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第十章
467:地熱発電所の火災
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「アズマイとの通信はつながるか?」
アカシがヤギサワに問うた。
ヤギサワはちらりとタカノの方を見る。
「……だめです。出る気配がないですね」
「電波が届かないとかか?」
「電波は入っています。いくら鳴らしても出ないんです……」
タカノの反応を見たヤギサワの表情が曇る。
「出るときに何かあったら連絡してくれとアズマイに声をかければよかったのかな……」
タカノがつぶやいた。
アカシは、気にするな、とタカノを労わってから他の社員なり知人なりと連絡を取るように指示した。
今度は地熱発電所と連絡を取ろうと試みる。
アカシが到着が遅れる旨を伝えようとしたところ、急に相手方が騒がしくなった。
「何だ?」
アカシが問うと、つい今しがた発電所の作業現場で火事が発生したようだ、という回答が得られた。
「ようだ」という言葉で、アカシは発電所側も現状を把握し切れていないことを悟った。
「わかった! ならば急いで駆けつける!」
アカシは通信を切るとタカノ、ヤギサワの二人に向かって叫んだ。
「発電所が火事だ! 急いで応援に駆けつけるぞ!」
アカシの身体は、その言葉が終わらないうちに発電所のほうへと駆け出していた。
慌ててタカノ、ヤギサワの二人が続く。
(モトムラさんが言っていたのはこれか! 今ならまだ間に合うはずだ!)
アカシは一見すると「小太り」の範疇に入りそうなくらいの体格であるが、それに似合わず俊足である。
むしろ、アカシより少し若いはずのタカノやヤギサワの二人の方が遅れ気味である。
「おい! あんまり遅れるな! ことは急を要するぞ!」
アカシの言葉にタカノとヤギサワが必死で彼の後を追う。
そして、ヤギサワが脱落する寸前に発電所が見えてきた。
実際に走っていたのは五、六分のことなのだが、タカノやヤギサワにはとてつもなく長い時間、駆け続けたように思われた。
「着いたぞ! 火事はどこだ!?」
アカシが事務所と思われる建物の扉をほとんど体当たりするように開けて叫んだ。
中にいた事務員と思われる老人が窓の先を震える手で指差した。
その指の先には、もうもうと立ち上がる黒煙が映し出されていた。
「あれが掘削現場か?!」
アカシの言葉の凄みに気圧されたのか、老人は機械仕掛けの人形のように首を縦に振り続けた。
「ちっ!」
アカシが舌打ちしながら事務所を飛び出した。
タカノ、ヤギサワの順番でアカシに続いていく。
掘削現場の位置はすぐに判明した。
黒煙を取り巻くように一〇名ほどの人だかりが見えたからだ。
「中に人は残されていないか?!」
アカシが人だかりに向かって怒鳴った。
「わかりません、今、作業員を集めて点呼を取っているところです!」
「早くしろ!」
中に人が残されているかどうかは重大な問題である。
作業員の位置を把握できていないという、この現場の怠慢さをアカシは腹立たしく思ったが、今は怒りに身を任せてよい場合でないことも知っていた。
確認の結果、四〇名ほどの作業員のうち所在が確認できていない者が七名いることが判明した。
また、それとは別に火傷や一酸化炭素中毒などで病院に運ばれた者が一二名いるという。
「行方のわからない七人は作業場のどのあたりで作業をしていた?!」
アカシが近くの者を次々につかまえて問いただす。
しかし、答えらしい答えは得られなかった。
「責任者、監督者はどこだ?!」
この問いには、すぐに明確な答えが得られた。
この現場には一人の総責任者と、四名の監督者がいたらしい。
そのうち総責任者と三名の監督者は重い火傷で病院に運ばれたようだ。
そして、残りの一名は所在の確認が取れていない者のリストに入っている。
「何てこった! リーダークラスが全滅か!」
アカシが拳で手にしたヘルメットを叩いた。
しかし、すぐに気を取りなおして、近くの者に問うた。
「ここ以外の現場や出入口はないのか?!」
すると、現在はほとんど使われていない出入口があり、そちらにも何人か人を回している、とのことであった。
アカシは突入のためのマスクなどの準備を指示してから、作業員一人に案内させてもう一方の出入口へと向かった。タカノとヤギサワの二人も引き連れている。
出入口に向かう途中、二人の作業員が額や口に手をやりながらおぼつかない足取りで歩いてくるのが見えた。
アカシらを先導している作業員がそれに気付き、手を振った。
「行方不明の連中か?」
アカシが尋ねると、そうだ、という答えが返ってきた。
「中に取り残された者はいないのか?!」
アカシが待ちきれないとばかりに二人の作業員に駆け寄りながら叫ぶ。
駆け寄ってくるアカシに二人は怪訝な表情を見せていたが、すぐに一人が気を取り直し、弱弱しい声で答えた。
「動けないのが五人、入口の外で待っているんだ……」
「わかった! タカノ! お前は走って救護できる奴を連れて来るんだ! ヤギサワは二人を事務所に連れて行ってくれ! 俺は出入口へ行く!」
アカシが周りの者にてきぱきと指示を与えていく。
そして、自身は案内役を一人連れて出入口へと走った。
アカシがヤギサワに問うた。
ヤギサワはちらりとタカノの方を見る。
「……だめです。出る気配がないですね」
「電波が届かないとかか?」
「電波は入っています。いくら鳴らしても出ないんです……」
タカノの反応を見たヤギサワの表情が曇る。
「出るときに何かあったら連絡してくれとアズマイに声をかければよかったのかな……」
タカノがつぶやいた。
アカシは、気にするな、とタカノを労わってから他の社員なり知人なりと連絡を取るように指示した。
今度は地熱発電所と連絡を取ろうと試みる。
アカシが到着が遅れる旨を伝えようとしたところ、急に相手方が騒がしくなった。
「何だ?」
アカシが問うと、つい今しがた発電所の作業現場で火事が発生したようだ、という回答が得られた。
「ようだ」という言葉で、アカシは発電所側も現状を把握し切れていないことを悟った。
「わかった! ならば急いで駆けつける!」
アカシは通信を切るとタカノ、ヤギサワの二人に向かって叫んだ。
「発電所が火事だ! 急いで応援に駆けつけるぞ!」
アカシの身体は、その言葉が終わらないうちに発電所のほうへと駆け出していた。
慌ててタカノ、ヤギサワの二人が続く。
(モトムラさんが言っていたのはこれか! 今ならまだ間に合うはずだ!)
アカシは一見すると「小太り」の範疇に入りそうなくらいの体格であるが、それに似合わず俊足である。
むしろ、アカシより少し若いはずのタカノやヤギサワの二人の方が遅れ気味である。
「おい! あんまり遅れるな! ことは急を要するぞ!」
アカシの言葉にタカノとヤギサワが必死で彼の後を追う。
そして、ヤギサワが脱落する寸前に発電所が見えてきた。
実際に走っていたのは五、六分のことなのだが、タカノやヤギサワにはとてつもなく長い時間、駆け続けたように思われた。
「着いたぞ! 火事はどこだ!?」
アカシが事務所と思われる建物の扉をほとんど体当たりするように開けて叫んだ。
中にいた事務員と思われる老人が窓の先を震える手で指差した。
その指の先には、もうもうと立ち上がる黒煙が映し出されていた。
「あれが掘削現場か?!」
アカシの言葉の凄みに気圧されたのか、老人は機械仕掛けの人形のように首を縦に振り続けた。
「ちっ!」
アカシが舌打ちしながら事務所を飛び出した。
タカノ、ヤギサワの順番でアカシに続いていく。
掘削現場の位置はすぐに判明した。
黒煙を取り巻くように一〇名ほどの人だかりが見えたからだ。
「中に人は残されていないか?!」
アカシが人だかりに向かって怒鳴った。
「わかりません、今、作業員を集めて点呼を取っているところです!」
「早くしろ!」
中に人が残されているかどうかは重大な問題である。
作業員の位置を把握できていないという、この現場の怠慢さをアカシは腹立たしく思ったが、今は怒りに身を任せてよい場合でないことも知っていた。
確認の結果、四〇名ほどの作業員のうち所在が確認できていない者が七名いることが判明した。
また、それとは別に火傷や一酸化炭素中毒などで病院に運ばれた者が一二名いるという。
「行方のわからない七人は作業場のどのあたりで作業をしていた?!」
アカシが近くの者を次々につかまえて問いただす。
しかし、答えらしい答えは得られなかった。
「責任者、監督者はどこだ?!」
この問いには、すぐに明確な答えが得られた。
この現場には一人の総責任者と、四名の監督者がいたらしい。
そのうち総責任者と三名の監督者は重い火傷で病院に運ばれたようだ。
そして、残りの一名は所在の確認が取れていない者のリストに入っている。
「何てこった! リーダークラスが全滅か!」
アカシが拳で手にしたヘルメットを叩いた。
しかし、すぐに気を取りなおして、近くの者に問うた。
「ここ以外の現場や出入口はないのか?!」
すると、現在はほとんど使われていない出入口があり、そちらにも何人か人を回している、とのことであった。
アカシは突入のためのマスクなどの準備を指示してから、作業員一人に案内させてもう一方の出入口へと向かった。タカノとヤギサワの二人も引き連れている。
出入口に向かう途中、二人の作業員が額や口に手をやりながらおぼつかない足取りで歩いてくるのが見えた。
アカシらを先導している作業員がそれに気付き、手を振った。
「行方不明の連中か?」
アカシが尋ねると、そうだ、という答えが返ってきた。
「中に取り残された者はいないのか?!」
アカシが待ちきれないとばかりに二人の作業員に駆け寄りながら叫ぶ。
駆け寄ってくるアカシに二人は怪訝な表情を見せていたが、すぐに一人が気を取り直し、弱弱しい声で答えた。
「動けないのが五人、入口の外で待っているんだ……」
「わかった! タカノ! お前は走って救護できる奴を連れて来るんだ! ヤギサワは二人を事務所に連れて行ってくれ! 俺は出入口へ行く!」
アカシが周りの者にてきぱきと指示を与えていく。
そして、自身は案内役を一人連れて出入口へと走った。
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