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四月五日(土)
気質保護員の休日その1
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休日の話をするのは初めてかもしれない。
ちなみにうちの会社の場合、気質保護員は月一一日の休日がある。
いつ休むかは担当する保有者、それと会社との相談で決める。
これとは別に有給休暇がある。
割と休みの多い仕事だと思うが、本当に恵まれている。
希少気質保有者保護制度に感謝したい。
ちなみにうちの会社の気質保護員は、土日祝を休みにする人が多いと思う。
嬉経野デベロップサービスは希少気質保有者保護専業の会社ではないから、他部署にも配慮しているのだと思う。
今日は学生時代からの友人たちと要央の中心街で飲む予定だ。
その前に仕事用の鞄を買った。
今使っているやつは微妙に小さくて、ノートパソコンを入れると外からの衝撃で壊れないか心配なサイズだからだ。
友人たちとは一八時半に要央中央駅の近くにあるクラフトビールの店で待ち合わせだ。
何人かがクラフトビール好きで、最近はその手の店で飲むことが少なくない。
残念ながら自分はクラフトビールのことはよくわからないが、セゾンとかいう柑橘系の香りのするやつは飲みやすくて好みだ。
三〇近くになってもどういう訳か酒の苦みはあまり好きになれない。
コーヒーやお茶は平気なので、苦み全般がダメということではないのだが……
「おおっ! 有触、来たな。こっちだ」
一八時半前に店に入ったのだが、自分の到着は四人中三番目だった。
自分の周りには、待ち合わせ時間より早く来るメンバーが多い。穏円さんもそのタイプだ。
手を挙げて自分を呼んだのは保利という奴で、クラフトビール好きの一人だ。
小太りで見るからに気のいい奴といった風貌。実物も外見に偽りなしだと思う。
「最後は井豆見だな。俺らだけ先に注文しておくか」
そう言ってメニューを見ているのは来馬といって、うちのグループにしては珍しく小洒落た服装をしている。
大学時代は同じ写真同好会に所属していて、自分とは違って真剣に写真を撮っていた奴だ。
奴もクラフトビール好きで、保利と一緒に醸造所を回っているらしい。
自分も含めた三人が井豆見の到着を待たずに、最初の一杯を注文した。
明文化されていないが、これがこのグループのルールだ。
こうした方が遅れる奴も気を遣わないで済む。
まだ一八時半前なので井豆見は遅れた訳ではないが。
「こうやって四人全員が集まるのも半年ぶりか? 俺が足を引っ張っちゃっていて申し訳ない」
一番遅く到着した井豆見が言った。奴の名誉のためにも待ち合わせの一八時半には間に合ったことは書いておこう。
奴の仕事は自分と同じで必ずしも土日が休みとならない。
担当する保有者と休みを調整すればどうにかなる自分と比較して、井豆見は他のメンバーと都合を合わせるのが難しい。
「だね。でも、俺や来馬も住んでいるところが遠いからなぁ。お互い様だよ」
保利が取り皿を全員に配った。
自分と井豆見は要央から三〇分そこそこの圏内に住んでいるが、保利と来馬は一時間半くらいかかる。
それでも住んでいる方向がバラバラなので、皆が集合しやすいのは要央なのだ。
来馬などは要央周辺に出張することがあり、その時には都合がつくメンバーで集まることもある。
大学を出てから七年ちょっとになるが、自分を含めてこの四人はあまり変わっていない。
自分と保利が転職し、井豆見に転勤があったくらいだ。
四人の関係はこんな感じだ。
自分と来馬、井豆見の三人が同じ写真同好会の同期になる。
他にも同期が五人いたが、何故かこの三人は気が合った。
保利は写真同好会ではなく、大学時代は無線部の所属だった。
保利と来馬が同じ電気工学科で仲が良かったためか、写真同好会に遊びに来るようになり、四人で行動することが多くなったのだ。
ちなみに自分は環境科学科、井豆見は機械工学科だった。学部は四人とも理工学部だ。
今でもこの四人で集まれるのは、お互いの距離の取り方が良かったのだろうと思う。
「ハクセ(焼いた豚の脚)を予約していたよな? だったら料理は野菜系中心で頼もう」
来馬がメニューから料理を選んで端末に入力していく。
この店では端末でオーダーをするのだ。
「さすがに三〇にもなると、肉ばかりはキツいからなぁ」
「三〇は保利だけだぞ。他の三人は二九だし」
「はは、井豆見の言う通りだけどね」
保利と井豆見のこのやり取りはお約束だ。
四人の中で唯一一浪の保利だけが一つ年上なのだ。
数字的に二九と三〇の差は大きいような気もするけど、実は保利と井豆見は生年月日が二週間ちょっとしか離れていない。
井豆見も来週誕生日を迎えるので、大した差はないだろう。
「そういえば、有触。田加良が結婚したって知っているか?」
「いや、自分は聞いてないな。学校出てから連絡すら取ってなかったし。井豆見は誰から聞いたんだ?」
田加良というのも同じ写真同好会の同期だ。
井豆見が自分に振ってきたのは、田加良が自分と同じ環境科学科だったからだ。
「写真同好会で結婚第一号だ。そろそろ俺らもそういう年になったのか……」
確かに三〇ともなれば、結婚する奴が出てきても遅くない。
写真同好会があったキャンパスには理工学部だけがあったから、圧倒的に男が多い。
写真同好会も見事にメンバーは男だけだ。
自分の所属していた環境科学科は女性比率が比較的高かったが、それでも学年で女性は五人だけだった。
そういう事情もあって、結婚は遅めになる人が多そうだとは思う。
「田加良が結婚したのかぁ。それはめでたいね。という訳でこのスペシャルスタウトで乾杯しようか」
「保利、それは自分が飲みたいだけだろう。まあ、付き合うけど。順番的には後の方がいいけど無くなりそうだから今のうちに頼んでおくか」
クラフトビール好きの保利、来馬コンビが「本日のスペシャル」と書かれたメニューを二人で見ている。
「よかったら井豆見と有触も飲んでみたら?」
保利がそう勧めてきたので、メニューを覗き込む。
アルコール度数九パーセントか、ちょっときつそうだな。でも、クラフトビール好きの保利が勧めてきたのだから、ハズレはないだろう。
「じゃ、ハーフでもらうよ。さすがにパイントだと死にそうだ」
実は四人の中で自分が一番酒に弱い。なので、こういうところはセーブしておくべきだ。それを咎めるメンバーもいないことだし。
「俺はパイントで。ハクセもそろそろ来るんじゃないか?」
井豆見は躊躇なく保利の勧めに乗った。
「じゃ、田加良の結婚にカンパーイ!」
何故か井豆見が音頭をとって乾杯した。
スペシャルスタウトとほぼ同時にハクセも運ばれてきたので、タイミング的にはちょうどいい。
目の前に置かれた肉の塊には強烈な存在感がある。
確か一三〇〇グラムと書いてあったけど、これ四人で食べられるのだろうか?
運んできた店員は「本場では一人前」と言っていたけど、正気を疑いたくなる。
六、七人分はありそうだ。サワジュンさんでもいれば話は別だが。
「ピクルスやサラダもあるから、飽きそうになったらそれで休憩すればいい」
来馬はこうなることを見越して野菜系の料理を注文していたのか。
なるほど、計画性が高い彼らしい。
それからしばらくはほぼ無言で肉の塊と格闘した。
「なんだ、案外食えるじゃないか」
井豆見が骨から肉をはがした。
肉の部分はかなり少なくなっていて、骨が姿を現している。
そのためか、皆にも余裕が出始めてきた。
「でも肉はもういいって感じなんだけどね」
保利がピクルスをつまんだ。
「……そろそろ落ち着いたか。だったら話すとするか」
不意に来馬がそう切り出してきた。
三人の視線が来馬に集まった。
ちなみにうちの会社の場合、気質保護員は月一一日の休日がある。
いつ休むかは担当する保有者、それと会社との相談で決める。
これとは別に有給休暇がある。
割と休みの多い仕事だと思うが、本当に恵まれている。
希少気質保有者保護制度に感謝したい。
ちなみにうちの会社の気質保護員は、土日祝を休みにする人が多いと思う。
嬉経野デベロップサービスは希少気質保有者保護専業の会社ではないから、他部署にも配慮しているのだと思う。
今日は学生時代からの友人たちと要央の中心街で飲む予定だ。
その前に仕事用の鞄を買った。
今使っているやつは微妙に小さくて、ノートパソコンを入れると外からの衝撃で壊れないか心配なサイズだからだ。
友人たちとは一八時半に要央中央駅の近くにあるクラフトビールの店で待ち合わせだ。
何人かがクラフトビール好きで、最近はその手の店で飲むことが少なくない。
残念ながら自分はクラフトビールのことはよくわからないが、セゾンとかいう柑橘系の香りのするやつは飲みやすくて好みだ。
三〇近くになってもどういう訳か酒の苦みはあまり好きになれない。
コーヒーやお茶は平気なので、苦み全般がダメということではないのだが……
「おおっ! 有触、来たな。こっちだ」
一八時半前に店に入ったのだが、自分の到着は四人中三番目だった。
自分の周りには、待ち合わせ時間より早く来るメンバーが多い。穏円さんもそのタイプだ。
手を挙げて自分を呼んだのは保利という奴で、クラフトビール好きの一人だ。
小太りで見るからに気のいい奴といった風貌。実物も外見に偽りなしだと思う。
「最後は井豆見だな。俺らだけ先に注文しておくか」
そう言ってメニューを見ているのは来馬といって、うちのグループにしては珍しく小洒落た服装をしている。
大学時代は同じ写真同好会に所属していて、自分とは違って真剣に写真を撮っていた奴だ。
奴もクラフトビール好きで、保利と一緒に醸造所を回っているらしい。
自分も含めた三人が井豆見の到着を待たずに、最初の一杯を注文した。
明文化されていないが、これがこのグループのルールだ。
こうした方が遅れる奴も気を遣わないで済む。
まだ一八時半前なので井豆見は遅れた訳ではないが。
「こうやって四人全員が集まるのも半年ぶりか? 俺が足を引っ張っちゃっていて申し訳ない」
一番遅く到着した井豆見が言った。奴の名誉のためにも待ち合わせの一八時半には間に合ったことは書いておこう。
奴の仕事は自分と同じで必ずしも土日が休みとならない。
担当する保有者と休みを調整すればどうにかなる自分と比較して、井豆見は他のメンバーと都合を合わせるのが難しい。
「だね。でも、俺や来馬も住んでいるところが遠いからなぁ。お互い様だよ」
保利が取り皿を全員に配った。
自分と井豆見は要央から三〇分そこそこの圏内に住んでいるが、保利と来馬は一時間半くらいかかる。
それでも住んでいる方向がバラバラなので、皆が集合しやすいのは要央なのだ。
来馬などは要央周辺に出張することがあり、その時には都合がつくメンバーで集まることもある。
大学を出てから七年ちょっとになるが、自分を含めてこの四人はあまり変わっていない。
自分と保利が転職し、井豆見に転勤があったくらいだ。
四人の関係はこんな感じだ。
自分と来馬、井豆見の三人が同じ写真同好会の同期になる。
他にも同期が五人いたが、何故かこの三人は気が合った。
保利は写真同好会ではなく、大学時代は無線部の所属だった。
保利と来馬が同じ電気工学科で仲が良かったためか、写真同好会に遊びに来るようになり、四人で行動することが多くなったのだ。
ちなみに自分は環境科学科、井豆見は機械工学科だった。学部は四人とも理工学部だ。
今でもこの四人で集まれるのは、お互いの距離の取り方が良かったのだろうと思う。
「ハクセ(焼いた豚の脚)を予約していたよな? だったら料理は野菜系中心で頼もう」
来馬がメニューから料理を選んで端末に入力していく。
この店では端末でオーダーをするのだ。
「さすがに三〇にもなると、肉ばかりはキツいからなぁ」
「三〇は保利だけだぞ。他の三人は二九だし」
「はは、井豆見の言う通りだけどね」
保利と井豆見のこのやり取りはお約束だ。
四人の中で唯一一浪の保利だけが一つ年上なのだ。
数字的に二九と三〇の差は大きいような気もするけど、実は保利と井豆見は生年月日が二週間ちょっとしか離れていない。
井豆見も来週誕生日を迎えるので、大した差はないだろう。
「そういえば、有触。田加良が結婚したって知っているか?」
「いや、自分は聞いてないな。学校出てから連絡すら取ってなかったし。井豆見は誰から聞いたんだ?」
田加良というのも同じ写真同好会の同期だ。
井豆見が自分に振ってきたのは、田加良が自分と同じ環境科学科だったからだ。
「写真同好会で結婚第一号だ。そろそろ俺らもそういう年になったのか……」
確かに三〇ともなれば、結婚する奴が出てきても遅くない。
写真同好会があったキャンパスには理工学部だけがあったから、圧倒的に男が多い。
写真同好会も見事にメンバーは男だけだ。
自分の所属していた環境科学科は女性比率が比較的高かったが、それでも学年で女性は五人だけだった。
そういう事情もあって、結婚は遅めになる人が多そうだとは思う。
「田加良が結婚したのかぁ。それはめでたいね。という訳でこのスペシャルスタウトで乾杯しようか」
「保利、それは自分が飲みたいだけだろう。まあ、付き合うけど。順番的には後の方がいいけど無くなりそうだから今のうちに頼んでおくか」
クラフトビール好きの保利、来馬コンビが「本日のスペシャル」と書かれたメニューを二人で見ている。
「よかったら井豆見と有触も飲んでみたら?」
保利がそう勧めてきたので、メニューを覗き込む。
アルコール度数九パーセントか、ちょっときつそうだな。でも、クラフトビール好きの保利が勧めてきたのだから、ハズレはないだろう。
「じゃ、ハーフでもらうよ。さすがにパイントだと死にそうだ」
実は四人の中で自分が一番酒に弱い。なので、こういうところはセーブしておくべきだ。それを咎めるメンバーもいないことだし。
「俺はパイントで。ハクセもそろそろ来るんじゃないか?」
井豆見は躊躇なく保利の勧めに乗った。
「じゃ、田加良の結婚にカンパーイ!」
何故か井豆見が音頭をとって乾杯した。
スペシャルスタウトとほぼ同時にハクセも運ばれてきたので、タイミング的にはちょうどいい。
目の前に置かれた肉の塊には強烈な存在感がある。
確か一三〇〇グラムと書いてあったけど、これ四人で食べられるのだろうか?
運んできた店員は「本場では一人前」と言っていたけど、正気を疑いたくなる。
六、七人分はありそうだ。サワジュンさんでもいれば話は別だが。
「ピクルスやサラダもあるから、飽きそうになったらそれで休憩すればいい」
来馬はこうなることを見越して野菜系の料理を注文していたのか。
なるほど、計画性が高い彼らしい。
それからしばらくはほぼ無言で肉の塊と格闘した。
「なんだ、案外食えるじゃないか」
井豆見が骨から肉をはがした。
肉の部分はかなり少なくなっていて、骨が姿を現している。
そのためか、皆にも余裕が出始めてきた。
「でも肉はもういいって感じなんだけどね」
保利がピクルスをつまんだ。
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