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第八章
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雨粒が大きくなり勢いも強くなってきた。
『じゃあ、お風呂いただきますね』
『では、拙者も……』
『おいそこの偽武士、セクハラしてんじゃねぇぞ』
『セクハラじゃないもん。恋人なんだからいいでしょ』
『いや、良くないですよ真利亜さん』
『ふくれっ面してもダメだぞ。コウ、さっさと入れ。こいつは俺がガードしとくわ』
『ったく。コウを困らせるなよ』
『困ったコウ君の顔、可愛くない?』
『……お前なぁ。でも、以前と比べたらコウの表情が豊かになってきた気がするな』
『でしょう? お兄ちゃんはコウ君の笑顔って見たことある? めっちゃ可愛いのよ! あと照れた顔も可愛い! ていうか全部可愛い!』
『真利亜……自分が楽しむのもいいが、ちゃんとコウにも気を使えよ。あいつは幸せにならないといけない奴なんだよ』
『何それ? 私はそんなに自分勝手じゃないし。お兄ちゃんに言われなくても、コウ君は私が責任を持って幸せにするから』
『安心できねぇなぁ』
『あ、そうだ聞いてよ。今日のデート中に飲み物をコンビニで買って戻ったら、コウ君が女三人組に絡まれていてさ。マリンタワーの場所を聞かれていたみたいで、コウ君は丁寧に教えていたのよ。でも、わかりづらいからついて来てくれませんか? ってアホでしょ! 完全にコウ君を狙っていたね。すっ飛んで行って蹴散らしたけど、あの雌共許さん!』
『どこで聞かれたんだよ?』
『桜木町の駅前』
『そこからだとマリンタワーの目視は難しいだろ。気にしすぎじゃね?』
『いや、気にするね!』
『お前だって、しょっちゅうナンパされてんだろ?』
『私は一蹴できるからいいのよ』
『コウはフラフラついて行くような奴じゃない。信じてやれよ』
『わかってるけど、指一本でもコウ君に触れられたくないんだよね。前に二人で野球観戦しに行った時もさ、点が入ったら周りの人とハイタッチしていたんだけど、コウ君にハイタッチした女がいたからすっごいムカついたなぁ。その後はコウ君と女をハイタッチさせまいと、必死にガードしたもん』
『お前、独占欲丸出しじゃねぇか。コウと出会うまでのお前は、男と付き合うとか考えられないし時間が勿体ない、そもそも男を好きになったことがないし興味もない。とか言って、冷めた態度だったのにな。人間って、変わるもんだな』
『フフッ、そうね。私もこんな風になるとは思わなかった。でもね、すっごく幸せ!』
『……良かったな』
『お兄ちゃんもでしょ? コウ君のことは自分のこと以上に喜ぶじゃん』
『さっきも言っただろ。あいつは幸せにならんといけない奴だ。俺はそれだけを考えて生きている』
『お兄ちゃんも変わったね……でもいいと思う。それでは、絶対にコウ君を幸せにするぞという強い意志を持って、掛け声いきましょう! えい、えい、おー!』
不快感しかなかった三本目を飲み終えた賢吾は、全身ずぶ濡れになっていた。
大量の雨粒が顔を濡らし、髪からは水滴が落ちている。
『大宮真利亜さんで間違いないですか?』
『……はい』
『身体中撃たれていますが、恐らく致命傷は頭への銃弾です』
『……ぐふっ……うう……』
『ご存知かと思われますが、今回の事件は爆破が主であり、被害に遭われたほとんどの方は四肢がなかったり、身元がわからない状態であったりしています』
『だから……何だ? 何が言いたい?』
『逆撫でするつもりではないのですが……』
『五体満足で死んだから良かった。とでも言いたいのか?』
『……生前の姿を見れないご遺族の方々もいらっしゃいます』
『だから何だと言っているんだよ! 殺されているのは一緒だろうが!』
『はい、仰る通りです』
『出てけ!』
『申し訳ありませんが、ご遺体に何かされては困ります。離れるわけにはいきません』
『死んでいる真利亜に何かするとでも? 貴様……喧嘩を売っているのか?』
『申し訳ありません。規則ですので』
『じゃあ、こっちが出ていきゃいいんだろう! コウ、行くぞ!』
『……ったく。何でだよ、何で真利亜が殺されなくちゃいけなかったんだ。何なんだよマジでさぁ! 畜生! ……ふぐっ……ぐっ……うう』
『何で……クソ……ぐっ。ん? ……コウ?』
『……』
『コ……コウ?』
『……』
『コウ! しっかりしろ!』
『……はっ……はぁはぁ……はっはっは』
『コウ……どうした?』
『うううぁああ……はぁはぁはぁ』
『誰かぁ! 誰か来てくれ! コウが……コウが死ぬ!』
『どうされました?』
『……コウが』
『まずい! 早く救急車を!』
『コウ!』
四本目が終わった。
『じゃあ、お風呂いただきますね』
『では、拙者も……』
『おいそこの偽武士、セクハラしてんじゃねぇぞ』
『セクハラじゃないもん。恋人なんだからいいでしょ』
『いや、良くないですよ真利亜さん』
『ふくれっ面してもダメだぞ。コウ、さっさと入れ。こいつは俺がガードしとくわ』
『ったく。コウを困らせるなよ』
『困ったコウ君の顔、可愛くない?』
『……お前なぁ。でも、以前と比べたらコウの表情が豊かになってきた気がするな』
『でしょう? お兄ちゃんはコウ君の笑顔って見たことある? めっちゃ可愛いのよ! あと照れた顔も可愛い! ていうか全部可愛い!』
『真利亜……自分が楽しむのもいいが、ちゃんとコウにも気を使えよ。あいつは幸せにならないといけない奴なんだよ』
『何それ? 私はそんなに自分勝手じゃないし。お兄ちゃんに言われなくても、コウ君は私が責任を持って幸せにするから』
『安心できねぇなぁ』
『あ、そうだ聞いてよ。今日のデート中に飲み物をコンビニで買って戻ったら、コウ君が女三人組に絡まれていてさ。マリンタワーの場所を聞かれていたみたいで、コウ君は丁寧に教えていたのよ。でも、わかりづらいからついて来てくれませんか? ってアホでしょ! 完全にコウ君を狙っていたね。すっ飛んで行って蹴散らしたけど、あの雌共許さん!』
『どこで聞かれたんだよ?』
『桜木町の駅前』
『そこからだとマリンタワーの目視は難しいだろ。気にしすぎじゃね?』
『いや、気にするね!』
『お前だって、しょっちゅうナンパされてんだろ?』
『私は一蹴できるからいいのよ』
『コウはフラフラついて行くような奴じゃない。信じてやれよ』
『わかってるけど、指一本でもコウ君に触れられたくないんだよね。前に二人で野球観戦しに行った時もさ、点が入ったら周りの人とハイタッチしていたんだけど、コウ君にハイタッチした女がいたからすっごいムカついたなぁ。その後はコウ君と女をハイタッチさせまいと、必死にガードしたもん』
『お前、独占欲丸出しじゃねぇか。コウと出会うまでのお前は、男と付き合うとか考えられないし時間が勿体ない、そもそも男を好きになったことがないし興味もない。とか言って、冷めた態度だったのにな。人間って、変わるもんだな』
『フフッ、そうね。私もこんな風になるとは思わなかった。でもね、すっごく幸せ!』
『……良かったな』
『お兄ちゃんもでしょ? コウ君のことは自分のこと以上に喜ぶじゃん』
『さっきも言っただろ。あいつは幸せにならんといけない奴だ。俺はそれだけを考えて生きている』
『お兄ちゃんも変わったね……でもいいと思う。それでは、絶対にコウ君を幸せにするぞという強い意志を持って、掛け声いきましょう! えい、えい、おー!』
不快感しかなかった三本目を飲み終えた賢吾は、全身ずぶ濡れになっていた。
大量の雨粒が顔を濡らし、髪からは水滴が落ちている。
『大宮真利亜さんで間違いないですか?』
『……はい』
『身体中撃たれていますが、恐らく致命傷は頭への銃弾です』
『……ぐふっ……うう……』
『ご存知かと思われますが、今回の事件は爆破が主であり、被害に遭われたほとんどの方は四肢がなかったり、身元がわからない状態であったりしています』
『だから……何だ? 何が言いたい?』
『逆撫でするつもりではないのですが……』
『五体満足で死んだから良かった。とでも言いたいのか?』
『……生前の姿を見れないご遺族の方々もいらっしゃいます』
『だから何だと言っているんだよ! 殺されているのは一緒だろうが!』
『はい、仰る通りです』
『出てけ!』
『申し訳ありませんが、ご遺体に何かされては困ります。離れるわけにはいきません』
『死んでいる真利亜に何かするとでも? 貴様……喧嘩を売っているのか?』
『申し訳ありません。規則ですので』
『じゃあ、こっちが出ていきゃいいんだろう! コウ、行くぞ!』
『……ったく。何でだよ、何で真利亜が殺されなくちゃいけなかったんだ。何なんだよマジでさぁ! 畜生! ……ふぐっ……ぐっ……うう』
『何で……クソ……ぐっ。ん? ……コウ?』
『……』
『コ……コウ?』
『……』
『コウ! しっかりしろ!』
『……はっ……はぁはぁ……はっはっは』
『コウ……どうした?』
『うううぁああ……はぁはぁはぁ』
『誰かぁ! 誰か来てくれ! コウが……コウが死ぬ!』
『どうされました?』
『……コウが』
『まずい! 早く救急車を!』
『コウ!』
四本目が終わった。
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