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第四章

153:脅迫と書いて「こうしょう」と読む?

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「それはいいとして、結局どうなるのですか?」
 オオイダが口火を切って病室に戻ってきたオイゲンに質問した。

「皆さんとのご相談になるのですが……」
 オイゲンはそう前置きしてから、次のような提案をした。

・ECN社のデータベースでオイゲンが個人的に該当人物、すなわちセスの兄であろう者を調査する。結果については会社として問題が無ければ情報提供する
・医療費に関しては考慮したい事項があるので後日回答したい

 ロビーが提案の内容に難色を示す。
「……できればECN社のデータベースに直接接続したいんだがなぁ。何とかならないか? 社長権限でどうにかなりそうなものだと思うのだがなぁ」
「……すみません。お客様の情報などもあるので、誰でも接続させるわけにはいかないのです。それと、これは我が社の都合で申し訳ないのですが、データベースに接続する人はOP社の審査を受ける必要があるのです」
 オイゲンは申し訳なさそうにロビーに答えた。

「そこを何とか。いくら障害のある奴への支援とはいえ、あまりお宅の会社の手を煩わせたくないのだよなぁ……」
 ロビーも引き下がらない。
「データベースそのものが弊社だけの持ち物でないので許可を得るにも時間を要します。医療費の方は融通が利きそうなので、そちらを手厚くできればと考えていますが……」
「それはありがたいのだが、ベッドにいるクルスは身寄りがないのですよ。家族の同意が必要になるようなときに支障がでると困るのですよね」
「……」
 ロビーの言葉をオイゲンはうなずきながら聞いている。
 少なくとも相手の言葉を無視して聞かなかったことにするような不誠実な人間ではないとロビーは考えていた。

 その一方で、データベースの接続に関して言質を与えないようにしているのは、本当に権限がないのだろうなとロビーは考えるようになった。
 しかし、それを認めてしまっては今後のセスの兄を探すための活動に支障が出る。

「……あなた、社長でしょ?! それくらい何とかならないの!」
「申し訳ございません」
 見かねたカネサキが声を荒げたが、オイゲンにもどうにもできない。
 それを許せば会社としての信頼が揺らぐのである。
 十万人の組織の責任者として、ルールを曲げることはできない。
 ルールを曲げてしまったらそれこそECN社の従業員だけではなく、ECN社を信じて取引をしている顧客に対しての裏切りになるからだ。

「……無理を言ってすみません、社長。何か情報をお持ちだったら教えていただきたいのですが」
 ベッドの上からセスが申し訳なさそうに頼んだ。

「そうですね……あ、そうか!」
 オイゲンが少し考えてから目を見開いた。
 そしてベッドにある車椅子に目を向ける。

「……そうでしたか、思い出しました! そうだな……これで気づかなきゃいけなかったな」
 急にオイゲンの声が大きくなったので、セスとロビーが顔を見合わせた。

 実はオイゲンとセスは初対面ではなかったのだ。ロビーとモリタに関しては初対面であったが、セスだけはそうではなかった。
 二人はECN社の採用試験の面接で二度顔を合わせていた。
 オイゲンは身体に障害を持つ受験生の面接に必ず立ち会っていたから、セスと顔を合わせる機会があったのである。

 このことに気付いてしまったのでオイゲンはセスに引け目を感じてしまう。
 セスらを不採用にしたのは彼自身ではないのだが、彼は会社の最高責任者であったから不採用にしたことの責任は負う立場である。
 しかし、今すぐオイゲンにできることはそれほど多くはない。

「……すみません、少しお時間をいただけますか? 再来週にもここに来ますので、そのときまでには何らかの回答をお持ちします」
 オイゲンもすぐには回答できないので、これが彼にとっての最大限の譲歩である。
 大組織のトップであるが、彼は交渉事を得意としていない。
 最初からほとんど手の内をさらけ出してしまっており、譲歩できる部分をほとんど持っていなかったのは周囲の誰の目から見ても明白であった。
 さすがに今これ以上の話を続けても無駄であると、ロビーやカネサキなども悟っていた。

 セスがチラリとロビーの方を見ると、ロビーが他を制して口を開く。
「……わかった。その代わり、再来週必ず何かの回答を持ってきてください。ECN社社長としての誠意を見せていただくつもりですので、覚悟してください」
 ロビーの声は低く表情も非常に厳しかったから、一歩間違えば脅迫である。

 オイゲンは多少気圧されながら「わかりました」と答えて病室を後にした。
 (もしかしたら、何か新しい手がかりがつかめるかも知れない……)
 セスはまわりの人々の様子をチラチラ見ながら、以前レイカが持ってきた資料に目を通し始めた。

「これで社長さんが次にお土産を持ってきてくれるといいのだけど……あっ!」
 オオイダが不意に大きな声をあげた。皆の視線がオオイダに集まる。

「おやつの時間、遅くなっちゃった! 今から再開!」
 オオイダがそう言って、テーブルの上にある菓子の包みを手に取った。
 病室内がどっと笑いに包まれた。
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