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ようちゃん
汗かきのサイダー
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「この年で恋愛ごときでうだうだするのってあんまり良くないと思うんだけど、幼馴染だからこそ付き合って別れちゃったりなんかしたら、なんかもったいない気がして。別れること前提で付き合い始めるってのは良くないっては分かるんだけどね」
ソーダの中のゼリーをスプーンで一つ掬って口に運ぶ。思ったよりも柔らかくするすると体に入っていった。
「まあ、なんとなく分かりますよ。もう恋に盲目みたいな年じゃなくなってきたってことですよね。多分ですけど、付き合ったらその延長線上には結婚があるわけで、そうなると仕事とか家族とか色んなしがらみがありますからね」
私より若いのに人生の解像度が高い。
「そうなんだよね。多分、親は喜ぶと思うんだよね。相手は知ってる人だし、ちゃんとした職業の人だし。でも、別に親のために恋人を作ったり結婚するわけじゃないし」
「勝手な願望で申し訳ないっすけど、俺は陽香さんの作るものが好きだからその才能を枯らさない人と一緒になってほしいなって思います。藤原さんのことはあんまりよく知らないっすけど、自分のやりたいことができなくなったり、価値観が変わりすぎて全くの別人になっちゃうのは嫌っす。俺は昔の陽香さんも今の陽香さんも好きだから。未来の陽香さんも好きでありたいなって思うんで」
「それこそ告白みたい」
フフっと少しだけ口角が上がる。こういう時にまっすぐと伝えてくれるのは若さ故か、彼特有なのか。私は彼の言葉で少し救われたのは事実だった。
「告白ですよ」
その言葉はカフェのお洒落な曲のアコースティックギターがキュッキュッと鳴る音と、正面に座る彼がずっとストローでかき混ぜて抜ける炭酸のシュワシュワという音でかき消される。
「え」
ああ、またからかわれてるんだ。いつもの調子の憎まれ口と同じで私を少し困らせようとしてるだけで。
「冗談とかじゃないですよ。俺は本気で陽香さんのこと好きですよ」
そう言いながらまっすぐ私を見る目は本当だと思わせた。彼はもうストローをいたずらにかき回したりしていない。
「俺は陽香さんと付き合いたいし、結婚だってしたいです。これからは陽香さんが作るものを一番に隣で見たいし、俺が作るものも一番に陽香さんに見せたい。幸せにできるかって言われたらまだ自信はないです。収入だって陽香さんより少ないし。でも、陽香さんを笑わせる自信はあるし、仕事の理解もあると思うし、陽香さんが困るのは俺にだけでいいって思うから。」
カラフルなサイダーは汗をかいて紙のコースターが濡れている。
どう返事しよう。
「ここ最近の陽香さんが藤原さんのことばっかりで頭の中いっぱいになってるのがちょっと嫌で。めっちゃガキっぽいっすけど。でも、俺のことで頭の中いっぱいになって上書きしたいって思って」
目を細めて少し眉間にしわを寄せて言葉の出ない私を見る。彼はそこで初めてサイダーにささっているストローに口を運ぶ。いつもと同じような無表情だけど、耳が赤くなっているのが分かった。
「ありがと。それならもう成功してるかな。私今松澤君のことで頭いっぱいだよ」
「別に返事は今じゃなくていいです。今答えられたら確実にフラれるって分かってるんで。これから好きにさせるつもりっす。藤原さんだけじゃなくて俺のことも考えてください」
「うん」
濡れたグラスを持ち、少し味の薄くなったサイダーを飲む。ブルーハワイって結局なんの味なんだろう。かき氷シロップは全部同じ味付けだというのを私はいまだに信じられない。だっていちご味はいちごの味がするし、レモン味はレモンの味がするし。ブルーハワイはなんだか分かんないけど、やっぱりハワイを感じる。ハワイに行ったことはないけど。
なんだろう。こんなにも頭の中が色んなことでいっぱいなのに少しだけスッキリした気がする。
ソーダの中のゼリーをスプーンで一つ掬って口に運ぶ。思ったよりも柔らかくするすると体に入っていった。
「まあ、なんとなく分かりますよ。もう恋に盲目みたいな年じゃなくなってきたってことですよね。多分ですけど、付き合ったらその延長線上には結婚があるわけで、そうなると仕事とか家族とか色んなしがらみがありますからね」
私より若いのに人生の解像度が高い。
「そうなんだよね。多分、親は喜ぶと思うんだよね。相手は知ってる人だし、ちゃんとした職業の人だし。でも、別に親のために恋人を作ったり結婚するわけじゃないし」
「勝手な願望で申し訳ないっすけど、俺は陽香さんの作るものが好きだからその才能を枯らさない人と一緒になってほしいなって思います。藤原さんのことはあんまりよく知らないっすけど、自分のやりたいことができなくなったり、価値観が変わりすぎて全くの別人になっちゃうのは嫌っす。俺は昔の陽香さんも今の陽香さんも好きだから。未来の陽香さんも好きでありたいなって思うんで」
「それこそ告白みたい」
フフっと少しだけ口角が上がる。こういう時にまっすぐと伝えてくれるのは若さ故か、彼特有なのか。私は彼の言葉で少し救われたのは事実だった。
「告白ですよ」
その言葉はカフェのお洒落な曲のアコースティックギターがキュッキュッと鳴る音と、正面に座る彼がずっとストローでかき混ぜて抜ける炭酸のシュワシュワという音でかき消される。
「え」
ああ、またからかわれてるんだ。いつもの調子の憎まれ口と同じで私を少し困らせようとしてるだけで。
「冗談とかじゃないですよ。俺は本気で陽香さんのこと好きですよ」
そう言いながらまっすぐ私を見る目は本当だと思わせた。彼はもうストローをいたずらにかき回したりしていない。
「俺は陽香さんと付き合いたいし、結婚だってしたいです。これからは陽香さんが作るものを一番に隣で見たいし、俺が作るものも一番に陽香さんに見せたい。幸せにできるかって言われたらまだ自信はないです。収入だって陽香さんより少ないし。でも、陽香さんを笑わせる自信はあるし、仕事の理解もあると思うし、陽香さんが困るのは俺にだけでいいって思うから。」
カラフルなサイダーは汗をかいて紙のコースターが濡れている。
どう返事しよう。
「ここ最近の陽香さんが藤原さんのことばっかりで頭の中いっぱいになってるのがちょっと嫌で。めっちゃガキっぽいっすけど。でも、俺のことで頭の中いっぱいになって上書きしたいって思って」
目を細めて少し眉間にしわを寄せて言葉の出ない私を見る。彼はそこで初めてサイダーにささっているストローに口を運ぶ。いつもと同じような無表情だけど、耳が赤くなっているのが分かった。
「ありがと。それならもう成功してるかな。私今松澤君のことで頭いっぱいだよ」
「別に返事は今じゃなくていいです。今答えられたら確実にフラれるって分かってるんで。これから好きにさせるつもりっす。藤原さんだけじゃなくて俺のことも考えてください」
「うん」
濡れたグラスを持ち、少し味の薄くなったサイダーを飲む。ブルーハワイって結局なんの味なんだろう。かき氷シロップは全部同じ味付けだというのを私はいまだに信じられない。だっていちご味はいちごの味がするし、レモン味はレモンの味がするし。ブルーハワイはなんだか分かんないけど、やっぱりハワイを感じる。ハワイに行ったことはないけど。
なんだろう。こんなにも頭の中が色んなことでいっぱいなのに少しだけスッキリした気がする。
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