ホタルのようちゅう

つかさ農研

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藤原さん

その夜の終わり

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「外暑かったからシャワー浴びてくる~」
こちらの気も知らずに松澤さんと別れた後、少しだけご機嫌な様子で脱衣所に入って行った。
あの男はようちゃんのことが好きで付き合いたいと思っているんだ。俺はどうなんだろう。考えたことがなかったわけではないけど、今のこの曖昧だけど、お互いが異性の中で一番の存在であるという状態が居心地が良かったのに。でもきっとそう思っていたのは自分だけで、ようちゃんにとってはその存在がいつさっきの彼にとって代わってもおかしくないんだなと思った。それは絶対に嫌だな。常にようちゃんにとって俺が一番であってほしいし、俺にとっての一番は間違いなくようちゃんだ。結婚とかそういうのはまだ分かんないけど、これから先の未来、隣にいるのはようちゃんがいい。誰にも取られたくない。
そんなことを考えながらテレビを眺めていると歌番組で知らないアイドルが歌っていた。脱衣所から聞こえるドライヤーの音でどんな歌かは全く聞こえなかった。

部屋に入ってきた彼女はキョトンとした顔で「寝てていいのに」と言い放ってバッグから荷物を取り出し始めた。その姿に少しだけ苛立ってしまった。こっちの焦りも知らないで。
バッグからは彼女が子供のころからあまり興味を示さなかったゲーム機が出てきた。
「ようちゃんゲームするの?」
「これ、松澤君に借りたの」
「えっ、一緒にゲームやりましょう的な?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
ゲーム関係の仕事が入ったのかと思ったら全く違った。またあの男だ。こうやって自分の知らない彼女になっていく気がした。
そう言ってゲームではなくタブレットを手に取り、床に座り絵を描き始めた。そのままベッドに入って寝るのかと思ってたのに。
俺はベッドから滑るように床に座り、彼女の体に腕を回して後ろから抱き着いた。すっぽりと収まる体が自分とは違う女の子を感じさせた。後ろからタブレットを覗くとよく分からない丸いものを描いていた。彼女は全く動揺せずに描き続けていて、自分を異性として見てないんじゃないかと落ち込んだ。彼女の首筋からはこの間とは違うにおいがした。

「ようちゃん、何描いてるの?」
「う~ん、化け物?」
「仕事?」
「仕事じゃないよ」
「趣味?」
「そんな感じかな」
「ようちゃん、ボディクリーム変えた?」
「うん。桜から柑橘系にしたよ。夏だし」
「俺、こっちの方が好き」
「ありがと」
「ようちゃん?」
「ん?」
「好き」
「うん」

彼女は声色を変えずに返事をして会話は終わった。数分後に「もう二時だし寝ようか」と立ち上がりタブレットをテーブルに置いた。

「ホタちゃん前と同じように奥でいいよね?私手前に寝る」
「うん、いいよ」
「じゃあ、電気消すね」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」

彼女はいつもと同じ、何も変わらないような表情、しぐさをこちらに向けた。
その夜はそれで終わった。
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