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第六章

240:セス、回復す

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 サブマリン島北西部に位置する惑星エクザロームにおける人類発祥の地、「はじまりの丘」の麓に一軒の小さな建物がある。
 建物の主の名をフェイ・イヴ・ユニヴァースという。人里離れた場所にぽつんと立つこの建物は彼の自宅だ。
 かつて彼は有力者のもとで役人のようなことをしていたが、彼のことを知る者は少ない。
 少なくとも、現在彼の館に居候している三人の若者は彼の経歴についてほとんど情報を持っていなかった。

 背の高い若者がベッドに横たわっている若者の身体を起こした。
 起こされた若者は恐る恐るベッドから床に降りた。
 部屋にはもう一人背の高い若者がいるが、この若者は他の二人と比較して横幅が広い。

「もう大丈夫だろう、ってさ」
 横幅が狭い方の背の高い若者が起こされた若者を見おろすようにしながら言った。
 二人には頭ひとつ分くらいの身長差がある。

「ロビー、モリタ、気遣わせちゃってごめん。とんだ足手まといになっちゃったね」
 ベッドから降り立った若者が頭を垂れた。
「気にするな。困ったときはお互い様だ。な、モリタ」
「う、うん……」
 ベッドから降り立った若者の名はセス・クルスという。
 兄を探してユニヴァースを尋ねた二〇歳の青年だ。

 残りの二人のうち、背の高い方がロビー・タカミ、横幅の広い方がタカシ・モリタである。この二人、セスと比較するとかなり背が高い。
 セスの背は一六七センチであるが、これはサブマリン島の成人男子の平均身長よりやや低い。
 その一方で、モリタが一八六センチ、ロビーに至っては一九一センチである。二人ともこの島ではかなり目立つ長身なのである。

 彼らはセスの兄に関する情報を求めて、この館にやってきた。
 表向きの理由は、ECN社社長のオイゲン・イナの依頼により、社内に眠っていた数台の情報端末に登録されているデータの暗号を解除してもらうことにあった。
 この館の主はそのキーを知っていると思われたからだ。
 しかし、結局、キーは見つからず、ユニヴァースが独自に暗号を解読している状況である。
 作業は三ヶ月に及んでいるが、ユニヴァースが一切進捗を説明しないので、セスたちには状況が把握できない。

 情報端末にはセスの両親に繋がる情報が入っている可能性があった。
 端末を提供したオイゲンは言及を避けた様子だったが、何かの意図を持ってこれらの端末の情報解析をセスたちに依頼したようにさえ見える。
 ただ、セス達、正確にはセスには時間がない。

 セスは先天的に循環器系の障害を抱えている。
 障害の原因が不明であり、年々その症状は悪くなる一方だった。
 それだけではなく、治療法も見いだせていない。最近では治療を放棄して成り行きに任せるだけであった。
 そのため、彼の生命はあと三年もつかどうか、という状況にあった。
 このことは本人も知らない。彼を担当する医師以外に知っているのはロビーとユニヴァース、そしてECN社社長のオイゲンのみである。
 セスの存命中に兄につながる手掛かりを得るためにも、端末の情報の解析が急がれるところだ。

 セスは自らの足で車椅子まで歩き、腰をかけた。
 足元はおぼつかない様子であったが、間違いなく他者の協力を得ることなく車椅子に乗ったのだ。
 わずか数歩のことであったが、彼一人で歩き、車椅子に乗ったのは久しぶりのことであった。

「ロビー、乗れたよ。これなら大丈夫だよ」
 セスが顔を紅潮させながらまくし立てた。体調の方もよさそうだ。
 だが、体調の良さがいつまで続くかは予断を許さない。

「あっ!」
 モリタがいきなり声をあげた。
「何だよ、急に……いいタイミングだ」
 ロビーがそれを咎めようとしたところ、ユニヴァースの部屋の扉がカチャカチャと音をたてたのに気付いた。

 少ししてユニヴァースが部屋から出てきた。そして無言で端末をロビーの前に置き、部屋へと戻っていった。
 ロビーの前に置かれた端末は一台だけである。

「おい! ちょっと待て! これだけかよ!」
 ロビーがユニヴァースの入った部屋の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。
 その間にセスとモリタが端末の電源を入れた。

「……読めるよ、ロビー」
 セスの声は興奮の色を含んでいる。彼にしては珍しい。

「ん? 何だって!」
 ロビーがモリタを押しのけて端末の画面を覗き見る。
 セスはともかく、ロビーとモリタが並んで見ることができるほど、情報端末の画面は大きくないのだ。
 確かに暗号化されて読めなかった情報が読めるようになっている。
 一台だけでも内容が読めれば可能性はあるかもしれない。

 ロビーはセスに早く内容を読み進めるように言った。
 セスがロビーとモリタの顔色を窺っていたからだ。
 セスは少し考えてから、端末の画面をプロジェクターで映し出そうと提案した。
 モリタがプロジェクターを持っていたことを思い出したからだ。

 モリタがプロジェクターをセットして、部屋の壁に端末の画面を映し出した。
 壁には虚空に浮かぶ白いドーナツ状の物体が映し出された……
 文字と音声で説明が入る。
 白いドーナツ状の物体は「ルナ・ヘヴンス」と名づけられた宇宙ステーションであった。
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