ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
321 / 436
第七章

313:トニーの策

しおりを挟む
 トニーらが調査を進めるにつれて、OP社の社風もだんだんと掴めてくるようになった。
 ある程度予測はしていたが、ハドリの命令がなければまったく動けない組織である。
 ハドリはかなりの秘密主義であるようで、重要な情報はすべてハドリに集まる仕組みになっている。
 また、従業員に対する監視も徹底している。
 トニーですら驚いたのは、従業員の座る座席が出勤するまで決定されないことであった。
 私語などで業務効率が落ちることを懸念しているらしい。
 これは参考になるかもしれない、とトニーは思った。

「リスク管理研究所」も従業員監視は比較的厳しい。
 特に金に関する面はシビアで、少しでも研究所に損害を与えようものならそれは、ペナルティとして給与に即座に跳ね返る。
 OP社もこの点は一緒のようで、トニーからすればハドリは油断ならない経営者だと感じられた。

 次に本業の発電事業について調査してみる。
 こちらはセキュリティ・センターやパトロール・チームなど治安改革業務に人材を引き抜かれたこともあり、組織としての活力の低下が目立つ。
 現在はその綻びを見せていないが、予想通り近い将来に破綻する可能性はある。
 破綻の可能性を回避するためには、早急に治安改革業務へ異動させた人材を引き戻す必要がありそうだ。発電関連の技術者を育成するにはそれなりの時間を要する。
 今から学校で発電関連の技術を学んだ学生を現場に送り込んでも、ものになるには三年程度はかかるだろう。
 また、ECN社が発電関連の技術者の募集を停止した関係などもあり、職業学校で発電関連の技術を学ぶ学生は、三、四年前と比較すると六割程度にまで減少している。
 現状のままでは新しい技術者の育成が進むよりも、発電事業の破綻の方が先だと思われる。
 この状況が改善する可能性があるとするならば、治安改革業務に人材が必要でなくなったケースだ。
 現在、OP社治安改革部隊の最大の敵は「タブーなきエンジニア集団」であろう。
 そして、昨日、ハドリらが「タブーなきエンジニア集団」のトップが滞在しているインデストへと出発した。
 早期に「タブーなきエンジニア集団」がOP社、すなわちハドリに屈すれば、これ以上OP社にとっての大きな敵はないと思われる。
 その時点で、治安改革業務の従事者を発電事業に戻せば、その人数にもよるだろうが、少なくとも発電事業の破綻を先送りすることができる。あとは学生などから新たな技術者を育成すれば、問題は解決できるであろう。

 OP社が「タブーなきエンジニア集団」との対決にどれだけ時間をかけるか?
 やはり問題はここにある。
 戦力比を考えれば、「タブーなきエンジニア集団」の勝機は殆どない。市民運動と訓練された戦いのプロとの戦闘だ。少なくとも短期的に「タブーなきエンジニア集団」が勝利する可能性はほとんどないといってよい。
 市民の支持がどちらにあるかはかなり判断が難しい。
 OP社の本拠地のポータル・シティではOP社を支持する声が圧倒的に大きい。しかし、ポータル・シティの近隣でもジンのように「タブーなきエンジニア集団」を支持する都市もある。
 ECN社は事実上OP社の傘下にあるが、その本拠地であるハモネスはOP社支持と「タブーなきエンジニア集団」支持の勢力が拮抗している状況だ。後者の方がやや有利だというのが「リスク管理研究所」の分析である。
 これから両者の衝突が起こるであろうインデストの状況は判断がつかない。
 こちらは、「タブーなきエンジニア集団」とOP社、という対決の構図のほかにOP社幹部とOP社労働者という対決の構図が描かれつつある。
「タブーなきエンジニア集団」とOP社の労働者、すなわちOP社グループ労働者組合とが結びついているが、この結びつきの程度が測りにくい。
 結びつきの程度が強固であれば、ハドリもやりにくいはずだ。自分の身内からの裏切りである。疑心暗鬼になり、身内からの犯人探しに徹するようなことになれば、ウォーリー・トワの思う壺だろう。

 ここでトニーはハドリとウォーリーの性格を考えてみる。
 ハドリは一度敵対した者に対しては執拗に攻撃してくるように思われる。トニーや「リスク管理研究所」もハドリに敵対する態度を見せれば、同じ結果を招くだろう。
 トニーにはハドリに屈服するつもりがないし、ハドリによって葬り去られるなど論外である。しかし、「リスク管理研究所」がOP社に抵抗したところで勝ち目がないことは、トニーも十分に理解している。

 一方、ウォーリーは敵対した者に対して怒りはするだろう。
 しかし、基本的に陽性で根には持たない単純な人間であるように思われる。
 一度は怒りを買うかもしれないが、こちらが過ちを認める姿勢を見せれば、その受け入れを拒否する可能性は低い。度量のある人間だと思われたい卑怯な人間である、とトニーは考える。
 そうであるならば、せいぜいその性質を徹底して利用するに限る。
「タブーなきエンジニア集団」とOP社の抗争の長期化を最大の目標とし、当面はOP社に味方する。
「タブーなきエンジニア集団」に関する情報を小出しにすることで、それを実現することが可能だと考えられる。
 OP社、特にハドリから疑いの目を持たれないよう、凡庸を装うことも必要かもしれない。切れる人間だと思われれば、ハドリは警戒を緩めないだろうから。
 調査に関しては、ハドリに従う姿勢を示して、定期報告を行った方がよいであろう。
 他人を警戒する性質においては、トニーもハドリと良く似ている。
 だからこそ、トニーもハドリの意思がある程度読めるのだ。
 警戒を強めて強めすぎることはない。
(せいぜい、両方が無益な戦いを繰り広げて、共倒れになるのだな……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

処理中です...