上 下
149 / 436
第四章

144:久々の屋根の下

しおりを挟む
 ユニヴァースが玄関の方に向かった理由はすぐに判明した。
 彼は雨戸を閉めて、部屋の戸締りを確認していたのだった。
 確認を終えるとすぐに台所へ行き、自分の食事を持ってきた。
 野菜の漬物と白飯である。四人の分はない。
 その代わりに四人に向けてこう告げた。
「食べるものは台所にある。持ってきて食べておきなさい」
 ウォーリーたちは言われた通りにした。

 部屋の中央には大きなちゃぶ台のようなものがあり、その中央は、炭火で火を使うことのできるコンロになっていた。
 コンロの上には網が置かれており、網の上では五匹の魚が焼かれている。どうやら全員の分を用意したらしい。
 ユニヴァースはウォーリーたちに特に魚を勧めることはしなかった。
 しかし、サクライが魚に手を伸ばしたときにユニヴァースが何も言わなかったので、他の三人も自分達の分だと理解したのである。

 食事の後、ユニヴァースは一度も口を開かず、コンピュータの画面とにらめっこを続けては手帳に何か記録していた。
 そして、二一時半になると「私は寝ます。寝具はこの部屋の隅にあるものを使いなさい」と言って引っ込んだ。

「……ずいぶん早いんだな」
 ウォーリーがそう言ったのだが、答えは無かった。
「老人だから夜が早いんですかねぇ、といっても老人ってほどの年でもないか」
 サクライが首をひねった。確かに彼の言う通り、ユニヴァースは老人というには程遠い年齢のように思われる。

「それにしても彼は何者なのだろうか……こんなところに一人で住んでいるとは……」
 ミヤハラが疑問を口にした。確かに人里離れたところに一人で住んでいるのは奇妙な話である。
 年の頃はウォーリーたちの両親の世代よりやや下に見える。五〇代なかばといったところか。

「しまった! 現在地と道を聞いてないぞ!」
 ウォーリーが大声をあげた。四人とも完全にユニヴァースのペースに乗せられており、肝心な情報が何一つ入っていないことに気付いたのだ。

「……まあ、慌てても仕方無い。あの親父さんの言葉では、あとニ、三日はここを出られそうもないですから、明日にでも聞けば住む話だ」
 ミヤハラは落ち着き払っている。何時の間にか自分の布団を敷きはじめている。

「えっ? TMも、もう寝ちゃうんですか?」
 サクライが驚いたように声をあげた。
「はい? まだ寝てはダメでしょうか?」
 サクライの後ろからエリックが声をあげた。彼は既に布団を敷き終わって、その上に座り込んでいる。

「二人とも早いな。まあ、いいだろう。寝たい奴は今のうち寝ておけば」
 ウォーリーの言葉にミヤハラとエリックが布団に潜り込んだ。
「やれやれ、夜早いのは年配の人だけじゃないんですね」
 サクライがウォーリーに向けて言った。
「エリックは緊張し通しだったからな。ミヤハラが夜早いのはいつものことだ。深夜業務だと奴は必ず椅子に座ったまま寝ていたからな」
 ウォーリーはさすがにトップだけあって、メンバーの行動をよく把握している。
 サクライはそんなものですかね、と言って自分の携帯端末を取り出した。
 どうも電波が通じるようで、ニュース映像などを見ることができる。

「……電波が通ってますね。都市に案外近い場所なのかもしれないですね」
 画面を指で示しながら、サクライが言った。
「ああ、心配するほどじゃないだろう」
 ウォーリーとサクライは携帯端末を使って、ニュースなどを検索している。
 どうやら、逃亡中に目立った事件は発生していないようだった。
 逃亡中のウォーリーを探し出した者に賞金を出すという広報映像が流れていたが、この映像が流れていること自体、OP社がウォーリーの足取りを掴めていない証拠である。

「フルヤにいる連中には心配をかけているな。早いところ到着して、奴らを安心させたいところだ」
 ふとウォーリーがつぶやいた。
 フルヤに向かったグループとは三ヶ月以上連絡が取れていない。
 ウォーリーはフルヤという集落のことをよく知らないが、途方もない田舎だと聞いていたから、十分な情報が得られていない。

「まあ、ハドリのグループもフルヤまでは追ってこれないだろうよ」
 そう言った後にウォーリーの心にやり場のない怒りが込み上げてくる。
 俺達は正当な企業活動をしたに過ぎないのに、あろうことかテロリストに仕立て上げられ、本拠地まで失った。
 仲間の大多数は散り散りになり、行方が知れない者もいる。

「何もかもあのハドリの野郎が!」
 ウォーリーは思わず声をあげてしまった。
 サクライが驚いてウォーリーの方を見やった。
「俺は天涯孤独の身だから、どうなろうと構わん。とにかくハドリの奴を潰すまでだ。奴がいるから、エクザロームが混乱する。
 考えてみろ。奴の会社では部下が上司に意見することすら許されないというじゃないか! それにてめえが法律だと勘違いしているような奴が権力を持つとロクなことになりはしねぇ!
 俺はそんな息が詰まるような世界はご免だね! 奴を潰して、思うようにできる世界を取り戻すまでさ!」
 ウォーリーは一気にまくし立ててから息をついた。かなり興奮しているようだ。
 サクライにもウォーリーの気持ちは理解できる。ただ、彼はウォーリーほど感情表現がストレートではない。

「奴がいるからこんな面倒なことになってますからね。それにしても、ウチの会社もウチの会社だ。どうせなら、マネージャーが乗っ取っちゃえばいいんですよ。人も資源も十分ありますからね」
 サクライはECN社を「ウチの会社」と言った。単に現状を失念していただけなのであるが、一応ECN社に対する愛着はあるようだ。
 サクライの言葉には、ウォーリーがすぐ反応した。ウォーリーの逆鱗に触れてしまったらしい。

「おい! それは聞き捨てならん!
 俺はあの会社の上層部、特に社長の能力は評価しないが、少なくとも会社自体は買っている! 俺達が所属していた会社だぞ! 何の権利をもって悪く言う?
 それに俺はあの会社をハドリのようなあくどい手段で乗っ取る気は無い!
 そうするくらいなら、腹を切った方がまだマシだ!
 いいか、今後二度と『乗っ取る!』という言葉を使うなよ!」

「……はあ、すみません」
 サクライは頭を掻きながら謝った。
「ああ、俺も言い過ぎた」
 ウォーリーも素直に引き下がる。どうも逃亡生活を強いられて気が立っているらしい。
「まあいい、今日のところは俺達も休むとしよう」
 ウォーリーの言葉にサクライも同意した。

 こうして四人は久しぶりに屋根の下で休むことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~

ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。 それは現地人(NPC)だった。 その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。 「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」 「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」 こんなヤバいやつの話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお
SF
姉と言うのは年上ときまったものですが、友子の場合はちょっと……かなり違います。

VRMMOで遊んでみた記録

緑窓六角祭
SF
私は普通の女子高生であんまりゲームをしないタイプだけど、遠くに行った友達といっしょに遊べるということで、VRRMMOを始めることになった。そんな不慣れな少女の記録。 ※カクヨム・アルファポリス重複投稿

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

処理中です...