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藤原さん
出会わない二人
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起きると隣に彼女がいたであろうぬくもりだけがシーツに残っていた。日頃の疲れからか、気付いたら寝ていた。歯磨きもしてないから口の中が少し気持ち悪い。起き上がると、真っ暗なテレビに寝起きの自分の姿が映っていた。ひどい髪型だ。部屋の外の廊下を歩く音がした。人の気配がする空間が久しぶりで少し違和感がある。
「おはよう。ようちゃん、顔怖い」
ドアを開けると冷蔵庫の中を睨んでいる顔の真っ白なようちゃんがいた。
「はよ~。朝パックだよ~。ホタちゃんもする?」
「しない」
「そう。もうお昼だけど何か食べる?」
寝起きであまり食べ物のことは考えられない。
「うん。でもちょっと気持ち悪い」
「二日酔い?」
「そうかも。泊まってっていいって言うから飲みすぎたのかも」
「寝落ちできるって最強だもんね」
実際寝落ちしてしまったし。
部屋に戻り、お茶を一口飲んで、テレビの電源をつけた。テーマパークの夏イベントの特集をしていた。
そういえば、夕方からの貸し切りイベントのチケット、遥先輩に譲ったな。ようちゃんとこういう風に出かける関係になるんだったら譲るんじゃなかった。チケット貰うのが1か月遅かったら。遥先輩は結局合コンでいい感じになった女の子と行けるのかな。聞いたら長くなりそうだから聞かないけど。
「ローストビーフ丼にする?結構余ってるし。ご飯炊くよ」
キッチンの方から彼女の声がした。
「えっ、最高じゃん」
正直あんまりローストビーフ丼の気分じゃなかったけど、作ってくれるのは嬉しいって思った。
ふと、テレビ台の隣の机を見ると乱雑に置かれた紙が散らばっていた。
「ごめん、そこめっちゃ汚い」
ようちゃんが少し慌てた様子で部屋に入ってきた。
「紙いっぱいあるね」
「紙加工のサンプル全部取ってあるんだよね。印刷で色変わったりするし、質感とか知りたいからね」
散らばった紙を揃えながら言う。
「こういうの意外と面白いね」
ざらざらとした紙を触りながら思ってもいないことを言い放つ。自分はあまり素材にこだわってなかったし、一つの仕事が終わったら思い入れのないものは全て処分していた。こういうのを取っておいて次の仕事に繋げてるんだな、と感心した。俺とようちゃんとでは仕事の向き合い方が違うんだなと改めて考えさせられる。
「実際見ると楽しいよね」
正直、その楽しさは共有できなかった。俺とようちゃんは根本的に感覚が違うんだと思った。
ベッドを背もたれにして並んでボーっとテレビを眺める。キッチンから炊飯器の蒸気の音がする。ゆったりとした何でもない時間が流れる。ようちゃんの隣は落ち着くのに少しだけ居心地が悪かった。
「あっ」
バッグの中の鍵のことを思い出して玄関に行く。
「ようちゃん、鍵~」
「あっ、は~い」
何の気なしに手を伸ばす彼女の手のひらに鍵を置く。
「ホタちゃん、これうちの鍵じゃないけど」
キョトンと俺を見る目は外で見る彼女とは違って幼く見える。
「え、俺ん家の鍵。交換しよう」
「半同棲カップルかよ」
なんの迷いもなくそうツッコミを入れられるようちゃんにどう反応していいか分からなかった。
「ようちゃんも来たい時にうちに来ていいよ。汚かったらごめん」
苦笑いをしながら答える。実際は家に帰って寝るだけの生活だからあまり汚くはならないけど。
「清澄白河降りたことないんだよな~」
自分の家の鍵とは形状が違うからかまじまじと鍵を見つめている。
「スカイツリー行った時にでも使ってよ」
東京に住んでいるとスカイツリーに行くことなんてなかなかないと知ってるのに、苦しい言い訳で鍵を押し付けてしまった。
山手線を挟んだ東西では別世界のようだ。東の人は新宿より西には行かないし、西の人は東京駅より西に行くことはそうそうない。生活圏が別だから山手線内でしか出会うことがない。
俺たちは仕事というきっかけがなかったら再会することがない存在だったんだ。
「おはよう。ようちゃん、顔怖い」
ドアを開けると冷蔵庫の中を睨んでいる顔の真っ白なようちゃんがいた。
「はよ~。朝パックだよ~。ホタちゃんもする?」
「しない」
「そう。もうお昼だけど何か食べる?」
寝起きであまり食べ物のことは考えられない。
「うん。でもちょっと気持ち悪い」
「二日酔い?」
「そうかも。泊まってっていいって言うから飲みすぎたのかも」
「寝落ちできるって最強だもんね」
実際寝落ちしてしまったし。
部屋に戻り、お茶を一口飲んで、テレビの電源をつけた。テーマパークの夏イベントの特集をしていた。
そういえば、夕方からの貸し切りイベントのチケット、遥先輩に譲ったな。ようちゃんとこういう風に出かける関係になるんだったら譲るんじゃなかった。チケット貰うのが1か月遅かったら。遥先輩は結局合コンでいい感じになった女の子と行けるのかな。聞いたら長くなりそうだから聞かないけど。
「ローストビーフ丼にする?結構余ってるし。ご飯炊くよ」
キッチンの方から彼女の声がした。
「えっ、最高じゃん」
正直あんまりローストビーフ丼の気分じゃなかったけど、作ってくれるのは嬉しいって思った。
ふと、テレビ台の隣の机を見ると乱雑に置かれた紙が散らばっていた。
「ごめん、そこめっちゃ汚い」
ようちゃんが少し慌てた様子で部屋に入ってきた。
「紙いっぱいあるね」
「紙加工のサンプル全部取ってあるんだよね。印刷で色変わったりするし、質感とか知りたいからね」
散らばった紙を揃えながら言う。
「こういうの意外と面白いね」
ざらざらとした紙を触りながら思ってもいないことを言い放つ。自分はあまり素材にこだわってなかったし、一つの仕事が終わったら思い入れのないものは全て処分していた。こういうのを取っておいて次の仕事に繋げてるんだな、と感心した。俺とようちゃんとでは仕事の向き合い方が違うんだなと改めて考えさせられる。
「実際見ると楽しいよね」
正直、その楽しさは共有できなかった。俺とようちゃんは根本的に感覚が違うんだと思った。
ベッドを背もたれにして並んでボーっとテレビを眺める。キッチンから炊飯器の蒸気の音がする。ゆったりとした何でもない時間が流れる。ようちゃんの隣は落ち着くのに少しだけ居心地が悪かった。
「あっ」
バッグの中の鍵のことを思い出して玄関に行く。
「ようちゃん、鍵~」
「あっ、は~い」
何の気なしに手を伸ばす彼女の手のひらに鍵を置く。
「ホタちゃん、これうちの鍵じゃないけど」
キョトンと俺を見る目は外で見る彼女とは違って幼く見える。
「え、俺ん家の鍵。交換しよう」
「半同棲カップルかよ」
なんの迷いもなくそうツッコミを入れられるようちゃんにどう反応していいか分からなかった。
「ようちゃんも来たい時にうちに来ていいよ。汚かったらごめん」
苦笑いをしながら答える。実際は家に帰って寝るだけの生活だからあまり汚くはならないけど。
「清澄白河降りたことないんだよな~」
自分の家の鍵とは形状が違うからかまじまじと鍵を見つめている。
「スカイツリー行った時にでも使ってよ」
東京に住んでいるとスカイツリーに行くことなんてなかなかないと知ってるのに、苦しい言い訳で鍵を押し付けてしまった。
山手線を挟んだ東西では別世界のようだ。東の人は新宿より西には行かないし、西の人は東京駅より西に行くことはそうそうない。生活圏が別だから山手線内でしか出会うことがない。
俺たちは仕事というきっかけがなかったら再会することがない存在だったんだ。
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