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第三章

112:ウォーリーの「家族」

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「おう、戻ってきたぞ」
 ウォーリーが扉を開いて、とある一軒家の部屋に入ってきた。
 部屋の中には部下であるミヤハラ、サクライ、エリックの姿があった。

 ここはOP社治安改革センターの手から逃れてきたミヤハラ、サクライ、エリックが一時的に身を隠している場所だ。
 ごく普通の木造二階建ての一軒家であり、周囲の住宅と何ら差はない。

 ウォーリーはミヤハラの姿を見つけると真っ先に
「無事だったか。そうだ、子供の顔を見に行くか?」
 と声をかけた。

「そういう状況ではないのでは……?」
 ミヤハラより先にエリックが反応した。

「まあいいから、気にするな」
 とウォーリーがミヤハラを引っ張り出した。

「いいか、子供には顔を合わせられるうちに会っておいた方がいいぞ。詳しい話は後だが、子供の顔を見ておくことは大事だ」
 ウォーリーの案内でミヤハラが玄関に引っ張られていく。

 そして、建物を出て斜め向かいの家にノックや声掛けもなしで上がりこむ。事情を知らない者が見れば完全に不法侵入だ。
 こちらもごく普通の木造二階建ての住宅だ。このあたりは似たような外観の住宅が多い。

「ここだ」
 ウォーリーが玄関を入ったすぐ先にあるドアをノックした。
 中から六〇代くらいの白髪交じりの男が顔を出した。意志が強そうな目つきをしたこの人物こそミヤハラの義父である。
 ウォーリーはミヤハラを中に押し込むと、自分はドアの外で待った。

 ウォーリーには両親の顔についての記憶がほとんど無い。
 既に両親とも亡くなったらしいとは聞かされているが、詳細はウォーリーにも伝えられていない。

 彼は三歳の時に父方の祖父母の家に引き取られた。
 詳しい事情は聞かされていないのだが、両親が多忙でほとんど子供の面倒を見る時間が取れなかったのが理由らしい。
 祖父母から両親の仕事は役人だと聞かされていた。
 役人といってもエクザロームには自治体は存在しなかったから、有力者に雇われて彼らの下で何らかの業務に携わっている者、という程度の意味である。

 母と比較して父がかなり年長だったことは、ウォーリーの記憶にもある。
 そのあたりが両親と別れて暮らす原因となったらしいのだが、詳しい事情はウォーリーにはわからない。
 彼を育てた祖父母に確認しようとしても、二人とも既に故人である。
 確認したくてもできる状況ではないし、ウォーリーも両親のことにそれほど興味がなかった。あまり接触した経験がないからだ。

 ウォーリーのようにエクザロームには両親以外の者に育てられた子供が比較的多いから、ウォーリーのケースが珍しいわけではない。
 特にウォーリーのように今から三〇年くらい前に生まれた世代はその傾向が強い。

 この時期はエクザロームに人が居住し始めた直後の時期だ。
 当時は慣れない環境や未知の伝染病などで命を落とす者が多く、親の無い子供を大量に生み出した。

 結果的に、エクザロームでは子供の面倒を見る託児所が発達した。
 しかし、託児所の発達も親と同居しない子供を大量に生み出す結果となった。
 親が面倒を見なくても、企業などが出資する託児所が職業学校に上がる年齢まで子供の面倒を見て、学校卒業後は社員として登用するというシステムをECN社が打ち立てたのだ。
 このシステムが打ち立てられた当初はまだまだ貧しい者も多かったので子供の養育を拒否した親がECN社運営の託児所に子供を放置する、という事件も当たり前のように起きていたのである。
 最近では市民の生活水準もだいぶ上がっていたから、このような事件は激減しているものの、依然、エクザロームの暗部として人々の記憶にとどめられている。

 他にも「EM (エクザローム)いのちの守護者の会」という団体が発足し孤児院や学校などを運営して子供を守る活動を行っている。
 現在のエクザロームにおいては、むしろECN社よりも「EMいのちの守護者の会」の方が、託児所の運営団体として広く知られている。

 (ミヤハラにもフルヤに来てもらう必要がありそうだからな……)

 ウォーリーはミヤハラの子供を自分のようにはしたくなかったから、ミヤハラに妻子と面会する時間を作ったのだ。
 忠告を受けておきながら、OP社による捜査を回避する手立てを取らなかった責任も感じている。

「マネージャー。妻と子供には当分の間実家にいるように言っておきました。私はマネージャーと行動を共にします」
 ミヤハラが面会を終えて部屋から出てきて、ウォーリーにそう告げた。
 危険はあるがミヤハラに帯同させるほどではないし、ミヤハラには「タブーなきエンジニア集団」から離脱する意思は無かったからだ。

 ミヤハラの妻や義父にも覚悟があった。
 特に義父は大のOP社嫌いであり、「タブーなきエンジニア集団」の活動を支持していたから、ミヤハラの意思を尊重するだけではなく積極的に後押しした。

「親類や友人一同OP社に抵抗できるところまで抵抗するから、ノリオ君もやれるところまでやりなさい。何が起きても私や娘は覚悟ができている」
 ミヤハラの義父はそう言ってミヤハラを送り出したのだった。

 ミヤハラの妻子は義父に連れられて、実家へと向かった。
 戒厳令はまだ解除されていなかったから、慎重に周辺を確認しながら、である。
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