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第二章
70:用心に用心を重ねる男
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ハドリは調印式と会見の様子を社長室に設置したモニタから見ていた。
用心に越したことは無いが、ここまでの活動はうまく展開したといえるだろう。
司法警察権を有力者達に認められたことについては、ハドリとしては特に評価していない。
ハドリからすれば有力者達など町の寄り合いのようなものに過ぎず、ポータル・シティですら彼らの管理範囲としては大きすぎると考えていたのだ。
彼らではせいぜい隣近所数件の揉め事に対処するのが精一杯というのがハドリの評価であった。
ハドリが今回の調印式で重要視したことは、都市横断的な警察力をOP社が有しているということをエクザロームの各地に知らしめたことにある。
実施にOP社の活動を認めたのはポータル・シティの有力者達であったので、活動が認められる範囲はポータル・シティに限定されるはずだ。
だが、敢えて会見の場では「都市横断的」という部分を強調していた。住民たちにOP社の活動範囲がエクザローム全体であることを知らしめるためだ。
力は我にあり、ということなのだ。力を示さなければ、人というものは裏切るのだ。
人を従わせるためには力を示すこと、すなわち戦って勝ち続けることに他ならない。
ハドリの人生哲学はそのようなものだった。
今のところ、ハドリに逆らう大きな勢力は見当たらない。
しかし、自社グループに参加しているとはいえ、ECN社がハドリに逆らうと厄介である。
ECN社は未だ十万人以上の従業員を有し、エクザローム第二の企業であることは間違いない。
今のところハドリの意志に従っているとはいえ、情報を握られているのはハドリにとって看過できない事実であった。
(奴らの力を削ぐ必要があるな……)
ハドリは冷静にそう考えていた。
ECN社の監査を進めるうち、いくつか判明した点がある。
社長であるオイゲン・イナが保有している財産が極端に少ない。
ハドリはこの事実について大いに疑念を抱いていた。
あれほどの大企業の社長であり、一昨年に亡くなった先代社長から莫大な遺産を受け継いだはずである。
それにも関わらず、彼は安アパートに暮らしていたし、ほかに財産らしい財産も持っていないのだ。
あえて言えば、自社に多額の出資をしているくらいである。
それにしても、オイゲンが相続したと思われる財産のうち、三分の一程度が把握できていない。
(どこかに財産を隠し持って何かを企んでいるかも知れぬ)
ハドリはそう考えたのだ。会談の印象では凡庸な男だが、念には念を入れたほうが良い。
ハドリに逆らう胆力のある人物には見えないが、顔を合わせた際にあまり引っかかる部分が見受けられなかったのが、逆に不気味ではある。
エクザロームでの二代目、地球時代から数えれば三代目の社長であるため単なるボンボンである可能性はある。
だが、そうであればそのような印象を抱くはずだが、ハドリには「凡庸」とは感じても「ボンボン」とは感じられなかった。その点がかえって不気味だ。
(奴が何かを隠している可能性はある、か……ならば徹底的に調べる必要があるな。俺の前で何かを隠すことなど不可能であることを思い知らせる必要がある)
ハドリはこのような思考法をする男であった。
疑わしいところは、まずは疑ってみて徹底的にその中味を確認するのがよいのだ。
その結果、クロであればその後の処置はこちらが思うようにすればよい。
もし、仮にシロであったとしてもこちらの力を示すことができる。圧倒的な力を示せば、何かを企てることにブレーキをかけることができるのだ。
とにかくグレーをグレーのまま放置するのではなく、白黒はっきり決着をつける必要がある。
そのために、ハドリはオイゲンをECN社から一時的に切り離すことを決めた。
最近のECN社は役員たちがほとんど機能しておらず、重要な意思決定はオイゲンによって行われている状況であることをハドリは把握していた。
ハドリの見る限り、重要なポストに就いている者の多くは、自らの地位と権力を守るのに汲々としている。
ハドリから見れば滑稽でしかないのだが、オイゲンはこうした者たちに良い様に振り回されているように見える。
オイゲンは彼らにとって保身のための盾でしかないのではないか?
ハドリならばすぐに彼らを更迭し、代わりの者をその地位に充当するが、オイゲンにはそうする気が無いようだ。
その結果と思われるが、骨のありそうな有力な社員の多くは外部に流出しており、ハドリに盾突けるだけの度胸がありそうな役職者もいないように見える。
このまま放置してもECN社は瓦解するように思えたが、手を打たずに待つだけというのはハドリの性に合わない。
重要なポストに就いている者達がオイゲンを盾にして保身に走るのであれば、その盾を取り上げるのも悪くない。
ならば、オイゲンだけECN社から切り離して監視し、ECN社については内部崩壊を誘えばよい。
この間にオイゲンの自宅などを調べれば財産の流れも把握できる。
そう考えてハドリは部下にオイゲンをOP社内で勤務させるよう命じたのだった。
ハドリの意思とは、すなわちOP社の意思である。
彼が意思決定した時点で、オイゲンがOP社内で勤務することが決まったようなものだ。
OP社内はもちろん、今のECN社にもハドリに逆らえる胆力の持ち主はないからだ。
用心に越したことは無いが、ここまでの活動はうまく展開したといえるだろう。
司法警察権を有力者達に認められたことについては、ハドリとしては特に評価していない。
ハドリからすれば有力者達など町の寄り合いのようなものに過ぎず、ポータル・シティですら彼らの管理範囲としては大きすぎると考えていたのだ。
彼らではせいぜい隣近所数件の揉め事に対処するのが精一杯というのがハドリの評価であった。
ハドリが今回の調印式で重要視したことは、都市横断的な警察力をOP社が有しているということをエクザロームの各地に知らしめたことにある。
実施にOP社の活動を認めたのはポータル・シティの有力者達であったので、活動が認められる範囲はポータル・シティに限定されるはずだ。
だが、敢えて会見の場では「都市横断的」という部分を強調していた。住民たちにOP社の活動範囲がエクザローム全体であることを知らしめるためだ。
力は我にあり、ということなのだ。力を示さなければ、人というものは裏切るのだ。
人を従わせるためには力を示すこと、すなわち戦って勝ち続けることに他ならない。
ハドリの人生哲学はそのようなものだった。
今のところ、ハドリに逆らう大きな勢力は見当たらない。
しかし、自社グループに参加しているとはいえ、ECN社がハドリに逆らうと厄介である。
ECN社は未だ十万人以上の従業員を有し、エクザローム第二の企業であることは間違いない。
今のところハドリの意志に従っているとはいえ、情報を握られているのはハドリにとって看過できない事実であった。
(奴らの力を削ぐ必要があるな……)
ハドリは冷静にそう考えていた。
ECN社の監査を進めるうち、いくつか判明した点がある。
社長であるオイゲン・イナが保有している財産が極端に少ない。
ハドリはこの事実について大いに疑念を抱いていた。
あれほどの大企業の社長であり、一昨年に亡くなった先代社長から莫大な遺産を受け継いだはずである。
それにも関わらず、彼は安アパートに暮らしていたし、ほかに財産らしい財産も持っていないのだ。
あえて言えば、自社に多額の出資をしているくらいである。
それにしても、オイゲンが相続したと思われる財産のうち、三分の一程度が把握できていない。
(どこかに財産を隠し持って何かを企んでいるかも知れぬ)
ハドリはそう考えたのだ。会談の印象では凡庸な男だが、念には念を入れたほうが良い。
ハドリに逆らう胆力のある人物には見えないが、顔を合わせた際にあまり引っかかる部分が見受けられなかったのが、逆に不気味ではある。
エクザロームでの二代目、地球時代から数えれば三代目の社長であるため単なるボンボンである可能性はある。
だが、そうであればそのような印象を抱くはずだが、ハドリには「凡庸」とは感じても「ボンボン」とは感じられなかった。その点がかえって不気味だ。
(奴が何かを隠している可能性はある、か……ならば徹底的に調べる必要があるな。俺の前で何かを隠すことなど不可能であることを思い知らせる必要がある)
ハドリはこのような思考法をする男であった。
疑わしいところは、まずは疑ってみて徹底的にその中味を確認するのがよいのだ。
その結果、クロであればその後の処置はこちらが思うようにすればよい。
もし、仮にシロであったとしてもこちらの力を示すことができる。圧倒的な力を示せば、何かを企てることにブレーキをかけることができるのだ。
とにかくグレーをグレーのまま放置するのではなく、白黒はっきり決着をつける必要がある。
そのために、ハドリはオイゲンをECN社から一時的に切り離すことを決めた。
最近のECN社は役員たちがほとんど機能しておらず、重要な意思決定はオイゲンによって行われている状況であることをハドリは把握していた。
ハドリの見る限り、重要なポストに就いている者の多くは、自らの地位と権力を守るのに汲々としている。
ハドリから見れば滑稽でしかないのだが、オイゲンはこうした者たちに良い様に振り回されているように見える。
オイゲンは彼らにとって保身のための盾でしかないのではないか?
ハドリならばすぐに彼らを更迭し、代わりの者をその地位に充当するが、オイゲンにはそうする気が無いようだ。
その結果と思われるが、骨のありそうな有力な社員の多くは外部に流出しており、ハドリに盾突けるだけの度胸がありそうな役職者もいないように見える。
このまま放置してもECN社は瓦解するように思えたが、手を打たずに待つだけというのはハドリの性に合わない。
重要なポストに就いている者達がオイゲンを盾にして保身に走るのであれば、その盾を取り上げるのも悪くない。
ならば、オイゲンだけECN社から切り離して監視し、ECN社については内部崩壊を誘えばよい。
この間にオイゲンの自宅などを調べれば財産の流れも把握できる。
そう考えてハドリは部下にオイゲンをOP社内で勤務させるよう命じたのだった。
ハドリの意思とは、すなわちOP社の意思である。
彼が意思決定した時点で、オイゲンがOP社内で勤務することが決まったようなものだ。
OP社内はもちろん、今のECN社にもハドリに逆らえる胆力の持ち主はないからだ。
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