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第八章
360:二つの裏切り
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インデスト市街にある商店街のベンチで二人の男が話をしている。
といっても、二人は互いにそっぽを向いていたため、他の者がこの様子を見てもとても会話をしているようには見えなかっただろう。
二人は先ほどまで、スーパーマーケットの地下でとある人物を捜索していたのだが、これを中止して建物から出てきたのだ。
商店街ではOP社治安改革部隊の制服を着た者達が慌ただしく行き来している。
ベンチに腰をかけた男のところにOP社治安改革部隊の隊員が報告にやって来た。
「リーダー、ウォーリー・トワの姿は未だ発見できておりません。近くにいると思われますので捜索を継続します」
「わかった、続けてくれ」
「承知しました。商店街の東側から先を捜索します!」
隊員がスーパーマーケットとは反対の方向に走っていった。
「休んでいて大丈夫ですかね……?」
ベンチに腰をかけずに立ったままの男が周囲を見回しながらつぶやくように尋ねた。ECN社社長のオイゲン・イナである。尋ねた相手はベンチに腰かけている男だろうが、オイゲンはそちらの方には目もくれず、そっぽを向いたままだ。
つぶやいている間も周囲を警戒している。
「問題ないさ、イナ社長。ここに集合すると伝えたのだから。指定時刻に集合場所にいれば問題はない」
ベンチに腰かけた男が答えた。こちらはOP社パトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウである。
二人はハドリの命により同じチームでウォーリーの捜索に当たっていた。
「私は今の方法がベストだとは思いますが……ホンゴウさんは本当にこれでよかったのでしょうか……?」
オイゲンが言葉を選びながらホンゴウに問うた。
ホンゴウはオイゲンとは目を合わさずに、彼にしか聞こえないような小さな声で独白する。
「私はハドリ社長を尊敬しているが、無意味な殺人には賛同できないのだよ……
私もその片棒を担いできた。償い切れない罪も負っているだろう。だが……それでもウォーリー・トワ氏まで殺めることはできない。
彼を捕えたとしたら、社長は確実に彼を殺害するだろう。
理由はわからないが、社長は彼に対して並々ならぬ感情をお持ちのようだ。
どちらにせよ今回の任務を終えたら、私は社を去るつもりだ。
この仕事は意義あるものだと思うが、それを信じきれなくなった私がいる。
もしかしたら、物事の善悪の判断もできなくなったのかも知れない。
一度、仕事から離れて、もう一度私自身を見つめなおしてみたいものだ……」
「そうですか……くれぐれもお気をつけて……」
オイゲンはそう言葉を返すことしかできなかった。
ホンゴウのこの発言はハドリに対する反逆ととらえられても仕方のないものだ。
ハドリを支持する者に聞かれ、それがハドリに知らされれば無事では済まないだろう。
他者に発言を聞かれていないことを期待するしかない。
一応周囲に話を聞かれそうな相手がいないことを確かめてはいたが、それだけでは恐らく不十分と思われる。
オイゲンとしては聞かなかったふりをするのが精一杯であった。
※※
「イナ社長。もと上司としてのあなたに聞きたい。ウォーリー・トワというのはどのような人物なのか?」
「……彼の仕事内容や仕事ぶりということでしょうか?」
「……そうだな。部下や同僚からの評判も聞いておきたい。あと知っている範囲でいい『タブーなきエンジニア集団』を立ち上げた経緯とその活動をイナ社長がどう考えているのかも、だ」
ホンゴウは今日の出撃に当たってオイゲンにウォーリーの人となりを詳細に尋ねてきた。
オイゲンは警戒しながらもウォーリーについて語った。
「タブーなきエンジニア集団」の活動については、否定的な見解を示しておいた。
しかし、オイゲンは彼を「優秀であり、ECN社やエクザロームの未来を背負って立つべき人物。そして人情味にもあふれているリーダーの器」と評したのだ。
この言葉を発するとき、オイゲンも覚悟を決めていた。
最悪、言葉尻を取られてハドリに処罰されると考えていたのだ。
彼自身は自らを小心だと思っており、事実その通りであった。
それでも長期間にわたって極度の緊張を強いられると神経が焼き切れるのか、早いところ煮るなり焼くなりしてくれ、という気分になるから不思議である。
しかし、オイゲンの覚悟とは裏腹にホンゴウは「そうか」と答えただけであった。
その後、ホンゴウが取った行動は、先に示したとおりである。
といっても、二人は互いにそっぽを向いていたため、他の者がこの様子を見てもとても会話をしているようには見えなかっただろう。
二人は先ほどまで、スーパーマーケットの地下でとある人物を捜索していたのだが、これを中止して建物から出てきたのだ。
商店街ではOP社治安改革部隊の制服を着た者達が慌ただしく行き来している。
ベンチに腰をかけた男のところにOP社治安改革部隊の隊員が報告にやって来た。
「リーダー、ウォーリー・トワの姿は未だ発見できておりません。近くにいると思われますので捜索を継続します」
「わかった、続けてくれ」
「承知しました。商店街の東側から先を捜索します!」
隊員がスーパーマーケットとは反対の方向に走っていった。
「休んでいて大丈夫ですかね……?」
ベンチに腰をかけずに立ったままの男が周囲を見回しながらつぶやくように尋ねた。ECN社社長のオイゲン・イナである。尋ねた相手はベンチに腰かけている男だろうが、オイゲンはそちらの方には目もくれず、そっぽを向いたままだ。
つぶやいている間も周囲を警戒している。
「問題ないさ、イナ社長。ここに集合すると伝えたのだから。指定時刻に集合場所にいれば問題はない」
ベンチに腰かけた男が答えた。こちらはOP社パトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウである。
二人はハドリの命により同じチームでウォーリーの捜索に当たっていた。
「私は今の方法がベストだとは思いますが……ホンゴウさんは本当にこれでよかったのでしょうか……?」
オイゲンが言葉を選びながらホンゴウに問うた。
ホンゴウはオイゲンとは目を合わさずに、彼にしか聞こえないような小さな声で独白する。
「私はハドリ社長を尊敬しているが、無意味な殺人には賛同できないのだよ……
私もその片棒を担いできた。償い切れない罪も負っているだろう。だが……それでもウォーリー・トワ氏まで殺めることはできない。
彼を捕えたとしたら、社長は確実に彼を殺害するだろう。
理由はわからないが、社長は彼に対して並々ならぬ感情をお持ちのようだ。
どちらにせよ今回の任務を終えたら、私は社を去るつもりだ。
この仕事は意義あるものだと思うが、それを信じきれなくなった私がいる。
もしかしたら、物事の善悪の判断もできなくなったのかも知れない。
一度、仕事から離れて、もう一度私自身を見つめなおしてみたいものだ……」
「そうですか……くれぐれもお気をつけて……」
オイゲンはそう言葉を返すことしかできなかった。
ホンゴウのこの発言はハドリに対する反逆ととらえられても仕方のないものだ。
ハドリを支持する者に聞かれ、それがハドリに知らされれば無事では済まないだろう。
他者に発言を聞かれていないことを期待するしかない。
一応周囲に話を聞かれそうな相手がいないことを確かめてはいたが、それだけでは恐らく不十分と思われる。
オイゲンとしては聞かなかったふりをするのが精一杯であった。
※※
「イナ社長。もと上司としてのあなたに聞きたい。ウォーリー・トワというのはどのような人物なのか?」
「……彼の仕事内容や仕事ぶりということでしょうか?」
「……そうだな。部下や同僚からの評判も聞いておきたい。あと知っている範囲でいい『タブーなきエンジニア集団』を立ち上げた経緯とその活動をイナ社長がどう考えているのかも、だ」
ホンゴウは今日の出撃に当たってオイゲンにウォーリーの人となりを詳細に尋ねてきた。
オイゲンは警戒しながらもウォーリーについて語った。
「タブーなきエンジニア集団」の活動については、否定的な見解を示しておいた。
しかし、オイゲンは彼を「優秀であり、ECN社やエクザロームの未来を背負って立つべき人物。そして人情味にもあふれているリーダーの器」と評したのだ。
この言葉を発するとき、オイゲンも覚悟を決めていた。
最悪、言葉尻を取られてハドリに処罰されると考えていたのだ。
彼自身は自らを小心だと思っており、事実その通りであった。
それでも長期間にわたって極度の緊張を強いられると神経が焼き切れるのか、早いところ煮るなり焼くなりしてくれ、という気分になるから不思議である。
しかし、オイゲンの覚悟とは裏腹にホンゴウは「そうか」と答えただけであった。
その後、ホンゴウが取った行動は、先に示したとおりである。
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