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第二章

56:社長秘書の仕事

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 ウォーリーの後任ヘンミの様子を確認した翌朝、オイゲンは早めに起きていったん自宅へと向かった。
 シャワーと着替えを済ませて、再び社に戻る。
 彼は着替えを社長室のロッカーに置いていたのだが、メイが作業中だったので何となく気が引けたのだった。

 オイゲンが社長室に入ると、消え入りそうな声でメイが
「社長、できました」
 とオイゲンに記録ディスクを手渡した。
 オイゲンはメイの姿をみてぎょっとする。
 目の下にクマをつくっており、着ているスーツはシワだらけ、おまけに腰近くまである長く黒いストレートヘアはボサボサになっていたのだ。明らかに徹夜明けの状態だ。
 何故か前髪はいつも通り真ん中で綺麗に分けられていたのだが。

 とても二一歳のうら若き女性とは思えない。もとから化粧っ気がまるでないので、顔色の悪さも隠しようがなく、いつもよりかなりやつれて見えた。
 普段はその化粧っ気のなさが彼女の清楚さを引き出しているのだが、このような状態では逆効果である。
 やつれて見えて年相応に見えるのは、彼女が比較的童顔だからであろう。

「あ、あの……今日、業務がないなら明日の朝まで自宅待機でいいです……」
 メイの姿に思わずオイゲンはそう言ってしまった。

 しかし、メイは資料の内容を説明する必要があると抵抗して引き下がらない。
 引き下がらないといっても、「今報告します」とだけしか言わないのだが。

 これを振り切れないのがオイゲンという人物なのだ。
 彼は彼なりにメイのことを気遣ってそうしている。
 ここで強い言葉で彼女の申し出を断れば、彼女が嫌な思いをするだろうと考えているのである。こうした思いを他人にさせるのは、気が進まない。

 これは相手がメイの場合に限ったことではなく、大抵の相手に対してオイゲンはこのように考えてしまうのだ。
 特にメイの場合は、繊細な女性だと思っているから非常に気を遣うのである。

 メイは数回「今報告します」を繰り返した後、ついには何か物悲しげな瞳で遠くを見つめるのである。どこか焦点が合ってないようにも見える。
 彼女としては意識してやっている訳ではない。ごく自然な感情なのだが、これをやられるとオイゲンとしても辛い。
 これは説明を聞いたほうが得策だと思い、オイゲンはメイに資料の説明を依頼した。

「まずは、一つ目の資料です。該当のアパートは爆破されたことがほぼ確実です。事件後にわが社の社員が回線の修復工事を行っていますが、資料はそのときの情報をまとめたものです。該当のアパートからは爆発物と見られる破片が複数見つかっています。また、現場近くの住民の方からも『アパートが一瞬で吹き飛んだ』という複数の証言が得られています……
 事故の可能性は否定できませんが、アパートが破壊される前にOP社の武装した従業員が周辺を包囲していたという情報もあります」
 メイの報告は落ち着いた口調であり、事実を丁寧に伝えている。
 このような緻密で正確性が要求される作業について、オイゲンはメイにかなりの信頼を置いている。オイゲンがメイを秘書として評価している点のひとつがこれであった。

 メイの説明が続く。
「……二番目の資料です。これはOP社がわが社に通信記録の提出を求めた書類です。わが社の対応ですが、求められた通信記録をすべて提出しました。提出した通信記録に先程のアパートから発信された記録、及び……」
 メイは資料の内容を説明しただけで具体的な論評はしなかった。
 ただ、データが広範かつ詳細に集められていたので、オイゲンにも事件の裏側の予想はつく。

 (ハドリ氏は意識的に派手にやったな……)
 OP社の動きを見るとかなり周到に準備を進めていたことが予想される。
 ここまで周到に準備を進めていれば、何も建物ごと爆破する必要は無かったはずだ。
 相手の不意をついて拘束することも十分可能だったはずだからだ。

 更に疑問点がある。
 この事件では爆発の関係で同じアパートに居住していた「エクザローム防衛隊」に関係無い住民が二名犠牲になっていたのだ。
 OP社からの発表にもその事実は含まれていた。自社に不利になりかねない情報をOP社は何故出したのか……?

 オイゲンはメイにこの点について意見を求めたが、メイにも判断がつかないようだ。
 OP社はこの事実を発表しても自社にとって不利にならないと判断したのではないか、とは答えたのだが。

 オイゲンはそうかもなぁ、と答えながらニュースを検索する。するとひとつのニュース映像が飛び込んできた。
 映像によると犠牲となった二人はOP社の治安改革活動に反対する者で、主にネットで反対活動を展開していたらしい。
 更にオイゲンがニュースを検索すると、この二人には過去にもOP社による海洋発電所の建設に反対するなどの活動暦があったらしいことが報じられていた。
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