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第一章

33:セスの希望

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 時は少し進んで六月、セス達の職業学校での仕事が三ヶ月目に入った。
 今月末までに就職口を見つけなければセス、ロビー、モリタの三人ともが七月から無職となってしまう。

 三人は職業学校の就職支援センターにいた。
 セスとモリタはあわただしくネットで調査したり、通信を入れたりしている。セスもモリタも表情は不安そうだ。
 一方、ロビーは堂々としたもので、「ま、最悪、学校がどうにかするだろ」と二人の後ろの席に腰をかけて昆布茶を片手に煎餅をバリバリと食べている。

「そんなこと言われても、あと一ヶ月しかないから不安になるよ。どこの会社も新人を採用したばかりだから求人の案件なんてなかなか出てこないしね」
 セスが言うと、モリタが続けて口を開いた。
「セスぅ、何とかならないかな~。セスが頼りなんだよ」
「ごめん、今の状況だと僕じゃダメだと思うよ。ロビーが何とかしてくれるといいのだけど……
 僕みたいな身体が不自由な人を受け入れるにはそれなりの準備が必要だしね」
 セスが力なく答えた。

 それを聞いたロビーが立ち上がる。
「お前らなぁ……少しは落ち着いて動けよ。そんなに切羽詰っていたら、決まるものも決まらんだろうが。それにセス、身体が悪いのを理由にするのは卑怯だぞ」
「そうだけど……」
「モリタもいい加減、セスに甘えるな! セスが困ってるだろうが!」
「……だけどさぁ」
 セスとモリタが下を向いた。

「まあいい。そんなに心配するなって。俺たちが路頭に迷うことを学校がよしとしないだろうよ。最悪、学校に再就職すれば何とかなるだろう」
ロビーはそう言ってセスとモリタの肩を叩いた。

「ロビーは僕が学校に就職するのがいいと思うの?」
 セスがロビーに尋ねた。
「……そうだな。その兄さんとやらを探す時間を確保するなら、勝手がわかる職場の方がいいだろう。学校なら俺やモリタも一緒になる可能性が高いしな」
「……そうだね。ロビーの言う通りかも。学校が僕らを放置することは確かに考えにくいね」
 セスがロビーに同意した。

 一方、モリタはやや懐疑的だ。
「でも、学校は僕らを期間採用した前科があるんだよ。信用できるかなぁ……」
 ロビーはモリタの耳を引っ張り、頭を軽く小突いた。
 そして、モリタに耳打ちする。
「バカ! そんなこと言ったら、セスがまた心配するだろう!」

 その後ロビーはセスの方を向いた。
「セス、仕事探しも大事だが、身内を探すのも大事だ。俺とモリタが全面的に協力するから、仕事探しよりも身内を見つけることを優先した方がいいぞ」
「ロビー、いいのかい? 僕は仕事も心配だけど……」
「心配いらん、俺に任せろ」

 ロビーはセスの様子を見ながらこう考えていた。
(セスの奴、落ち着いて見えるがかなり心配性だからなぁ……
 車椅子ということもあるし、誰か頼れる身内がいたほうがいい。身内が見つかれば多少は心配性も治るだろう。とにかく俺が何とかせねば)

 そこまで考えて、ふと我に返る。
(これじゃ、俺がセスの保護者みたいだな。まあ、俺の方が二つ年上だからな)
「とりあえず、こんなところに籠っていてもいいアイデアなんか出ないだろ。外へ出るぞ」
 ロビーはセスの車椅子を押して外へ出て行く。モリタが慌てて後を追った。

 三人は学校の裏庭に出た。この日は学校の中間試験中で三人とも午前中のみの勤務であったので、まだ陽が高い。
 季節は初夏に入ったところで、この日は快晴に近い晴れだ。
 三人は木陰を探して座り込む。セスもこのときは車椅子を降りて地面に脚を投げ出す。
 外は少し汗ばむくらいの陽気だが、庭が湖に接しているせいか木陰を流れる風は心地よい。

 風がセスの頬を撫でる。
 このようなセスの姿は絵になる。やや血色の薄い肌、繊細な造りの顔がティーンエージャーの女性を思わせるかもしれない。
 今は目を閉じていたが、目を開けば円らでどこか物憂げな瞳をしているのだ。
 体つきもやや小柄で華奢だ。見る者によっては「薄幸の美少年」と思う者もいるかもしれない。

 一方、モリタはズボンが汚れないよう、ビニール袋を下に敷いてその上に座っている。身体の大きさとは異なり、意外と細やかな神経を持っているようだ。
 ロビーは芝が生えている部分にあぐらをかいている。

 最初にロビーが口を開いた。
「それでだな、セス。正直なところ、俺はお前が心配なのよ。家族の問題を抱えたまま仕事をしたって、いい結果など出ねぇ」
「……そうだね。でも、僕に家族はないよ」
「すまん、そういう意味じゃない。仕事を見つけるのは俺が何とかする。お前は身内を見つけることを優先するんだ」

 ロビーはセスの状況について、彼なりに心を痛めていた。
 彼の目には記録ディスクの調査をして以来、セスの仕事振りが精彩を欠いているように見えた。
 現在はルーチンの事務的業務が中心だったので、特に大きな問題になっていないのだが。

 この状態で別の仕事に就いたところで、いい仕事ができる状態にならないだろう。
 ロビーの見る限り、セスには保護者的な役割をする年長者が必要なように思われるのだ。

「とかいって、空手形にならないだろうね?」
 モリタの声にロビーが振り向く。
「空手形にしないようにお前も頑張るんだよ!」
 ロビーが怒鳴る。それを聞いたセスが申し訳なさそうに言う。
「……ロビー、モリタ、気を遣わせてしまってごめん」
「そんなことはいい。で、正直なところその兄貴とやらを見つけたいんだろ、セスは」
「……そうだね」
「正直に言ってしまえ! どうしたいんだ、セスは」
「……」
「なに、遠慮するな」
「僕は……知りたい」
「何を?」
「兄が何者なのか、家族に何があったのかを。それがわかれば、なぜ、今まで生き別れになっていたかもわかると思うんだ……
 それに、前にモリタに調べてもらったときに、僕の両親が海洋調査と関係がある可能性があると言ったよね?」
 セスの言葉にロビーがうなずいた。
「……海洋調査は、エクザロームの歴史の後ろ暗い部分だとも思えるんだ。どうやら、僕の兄にたどり着くためには、後ろ暗い歴史を知る必要があると思うのだよね。少なくとも兄にたどり着くためにも、僕は無知でありたくないと思うんだ……」
「よし、これで決まりだ。俺ら三人はセスの目的のために……動く!」

(ホント、ロビーは熱いよなぁ……)
 モリタは頭の後ろで腕を組みながらセスとロビーのやり取りを見ていた。

「??」
 不意にモリタの視界の隅に数十人はいると思われる集団が職員棟へ向かっているのが見えてきた。
 セスやロビーの後方数十メートル先なのだが、視界を遮るものがないので見えてしまったのだ。
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