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第七章

296:ウォーリーが慕われる理由

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 ユニヴァースが出ていったのを確認すると、ウォーリーが急にくだけた口調でミヤハラに通信越しに話しかけてきた。
「まったく、相変わらずマイペースな親父さんだな。それにしてもアイネス先生といい、ユニヴァースの親父さんといい、ここのところ俺への用事が多いな」
 アイネスはともかくユニヴァースは直接関係ないだろう、とミヤハラは思ったが、敢えてそれを口に出すことはしない。
「ユニヴァースさんがOP社の味方をしている、という懸念が我々のところにもあるのですが」
 ミヤハラの言葉にウォーリーは手を振って答える。
「それはないだろう。いくらハドリとはいえ、あの親父さんを使いこなせるとは思えないからな。性格が極端すぎる」
 完全に自分のことを棚に上げているな、とミヤハラは思う。それがウォーリーの魅力でもあるのだが、振り回される方にはそれなりの苦労があるのだ。勿論口に出して本人に指摘することはしないが。

 ウォーリー同様、ミヤハラにもOP社がユニヴァースを使いこなせるとは思えない。
 後ろから銃や刃物を突き付けて脅迫したところで、自身を曲げるような人物ではないような気がするのだ。
 仮にそのような形で脅迫されたとしても、的外れな答えをして周囲を呆れさせかねない。
(まあ、あり得ない話だな……)
 ミヤハラはユニヴァースがOP社の味方をしているという懸念をあっさりと捨て去ったのだった。

 画面からはウォーリーの言葉が聞こえている。
「ミヤハラはあの親父さんが無事にここに来ていることを警戒しているのだろうが、その心配はなさそうだ。さっき、エリックから報告があったのだが、あの親父さんを取り込もうとして逃げられた、という会話がOP社であったらしいからな」
 ウォーリーがさらっと重要なことを言ってのけた。
 調査が済んでいるのなら問題ないだろう、とミヤハラもウォーリーの見解を支持した。
 エリックから報告があったということは、彼がOP社のネットワークに侵入して情報を得たのだろう。それならば情報の信頼性は高いからだ。

 ウォーリーは引き続いてメディット、すなわちアイネスからの連絡についてミヤハラに質問した。
 昨日アイネスからの連絡を受けて、ミヤハラがメディットに出向いた。
 遠く離れたインデストに滞在しているウォーリーがメディットに出向くのは不可能であったし、メディットとの間にはOP社に感知されない秘密の通信経路もないからだ。
 ウォーリーにはアイネスから連絡があったことだけを伝えていたから、ウォーリーはその内容を知りたがった。
 アイネスは精密検査のためにウォーリーの来院を求めていた。
 ウォーリーの症状について、治療のためいくつか検査したいことがあるようだ。
 ミヤハラはアイネスの言葉をそのまま伝えた。
「ふーん、そういうことか。まあ、今回のゴタゴタが治まったら行くと伝えておいてくれ。どうもOP社の動きが不穏なので、今は動くことができん」
 ウォーリーがそう答えると、ミヤハラはそれ以上話を続けることをせずに、通信を切った。

 ミヤハラもユニヴァースほどではないが、夜が早い。
 ユニヴァースから入手した情報の整理、ウォーリーからもたらされたOP社の動向などの調査は他のメンバーに任せて、ミヤハラは事務所を後にした。
 ジンからOP社治安改革センターを追放してから、ミヤハラは妻の実家の隣に家を借りて、家族と暮らしている。「タブーなきエンジニア集団」の事務所から徒歩で一〇分ほどの場所である。
 ミヤハラが住む場所を探していることを知り、ウォーリーが半ば強引に家を借りてしまったのである。
「子供や奥さんのためには、父親が家に居た方がいいだろう」
 と主張して、ミヤハラが知らないところで勝手に手を回したのだ。
 ミヤハラもジンに戻った時点で家族を呼び寄せようと思っていたので、ウォーリーの提案に乗ることにした。単に自分で別の物件を探すのが面倒だったから、という理由もある。
 一見無神経に見えて、ウォーリーは意外とこのような部分には気を遣っている。
 ウォーリーは家族のことを問われると、「自分には父親の代わりに爺さんがいただけだからな。婆さんは印象がない」とだけ答える。
 自身に家族に関する記憶があまりないからなのか、部下の家族のイベントはよく覚えていて、そういう日には仕事よりもそちらを優先するように手を回している。
 そうした面もウォーリーが部下やその家族に支持される理由なのかもしれない。
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