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ドランクール遺跡

ようこそ

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「全くよー。遺跡の調査で遅れを取っちまったじゃねぇか」

 エレナは文句を垂れながら洞窟を歩いていた。

「わ、悪かったよ」

 ソウルは殴られた腹をさすりながら謝る。くそ、まだじんじんと痛む。

「全く、あのヨーゼフ様相手にケンカなんて……無謀にも程があるよ」

 そんなソウルにレイはため息をつく。

「そんな凄いやつなのか?」

「ヨーゼフ様の父親は第1級騎士団の団長なんだ。下手なことしたら騎士団の中でやって行けなくなるよ」

「ほー」

「全く、事の重大さが分かってないなぁ」

「そんなことよりもシーナは?」

 それよりも、どこかへ行ってしまったシーナのことが気がかりだったソウルはレイに問いかけてみる。

「あぁ……僕にも分からないんだ」

「そっか……」

 あれは、ソウルの事を庇ってくれたのだろうか。

 初めて見るシーナの行動に正直驚きを隠せなかった。彼女の真意を聞きたいと思ったが、果たして答えてくれるだろうか。

 そんなことを思いながらエレナの後を歩いているとエレナがピタリと歩みを止めた。

「どうした?」


「……ソウル、ありがとな」


 突然のエレナの言葉にソウルは首を傾げる。

「いや、別に俺はなにも……」

 ただ殴られて踏み潰されてシーナに庇われただけだ。ソウルは結局何もしていない。

 礼を言うのならそれはシーナに言うべきだろう。


「違う。初めてだったんだよ。あんな風に誰が私のことを認めてくれたの」


 そう言ってエレナは続ける。

「私、8歳の時に博士号をとったんだけどさ」

「マジか」

 すげぇな。それって、天才ってやつなんじゃ?

「でも、考古学の世界って男社会で、しかも8歳の子どもと来たもんだ。どこに行っても大体あんな扱いを受けるんだよ」

 エレナは仕方ないと言ったような諦めにも似た笑いを浮かべる。

「酷いね……」

「いいんだよ。それでも私は考古学が好きだ。夢がいっぱいだからな、こんなのでくじけないさ!」

 すると洞窟を歩くエレナの足が早まる。ソウルとレイは顔を見合わせて、少し駆け足で後を追った。

 やがて、洞窟は大きく開け広大な空間が現れる。


「だって、こんなものがたくさん見れるんだぜ!」


 そう言ってエレナは両手を広げた。

「うわ……!」

 2人は言葉を失う。


 そこは今までの岩の壁ではなく、壁から天井、床に至るまで宝石のように青く輝いている。何か特別な魔石だろうか。

 中心にはまるでサファイアで作られたような建造物。しかもその柱の一本一本に至るまでが青い輝きを放っていた。

 まるで訪れた人々を歓迎するように大きな入り口がこちらに向けて口を開けている。

「ソウル、レイ!」

 そしてエレナは2人に向き直ってお辞儀をした。


「ようこそ!ここが【ドランクール遺跡】。通称青銅の巨人遺跡だ!」


ーーーーーーー

 シーナは1人、崖の上で寝転がっていた。

 なぜ自分があの時ソウルの前に割って入ったのか分からない。ただ、あの時はそうしないと気が済まなかった。

 あの男がソウルを痛ぶるのを見ていられなかったのだ。


「……ダメだ」


 本当に、あの男はダメだ。まるで自分が自分で無くなっていくようだった。


 胸が苦しい。きっとあの男のせいだ。これ以上一緒にいたらおかしくなってしまう。


 あの夜に自分を追いかけてきた時に気持ちが軽くなったのも。裸を見られて羞恥に心揺れてしまったのも。


 謝ったりお礼を言われて胸がむず痒くなったことも。あの男と出会ってから私は振り回されてばかりだ。


「……あいつなんなの?」

 シーナは頭を抱える。

 ……なぜ私は今こんなに孤独を感じているの?

 きっと気を許してしまえば、道具として利用されて取り返しがつかないことになる。

 分かってる。

 【ジャガーノート】として生まれてきてしまった以上、私は誰とも共に歩くことはできない。これは宿命だ。

 誰かと一緒にいるなんて

「……私には……無理だから」

 そこにいるのはただ孤独に震える少女だった。
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