襲われたらどうする?」
「そうなれば仕方ありません。なるようになるだけです」
エリックの表情はいつになく真剣なものであった。
アカシはエリックの目をしばらく見た後、大きく息をついて答える。
「……そうですな。今回はトワさんの下で長くやってきたモトムラさんを信じてやってみましょう」
その言葉にエリックも安堵の息を漏らした。
すぐに建物中に二人の意思が伝えられた。
中にいる人々は、不安に苛まれながらも、思い思いの方法で休息を取り始めた。
それから二時間あまりが経過した。
OP社の動きはまだない。
アカシが館内を回って皆が休息を取り始めたのを確認して、自身が待機する部屋の前に戻ってきた。
隣の部屋から明かりが漏れている。
この部屋は荷物置場になっており。普段は人がいないはずだ。
不審に思ってアカシが扉を開けると、中には無言で端末と向き合っているエリックの姿があった。
「モトムラさんは休まなくていいのか? 言い出しっぺだというのに」
アカシにはエリックが根を詰めすぎているように思われた。
肝心なときに彼が力を発揮できない状態となるのはアカシとしても困る。
「建物の周辺に爆発物を仕掛けて、敵を建物ごと吹き飛ばすのは、OP社の常套手段です。そうならないかを警戒していたところです」
エリックが端末の画面に視線を落としたまま答えた。
「なるほど……その動きは?」
「今のところないですね」
「なら、今のうちに休んでおいた方がいい。組合の空いているメンバーが交代で監視しておこう」
アカシがエリックに休息を促した。そのくらいなら組合のメンバーが対応すれば十分だと考えたのだ。
「そうですね。そうします」
もはやエリックにもその言葉に抗うだけの余裕がなかった。
近くから寝袋を引っ張り出し、部屋の隅で横になる。
「では、お言葉に甘えて、失礼します」
そう言った直後、エリックは寝息を立てて眠りに落ちていた……
慌てたのはエリックである。
現在、ウォーリーとの連絡が取れていない。
しかし、OP社の動きがほとんど見られないことから、一進一退の攻防が続いているのだろうと予想されている。
だからこそ、打って出て戦況を有利に持っていこう、というのがアカシの主張である。
そもそも交渉ではなく予告もなしに武力で制圧するなど、とても会社として誠意のある回答とは思えない。そのような相手であれば、こちらから攻撃するのも止むなし、というのである。
その主張はエリックにも理解できる。
十分な戦力があれば、エリックでも打って出ることを選択したかもしれない。
しかし、ここには戦える者も、武器もほとんどないのだ。
「本当に打って出るのですか……?」
エリックの問いにアカシはそれしかなかろう、と答える。
長くウォーリーの部下を務めてきたエリックが、強攻策を唱えるのなら理解できる。
だが、現実に強攻策を唱えているのはウォーリーと付き合いの浅いアカシの方だ。
それしかなかろうと答えたアカシの目には一切の迷いがなかった。
「何故……そこまで?」
「トワさんは身を削って競争相手の我々が組合を作るのに尽力してくれた……
トワさんがいなければこれだけの組合を作ることなどできなかっただろうし、会社と戦う事だってできなかった……
今、トワさんが窮地に陥っているかもしれない。我々はトワさんのお荷物では終わりたくないのだ。
対等な付き合いができればよいと思っている。たとえ実態がお荷物でも、少しでも対等に近づきたい、ということだ」
アカシの眼には決意の色がありありと見てとれた。
エリックは自分も同行する、と意思を伝えたうえで、出撃を翌日の早朝まで待つよう依頼した。アカシの決意が固い以上、エリック一人がのうのうと安全な場所に残るという選択肢はあり得ない。
エリックはウォーリーからもしもの場合の後事を託されている。
だが、それはもしもの場合が生じた後のことだ。
それ以上に「もしもの場合」を生じさせないことが重要だとエリックは考えた。「もしもの場合」を生じさせないためのより良い選択肢はアカシに同行すること、と判断したのだ。
「明日の早朝って、まだ一〇時間近くあるじゃないか! そんなに悠長に待てる状況ではないぞ!」
アカシが話にならない、と言いたげに声を荒げた。
だが、アカシの反論にエリックは冷静に応じる。
「いえ……ここに集まった人たちは、連日の活動で疲弊しています。幸い、OP社の動きはほとんどない。今のうちに十分に休息を取って、回復してから打って出ましょう」
「だが……寝こみを襲われたらどうする?」
「そうなれば仕方ありません。なるようになるだけです」
エリックの表情はいつになく真剣なものであった。
アカシはエリックの目をしばらく見た後、大きく息をついて答える。
「……そうですな。今回はトワさんの下で長くやってきたモトムラさんを信じてやってみましょう」
その言葉にエリックも安堵の息を漏らした。
すぐに建物中に二人の意思が伝えられた。
中にいる人々は、不安に苛まれながらも、思い思いの方法で休息を取り始めた。
それから二時間あまりが経過した。
OP社の動きはまだない。
アカシが館内を回って皆が休息を取り始めたのを確認して、自身が待機する部屋の前に戻ってきた。
隣の部屋から明かりが漏れている。
この部屋は荷物置場になっており。普段は人がいないはずだ。
不審に思ってアカシが扉を開けると、中には無言で端末と向き合っているエリックの姿があった。
「モトムラさんは休まなくていいのか? 言い出しっぺだというのに」
アカシにはエリックが根を詰めすぎているように思われた。
肝心なときに彼が力を発揮できない状態となるのはアカシとしても困る。
「建物の周辺に爆発物を仕掛けて、敵を建物ごと吹き飛ばすのは、OP社の常套手段です。そうならないかを警戒していたところです」
エリックが端末の画面に視線を落としたまま答えた。
「なるほど……その動きは?」
「今のところないですね」
「なら、今のうちに休んでおいた方がいい。組合の空いているメンバーが交代で監視しておこう」
アカシがエリックに休息を促した。そのくらいなら組合のメンバーが対応すれば十分だと考えたのだ。
「そうですね。そうします」
もはやエリックにもその言葉に抗うだけの余裕がなかった。
近くから寝袋を引っ張り出し、部屋の隅で横になる。
「では、お言葉に甘えて、失礼します」
そう言った直後、エリックは寝息を立てて眠りに落ちていた……
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