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第七章
315:ロビー、「タブーなきエンジニア集団」の門を叩く
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四月に入って一〇日ほど過ぎたある日のことである。
ここ二週間ばかりはサブマリン島西部のポータル・シティ周辺では、穏やかな日が続いている。
この日も例外ではなく、暖かで穏やかな晴天だった。
一人の長身の若者が携帯端末を片手にポータル・シティの東にある医療都市ジンの駅前通りを歩いている。
ECN社のアルバイトを辞めたため、今は無職の身となってしまったロビー・タカミである。
ロビーが目指す先は「タブーなきエンジニア集団」がジンに構える事務所である。
それは先日、ECN社の元社長秘書メイ・カワナを案内した場所だったから、ロビーも道はよく知っている。
ロビーが「タブーなきエンジニア集団」を訪れようとしているのは、セスのリハビリの目処が立ったからだった。
まだ言葉がたどたどしいが、何とか会話ができるようにはなった。
ならば、「タブーなきエンジニア集団」と早めに接触して、ウォーリー・トワと顔を合わせる機会を設けてもらうのがよいと判断したのだ。
セスにはまだこの話をしていない。「タブーなきエンジニア集団」と話がついたところで、内容を伝えるつもりだ。
一方でレイカ・メルツとサユリ・コナカの二人にはこの話をしておいた。
この二人なら、セスに余計なことを吹き込む心配がないと考えからだ。この二人についてはロビーも信頼している。
残りのモリタ、カネサキ、オオイダはロビーから見ても危なっかしいので敢えて話をしていない。
「ここだな。失礼するぜ」
ロビーが「タブーなきエンジニア集団」の事務所の扉を開ける。
中に入り近くにいる者をつかまえて、こうもちかけた。
「『タブーなきエンジニア集団』に協力したいのだが、幹部と話をしたい。トップとは言わないが、誰か幹部を連れてきてくれないか?」
声をかけられた方はロビーを怪訝そうな表情で見ながらも、近くから椅子を持ってきてそれに座らせた。そして、少し待ってくれと奥へ走っていった。
すぐに初老の男性が連れてこられた。ロビーの知らない顔だ。
男はニシと名乗り、椅子を持ってきてロビーの正面に座った。
ロビーにはニシが自分の父親よりも年上に見えた。
ロビーが知っている「タブーなきエンジニア集団」の幹部は皆若い。
目の前の男はどう見ても五〇より年下には見えないので、幹部ではなく現場のリーダークラスではないかとロビーは推察した。
相手にするにはちょっと地位が低そうだが、これをクリアしない限り幹部には会えないだろうとロビーは覚悟を決めた。
「幹部に用事があるということだが……とりあえず、どのような話だか聞かせてもらえないかな?」
ニシと名乗った男性は、ロビーを諭すように話しかけてきた。
「ああ、話すと長くなるし、個人の生死に関わることだからな……
トップと直接話ができる幹部と話をしたいのだが、ニシさんは、代表のウォーリー・トワ氏と俺たちの橋渡しができるのか?」
遠慮のないロビーの質問にニシはロビーに品定めするかのような視線を向けている。胡散臭いと思っているようだ。
「ずいぶん不躾な話だな……できないことはないが、内容を聞かない限りはこちらも橋渡しはできないぞ」
ロビーはニシの答えを条件付きOKと判断した。基本的に楽観的な性質なのだ。
これなら、と手の内を晒すことに決めた。
「なるほど……では、我々の身分証明をしましょう。俺は以前ECN社で仕事をしていた。二週間ばかり前にECNの社長秘書のカワナさんという女性がここへ来たはずだ。彼女に身分を証明してもらうから、カワナさんを出してもらえないだろうか?」
ロビーの言葉にニシは首をひねって考え込んだ。
(言っていることが嘘だとは考えにくいし、表裏のない人物に見えるが……)
ニシが考え込んでいるところに、一人の体格のよい男性が通りかかった。
「義父さん、何を考え込んでいるのですか?」
「ノリオ君か……
実はここにいる若者が、幹部に会いたいと言っている。我々をだます意思はなさそうだが……」
ロビーには「ノリオ君」と呼ばれた男性に見覚えがあった。
以前、ニュースでその姿を見た記憶がある。現れたのは「タブーなきエンジニア集団」の副代表、ノリオ・ミヤハラだろう。
ミヤハラが「とうさん」と呼ぶニシという人物は何者だろうか……?
姓が違うところからすると実の父親ではないのかもしれない。妻の父といったあたりか。
などとロビーが考えていると、
「君は何者なのだ?」
とミヤハラと思われる体格のよい男性が尋ねてきた。
ここ二週間ばかりはサブマリン島西部のポータル・シティ周辺では、穏やかな日が続いている。
この日も例外ではなく、暖かで穏やかな晴天だった。
一人の長身の若者が携帯端末を片手にポータル・シティの東にある医療都市ジンの駅前通りを歩いている。
ECN社のアルバイトを辞めたため、今は無職の身となってしまったロビー・タカミである。
ロビーが目指す先は「タブーなきエンジニア集団」がジンに構える事務所である。
それは先日、ECN社の元社長秘書メイ・カワナを案内した場所だったから、ロビーも道はよく知っている。
ロビーが「タブーなきエンジニア集団」を訪れようとしているのは、セスのリハビリの目処が立ったからだった。
まだ言葉がたどたどしいが、何とか会話ができるようにはなった。
ならば、「タブーなきエンジニア集団」と早めに接触して、ウォーリー・トワと顔を合わせる機会を設けてもらうのがよいと判断したのだ。
セスにはまだこの話をしていない。「タブーなきエンジニア集団」と話がついたところで、内容を伝えるつもりだ。
一方でレイカ・メルツとサユリ・コナカの二人にはこの話をしておいた。
この二人なら、セスに余計なことを吹き込む心配がないと考えからだ。この二人についてはロビーも信頼している。
残りのモリタ、カネサキ、オオイダはロビーから見ても危なっかしいので敢えて話をしていない。
「ここだな。失礼するぜ」
ロビーが「タブーなきエンジニア集団」の事務所の扉を開ける。
中に入り近くにいる者をつかまえて、こうもちかけた。
「『タブーなきエンジニア集団』に協力したいのだが、幹部と話をしたい。トップとは言わないが、誰か幹部を連れてきてくれないか?」
声をかけられた方はロビーを怪訝そうな表情で見ながらも、近くから椅子を持ってきてそれに座らせた。そして、少し待ってくれと奥へ走っていった。
すぐに初老の男性が連れてこられた。ロビーの知らない顔だ。
男はニシと名乗り、椅子を持ってきてロビーの正面に座った。
ロビーにはニシが自分の父親よりも年上に見えた。
ロビーが知っている「タブーなきエンジニア集団」の幹部は皆若い。
目の前の男はどう見ても五〇より年下には見えないので、幹部ではなく現場のリーダークラスではないかとロビーは推察した。
相手にするにはちょっと地位が低そうだが、これをクリアしない限り幹部には会えないだろうとロビーは覚悟を決めた。
「幹部に用事があるということだが……とりあえず、どのような話だか聞かせてもらえないかな?」
ニシと名乗った男性は、ロビーを諭すように話しかけてきた。
「ああ、話すと長くなるし、個人の生死に関わることだからな……
トップと直接話ができる幹部と話をしたいのだが、ニシさんは、代表のウォーリー・トワ氏と俺たちの橋渡しができるのか?」
遠慮のないロビーの質問にニシはロビーに品定めするかのような視線を向けている。胡散臭いと思っているようだ。
「ずいぶん不躾な話だな……できないことはないが、内容を聞かない限りはこちらも橋渡しはできないぞ」
ロビーはニシの答えを条件付きOKと判断した。基本的に楽観的な性質なのだ。
これなら、と手の内を晒すことに決めた。
「なるほど……では、我々の身分証明をしましょう。俺は以前ECN社で仕事をしていた。二週間ばかり前にECNの社長秘書のカワナさんという女性がここへ来たはずだ。彼女に身分を証明してもらうから、カワナさんを出してもらえないだろうか?」
ロビーの言葉にニシは首をひねって考え込んだ。
(言っていることが嘘だとは考えにくいし、表裏のない人物に見えるが……)
ニシが考え込んでいるところに、一人の体格のよい男性が通りかかった。
「義父さん、何を考え込んでいるのですか?」
「ノリオ君か……
実はここにいる若者が、幹部に会いたいと言っている。我々をだます意思はなさそうだが……」
ロビーには「ノリオ君」と呼ばれた男性に見覚えがあった。
以前、ニュースでその姿を見た記憶がある。現れたのは「タブーなきエンジニア集団」の副代表、ノリオ・ミヤハラだろう。
ミヤハラが「とうさん」と呼ぶニシという人物は何者だろうか……?
姓が違うところからすると実の父親ではないのかもしれない。妻の父といったあたりか。
などとロビーが考えていると、
「君は何者なのだ?」
とミヤハラと思われる体格のよい男性が尋ねてきた。
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