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第八章

358:反撃

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 敵は敵味方問わず武器や銃火器を使用しているように見える。
 ウォーリーとて、敵の凶弾に倒れる可能性は否定できない。
 しかし、市民と敵とが入り乱れている以上、銃火器の使用はためらわれる。
 「タブーなきエンジニア集団」はその点でOP社、いやハドリとは異なるのだ。

「早く逃げろ! 俺たちが戦いにくい!」
 ウォーリーはそう叫びながら彼を支持する人々のために血路を開いている。
 しかし、敵の数は文字通り桁違いに多く、武装も充実している。
 銃火器の使用こそ散発的であるが、敵の凶刃の前に斃れる市民の数は増える一方だ。
 市民に対する武器の使用に躊躇がないのはウォーリーにとっても想定外であった。
 「サウスセンター」の前の通りは、人々の血でどす黒く染められ始めている。

「?! 来たか!」
 ふと、ウォーリーの背後から殺意を帯びた刃が襲い掛かってきた。
 ウォーリーは、間一髪、身を低くしてそれを避けるが、地面の血に足をとられてバランスを崩す。
 ちっ、と舌打ちしながら金属棒で地面を突き、失ったバランスを取り戻す。
 その瞬間、第二の刃が襲いかかろうとするが、意外な妨害者によってそれは阻止された。
 「サウスセンター」の建物の方から、水が勢いよく噴射されたのだ。
 敵の手に銃火器を認めた瞬間、エリックが放水を決定したのだ。
 根本的な解決にはならないが、敵の銃火器の威力を弱めることができるかもしれない。
 事実、それにより敵からの銃声は一時的にせよ鳴り止んだのである。
 その隙に、多くの市民が戦場を離れるか、「サウスセンター」の建物に逃げ込むことに成功した。
 態勢を立て直したウォーリー達は二〇名ずつ一〇のチームに分かれて散った。

 「サウスセンター」は、アカシとエリックが指揮するチームが守っている。
 この日、「サウスセンター」前に集結したOP社の部隊は一万を少し超える程度であった。
 「サウスセンター」前の通りだけでは大部隊を効果的に展開できないためだ。
 残りの一万強は、五〇名単位のチームに分け、市内各所をパトロールしている。
 この二段構えでウォーリーの殺害もしくは拘束を目論んでいる。
 攻撃に当たってハドリはウォーリーの殺害もしくは拘束を最優先事項に挙げた。
 殺害する場合は死体をハドリに検分させることも条件となっている。
「逃げたぞ!」
「こっちだ!」
 OP社の部隊の中にはウォーリーの顔を知る者も多かったから、ウォーリーが建物の中ではなく、外で戦った後に逃亡したという情報が瞬く間に伝わった。
 ウォーリーがメディアなどで顔を出していたことも、情報の広まりの早さに影響していたのだ。

 一方、「サウスセンター」の前ではOP社の攻撃の手が止まっていた。
 だが、大人数での建物の包囲は続いている。
「OP社の動きが止まった……?」
 「サウスセンター」の正面玄関でエリックがつぶやいた。
「確かに動いていませんね。どういうことだ……?」
 エリックの隣に立っていたアカシが首をかしげた。
「何か企んでいるかもしれません。周辺に爆発物を仕掛けて建物ごと、というのがOP社の常套手段だから警戒した方が……」
 過去に「風力エネルギー研究所」でOP社に苦杯を嘗めさせられ、長きにわたる逃亡生活を余儀なくされたエリックの脳裏には過去の記憶がよみがえってきていた。同じ轍は踏むまい、とエリックはアカシに警告を発した。
「わかった、警戒させる」
 アカシが部下に命じて周辺を警戒させた。
 一方、エリックは建物を囲んでいるのが全て敵であることを確認してから、機械室へと走っていった。
 今度は海から引っ張ってきた海水を放水しようというのである。
 先ほどは味方もいたため敢えて防火用水の真水を放水したが、周りが全て敵なら遠慮は要らない。

「切り替え終わりましたか? はい、放水はじめ!」
 エリックは周辺を囲む敵に対して容赦なく海水のシャワーを浴びせたのであった。
 ここエクザロームでも海水は塩分を含んでいる。
 短期的な効果は薄いかもしれないが、敵の持つ金属性の武器を錆びさせることで少しでもこちらを有利に導こうとの試みである。
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