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第一章
23:ECN社経営企画室副長トニー・シヴァ
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オイゲンとの通信から二〇分ほどして、トニーが言う「うちのメンバー」ことトニー派のECN社員が一〇名ほど「ラビリンス」にやってきた。
トニーは店の奥に向かって大きな声で言う。
「ECN社の凄腕メンバーがご来店だ! ママさん! いいコつけてよ!」
店の奥から女性たちがぞろぞろと出てきて、テーブルに着く。
トニーはソファにどっかと腰かけたまま女性たちにメンバーを紹介していく。
「あー、こいつはねぇ、去年までプータローだったのに、今は夜な夜な高級ワイン飲む身分になってんの。他人を差し置いて偉くなるなんてズルイよな」
「このオッサンは、うちの室長! 俺の上司! なんたってブラックカード様だから、お前ら、ちゃんとサービスしろよ! それと安酒は飲まない人だから、店で一番いい酒を出せよ!」
「こっちは、ただのエロ親父、じゃなかった。こう見えてもうちの営業の上級チームマネージャー。奥さんに小遣いもらえてないけど、交際費持ってるから!」
「こいつは入社八年で経営企画室の主事までなったんだぜ。二〇代の主事なんて滅多にいないんだから! 俺と同じ年だけど」
といった調子である。
聞く人によっては、トニーの話は他人を持ち上げながら実は自慢しているように聞こえたかもしれない。
ちなみにECN社の役職は上から順に次のようになるのだが、トニーは主事より二ランク上の副長である。
【ECN社役職】
社長→役員→上級チームマネージャー(マネージャー)、室長→チームマネージャー(TM)、副長→サブマネージャー、主席→上級リーダー、主事→リーダー→サブリーダー→一般社員
トニーは一通りメンバーの紹介を終えると、ソファの一番すみに陣取った。その位置は、柱の出っ張りがあるため、他の席からは半分死角になる。
店の女性たちと社員たちが盛り上がっているのを確認しながら、トニーは腕を組んでいた。店からは酒も提供されるのだが、彼は隠れてウーロン茶を水で割って飲んでいる。彼が酒を飲んでいないことには、店の女性は気づいていない。
彼は社員たちと店の女性を観察していたのだ。もっとも、店の中にトニーの様子を観察している者はいなかったが。もし、店内にトニーの様子を観察する者がいたとしたら、その眼光の鋭さに驚いたかもしれない。
トニーがこうして半ば隠れるようにして他人を観察するのには理由がある。
彼は他人を信用していない。
他人に隙を見せれば、必ずそこにつけ込まれる。彼はそれを恐れているのだ。
逆に他人の隙につけ込むため、彼は他人の観察を行う。
弱みを握れば、他人を思うように動かすことも可能だ。少なくとも、自分を守る盾とすることはできる。
トニーが観察を開始してから一五分ほど経った。営業の上級チームマネージャーが店の女性の一人に向かって、「シヴァ副長はふざけた人間に見えるかもしれないけどね、こう見えても大したものだよ。あの昼行灯の社長でも、会社が無事に運営されているのは彼がちゃんと舵をとっているからなんだよ」と言ったところで、トニーが口を開いた。
「まあね。一応上級チームマネージャーだけあって、ちゃんと見てるじゃん」
さらに、店の女性たちに向かって、
「ほら見ろ、ふざけているように見えてやるところはちゃんとやってるんだよ。お前らも俺を見習えよ、っての」
と言い放つ。口調に冗談の要素が含まれているように聞こえるのか、女性たちからは笑い声もあがっている。
「笑ったな。これだから人を見る目のない奴らは……」
今度のトニーの口調には、明らかに冗談の要素が多く含まれていた。すみの席で拗ねるふりをしていたが、これも女性たちの笑いを誘ったようだ。
これで一気に場が盛り上がった。場が盛り上がったのを確認すると、トニーは再び観察モードに入った。そういう男なのだ。
(……あのボンクラ社長も来ないし、ホルツからの連絡も無い。何をやっているんだ?)
ホルツとは、トニー派の社員の一人で経営企画室の若手男性スタッフである。
トニーはホルツに命じて、しばしばオイゲンの様子を報告させていた。
今回もオイゲンが社を出たら連絡を入れるように指示していたのだが、いつまで経ってもその連絡がない。
オイゲンに動きがないのだろうか?
それにしても遅すぎる。
場が盛り上がりだしてから十数分してようやく、トニーの携帯端末にホルツからのメッセージが入った。
「社長は『呼び出しを受けたのでOP社へ行く』と言って出ました。副長には、そちらに行けなくなった、と伝えるよう言われました」
一瞬にして怒りと失望の感情がトニーに沸き起こったが、表情には出さない。
(一体何考えているんだ、あのボンクラ社長は?!)
トニーは表面上平静を装い続けながらも、実のところは慌ててホルツにメッセージを入れた。
トニーは店の奥に向かって大きな声で言う。
「ECN社の凄腕メンバーがご来店だ! ママさん! いいコつけてよ!」
店の奥から女性たちがぞろぞろと出てきて、テーブルに着く。
トニーはソファにどっかと腰かけたまま女性たちにメンバーを紹介していく。
「あー、こいつはねぇ、去年までプータローだったのに、今は夜な夜な高級ワイン飲む身分になってんの。他人を差し置いて偉くなるなんてズルイよな」
「このオッサンは、うちの室長! 俺の上司! なんたってブラックカード様だから、お前ら、ちゃんとサービスしろよ! それと安酒は飲まない人だから、店で一番いい酒を出せよ!」
「こっちは、ただのエロ親父、じゃなかった。こう見えてもうちの営業の上級チームマネージャー。奥さんに小遣いもらえてないけど、交際費持ってるから!」
「こいつは入社八年で経営企画室の主事までなったんだぜ。二〇代の主事なんて滅多にいないんだから! 俺と同じ年だけど」
といった調子である。
聞く人によっては、トニーの話は他人を持ち上げながら実は自慢しているように聞こえたかもしれない。
ちなみにECN社の役職は上から順に次のようになるのだが、トニーは主事より二ランク上の副長である。
【ECN社役職】
社長→役員→上級チームマネージャー(マネージャー)、室長→チームマネージャー(TM)、副長→サブマネージャー、主席→上級リーダー、主事→リーダー→サブリーダー→一般社員
トニーは一通りメンバーの紹介を終えると、ソファの一番すみに陣取った。その位置は、柱の出っ張りがあるため、他の席からは半分死角になる。
店の女性たちと社員たちが盛り上がっているのを確認しながら、トニーは腕を組んでいた。店からは酒も提供されるのだが、彼は隠れてウーロン茶を水で割って飲んでいる。彼が酒を飲んでいないことには、店の女性は気づいていない。
彼は社員たちと店の女性を観察していたのだ。もっとも、店の中にトニーの様子を観察している者はいなかったが。もし、店内にトニーの様子を観察する者がいたとしたら、その眼光の鋭さに驚いたかもしれない。
トニーがこうして半ば隠れるようにして他人を観察するのには理由がある。
彼は他人を信用していない。
他人に隙を見せれば、必ずそこにつけ込まれる。彼はそれを恐れているのだ。
逆に他人の隙につけ込むため、彼は他人の観察を行う。
弱みを握れば、他人を思うように動かすことも可能だ。少なくとも、自分を守る盾とすることはできる。
トニーが観察を開始してから一五分ほど経った。営業の上級チームマネージャーが店の女性の一人に向かって、「シヴァ副長はふざけた人間に見えるかもしれないけどね、こう見えても大したものだよ。あの昼行灯の社長でも、会社が無事に運営されているのは彼がちゃんと舵をとっているからなんだよ」と言ったところで、トニーが口を開いた。
「まあね。一応上級チームマネージャーだけあって、ちゃんと見てるじゃん」
さらに、店の女性たちに向かって、
「ほら見ろ、ふざけているように見えてやるところはちゃんとやってるんだよ。お前らも俺を見習えよ、っての」
と言い放つ。口調に冗談の要素が含まれているように聞こえるのか、女性たちからは笑い声もあがっている。
「笑ったな。これだから人を見る目のない奴らは……」
今度のトニーの口調には、明らかに冗談の要素が多く含まれていた。すみの席で拗ねるふりをしていたが、これも女性たちの笑いを誘ったようだ。
これで一気に場が盛り上がった。場が盛り上がったのを確認すると、トニーは再び観察モードに入った。そういう男なのだ。
(……あのボンクラ社長も来ないし、ホルツからの連絡も無い。何をやっているんだ?)
ホルツとは、トニー派の社員の一人で経営企画室の若手男性スタッフである。
トニーはホルツに命じて、しばしばオイゲンの様子を報告させていた。
今回もオイゲンが社を出たら連絡を入れるように指示していたのだが、いつまで経ってもその連絡がない。
オイゲンに動きがないのだろうか?
それにしても遅すぎる。
場が盛り上がりだしてから十数分してようやく、トニーの携帯端末にホルツからのメッセージが入った。
「社長は『呼び出しを受けたのでOP社へ行く』と言って出ました。副長には、そちらに行けなくなった、と伝えるよう言われました」
一瞬にして怒りと失望の感情がトニーに沸き起こったが、表情には出さない。
(一体何考えているんだ、あのボンクラ社長は?!)
トニーは表面上平静を装い続けながらも、実のところは慌ててホルツにメッセージを入れた。
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