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第三章

107:二つの目的地

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 「タブーなきエンジニア集団」の本部にOP社による家宅捜索が入ったとの報に、ウォーリーは仲間を救うため本部へ戻ろうとした。
 しかし、サクライ、エリックといった部下たちは強硬に反対した。
 サクライやエリックの態度にウォーリーは激昂したが、本部に戻る以外の案を彼は持っていなかった。
 
 すると、メンバーの一人がフルヤという農村に退避しましょう、と提案した。
「……フルヤ? 何でそんなところなんだ? 確かにハドリの息はかかってないだろうが……」
 ウォーリーが訝しげな顔を見せた。

 フルヤはポータル・シティの北東約三〇キロメートルにあるさびれた農村である。
 かつては水田が栄えていたが、塩害に遭って以来人口が激減した。
 現在は魚介類の養殖で何とか生きながらえているといった状況だ。
 湿地帯にある小島のような場所であり、外部から足を踏み入れる者は少ない。

 ウォーリーが変な顔をしているのを見かねたのか、「提案したメンバーがフルヤ出身である」とエリックが説明した。
 フルヤはOP社の捜査の手から逃れるのには比較的向いた場所であるといえる。
 都市としての規模が小さすぎるし、外部との交流が少ないのでOP社も足を踏み入れにくい。
 また、フルヤは河川を使った水力発電と太陽電池による発電で電力を自給自足していたから、OP社の息がかかっていないのだ。

「そうだな……」
 ウォーリーは少し考えた後、ミヤハラ達を救出してフルヤに向かう、と宣言した。

「それですと、フルヤへ向かう前にOP社の捜査網に引っかかる可能性が高くなりますが」
 サクライが反対した。

「サクライ、それはダメだ。OP社のことだ、うちのメンバーに危害を加えないとも限らねえ。建物ごと爆破、って可能性もあるしな。今本部に残っているメンバーは荒事に向いてなさそうだから、抵抗するのは難しいだろう」
 ウォーリーも引かない。

「ちょっと待ってください。さっきニュースの映像を見ましたが、本部の中はもぬけの殻のように見えました。うちのメンバーが脱出したか確かめられるかもしれません」
 エリックがウォーリーとサクライの間に割って入った。

「……そうか、機器のテスト用の帯域を確認するのか」
 エリックの言葉にウォーリーがピンときた。
 サクライは怪訝な顔をしているが、技術者だけが知る内容だからだ。

 今日、事務所に残っていたメンバーの多くは、業務で使用する機器のテストを担当している。
 これらの機器とメンバーの携帯端末は一定の間隔で通信しており、機器側の通信記録を見れば、通信した携帯端末とその位置が特定できる状況だ。

「……携帯端末の位置がバラバラですし、動いていますね。OP社に捕まった可能性は低そうです」
 エリックが携帯端末の画面を指し示した。
「……救助が必要だな……」
 画面をのぞき込みながら、ウォーリーが真剣な面持ちでうなずいた。

「……大人数で行くと目立つでしょう。本部のメンバーと合流するチームと、直接フルヤに向かうチームとに別れて行動すれば、OP社をかく乱できるかもしれないです」
 ウォーリーとエリックのやり取りを見て、サクライが不本意そうに提案してきた

「そうしよう、本部の連中と合流する方は少数精鋭でいい。俺が行くとして後は……」
 ウォーリーが周囲を見回して、メンバーを二つのチームに振り分けていく。
 こうしてウォーリー、サクライ、エリックの三人でミヤハラ達を救出、その他のメンバーはフルヤに向かうこととなった。
 エリックがウォーリーに同行することになったのは、ウォーリーとサクライの両者に、このあたりの土地勘が無かったからという理由に過ぎない。

「ま、三人居れば何とかなるだろう。とにかく、うちの連中を救うのが先だ。エリック、案内してくれ」
 軽い調子の言葉とは裏腹にウォーリーの表情は真剣そのものである。
 エリックはコクリとうなずいてから少し考えた。

「どうした?」
 エリックが考え込んでいるのを見て、ウォーリーが声をかけた。

「確か……今日は、ミヤハラTMの奥さんとお子さんが退院する日だったはず。彼らを人質にとられると厄介だな、と思いまして」
 エリックの答えにウォーリーは即断した。
「それもそうだ。ハドリの奴なら何も知らない子供を人質に取ることくらいやりかねん。まずはジンに向かってミヤハラの家族の安全を確保しよう。サクライ、エリック、急ぐぞ!」
「はい」「わかりました」

 ウォーリーが走り出そうとしたが、方向がわからないのでエリックの方をちらっと見た。

「……マネージャー、こっちです」
 エリックが周囲を念入りに確認してから走り出した。
 ウォーリーとサクライが後に続いた。

(ミヤハラ……こういう事態のためにお前がいるのだからな。期待しているからな)
 走りながらウォーリーは本部に残したナンバーツーに思いを馳せていた。

 ウォーリーは非常時における対応能力において、この腰の重い部下を全面的に信頼している。恐らく今回もうまく対処したに違いないという確信をウォーリーは持っている。

 しかし、今回は身動きがとりにくい身内を抱えている。それを救うのは自分であるとの思いから、ウォーリーは医療都市ジンへの道を急いだ。
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