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第一章
14:アイネスとオイゲン
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ウォーリーの治療を担当する医師、ヴィリー・アイネスは自分のデスクに戻っていた。通信で誰かと話をしている。
「どうやら彼もおとなしく治療を受けてくれそうです。助かりました」
「……いや、ウォーリーのことだからどうかな……? 先生にはちょっと扱いにくいかも知れませんよ」
アイネスの言葉に通信の相手は懐疑的な反応を見せた。
「案外素直なところもあるから、大丈夫でしょう」
アイネスはこう答えたものの、数日後には自分の考えが非常に甘かったのを知り、頭を抱える羽目になる。
「素人の僕が言うのもどうかと思いますが、あまりガチガチに縛らない方がいいですよ。もっとも、本人の生命が一番大事ですから、生命の危険があるときは、先生、ベッドに括りつけるなり、麻酔で眠らせるなりしてでも治療してください」
どこまでが冗談でどこまでが本気なのかわからないが、通信の相手は大真面目にアイネスにそう懇願した。
「そんな危ないことはしませんが……治療の件は承知しました」
アイネスは相手の言葉を額面通りに受け取ったのか、若者を諭すような調子で答えた。
「こんなことになってしまったけど、本当なら僕じゃなくウォーリーが社長をやるべきなんだ。ウォーリーだったら、うちの社員たちも上手に引っ張っていける。彼はうちを辞めてしまったけど、いつか必ずトップになる人だ。僕が協力できることはあまりないけど、何とかしたい。治療費が足りないなら遠慮なく言ってください。とにかく、彼は今死んでしまってはいけない人材なのです、僕と違って」
あくまで通信の相手は必死だった。それだけウォーリーの身を案じているのだろう。
「社長、難しい症状ですが、全力を尽くします」
「アイネス先生、よろしくお願いします」
そこで通信が切れた。
アイネスの通信の相手はECN社社長、オイゲン・イナであった。
オイゲンの父の主治医がアイネスであり、オイゲンもアイネスをよく知っている。
アイネスは自分の所に運ばれた重体の患者がECN社の関係者らしいとわかったとき、オイゲンに連絡を入れたのだった。
それを聞いたオイゲンは秘書のメイ・カワナに依頼し、社長名でウォーリーの部下たちに宛ててウォーリー入院の情報を流した。三月二七日の夕方のことである。
そして、オイゲンは翌日の三月二八日、ウォーリーの退職を総務経由で全従業員向けに通達したのであった。
ウォーリーを慕う者達にウォーリーの現状を早急に伝えたい、そう考えたオイゲンの心遣いであった。ECN社社長のオイゲン・イナとはこのような人物だった。
「どうやら彼もおとなしく治療を受けてくれそうです。助かりました」
「……いや、ウォーリーのことだからどうかな……? 先生にはちょっと扱いにくいかも知れませんよ」
アイネスの言葉に通信の相手は懐疑的な反応を見せた。
「案外素直なところもあるから、大丈夫でしょう」
アイネスはこう答えたものの、数日後には自分の考えが非常に甘かったのを知り、頭を抱える羽目になる。
「素人の僕が言うのもどうかと思いますが、あまりガチガチに縛らない方がいいですよ。もっとも、本人の生命が一番大事ですから、生命の危険があるときは、先生、ベッドに括りつけるなり、麻酔で眠らせるなりしてでも治療してください」
どこまでが冗談でどこまでが本気なのかわからないが、通信の相手は大真面目にアイネスにそう懇願した。
「そんな危ないことはしませんが……治療の件は承知しました」
アイネスは相手の言葉を額面通りに受け取ったのか、若者を諭すような調子で答えた。
「こんなことになってしまったけど、本当なら僕じゃなくウォーリーが社長をやるべきなんだ。ウォーリーだったら、うちの社員たちも上手に引っ張っていける。彼はうちを辞めてしまったけど、いつか必ずトップになる人だ。僕が協力できることはあまりないけど、何とかしたい。治療費が足りないなら遠慮なく言ってください。とにかく、彼は今死んでしまってはいけない人材なのです、僕と違って」
あくまで通信の相手は必死だった。それだけウォーリーの身を案じているのだろう。
「社長、難しい症状ですが、全力を尽くします」
「アイネス先生、よろしくお願いします」
そこで通信が切れた。
アイネスの通信の相手はECN社社長、オイゲン・イナであった。
オイゲンの父の主治医がアイネスであり、オイゲンもアイネスをよく知っている。
アイネスは自分の所に運ばれた重体の患者がECN社の関係者らしいとわかったとき、オイゲンに連絡を入れたのだった。
それを聞いたオイゲンは秘書のメイ・カワナに依頼し、社長名でウォーリーの部下たちに宛ててウォーリー入院の情報を流した。三月二七日の夕方のことである。
そして、オイゲンは翌日の三月二八日、ウォーリーの退職を総務経由で全従業員向けに通達したのであった。
ウォーリーを慕う者達にウォーリーの現状を早急に伝えたい、そう考えたオイゲンの心遣いであった。ECN社社長のオイゲン・イナとはこのような人物だった。
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