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第四章
160:「裏切者」とは?
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OP社の者たちが、「タブーなきエンジニア集団」の残党と思われる者たちを拘束した現場は大混乱に陥っていた。
火の手が上がったのが主な原因だったが、それだけではなかった。
戒めを解かれた者たちが彼らを拘束した者たちへ何時の間にか手にしていた武器を向けたのだ。その凶刃に数名のOP社の者がその場に倒れた。
拘束されたのは「タブーなきエンジニア集団」の者ではなかった。
二年前に新入社員歓迎パーティーの会場の爆破をハドリが指示したことで、OP社を見限った者の集まりだった。
中には、爆破されたビルから奇跡的に生還した者もいる。
OP社の職員も手にした武器で応戦するが、虚を突かれた感があり、後手に回っている。
また、派遣された治安改革センターの職員の多くは相手方に通じていた。
このため、OP社側として戦っている者は少なく、戦力比では相手有利である。
それでもOP社側は健闘している。ECN社周辺から急行したパトロール・チームの部隊の一部が合流できたのはOP社にとって幸いであった。
合流した部隊は精鋭であり「エクザローム防衛隊」の殲滅にも参加した者が多い。
戦力的に不利であっても、何とか崩壊せずその場に踏みとどまっている。
現場となった倉庫の外では「線路の近くで火事だ!」「列車を止めろ!」といった叫び声が聞こえる。
倉庫の中では通信機を通じて、ハドリの「裏切った奴を拘束しろ!」といった声が聞こえる。
しかし、通信機はOP社の側の者たちからは離れた位置にあり、拾いに行くことができない。
「何故、裏切者に与する?」
OP社の職員に刃を向けた者の一人が尋ねた。
「……裏切るとはどういうことだ?」
OP社の職員の一人が相手に問い返した。
「悪人の肩を担ぐ訳にはいかない! 悪人が独裁者になるのを見逃す訳にはいかない! それが理解できないのか?」
「無法者を排除し、治安を回復した者が悪人か?! そちらこそ正しい者に対する裏切者ではないか!」
返ってきた答えにOP社の職員が激高した。
「……二年前、何も知らない自分のところの社員を大量殺戮し、その責を他人に転嫁した事実は消えない」
この返答の直後、倉庫の中で爆発音が響いた。
OP社側の者に向けて小型の爆発物が投げ込まれたのだ。
爆発の後、OP社側の人間で立っている者はいなかった。
爆風で手足を飛ばされた者、立つ力を失い床に横たわった者、絶命した者の衣服には火がついているものもある。
OP社側は通信機から流れるハドリの声から、こちらに味方が向かっていることを知っていた。そのため時間を稼ごうとしたのだが、それも一部を除いて間に合わなかったようだ。
相手は二手に分かれ、一方は状況を見守り、もう一方は倉庫からの脱出を図っている。
OP社側の一人が通信機の方へ這いずっていく。既に立ち上がる力は失われていたし、更に左足の膝から下を飛ばされていた。
「敵……社の裏切り者……は西側の扉から脱出しています……」
彼は遠のく意識の中、それだけを伝えた。その後気を失ったのか、力なく床に横たわった。
十数メートル先ではOP社を見限った元治安改革センターの職員二人が話をしている。
「……思ったより敵の情報収集が早いぞ」
「あいつのところは密告者だらけだからな。社員すら使い捨てのコマで信用していない」
「とにかくこの場所は危ない。別のところへ移動するぞ!」
しかし、彼らは倉庫から脱出することはできなかった。
背後から殴られたような衝撃を感じた後、二人は意識を失った。
「……裏切り者を拘束しろ! 今は殺すんじゃないぞ」
ハドリは倉庫の中へと進みながら命令を出している。
自身も銃を構え自社の従業員を襲った裏切り者を撃っている。
弾は麻酔弾の類であり、撃たれても命に関わる可能性は低い。敵を生かしたまま拘束するためだ。
ハドリは五〇人ほどを率いて倉庫へ急襲した。
一つ手前の駅から駆けつけたため予想より多くの時間を要したが、まだ敵の残党が残っている。
「道を空けてくださいっ! 怪我をされている方はいませんかっ!」
不意にハドリの背後で声が聞こえてきた。
ハドリが無言で振り向くとECN社の作業着を着た者が二〇名ほど担架を持って駆けつけている。
「武装していない者は中に入るな! それから怪我人を外へ出せ!」
ハドリが大声で命じた。
命令に従って何人かの怪我人が外に運び出される。
この間も戦闘は続いているが、勝敗は既に決していた。不意打ちであったし、ハドリの側の方が人数が多い。
戦闘は十分足らずで決着し、ハドリは部下に命じて眠らせた相手を拘束させた。
一方、倉庫の外ではECN社の従業員が消火活動を手伝ったり、怪我人を担架で病院へと搬送している。その中には社長のオイゲンの姿もある。
ECN社では災害や火災発生時に怪我人の輸送や消火活動などを手伝うという活動を実施しており、今回もその活動の一環として駆けつけてきたのだ。
「イナ君をここへ連れて来い」
ハドリは部下に命じてオイゲンを呼ぶ。
ほどなくしてオイゲンがハドリの前に連れてこられた。
「……ハドリ社長? 何故ここに?」
ハドリはその問いに答えなかったが、周りの会話からOP社の従業員が犠牲になったらしいことをオイゲンは知った。
「イナ君、貴社で現場の後片付けをしてくれ。それと貴社の会議室を使うぞ」
ハドリはオイゲンにそう命じると、部下を引き連れ、ECN社へと向かった。
拘束した者たちは部下に引っ張ってこさせている。彼らをECN社で取り調べるのだ。
火の手が上がったのが主な原因だったが、それだけではなかった。
戒めを解かれた者たちが彼らを拘束した者たちへ何時の間にか手にしていた武器を向けたのだ。その凶刃に数名のOP社の者がその場に倒れた。
拘束されたのは「タブーなきエンジニア集団」の者ではなかった。
二年前に新入社員歓迎パーティーの会場の爆破をハドリが指示したことで、OP社を見限った者の集まりだった。
中には、爆破されたビルから奇跡的に生還した者もいる。
OP社の職員も手にした武器で応戦するが、虚を突かれた感があり、後手に回っている。
また、派遣された治安改革センターの職員の多くは相手方に通じていた。
このため、OP社側として戦っている者は少なく、戦力比では相手有利である。
それでもOP社側は健闘している。ECN社周辺から急行したパトロール・チームの部隊の一部が合流できたのはOP社にとって幸いであった。
合流した部隊は精鋭であり「エクザローム防衛隊」の殲滅にも参加した者が多い。
戦力的に不利であっても、何とか崩壊せずその場に踏みとどまっている。
現場となった倉庫の外では「線路の近くで火事だ!」「列車を止めろ!」といった叫び声が聞こえる。
倉庫の中では通信機を通じて、ハドリの「裏切った奴を拘束しろ!」といった声が聞こえる。
しかし、通信機はOP社の側の者たちからは離れた位置にあり、拾いに行くことができない。
「何故、裏切者に与する?」
OP社の職員に刃を向けた者の一人が尋ねた。
「……裏切るとはどういうことだ?」
OP社の職員の一人が相手に問い返した。
「悪人の肩を担ぐ訳にはいかない! 悪人が独裁者になるのを見逃す訳にはいかない! それが理解できないのか?」
「無法者を排除し、治安を回復した者が悪人か?! そちらこそ正しい者に対する裏切者ではないか!」
返ってきた答えにOP社の職員が激高した。
「……二年前、何も知らない自分のところの社員を大量殺戮し、その責を他人に転嫁した事実は消えない」
この返答の直後、倉庫の中で爆発音が響いた。
OP社側の者に向けて小型の爆発物が投げ込まれたのだ。
爆発の後、OP社側の人間で立っている者はいなかった。
爆風で手足を飛ばされた者、立つ力を失い床に横たわった者、絶命した者の衣服には火がついているものもある。
OP社側は通信機から流れるハドリの声から、こちらに味方が向かっていることを知っていた。そのため時間を稼ごうとしたのだが、それも一部を除いて間に合わなかったようだ。
相手は二手に分かれ、一方は状況を見守り、もう一方は倉庫からの脱出を図っている。
OP社側の一人が通信機の方へ這いずっていく。既に立ち上がる力は失われていたし、更に左足の膝から下を飛ばされていた。
「敵……社の裏切り者……は西側の扉から脱出しています……」
彼は遠のく意識の中、それだけを伝えた。その後気を失ったのか、力なく床に横たわった。
十数メートル先ではOP社を見限った元治安改革センターの職員二人が話をしている。
「……思ったより敵の情報収集が早いぞ」
「あいつのところは密告者だらけだからな。社員すら使い捨てのコマで信用していない」
「とにかくこの場所は危ない。別のところへ移動するぞ!」
しかし、彼らは倉庫から脱出することはできなかった。
背後から殴られたような衝撃を感じた後、二人は意識を失った。
「……裏切り者を拘束しろ! 今は殺すんじゃないぞ」
ハドリは倉庫の中へと進みながら命令を出している。
自身も銃を構え自社の従業員を襲った裏切り者を撃っている。
弾は麻酔弾の類であり、撃たれても命に関わる可能性は低い。敵を生かしたまま拘束するためだ。
ハドリは五〇人ほどを率いて倉庫へ急襲した。
一つ手前の駅から駆けつけたため予想より多くの時間を要したが、まだ敵の残党が残っている。
「道を空けてくださいっ! 怪我をされている方はいませんかっ!」
不意にハドリの背後で声が聞こえてきた。
ハドリが無言で振り向くとECN社の作業着を着た者が二〇名ほど担架を持って駆けつけている。
「武装していない者は中に入るな! それから怪我人を外へ出せ!」
ハドリが大声で命じた。
命令に従って何人かの怪我人が外に運び出される。
この間も戦闘は続いているが、勝敗は既に決していた。不意打ちであったし、ハドリの側の方が人数が多い。
戦闘は十分足らずで決着し、ハドリは部下に命じて眠らせた相手を拘束させた。
一方、倉庫の外ではECN社の従業員が消火活動を手伝ったり、怪我人を担架で病院へと搬送している。その中には社長のオイゲンの姿もある。
ECN社では災害や火災発生時に怪我人の輸送や消火活動などを手伝うという活動を実施しており、今回もその活動の一環として駆けつけてきたのだ。
「イナ君をここへ連れて来い」
ハドリは部下に命じてオイゲンを呼ぶ。
ほどなくしてオイゲンがハドリの前に連れてこられた。
「……ハドリ社長? 何故ここに?」
ハドリはその問いに答えなかったが、周りの会話からOP社の従業員が犠牲になったらしいことをオイゲンは知った。
「イナ君、貴社で現場の後片付けをしてくれ。それと貴社の会議室を使うぞ」
ハドリはオイゲンにそう命じると、部下を引き連れ、ECN社へと向かった。
拘束した者たちは部下に引っ張ってこさせている。彼らをECN社で取り調べるのだ。
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