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第一章
22:事件の意味
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ECN社経営企画室副長、トニー・シヴァはハモネス市内にある行きつけのクラブ「ラビリンス」にいた。
客はトニーだけのようだ。店内にはテレビがあり、ニュース番組が流れている。
番組ではセスらが巻き込まれた事件の詳細が報じられている。
どうやら事件は過激派によるテロという扱いになっているようだ。
死者は五千五百名を超え今後も増える可能性があること、OP社の新入社員が多数巻き添えになったことなどが伝えられている。
番組の中で、記者の一人が多くの新入社員を巻き添えにするような作戦を取ったOP社、特にハドリの決定を非難している。番組内でこれに同調する者も何人かいる。
「こんなの見ていて面白い?」
クラブの女性がトニーに声をかけた。
「あの記者、馬鹿だな……」
「どういうこと?」
「そんなこともわからないのかよ?! 会社は綺麗事じゃ動かないの! 時には切り捨てる必要があるってのがわからないか?」
訝し気な顔の女性にトニーがチッチッ、と指を立てて横に振った。
「でも、何も知らない新人さんを巻き込むのはどうなの?」
「馬鹿だなー。だから店が儲からないんだよ。あのな、新人じゃ使えるかどうかまだわからないんだよ。長くいる社員は使えるかどうかわかる。俺はOP社の研究もしているから、あそこの社員は使えるのが多いのも知っている。使えるかどうかわからないのを切って使えるのを残すのが常識」
トニーは何も知らない相手を諭すかのように説明した。
「……なるほどね、経営企画をされていると考え方が違うのね」
「まあね。経営企画をしていても俺と違って使えないのもいるけど。うちの社長みたいにさ」
「だったら、OP社へ行った方がいいんじゃないの?」
「そこはそこ、ママさんがいるからね」
「あら、それはうれしいわね」
トニーの言葉に女性は形だけ笑ってみせた。
「馬鹿だね~、そんな訳ないだろ!」
トニーが冗談っぽい口調で突っ込んだ。
「じゃ、何よ」
「こっちの方が社長が能無しな分、いろいろできて面白いんだよ! 儲かって面白くないと仕事なんてやる意味ないっての!」
トニーの言葉は本気なのか冗談だかわからないが、OP社に転ずる気がないのだけは確かなようだ。
「なるほどねぇ……」
「そうだ。これからうちのメンバー来るから、女の子準備させておけよ! どうせ控え室でお茶引いているのがいるのはわかってるんだから!」
そう言ってトニーは席を立ち、店の外に出た。
そして通信を入れる。オイゲンに向けてだ。
「あのさぁ、社長、まだ会社にいるんでしょ。OP社向けに支援とか申し出た?
……まだ? トロいなぁ。ダメだなー。ニュース見たでしょ、すぐ反応しなきゃ。
対応終わったら、うちのメンバーに連絡して『ラビリンス』に来い、って言っといて
当然、社長は義務だから。
あー? 文面なんて秘書に考えさせりゃいいじゃん。
え? 帰した? それじゃ秘書の意味ないじゃん。まったく段取り悪いなー。
それと、先方には社長、『自分の判断』って言えよ。経営企画室から言われたなんて言った日にはこっちが足元見られるんだから、そのくらいは考えを回せって」
トニーが社長のオイゲン相手に一方的にまくし立てた。
オイゲンとの通信を終えると、トニーは店の中へと戻っていった。
(さて、ここはあの社長に踊ってもらわないとな。あまり上手じゃなさそうだが、扱いやすいのがとりえだからな。これから面白くなるな……)
トニーはこの状況を楽しんでいた。楽しむこと、これが彼の人生における最大の目的であった。
客はトニーだけのようだ。店内にはテレビがあり、ニュース番組が流れている。
番組ではセスらが巻き込まれた事件の詳細が報じられている。
どうやら事件は過激派によるテロという扱いになっているようだ。
死者は五千五百名を超え今後も増える可能性があること、OP社の新入社員が多数巻き添えになったことなどが伝えられている。
番組の中で、記者の一人が多くの新入社員を巻き添えにするような作戦を取ったOP社、特にハドリの決定を非難している。番組内でこれに同調する者も何人かいる。
「こんなの見ていて面白い?」
クラブの女性がトニーに声をかけた。
「あの記者、馬鹿だな……」
「どういうこと?」
「そんなこともわからないのかよ?! 会社は綺麗事じゃ動かないの! 時には切り捨てる必要があるってのがわからないか?」
訝し気な顔の女性にトニーがチッチッ、と指を立てて横に振った。
「でも、何も知らない新人さんを巻き込むのはどうなの?」
「馬鹿だなー。だから店が儲からないんだよ。あのな、新人じゃ使えるかどうかまだわからないんだよ。長くいる社員は使えるかどうかわかる。俺はOP社の研究もしているから、あそこの社員は使えるのが多いのも知っている。使えるかどうかわからないのを切って使えるのを残すのが常識」
トニーは何も知らない相手を諭すかのように説明した。
「……なるほどね、経営企画をされていると考え方が違うのね」
「まあね。経営企画をしていても俺と違って使えないのもいるけど。うちの社長みたいにさ」
「だったら、OP社へ行った方がいいんじゃないの?」
「そこはそこ、ママさんがいるからね」
「あら、それはうれしいわね」
トニーの言葉に女性は形だけ笑ってみせた。
「馬鹿だね~、そんな訳ないだろ!」
トニーが冗談っぽい口調で突っ込んだ。
「じゃ、何よ」
「こっちの方が社長が能無しな分、いろいろできて面白いんだよ! 儲かって面白くないと仕事なんてやる意味ないっての!」
トニーの言葉は本気なのか冗談だかわからないが、OP社に転ずる気がないのだけは確かなようだ。
「なるほどねぇ……」
「そうだ。これからうちのメンバー来るから、女の子準備させておけよ! どうせ控え室でお茶引いているのがいるのはわかってるんだから!」
そう言ってトニーは席を立ち、店の外に出た。
そして通信を入れる。オイゲンに向けてだ。
「あのさぁ、社長、まだ会社にいるんでしょ。OP社向けに支援とか申し出た?
……まだ? トロいなぁ。ダメだなー。ニュース見たでしょ、すぐ反応しなきゃ。
対応終わったら、うちのメンバーに連絡して『ラビリンス』に来い、って言っといて
当然、社長は義務だから。
あー? 文面なんて秘書に考えさせりゃいいじゃん。
え? 帰した? それじゃ秘書の意味ないじゃん。まったく段取り悪いなー。
それと、先方には社長、『自分の判断』って言えよ。経営企画室から言われたなんて言った日にはこっちが足元見られるんだから、そのくらいは考えを回せって」
トニーが社長のオイゲン相手に一方的にまくし立てた。
オイゲンとの通信を終えると、トニーは店の中へと戻っていった。
(さて、ここはあの社長に踊ってもらわないとな。あまり上手じゃなさそうだが、扱いやすいのがとりえだからな。これから面白くなるな……)
トニーはこの状況を楽しんでいた。楽しむこと、これが彼の人生における最大の目的であった。
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