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第二章

63:橋頭堡を確保するも……

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 先ほどとは異なり、今度は三人とも問題なく室内に案内された。

 トニーは笑顔を浮かべながら
「何だよ、男だけか。オネーちゃんでも連れてきてくれれば良かったのに」
 と悪態をつきながらも三人との面会を許可した。
 もしかしたら本音かもしれない、とモリタは思った。

 男性相手でも女性相手でも、まずは相手をからかうというのがトニーの常套手段のようにモリタには思える。
 ただ、相手が女性のときはトニーの目つきが違うように感じられる。
 セスやロビーはそこまでの違いを感じていないようだが、モリタはトニーという存在を危険だとみなしていた。

 (このことを二人に警告しておこうか……)
 モリタが小声で何かを言おうとする直前にロビーが口火を切った。

「シヴァ先生は授業で海洋調査の事例をよく扱っていますが、親類の方とかにそういった業界というか関係者の方とかでもいらっしゃるのでしょうか?」
 あまりに直球な質問にモリタが頭を抱えそうになる。

 (バカ……そんな直接的に言ったら誰でも否定するぞ!)
 エクザロームでは海洋調査の仕事のステータスはそれほど高くない、というより一部の例外を除いて非常に低い。
 また犯罪者の刑罰にも使われる仕事である。そのような仕事に就いている者が身内にいるかどうか聞くなど正気の沙汰ではない、とモリタは考えたのだ。
 セスですら、いくら何でもストレートすぎると感じたくらいだ。

 トニーは怪訝そうな様子を見せながら答えた。
「あ? 身内にはいないな。それがどうかしたか?」
「いや、我々もリスク管理の授業には興味があって、過去の資料を見ていたら、たまたま先生と同じような姓の方がいらっしゃいましてね。
 海洋調査の資料を先生がたくさんお持ちになったので、もしや、と思ったのですよ」
 ロビーも役者だ。口から出まかせを並べ立てた。モリタなどはどこからそんな理由を考えたのか、と呆れたのだが。

「タカミ、だったか? そんなことを知って何になるのだ? リスク管理の勉強をするならその本質を知ろうとしなければ意味が無いぞ」
 トニーの口調は少し強いものになっている。セスやモリタは明らかに警戒されていると感じていた。

「あ、失礼しました。それでしたら何かいい勉強方法はないでしょうか? 例えば講義を聞かせていただくとか」
 ロビーがそう言うとトニーは少し考えてから答えた。
「なら、俺の授業の機器操作を集中的に担当してもらおう。これなら授業も聞けるだろう。タカミ、クルス、モリタの三名だな、それでいいか?」
「よろしくお願いします」
 ロビーはトニーに頭を下げた。セスとモリタもそれに続く。
「まあ、やる気のある奴には特別サービス、ってことだ」
 トニーがニヤリと笑った。
 腹に一物あるのだろうが、少なくとも頭を下げて飛び込んでくる相手を受け入れないほど狭量なわけではない。むしろ、逆らわない相手には寛大にも思えるような態度であった。
 もっとも、トニーの態度に対して三人ともあまり良い印象は持っていなかったのだが。

「……」
 トニーの教官室を出た後、三人はしばらく無言であった。
 ロビーを先頭に控え室に戻って荷物を手にすると、三人はそのまま喫茶店の個室へと向かった。

 沈黙が破れたのは、喫茶店の個室に三人の飲み物が運ばれた後であった。
「あー、イライラするぜ。まあ、悪い奴じゃないんだろうけど、言い方がもう少しあるだろうよ。嫌な奴には間違いなさそうだ。」
 ロビーが昆布茶を片手に愚痴っている。

「ロビーはいつもストレートすぎるんだよ。もうちょっと聞き方もあるだろうに」
 モリタが苦言を呈した。
 セスはというと、「まあまあ」といいながら、注文したサンドイッチを取り分けている。

「で、これからどうするよ? もうちょっとあのシヴァ先生を調べてみるか?」
 ロビーがセスに向かって言った。
 セスがうんとうなずいた。

 モリタは相変わらず疑わしげな顔をしている。
「どうもあの先生は僕らをまだ信用できてないみたいだからなぁ。それをクリアしない限り無理だよ」
 するとロビーは、
「だったらしゃーない。真面目に助手をやって、信用してもらうしかねーな。モリタも付き合え」
 と返した。
 その言葉にセスは笑いで、モリタは沈黙で答えた。
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