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三月一八日(火)
気質保護員の一日
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穏円さんと自分は同じ沿線に住んでいる。
住所的には会社のオフィスがある要央区の隣にある妙木市になる。
隣と言っても妙木市は広いので、自分の場合オフィスの最寄駅から自宅の最寄り駅までは直通電車で二〇分くらいかかる。
妙木市駅で穏円さんが電車を降りた。
自分の家の最寄駅は一つ先の東妙木という駅だ。
穏円さんが住んでいる妙木市駅と隣の妙木駅が妙木市の中心部で、自分が住んでいる東妙木は住宅地だ。
穏円さんと別れて二〇分ほどで家に着いた。
それから報告書を作って提出したら一八時近くになっていた。
報告内容をざっくり書くと次のようになる。
一〇時一五分、青面駅前のカフェAで担当保有者(穏円さんのこと)と合流。
その後、担当保有者が幹事役となる宴会の店探しを手伝い、B飲食店で昼食をとる。
昼食後、徒歩でC図書館へ移動し担当保有者の調べものを手伝う。
調べものが終わった後は妙木市駅(担当保有者居住地)まで同行、一六時五〇分、電車からの降車を確認した。
担当保有者の精神状態、健康状態はおおむね良好と思われる。
ここでは店などの固有名詞は伏せているが、報告書では固有名詞もそのまま記載している。
業務時間中は自分も持たされているスマホのGPSで居場所を管理されているし、保有者の穏円さんはそれが二四時間三六五日になる。
だから、虚偽の報告をしようものならすぐにバレてしまうだろう。
さて、ここで自分が気質保護員として日常どのような活動をしているか話してみよう。
休みの日の話をしても誰も興味を持たないと思うので、あくまで仕事のある日の話だ。
仕事のある日のパターンは大きく分けてみっつだ。多少の例外はあるけど。
最初は今日のように保有者と会う日パターンだ。
通常一〇時から一一時の間で待ち合わせる。
その後は穏円さんの希望次第だが、今日のように彼の用事に付き合ったり、彼が参加しているサークルにお邪魔したりする。
気質保護員が担当する保有者を見守るのは月一六~一八日で一日あたり六時間程度とされているので、一六時から一七時には穏円さんと別れる。
最後にオフィスか自宅で報告書を作って提出する。
このパターンは週二日くらいになる。
ふたつ目は穏円さんとは顔を合わせずに彼を見守るパターン。
これも週二日くらいだけど、直接会うのと比べると回数が多いと思う。
この場合は九時四五分から一〇時一五分の間に穏円さんからチャットで連絡が入る。
穏円さんからの連絡がないときは一〇時一五分にこちらから連絡をする。
これには安否確認の意味もある。
向こうから連絡がなくこちらからの連絡にも返答がなければ、穏円さんの身に何かあった可能性が考えられる。
この場合は上司に連絡すると同時に自分も穏円さんの自宅に駆けつけなければならない。
今までそのようなことはなかったけど。
最初の連絡が入った後は、大体一時間から二時間おきに穏円さんから連絡が入るか、こちらから穏円さんに連絡を入れる。
何をしているか?
気分や体調はどうか?
必要なものはあるか?
気質保護員マニュアルに書かれている推奨質問事項はこのみっつだ。
しかし、それでは少々うざったい気もするので、状況に応じて内容は変えている。
こちらの状況を伝えることもあれば、面白そうなものの情報を送ることもある。
すると穏円さんが返信で感想とかと一緒に現状を伝えてくる。
これを一六時半くらいまで繰り返す。
最後に報告書を作って提出するところは同じだ。
最後は研修や出勤日などで、穏円さんと最低限の連絡だけとるパターンだ。
これは二週に一日くらい。
ふたつ目のパターンの最初と最後の連絡だけ取る形になることが多い。
もちろん報告書は提出しなければならない。
気質保護員には受けなければならない研修が割と多いのが玉に瑕だ。
資格維持のためには必要だし、ためになるものもあるので我慢できないというほどではないが。
担当するのが穏円さんということもあってかなり仕事はやりやすい。
そういう意味では恵まれているのだろう。
勤務中、居場所を常に把握されるのが嫌という人もいるけど、自分はあまり気にならない方だ。
担当する保有者との相性が悪いとかなり嫌な仕事になるだろうが、恵まれた仕事だと感じる人もいると思う。自分もその一人だ。
仕事のある日の活動、で思い出したけど、気質保護員というのは必ずしも他人から良い印象を持たれている仕事ではない。
会社の同じ部署には、仕事を知り合いに知られたくないという人もいる。
中には奥さんや家族に一切仕事のことを話していない人もいるらしい。
自分はあまり気にしていないけど、聞かれない限り自分が何の仕事をしているか話すことはない。
まあ、親しい友人は皆知っているけどね。
制度自体にはあまり賛成できないという友人もいるけど、自分がこの仕事をしていることで縁を切るような奴がいなかったのは幸運だ。
今のところ希少気質保護制度自体が一般にあまり知れ渡っていないから「希少気質保護員」と言ってもピンとこない人の方が多い。
ただ、この制度を目の敵にしている人や、保有者の気質を変えることこそが正義だと考える人は確実にいる。
こうした人の存在を保有者に意識させないことや、こうした人たちから保有者を守るのも気質保護員の仕事だ。
多くの保有者には必要ないものだけど、こうした人たちに目をつけられている保有者にはボディーガードがつくケースもある。
うちの会社で担当している保有者にもそういう人がいる。
気質保護員は警護の専門家ではないし、カウンセラーでもない。
身近な仲間として保有者が安心して過ごせる日常を支える、という形で彼らを守る存在だと自分は思っている。
時計を見たら一八時半を回っていた。
この時間なら冷蔵庫にあるものでさっと夕飯を作ってしまおう。
もともとそのつもりで、帰りがけにスーパーに寄って買い物も済ませてある。
前の会社にいたときは休みの日にまとめて料理して、仕事の日の夕食は作り置きをレンチンするか外食することが多かった。
今の会社に移ってからは、仕事の日でも半分くらいは当日に自炊することができる。
穏円さんの言葉を借りると「それが本来の仕事の在り方じゃないかな」ということらしい。
とにかくこの状況はありがたい。
今の状況が一日でも長く続いてくれることを願いたいものだ。
さて、明日は自宅で仕事をする日、すなわち穏円さんと顔を合わせない仕事の日だ。
明日は自分が担当している穏円さんについてもう少し詳しい話をしようか。
時間があれば、自分のことも少し話しておこうと思う。
住所的には会社のオフィスがある要央区の隣にある妙木市になる。
隣と言っても妙木市は広いので、自分の場合オフィスの最寄駅から自宅の最寄り駅までは直通電車で二〇分くらいかかる。
妙木市駅で穏円さんが電車を降りた。
自分の家の最寄駅は一つ先の東妙木という駅だ。
穏円さんが住んでいる妙木市駅と隣の妙木駅が妙木市の中心部で、自分が住んでいる東妙木は住宅地だ。
穏円さんと別れて二〇分ほどで家に着いた。
それから報告書を作って提出したら一八時近くになっていた。
報告内容をざっくり書くと次のようになる。
一〇時一五分、青面駅前のカフェAで担当保有者(穏円さんのこと)と合流。
その後、担当保有者が幹事役となる宴会の店探しを手伝い、B飲食店で昼食をとる。
昼食後、徒歩でC図書館へ移動し担当保有者の調べものを手伝う。
調べものが終わった後は妙木市駅(担当保有者居住地)まで同行、一六時五〇分、電車からの降車を確認した。
担当保有者の精神状態、健康状態はおおむね良好と思われる。
ここでは店などの固有名詞は伏せているが、報告書では固有名詞もそのまま記載している。
業務時間中は自分も持たされているスマホのGPSで居場所を管理されているし、保有者の穏円さんはそれが二四時間三六五日になる。
だから、虚偽の報告をしようものならすぐにバレてしまうだろう。
さて、ここで自分が気質保護員として日常どのような活動をしているか話してみよう。
休みの日の話をしても誰も興味を持たないと思うので、あくまで仕事のある日の話だ。
仕事のある日のパターンは大きく分けてみっつだ。多少の例外はあるけど。
最初は今日のように保有者と会う日パターンだ。
通常一〇時から一一時の間で待ち合わせる。
その後は穏円さんの希望次第だが、今日のように彼の用事に付き合ったり、彼が参加しているサークルにお邪魔したりする。
気質保護員が担当する保有者を見守るのは月一六~一八日で一日あたり六時間程度とされているので、一六時から一七時には穏円さんと別れる。
最後にオフィスか自宅で報告書を作って提出する。
このパターンは週二日くらいになる。
ふたつ目は穏円さんとは顔を合わせずに彼を見守るパターン。
これも週二日くらいだけど、直接会うのと比べると回数が多いと思う。
この場合は九時四五分から一〇時一五分の間に穏円さんからチャットで連絡が入る。
穏円さんからの連絡がないときは一〇時一五分にこちらから連絡をする。
これには安否確認の意味もある。
向こうから連絡がなくこちらからの連絡にも返答がなければ、穏円さんの身に何かあった可能性が考えられる。
この場合は上司に連絡すると同時に自分も穏円さんの自宅に駆けつけなければならない。
今までそのようなことはなかったけど。
最初の連絡が入った後は、大体一時間から二時間おきに穏円さんから連絡が入るか、こちらから穏円さんに連絡を入れる。
何をしているか?
気分や体調はどうか?
必要なものはあるか?
気質保護員マニュアルに書かれている推奨質問事項はこのみっつだ。
しかし、それでは少々うざったい気もするので、状況に応じて内容は変えている。
こちらの状況を伝えることもあれば、面白そうなものの情報を送ることもある。
すると穏円さんが返信で感想とかと一緒に現状を伝えてくる。
これを一六時半くらいまで繰り返す。
最後に報告書を作って提出するところは同じだ。
最後は研修や出勤日などで、穏円さんと最低限の連絡だけとるパターンだ。
これは二週に一日くらい。
ふたつ目のパターンの最初と最後の連絡だけ取る形になることが多い。
もちろん報告書は提出しなければならない。
気質保護員には受けなければならない研修が割と多いのが玉に瑕だ。
資格維持のためには必要だし、ためになるものもあるので我慢できないというほどではないが。
担当するのが穏円さんということもあってかなり仕事はやりやすい。
そういう意味では恵まれているのだろう。
勤務中、居場所を常に把握されるのが嫌という人もいるけど、自分はあまり気にならない方だ。
担当する保有者との相性が悪いとかなり嫌な仕事になるだろうが、恵まれた仕事だと感じる人もいると思う。自分もその一人だ。
仕事のある日の活動、で思い出したけど、気質保護員というのは必ずしも他人から良い印象を持たれている仕事ではない。
会社の同じ部署には、仕事を知り合いに知られたくないという人もいる。
中には奥さんや家族に一切仕事のことを話していない人もいるらしい。
自分はあまり気にしていないけど、聞かれない限り自分が何の仕事をしているか話すことはない。
まあ、親しい友人は皆知っているけどね。
制度自体にはあまり賛成できないという友人もいるけど、自分がこの仕事をしていることで縁を切るような奴がいなかったのは幸運だ。
今のところ希少気質保護制度自体が一般にあまり知れ渡っていないから「希少気質保護員」と言ってもピンとこない人の方が多い。
ただ、この制度を目の敵にしている人や、保有者の気質を変えることこそが正義だと考える人は確実にいる。
こうした人の存在を保有者に意識させないことや、こうした人たちから保有者を守るのも気質保護員の仕事だ。
多くの保有者には必要ないものだけど、こうした人たちに目をつけられている保有者にはボディーガードがつくケースもある。
うちの会社で担当している保有者にもそういう人がいる。
気質保護員は警護の専門家ではないし、カウンセラーでもない。
身近な仲間として保有者が安心して過ごせる日常を支える、という形で彼らを守る存在だと自分は思っている。
時計を見たら一八時半を回っていた。
この時間なら冷蔵庫にあるものでさっと夕飯を作ってしまおう。
もともとそのつもりで、帰りがけにスーパーに寄って買い物も済ませてある。
前の会社にいたときは休みの日にまとめて料理して、仕事の日の夕食は作り置きをレンチンするか外食することが多かった。
今の会社に移ってからは、仕事の日でも半分くらいは当日に自炊することができる。
穏円さんの言葉を借りると「それが本来の仕事の在り方じゃないかな」ということらしい。
とにかくこの状況はありがたい。
今の状況が一日でも長く続いてくれることを願いたいものだ。
さて、明日は自宅で仕事をする日、すなわち穏円さんと顔を合わせない仕事の日だ。
明日は自分が担当している穏円さんについてもう少し詳しい話をしようか。
時間があれば、自分のことも少し話しておこうと思う。
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