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第四章

166:新生「タブーなきエンジニア集団」

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 三日後、ウォーリーの安静指示が解除された。
 本気になると彼の行動は徹底したものになる。医師の指示どおり、きっちり休んで復帰したのだ。無軌道な部分が目立つとはいえ、やるときはやる男なのだ。

「……エリック、状況はどうだ?」
 ウォーリーのアバウトな質問にエリックは何を回答してよいか一瞬迷ったが、思ったところを答える。

「……戦闘チームの志願者は一六〇名、活動メンバーの希望者はそれ以外に一ニ〇名くらいです。連絡がついたメンバーの一割が我々に同行する、ってところですね」
 ウォーリーはその答えにまあいいだろうと満足げにうなずいた。
 そして、エリックに撮影の準備をしてくれと言い出す。
「タブーなきエンジニア集団」の今後の活動方針について、ウォーリー自身が演説し、その映像を仲間に流そうというのだ。

「……わかりました。やっておきます」
 半ば呆れた様子のエリックだったが、ウォーリーの指示に忠実に従う。
 すぐに撮影の準備ができ、ウォーリーはカメラの前で演説し始めた。

「メンバーの皆には不便をかけて申し訳ない。俺は今日から完全復活するからよろしく!」
 ウォーリーは最初に現在の仲間が散り散りになった状況を招いたことを詫びた。
 その後、昨年末の風力エネルギー研究所での作業中、OP社の者にいわれなき襲撃を受けたことを説明した。
 また、本拠地を襲撃されたことの説明においては、被害を最小限にとどめたミヤハラの功績を褒め称えた。
 更にジンからフルヤへの脱出行の話では、エリックの功績を褒め称えたのだ。
 単純明快な話をするウォーリーにしては、事前の説明が長い。
 一ヶ月の療養生活中、かなり大人しくしていたのでフラストレーションがたまっていたようだ。
 そして、話は核心部分に入る。

 球技場での惨殺事件について、ハドリの残虐な仕打ちを非難し、彼を放置することの危険性を訴えた。

「……俺たちはエンジニアの集団だ。しかし、エクザロームを奪おうとする独裁者とは断固戦う! エクザロームはハドリのものではない! 俺たち、住民全員のものだ!
 独裁者を打倒し、エクザロームを自分自身の手に取り戻そう! そのために俺たちは戦う! エクザロームに住む一人ひとりが考えてくれ! 独裁者に恐怖で支配される未来を選ぶか、自分たちで未来を切り開くかを!」
 ウォーリーが言葉を切ったところで、いったん撮影は中断された。
 彼はこの後カラオケで歌っている映像を入れようと主張したのだが、送信するデータ量が多くなりすぎると言ってエリックがこれを止めた。

「何だよ、まだ話し足りないのだがな……」
 ウォーリーは明らかに不満そうだ。エリックがこれをなだめて、どうにかその場を収める。
 サクライが映像を編集し、「タブーなきエンジニア集団」のメンバーにデータを送信した。

「これからは、新生『タブーなきエンジニア集団』だな」
 ウォーリーは自分の言葉に何度かうなずくと、仲間を誘って快気祝いと称して酒を飲み始めた。
 これに巻き込まれたミヤハラ、サクライ、エリックの三名は、延々とウォーリーの愚痴に付き合わされることとなった。やはりかなりフラストレーションがたまっているらしい。

「……しかし、あのハドリという野郎! 女や子供ですら平気で手にかけるとはな。自分に逆らったからと殺していったら、そのうち野郎以外に誰もいなくなるぜ。その前に野郎を潰す!」
「……それにしても、うちのボンクラ社長にも困ったものだ。少しでもハドリの野郎に反抗してくれれば、俺たちの仕事もやりやすいっていうのに、そういうところ鈍感だな。お坊ちゃんだから仕方ないのかもしれんが……」
 何故かウォーリーはECN社を今でも「うち」と呼ぶ。
 ウォーリーに限らず、「タブーなきエンジニア集団」の幹部はみなそう呼ぶのだ。
 何だかんだいっても、ECN社自体が嫌いな訳ではないのが明らかである。ただ単に、今のECN社の状況、特に社長であるオイゲンの煮え切らない態度が腹立たしいだけなのだ。

「そう、うちのボンクラ社長がハドリに対抗しよう、っていうのなら俺たちも喜んで駆けつける、ってのに……
 あの扱いを受けて、どうしてハドリに怒れないのか、あの社長は……」
 ウォーリーの愚痴は果てしない。
 ミヤハラとサクライは慣れっこで、適当に相手をしている。
 若いエリックはこのようなウォーリーの姿を見ることが少なかったので、驚きつつも丁寧に相手をしている。
 少しして見かねたサクライが「そろそろ放っておいたほうがいいぞ」とエリックに忠告した。
 エリックが忠告通りウォーリーのそばを離れると、今度はウォーリーが歌うと言って自分でカラオケをセットした。

「さっき、歌いそこなったからな」
 どうやら、撮影のときに歌うのを止められたことを根に持っていたらしい。
 新生「タブーなきエンジニア集団」の結成初日の夜は、こうして更けていった。
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