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高階位の冒険者って優遇されているの?
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「すまないな。パーティーとしての活動を考えると抜けてもらうしかない。」
ここ2年ほど一緒にやっていたパーティーメンバーからパーティーを抜けるように言われてしまった。ただこれは仕方がない。怪我をしてしまった俺が悪いんだから。
特階位の冒険者。
それは冒険者にとってあこがれの階位だ。
特階位の冒険者になれるのは冒険者の中でもほんの一握りだけだ。もともとの素質に加え、多くの魔獣討伐の実績が必要となる。
特階位になった冒険者は国王陛下からも表彰され、貴族の一員として迎えられる。そして冒険者を引退した後の生活も保障されている。冒険者になった人間は誰もがこの階位を目指して日々戦っている。
かくいう俺もそのあこがれを持つ冒険者の一人だった。13歳で冒険者になってからすでに10年になり、冒険者の中では上位と言われる良階位となっている。
冒険者とは主に人を襲ってくる魔獣と呼ばれる生物を倒すのが主な仕事だ。この魔獣がどこから現れるのか今もわかっていない。冒険者に登録すると、最低限の賃金は国から支給されるため、技能のないもの、お金のないものはみな冒険者になっている。もちろん貴族への憧れや名声を得たいために冒険者になっているもの達も多い。
ただし冒険者が楽な仕事かというとそういうわけでもない。いつも危険と隣り合わせだし、昨日一緒に酒を飲んだやつが翌日には死んでしまったと言うこともざらにある。怪我をして志半ばで断念した奴らも多く、冒険者をやめた後の生活は惨めなものだ。
冒険者にはその実績に応じて階位があり、新人の初階位から並階位、上階位、良階位、優階位、特階位と6段階になっている。
階位を上げるには実績ポイントと言うものを集めなければならないが、これがなかなかたまらない。10年間がんばったのにやっと良階位だからな。同じくらいの経歴のやつで優階位のやつは一人しかいない。
死ななければ引退するまでになんとか優階位に上がれればいい方だろう。ただ引退まで冒険者で生き残っている人間は少ない。大半が命を落としているのが現状だ。だからこそ、この栄誉を受けられるのは素晴らしいことなんだ。
特階位になれば国から名誉爵をもらうことができて、引退した後は国が慰労金を出してもらえるのだ。慰労金は優階位以上に支払われ、優階位だと年間に200万ドール、特階位だと年間に500万ドールくらい出してくれるらしい。その階位での活動期間が長ければさらにこの金額は上乗せされると聞いている。一般的に年間30~50万ドールあれば生活できるので破格のお金だ。
今の俺の稼ぎがどのくらいかというとがんばっても年間40万ドールくらいだが、もちろん経費もかかるのでかなり生活は厳しい。これがなにもしなくてももらえるというのはありがたいことだ。
魔獣退治はよほどの実力者でなければパーティーという少人数で狩りをすることが普通だ。パーティーではそれぞれ役割分担があり、俺は剣士として前面に出て魔獣と対峙して倒す担当だ。
今回の獲物は土竜だった。滅多に現れない魔獣で、地面に潜っているので退治にはコツがいるんだが、俺たちならば何とか倒せる相手だった。
今回もなんとか倒すことはできたんだが、俺は利き手の指を2本なくしてしまった。二刀流で戦うので、左手だけでも戦うことはできるのだが戦力が落ちるのは当然のことだ。
とりあえず魔法で止血はしてもらったが、再生するには、教会で高度な治癒魔法を受けなければならない。しかし治療費が高い上に治癒をしても治療までの時間に比例してリハビリに時間がかかってしまうのだ。治療の費用も簡単に貯めることはできない。このためパーティーから追放されてしまうのは仕方の無いことだ。
よほどのパーティーでなければ怪我の治療費をパーティーで負担することはない。そもそもそんな余裕がないからだ。なので怪我などについては自己責任ということで処理されてしまう。
「とりあえず今回の精算まで済ませよう。」
そう言って狩ってきた土竜を査定に出し、報奨金のプレートを受け取る。受け取るときにメンバーの人数を言うと、人数割りされた報奨金のプレートがもらえるのだ。このプレートで2000ドールとなる。
「また縁があったら一緒に戦おう。」
そう言ってから他のメンバーたちは換金をしてパーティーメンバーの勧誘へと行ってしまった。また一緒にと言うのはあくまで社交辞令であり、本気でそう思っている奴らはいないだろう。
報奨金などの手続きはかなり自動化されていて、魔獣の査定は係の人がするんだが、そのあとの手続きはすべて自動になっている。査定の後に渡されたプレートと登録証を換金装置に入れると、実績ポイントが登録され、報酬額が支払われる。
この装置はかなり昔にいた天才発明家が開発したもので、主要な都市にはすべて置かれている。世界中の冒険者のデータの登録や集計を自動で行うことができるようにしたものらしい。これができる前は受付で随時対応していたらしく、集計にも時間がかかっていたようだ。
換金の時にはメニューが2つあり、一つは通常通り報酬を受けて実績ポイントをためるもの、もう一つは実績ポイントがつかないが、その分報酬額を多くしてくれるというものだ。この場合、報酬額は約2倍となるのでお金がないときにはこっちを選択することが多いが、多くの冒険者はギリギリの生活をしてでもポイントをためる方を選んでいる。
今回は今後のことを考えてお金も貯めないといけないのでポイントを諦めるしかないだろう。ただなぜか前ほど上の階位に上がりたい欲望が感じられないのはすでに諦めてしまったせいなんだろうか?腕など大きな怪我を負うとやはり階位をあげるのが難しくなるのか、あまり上昇志向がなくなるという話を聞いたことがある。
ボタンを押そうと思ったが、そのボタンの下のプレートが外れかけていたことに気がついた。係の人を呼ぶとすぐにやってきた。
「プレートが外れちまっているな。ネジがいかれたんだろう。ときどき緩んでくるんだよな。誰かたたいたりしているのかな?」
外されたプレートの下には同じようなボタンが4つあった。
「このボタンは何なんだ?」
「俺たちもよく知らないんだが、昔使っていたボタンらしいが、今は使われていない。なのでこのボタンを押せないようにプレートをするように上から言われているんだよ。取り外したらと思うだろ?だけどボタンを取り外すと装置自体が壊れてしまう可能性もあって取り外せないんだとさ。」
「そうなのか。」
「すまんが修理道具を持ってくるからそれまでこれを間違って押さないように見張っていてくれるか?まあこの時間だから誰も来ないと思うけどな。」
そういって係の人は修理道具を取りに行った。
ほとんど見えなくなっているが、ボタンには文字が書かれている。上のボタンも前はこんな文字が書かれていたのかな?ボタンは4つあって「20:80」、「50:50」、「70:30」、「100:0」となっている。
何の数字なんだろうか?気になったので前にもらって換金していなかったプレートを入れてボタンを押してみる。
通常は100ドールの報酬なんだが、「100:0」のボタンを押したところ1000ドールの硬貨が2枚出てきた。
「は?」
どういうことだ?いつもの20倍の硬貨が出てきたぞ。壊れているのかもしれないが、今のうちだと先ほどのプレートも入れてみると2000ドールのはずが1万ドールの硬貨が4枚出てきた。
「おお~~~っ!!」
小さな声で歓声を上げる。なぜだかよくわからないが、金額が20倍になっている。
せっかくなので他のボタンについて試して見ると、「70:30」で1400ドール、「50:50」で1000ドール、「20:80」で400ドール、いつも使っているボタンだと200ドールと100ドールだった。
声を出しそうになるのをこらえてからお金を回収して係の人を待つ。
「すまん、すまん。なかなか道具が見つからなくてな。」
「いや、気にしなくてもいいさ。」
この後プレートを取り付けるのを手伝うが、かなり適当に止めているので隙間が開いたままになっていた。これだったら何か突っ込めばボタンを押せるな。
ベンチに座ってボタンのことを考えてみる。いつも使っているボタンが100ドールと200ドールだったこと、数字の順番から考えると、この二つのボタンは「95:5」と「90:10」だったと考えられるな。
この二つは報奨金と実績ポイントの割合と考えると5と10が報奨金?それなら数字が合うな。ってことは95と90が実績ポイントだと?
いつも使っているボタンだと報酬のうち95%が実績ポイントにカウントされて報奨金は5%ということなのか?すべて報奨金と思っていたボタンも90%が実績ポイントに使われていたと言うことなのか?
それじゃあ俺の年間に稼いでいたお金は40万としたら20倍で800万ドール?すでに特階位の慰労金を超えているじゃねえか!!
これだったら冒険者で上の階位になるって意味があることなのか?特階位なんて一匹でどのくらいのものを狩っているって思っているんだ。おそらく今の俺の年収の10倍以上だろう。それなのに引退後にもらえる金が年間500万ドールってどういうことなんだ?引退後の人生なんて普通は長くても20年だぞ。
たしかに魔獣の素材を使った装備とか道具とかの値段を考えるとそのくらいの価値はあってもいいよな?なんで今まで気にしなかったんだろう?
これって誰も気がついていないのか?それ以前に実績ポイントをためたいという気持ちがかなり薄れているのはどういうことだ?もしかして今回の戦闘で頭を打った時に何かあったのか?そういえば冒険者になってから階位をあげる欲望がなる前よりも強くなったような気もするな。
うーん、かなり危ないことに気がついたような気もするので、あまりおおっぴらにしない方が良さそうだな。どう考えてもかなり上の方の思惑が絡んでいるだろう。もしかしたら国自体が絡んでいるのかもしれない。
まずは今回の報酬と貯めていた貯金を使って指の治療を行う。10年かかって貯めたお金と今回のお金でギリギリなんとかなりそうだ。教会に行って指の治療を行ってもらうとうまく再生することができた。今回はすぐに治療したのでリハビリにはそれほど時間はかからないだろう。指の第一関節だけで済んでいたからなんとかお金も足りてよかったよ。
今後のことを考えてパーティーメンバーを探すことにした。ただ冒険者は上の階位を目指して当たり前というのがこの世界の常識だ。ただ俺はそれをしないつもりなのでメンバーを選ぶときに上昇志向の少ない奴らを選ばないといけない。
冒険者のポイントなどは自動で行われているし、実績ポイントがあまり入っていなくても特に何も言われることはないはずだ。実際最低限の実績ポイントを入れて賃金だけもらっている奴らも結構いるからな。この賃金の支払いも自動で行われているので変な誤解は受けないはずだ。
査定についても誰が狩ってきた魔獣かわからないように査定する人と顔は合わせないようになっている。問題はどこまで個人のデータを確認しているかと言うことだけだな。問題を起こしても特に冒険者の取り消しなどもないから大丈夫と思いたい。
まずはパーティーメンバーを普通に募集してみる。ただし上の階位を目指すのは難しいこと、身体的な障害があってもよいことなどを書いておく。俺もまだ指が治っていないという認識をされているからな。
さすがに募集をしてもなかなか人はやってこない。まあ当たり前だ。まあ気長に待ってみようと魔獣を狩りをしながら数日たったところで募集を見たという20歳くらいの女性がやってきた。
「ミランダという。パーティー募集の案内を見てやってきた。こんな状態だがパーティーに入れてくれるのだろうか?」
見ると、右足の膝から下がなくなっており、松葉杖をついて移動していた。
「すまないが、職業などを教えてくれないか?」
「良階位の支援魔法使いだ。簡単な回復魔法も使うことができる。ただ足がこんな状態なので戦闘では役に立たない。」
「支援魔法使いだったら俺に魔法をかけてもらって後方で待機してもらうだけでもかなり助かるので問題は無い。ただ俺のパーティーでは階位をあげることは目指さないから今の階位以上には上がれないと考えてもらわなければならないぞ。それでもいいのか?」
「この状態だから冒険者をやめたとしたらやれることは限定されてしまう。体を売るか、奴隷となるしかないからな。こんな私でもパーティーに入れてくれるならそれだけで十分だ。」
足の回復には一般の年収数年分が必要となるので普通に考えると治療は無理だからな。しかも怪我をしてからの日数が長ければ長いほど治療した後のリハビリに時間がかかってしまう。1年以上経過してしまうと再生しても日常生活がなんとかできるくらいしか回復しないだろう。諦めるのも仕方が無いな。
「報奨金は俺の方で管理するが問題ないか?宿泊や食事、装備の調整費などはすべてこちらで払うので、渡せるお金はしばらく小遣い程度だ。どのくらいの報酬か、ある程度わかっていると思うからそこは信用してほしい。」
「こんな状態でパーティーメンバーに入れてくれるのなら文句は言わないわ。」
「とりあえず1ヶ月くらいは体験と言うことでお願いするよ。」
「わかったわ。あなたのことは話に聞いているので信用するわ。」
10年間コツコツと真面目にやってきたのでそれなりには信用があるので助かった。まあ信用されなければこんなパーティーの募集には誰も応募してこないだろうからな。
ミランダは足が悪いので移動は大変になるが、戦闘は支援魔法のおかげでかなり楽になった。まず大丈夫と思われるレベルの魔獣しか狩っていないので一人だと全額報酬に変えても1匹3000~5000ドールの魔獣がせいぜいだったんだが、二人でやると8000~15000ドールくらいの魔獣を狩ることができた。しかも回復魔法を使ってくれるので回復薬の費用もかからないので助かる。倒す効率も格段に上がったしな。
狩った魔獣はすべて報酬に換金したのでかなりのペースでお金が貯まっていく。足の治療費は100万ドールくらいなのでこのペースだと1ヶ月くらいで貯めることができるかもしれない。ただミランダはおそらくその20分の1の金額と思っているだろう。
お金を早く貯めたい気持ちはあったが、無理しても仕方がないので泊まるところや食事はちょっと贅沢している。宿は今までの100~200ドールの相部屋ではなく、400ドールの個室の部屋だ。さすがにミランダと相部屋というわけにはいかないので個室を二部屋と結構お金がかかってしまうが、そのくらいは十分にまかなえるくらいの収入は得ている。
お金の換金はすべて俺が行っているので不思議に思っているようだが、詳細はまだ話していない。いずれ詳細は説明するが、しばらくはお金の管理はすべて俺が行うこと、報酬については口外しないことなど説明し、魔法で契約まで行っているので大丈夫だろう。
二人で狩りをして1ヶ月ほどたった頃にミランダと今後のことについて話をすることになった。最初に魔法で契約をして、場合によっては話の内容を忘れてもらうことになっている。
もう少しで足の治療ができることを説明するとかなり驚いていた。どうやら足の治療については諦めてしまっていたらしく、生活ができれば十分だという認識だったらしい。
「ざっくりとした計算だけど、この一ヶ月で得られた報酬は実績ポイントなしでたぶん10万ドールくらいだから、生活費を考えたら貯まったお金は2~3万ドールがいいところでしょ?一体どういうことなの?」
「普通だったらその金額だな。」
「だったらなぜもうすぐ足の治療代が貯まるって話になるの?」
俺はこれまでの話をかいつまんで説明した。その話を聞いたミランダはかなり驚いていたが、実際に精算機で実演してみせると驚いていた。
「これって大丈夫なの?」
「正直どうなるかはわからないが、特にチェックもされていないみたいだから大丈夫じゃないかと思う。どっちにしろ、いつ死ぬかわからないような生活をするよりは楽しく暮らしていった方がいいと思っているんだ。
ただこれは俺の考えであってミランダはどう考えるかはわからない。なので治療が終わったらパーティーを抜けてもらってもかまわないぞ。ただこの話についての記憶は先に話したとおり忘れてもらうことになる。
というのも全員が同じことをやり始めたらさすがにばれてしまうと思っているんだ。もしかしたら他にもやっている人がいるかもしれないが、少人数だからこそなんとかごまかせていると思う。」
しばらく考えた後、覚悟を決めたような顔で話してきた。
「わかったわ。私も覚悟を決める。このままあなたと一緒にパーティーを続けるわ。他のパーティーに行ったとしてもまた怪我をしてしまう可能性もあるし、せっかくの人生だから楽しんでいきたいわ。」
「ありがとう。よかった。これで今日からほんとのパーティーメンバーだな。あともう一人くらいは攻撃系の魔法使いか前衛がほしいところだな。」
ミランダに話をした後で、奴隷を見に行くと、もと冒険者という魔法使いの女性がいるといわれたので会ってみることにした。顔にひどい傷があり、左手も手首から先が失われていた。
「アルマ、という。こ、んな、わた、しですが、は、入ることはでき、ま、すか?顔、の、治療ができる、だけで、もおか、ねを貯め、たいんです。」
どうやら顔の怪我のせいでうまくしゃべることができないらしい。話を聞くとどうやら攻撃魔法を使う魔法使いだったらしく、階位は上階位だった。まだ10代らしいので十分優秀だろう。うまくしゃべることができないので魔法の詠唱も難しいようだ。
「ミランダ、顔の治療さえすれば十分戦闘に役立つと思うんだ。ただその分足の治療が遅れてしまうが大丈夫か?」
「ええ、同じ女性としてこれはさすがに見過ごせないわ。」
「いい、の?」
「気にしなくていい。その分きっちり働いて返してくれればいいさ。」
「あ、りが、とう・・・。」
奴隷として購入するが、こんな状態なのでかなり安くですんだ。教会に行き、顔の治療をしてもらうことになったが、さすがに症状がひどかったこともあり60万ドールもかかるようだが、お願いすることにした。
治療して驚いた。ミランダも美人の部類だが、さらにそれを上回る美女がそこにいた。
「なおった、私の顔・・・。」
治療の終わった顔を見て泣き崩れる。
「ありがとう・・・ありがとう・・・。」
アルマが落ち着いたところで今後の話をする。奴隷として購入しているので、お金の管理などについては特に問題は無い。ただ、奴隷ではあるが、普通のパーティーメンバーとして扱うというとかなり驚かれた。
メンバーのバランスもいいのでいったんここでパーティーの募集はやめることにする。本当はもう一人くらい前衛がほしいけど、まあ大丈夫だろう。
このあと2ヶ月くらい狩りをしてなんとか目標のお金を貯めることができた。もちろん治療をして文無しになっても困るので、その後の活動資金もある程度貯めたところで二人の治療を行う。怪我をしてから2、3ヶ月だったので再生魔法もうまくいった。リハビリはいるが、数ヶ月もすれば元の状態まで回復するだろう。
「もう一度確認するけど、このまま一緒のパーティーでいいのか?」
「ええ、元に戻ることなんてできないと思って階位をあげるのは諦めたからもういいわ。」
「私はここまでの治療をしてもらったのでその分のお金を返すのは一生かかってしまうと思うの。だからこのまま奴隷のままでかまわないわ。」
「まあ、そんなにかからずに解放できると思うけどね。」
このあと他のパーティーと同じように魔獣を狩るが、報酬に20倍の差があると生活にも差が出てくる。ただ他の冒険者はやはり階位をあげるのが目標となっているので、上階位や良階位でくすぶっている俺たちにはあまり興味を示さないようだ。
この途中で同じように怪我をしたラミアという女性にも声をかけてパーティーに入ってもらった。防御をメインとした剣士だったのでちょうどよかったのだ。盾を持つ腕に毒を受けて、腕を切り落とす羽目になったようだ。
ラミアの加入で今までよりも格段に安全性が増し、効率よく狩りができるようになった。もちろん無理をして上位の魔獣を倒す必要も無いのでレベルにあった魔獣を倒すのみだ。
ラミアは最初に治療をしてあげたのでかなり困惑していたが、1ヶ月後にミランダにした話をすると、そのままパーティーに残ることになった。
お金を稼いでいるのでもちろん装備をいいものに変えていくことができるのでさらに安全性が高くなった。せっかくなので家も購入することにした。
もちろん一等地に建てられたものではないが、治安もいいエリアの建物なので問題は無い。奴隷も購入し、家の管理から食事の準備まで任せることができるようになった。別にあっちの方のために購入したわけではない。困っていないからね。
家を買ったくらいから奴隷を雇って商売も初めたんだが、そちらでも順調な利益を出し始めた。まあ冒険者としての潤沢な資金があったからうまくいっているんだけどな。
前はなぜあそこまで上の階位なろうとしていたのかわからないけど、今はとても幸せだ。パーティーの3人とはいろいろあったが結婚することになった。もちろんアルマはとっくに奴隷から解放済みだ。平民でも妻を複数持つことは認められているからね。3人とも美人だし、相性もよかったからな。
ラミアが正式にパーティーに加入してしばらくした頃、女性陣で色々と話をしたらしく、誰と付き合いたいのか聞いてきたのだ。俺としては誰と決められなくて、正直に3人と付き合いたいと言ったところ、なんとそれでいいと答えてくれたんだ。
家に、かわいい3人の妻に、十分な資金、そしてまもなく子供も授かりそうだ。子供には冒険者にはならないようにしてもらいたいな。まあもしもの時のために話だけはしておくつもりだけどな。
俺が最後にパーティーを組んでいたメンバーのうち二人は死んでしまったらしく、一人は優階位に上がっていた。周りはうらやましそうにしているが、何がいいのか理解できなくなっている。このあとも特階位を目指すんだろうが、たとえなれたとしても10年努めて引退してもらえる年金は500万ドールだ。たしかに大金だが、俺たちはその10倍以上を稼ぐことができるのだ。
このシステムが作られたのは200年前だが、国が爵位を与えるシステムになったのは100年ほど前らしい。そのときになにかしたのだろう。爵位を与えると言っても領地をもらえるわけでも役職をもらえるわけでもない、年金をもらえると言ってもそれまでに本当に稼いだ額にしたら雀の涙だ。おそらく国がこのシステムを作ったのだろう。
冒険者の階位は低いが、裕福な生活をしている人間を見たことがある。目が合ったことがあったが、お互いに何も言わずにすれ違った。ただお互いの顔を見れば意図していることはわかった。
自分たちは幸せになろうと・・・。
~あとがき~
連載の方はまだ書き続けているんですが、なんとなく思い浮かんだ設定でちょっと書いてみました。
冒険者としてなぜ上の階位を目指すのかと考えたときに名声というのはあるとは思うんですが、それだけで命をかけるのか?ということに疑問を持ってしまったからです。
本当はもっといろいろな設定を考えないといけないのですが、とりあえずそのあたりの裏の事情をすっ飛ばして書いてみたというところです。
まあ出会いについては小説ならではのご都合主義と思ってください。
ここ2年ほど一緒にやっていたパーティーメンバーからパーティーを抜けるように言われてしまった。ただこれは仕方がない。怪我をしてしまった俺が悪いんだから。
特階位の冒険者。
それは冒険者にとってあこがれの階位だ。
特階位の冒険者になれるのは冒険者の中でもほんの一握りだけだ。もともとの素質に加え、多くの魔獣討伐の実績が必要となる。
特階位になった冒険者は国王陛下からも表彰され、貴族の一員として迎えられる。そして冒険者を引退した後の生活も保障されている。冒険者になった人間は誰もがこの階位を目指して日々戦っている。
かくいう俺もそのあこがれを持つ冒険者の一人だった。13歳で冒険者になってからすでに10年になり、冒険者の中では上位と言われる良階位となっている。
冒険者とは主に人を襲ってくる魔獣と呼ばれる生物を倒すのが主な仕事だ。この魔獣がどこから現れるのか今もわかっていない。冒険者に登録すると、最低限の賃金は国から支給されるため、技能のないもの、お金のないものはみな冒険者になっている。もちろん貴族への憧れや名声を得たいために冒険者になっているもの達も多い。
ただし冒険者が楽な仕事かというとそういうわけでもない。いつも危険と隣り合わせだし、昨日一緒に酒を飲んだやつが翌日には死んでしまったと言うこともざらにある。怪我をして志半ばで断念した奴らも多く、冒険者をやめた後の生活は惨めなものだ。
冒険者にはその実績に応じて階位があり、新人の初階位から並階位、上階位、良階位、優階位、特階位と6段階になっている。
階位を上げるには実績ポイントと言うものを集めなければならないが、これがなかなかたまらない。10年間がんばったのにやっと良階位だからな。同じくらいの経歴のやつで優階位のやつは一人しかいない。
死ななければ引退するまでになんとか優階位に上がれればいい方だろう。ただ引退まで冒険者で生き残っている人間は少ない。大半が命を落としているのが現状だ。だからこそ、この栄誉を受けられるのは素晴らしいことなんだ。
特階位になれば国から名誉爵をもらうことができて、引退した後は国が慰労金を出してもらえるのだ。慰労金は優階位以上に支払われ、優階位だと年間に200万ドール、特階位だと年間に500万ドールくらい出してくれるらしい。その階位での活動期間が長ければさらにこの金額は上乗せされると聞いている。一般的に年間30~50万ドールあれば生活できるので破格のお金だ。
今の俺の稼ぎがどのくらいかというとがんばっても年間40万ドールくらいだが、もちろん経費もかかるのでかなり生活は厳しい。これがなにもしなくてももらえるというのはありがたいことだ。
魔獣退治はよほどの実力者でなければパーティーという少人数で狩りをすることが普通だ。パーティーではそれぞれ役割分担があり、俺は剣士として前面に出て魔獣と対峙して倒す担当だ。
今回の獲物は土竜だった。滅多に現れない魔獣で、地面に潜っているので退治にはコツがいるんだが、俺たちならば何とか倒せる相手だった。
今回もなんとか倒すことはできたんだが、俺は利き手の指を2本なくしてしまった。二刀流で戦うので、左手だけでも戦うことはできるのだが戦力が落ちるのは当然のことだ。
とりあえず魔法で止血はしてもらったが、再生するには、教会で高度な治癒魔法を受けなければならない。しかし治療費が高い上に治癒をしても治療までの時間に比例してリハビリに時間がかかってしまうのだ。治療の費用も簡単に貯めることはできない。このためパーティーから追放されてしまうのは仕方の無いことだ。
よほどのパーティーでなければ怪我の治療費をパーティーで負担することはない。そもそもそんな余裕がないからだ。なので怪我などについては自己責任ということで処理されてしまう。
「とりあえず今回の精算まで済ませよう。」
そう言って狩ってきた土竜を査定に出し、報奨金のプレートを受け取る。受け取るときにメンバーの人数を言うと、人数割りされた報奨金のプレートがもらえるのだ。このプレートで2000ドールとなる。
「また縁があったら一緒に戦おう。」
そう言ってから他のメンバーたちは換金をしてパーティーメンバーの勧誘へと行ってしまった。また一緒にと言うのはあくまで社交辞令であり、本気でそう思っている奴らはいないだろう。
報奨金などの手続きはかなり自動化されていて、魔獣の査定は係の人がするんだが、そのあとの手続きはすべて自動になっている。査定の後に渡されたプレートと登録証を換金装置に入れると、実績ポイントが登録され、報酬額が支払われる。
この装置はかなり昔にいた天才発明家が開発したもので、主要な都市にはすべて置かれている。世界中の冒険者のデータの登録や集計を自動で行うことができるようにしたものらしい。これができる前は受付で随時対応していたらしく、集計にも時間がかかっていたようだ。
換金の時にはメニューが2つあり、一つは通常通り報酬を受けて実績ポイントをためるもの、もう一つは実績ポイントがつかないが、その分報酬額を多くしてくれるというものだ。この場合、報酬額は約2倍となるのでお金がないときにはこっちを選択することが多いが、多くの冒険者はギリギリの生活をしてでもポイントをためる方を選んでいる。
今回は今後のことを考えてお金も貯めないといけないのでポイントを諦めるしかないだろう。ただなぜか前ほど上の階位に上がりたい欲望が感じられないのはすでに諦めてしまったせいなんだろうか?腕など大きな怪我を負うとやはり階位をあげるのが難しくなるのか、あまり上昇志向がなくなるという話を聞いたことがある。
ボタンを押そうと思ったが、そのボタンの下のプレートが外れかけていたことに気がついた。係の人を呼ぶとすぐにやってきた。
「プレートが外れちまっているな。ネジがいかれたんだろう。ときどき緩んでくるんだよな。誰かたたいたりしているのかな?」
外されたプレートの下には同じようなボタンが4つあった。
「このボタンは何なんだ?」
「俺たちもよく知らないんだが、昔使っていたボタンらしいが、今は使われていない。なのでこのボタンを押せないようにプレートをするように上から言われているんだよ。取り外したらと思うだろ?だけどボタンを取り外すと装置自体が壊れてしまう可能性もあって取り外せないんだとさ。」
「そうなのか。」
「すまんが修理道具を持ってくるからそれまでこれを間違って押さないように見張っていてくれるか?まあこの時間だから誰も来ないと思うけどな。」
そういって係の人は修理道具を取りに行った。
ほとんど見えなくなっているが、ボタンには文字が書かれている。上のボタンも前はこんな文字が書かれていたのかな?ボタンは4つあって「20:80」、「50:50」、「70:30」、「100:0」となっている。
何の数字なんだろうか?気になったので前にもらって換金していなかったプレートを入れてボタンを押してみる。
通常は100ドールの報酬なんだが、「100:0」のボタンを押したところ1000ドールの硬貨が2枚出てきた。
「は?」
どういうことだ?いつもの20倍の硬貨が出てきたぞ。壊れているのかもしれないが、今のうちだと先ほどのプレートも入れてみると2000ドールのはずが1万ドールの硬貨が4枚出てきた。
「おお~~~っ!!」
小さな声で歓声を上げる。なぜだかよくわからないが、金額が20倍になっている。
せっかくなので他のボタンについて試して見ると、「70:30」で1400ドール、「50:50」で1000ドール、「20:80」で400ドール、いつも使っているボタンだと200ドールと100ドールだった。
声を出しそうになるのをこらえてからお金を回収して係の人を待つ。
「すまん、すまん。なかなか道具が見つからなくてな。」
「いや、気にしなくてもいいさ。」
この後プレートを取り付けるのを手伝うが、かなり適当に止めているので隙間が開いたままになっていた。これだったら何か突っ込めばボタンを押せるな。
ベンチに座ってボタンのことを考えてみる。いつも使っているボタンが100ドールと200ドールだったこと、数字の順番から考えると、この二つのボタンは「95:5」と「90:10」だったと考えられるな。
この二つは報奨金と実績ポイントの割合と考えると5と10が報奨金?それなら数字が合うな。ってことは95と90が実績ポイントだと?
いつも使っているボタンだと報酬のうち95%が実績ポイントにカウントされて報奨金は5%ということなのか?すべて報奨金と思っていたボタンも90%が実績ポイントに使われていたと言うことなのか?
それじゃあ俺の年間に稼いでいたお金は40万としたら20倍で800万ドール?すでに特階位の慰労金を超えているじゃねえか!!
これだったら冒険者で上の階位になるって意味があることなのか?特階位なんて一匹でどのくらいのものを狩っているって思っているんだ。おそらく今の俺の年収の10倍以上だろう。それなのに引退後にもらえる金が年間500万ドールってどういうことなんだ?引退後の人生なんて普通は長くても20年だぞ。
たしかに魔獣の素材を使った装備とか道具とかの値段を考えるとそのくらいの価値はあってもいいよな?なんで今まで気にしなかったんだろう?
これって誰も気がついていないのか?それ以前に実績ポイントをためたいという気持ちがかなり薄れているのはどういうことだ?もしかして今回の戦闘で頭を打った時に何かあったのか?そういえば冒険者になってから階位をあげる欲望がなる前よりも強くなったような気もするな。
うーん、かなり危ないことに気がついたような気もするので、あまりおおっぴらにしない方が良さそうだな。どう考えてもかなり上の方の思惑が絡んでいるだろう。もしかしたら国自体が絡んでいるのかもしれない。
まずは今回の報酬と貯めていた貯金を使って指の治療を行う。10年かかって貯めたお金と今回のお金でギリギリなんとかなりそうだ。教会に行って指の治療を行ってもらうとうまく再生することができた。今回はすぐに治療したのでリハビリにはそれほど時間はかからないだろう。指の第一関節だけで済んでいたからなんとかお金も足りてよかったよ。
今後のことを考えてパーティーメンバーを探すことにした。ただ冒険者は上の階位を目指して当たり前というのがこの世界の常識だ。ただ俺はそれをしないつもりなのでメンバーを選ぶときに上昇志向の少ない奴らを選ばないといけない。
冒険者のポイントなどは自動で行われているし、実績ポイントがあまり入っていなくても特に何も言われることはないはずだ。実際最低限の実績ポイントを入れて賃金だけもらっている奴らも結構いるからな。この賃金の支払いも自動で行われているので変な誤解は受けないはずだ。
査定についても誰が狩ってきた魔獣かわからないように査定する人と顔は合わせないようになっている。問題はどこまで個人のデータを確認しているかと言うことだけだな。問題を起こしても特に冒険者の取り消しなどもないから大丈夫と思いたい。
まずはパーティーメンバーを普通に募集してみる。ただし上の階位を目指すのは難しいこと、身体的な障害があってもよいことなどを書いておく。俺もまだ指が治っていないという認識をされているからな。
さすがに募集をしてもなかなか人はやってこない。まあ当たり前だ。まあ気長に待ってみようと魔獣を狩りをしながら数日たったところで募集を見たという20歳くらいの女性がやってきた。
「ミランダという。パーティー募集の案内を見てやってきた。こんな状態だがパーティーに入れてくれるのだろうか?」
見ると、右足の膝から下がなくなっており、松葉杖をついて移動していた。
「すまないが、職業などを教えてくれないか?」
「良階位の支援魔法使いだ。簡単な回復魔法も使うことができる。ただ足がこんな状態なので戦闘では役に立たない。」
「支援魔法使いだったら俺に魔法をかけてもらって後方で待機してもらうだけでもかなり助かるので問題は無い。ただ俺のパーティーでは階位をあげることは目指さないから今の階位以上には上がれないと考えてもらわなければならないぞ。それでもいいのか?」
「この状態だから冒険者をやめたとしたらやれることは限定されてしまう。体を売るか、奴隷となるしかないからな。こんな私でもパーティーに入れてくれるならそれだけで十分だ。」
足の回復には一般の年収数年分が必要となるので普通に考えると治療は無理だからな。しかも怪我をしてからの日数が長ければ長いほど治療した後のリハビリに時間がかかってしまう。1年以上経過してしまうと再生しても日常生活がなんとかできるくらいしか回復しないだろう。諦めるのも仕方が無いな。
「報奨金は俺の方で管理するが問題ないか?宿泊や食事、装備の調整費などはすべてこちらで払うので、渡せるお金はしばらく小遣い程度だ。どのくらいの報酬か、ある程度わかっていると思うからそこは信用してほしい。」
「こんな状態でパーティーメンバーに入れてくれるのなら文句は言わないわ。」
「とりあえず1ヶ月くらいは体験と言うことでお願いするよ。」
「わかったわ。あなたのことは話に聞いているので信用するわ。」
10年間コツコツと真面目にやってきたのでそれなりには信用があるので助かった。まあ信用されなければこんなパーティーの募集には誰も応募してこないだろうからな。
ミランダは足が悪いので移動は大変になるが、戦闘は支援魔法のおかげでかなり楽になった。まず大丈夫と思われるレベルの魔獣しか狩っていないので一人だと全額報酬に変えても1匹3000~5000ドールの魔獣がせいぜいだったんだが、二人でやると8000~15000ドールくらいの魔獣を狩ることができた。しかも回復魔法を使ってくれるので回復薬の費用もかからないので助かる。倒す効率も格段に上がったしな。
狩った魔獣はすべて報酬に換金したのでかなりのペースでお金が貯まっていく。足の治療費は100万ドールくらいなのでこのペースだと1ヶ月くらいで貯めることができるかもしれない。ただミランダはおそらくその20分の1の金額と思っているだろう。
お金を早く貯めたい気持ちはあったが、無理しても仕方がないので泊まるところや食事はちょっと贅沢している。宿は今までの100~200ドールの相部屋ではなく、400ドールの個室の部屋だ。さすがにミランダと相部屋というわけにはいかないので個室を二部屋と結構お金がかかってしまうが、そのくらいは十分にまかなえるくらいの収入は得ている。
お金の換金はすべて俺が行っているので不思議に思っているようだが、詳細はまだ話していない。いずれ詳細は説明するが、しばらくはお金の管理はすべて俺が行うこと、報酬については口外しないことなど説明し、魔法で契約まで行っているので大丈夫だろう。
二人で狩りをして1ヶ月ほどたった頃にミランダと今後のことについて話をすることになった。最初に魔法で契約をして、場合によっては話の内容を忘れてもらうことになっている。
もう少しで足の治療ができることを説明するとかなり驚いていた。どうやら足の治療については諦めてしまっていたらしく、生活ができれば十分だという認識だったらしい。
「ざっくりとした計算だけど、この一ヶ月で得られた報酬は実績ポイントなしでたぶん10万ドールくらいだから、生活費を考えたら貯まったお金は2~3万ドールがいいところでしょ?一体どういうことなの?」
「普通だったらその金額だな。」
「だったらなぜもうすぐ足の治療代が貯まるって話になるの?」
俺はこれまでの話をかいつまんで説明した。その話を聞いたミランダはかなり驚いていたが、実際に精算機で実演してみせると驚いていた。
「これって大丈夫なの?」
「正直どうなるかはわからないが、特にチェックもされていないみたいだから大丈夫じゃないかと思う。どっちにしろ、いつ死ぬかわからないような生活をするよりは楽しく暮らしていった方がいいと思っているんだ。
ただこれは俺の考えであってミランダはどう考えるかはわからない。なので治療が終わったらパーティーを抜けてもらってもかまわないぞ。ただこの話についての記憶は先に話したとおり忘れてもらうことになる。
というのも全員が同じことをやり始めたらさすがにばれてしまうと思っているんだ。もしかしたら他にもやっている人がいるかもしれないが、少人数だからこそなんとかごまかせていると思う。」
しばらく考えた後、覚悟を決めたような顔で話してきた。
「わかったわ。私も覚悟を決める。このままあなたと一緒にパーティーを続けるわ。他のパーティーに行ったとしてもまた怪我をしてしまう可能性もあるし、せっかくの人生だから楽しんでいきたいわ。」
「ありがとう。よかった。これで今日からほんとのパーティーメンバーだな。あともう一人くらいは攻撃系の魔法使いか前衛がほしいところだな。」
ミランダに話をした後で、奴隷を見に行くと、もと冒険者という魔法使いの女性がいるといわれたので会ってみることにした。顔にひどい傷があり、左手も手首から先が失われていた。
「アルマ、という。こ、んな、わた、しですが、は、入ることはでき、ま、すか?顔、の、治療ができる、だけで、もおか、ねを貯め、たいんです。」
どうやら顔の怪我のせいでうまくしゃべることができないらしい。話を聞くとどうやら攻撃魔法を使う魔法使いだったらしく、階位は上階位だった。まだ10代らしいので十分優秀だろう。うまくしゃべることができないので魔法の詠唱も難しいようだ。
「ミランダ、顔の治療さえすれば十分戦闘に役立つと思うんだ。ただその分足の治療が遅れてしまうが大丈夫か?」
「ええ、同じ女性としてこれはさすがに見過ごせないわ。」
「いい、の?」
「気にしなくていい。その分きっちり働いて返してくれればいいさ。」
「あ、りが、とう・・・。」
奴隷として購入するが、こんな状態なのでかなり安くですんだ。教会に行き、顔の治療をしてもらうことになったが、さすがに症状がひどかったこともあり60万ドールもかかるようだが、お願いすることにした。
治療して驚いた。ミランダも美人の部類だが、さらにそれを上回る美女がそこにいた。
「なおった、私の顔・・・。」
治療の終わった顔を見て泣き崩れる。
「ありがとう・・・ありがとう・・・。」
アルマが落ち着いたところで今後の話をする。奴隷として購入しているので、お金の管理などについては特に問題は無い。ただ、奴隷ではあるが、普通のパーティーメンバーとして扱うというとかなり驚かれた。
メンバーのバランスもいいのでいったんここでパーティーの募集はやめることにする。本当はもう一人くらい前衛がほしいけど、まあ大丈夫だろう。
このあと2ヶ月くらい狩りをしてなんとか目標のお金を貯めることができた。もちろん治療をして文無しになっても困るので、その後の活動資金もある程度貯めたところで二人の治療を行う。怪我をしてから2、3ヶ月だったので再生魔法もうまくいった。リハビリはいるが、数ヶ月もすれば元の状態まで回復するだろう。
「もう一度確認するけど、このまま一緒のパーティーでいいのか?」
「ええ、元に戻ることなんてできないと思って階位をあげるのは諦めたからもういいわ。」
「私はここまでの治療をしてもらったのでその分のお金を返すのは一生かかってしまうと思うの。だからこのまま奴隷のままでかまわないわ。」
「まあ、そんなにかからずに解放できると思うけどね。」
このあと他のパーティーと同じように魔獣を狩るが、報酬に20倍の差があると生活にも差が出てくる。ただ他の冒険者はやはり階位をあげるのが目標となっているので、上階位や良階位でくすぶっている俺たちにはあまり興味を示さないようだ。
この途中で同じように怪我をしたラミアという女性にも声をかけてパーティーに入ってもらった。防御をメインとした剣士だったのでちょうどよかったのだ。盾を持つ腕に毒を受けて、腕を切り落とす羽目になったようだ。
ラミアの加入で今までよりも格段に安全性が増し、効率よく狩りができるようになった。もちろん無理をして上位の魔獣を倒す必要も無いのでレベルにあった魔獣を倒すのみだ。
ラミアは最初に治療をしてあげたのでかなり困惑していたが、1ヶ月後にミランダにした話をすると、そのままパーティーに残ることになった。
お金を稼いでいるのでもちろん装備をいいものに変えていくことができるのでさらに安全性が高くなった。せっかくなので家も購入することにした。
もちろん一等地に建てられたものではないが、治安もいいエリアの建物なので問題は無い。奴隷も購入し、家の管理から食事の準備まで任せることができるようになった。別にあっちの方のために購入したわけではない。困っていないからね。
家を買ったくらいから奴隷を雇って商売も初めたんだが、そちらでも順調な利益を出し始めた。まあ冒険者としての潤沢な資金があったからうまくいっているんだけどな。
前はなぜあそこまで上の階位なろうとしていたのかわからないけど、今はとても幸せだ。パーティーの3人とはいろいろあったが結婚することになった。もちろんアルマはとっくに奴隷から解放済みだ。平民でも妻を複数持つことは認められているからね。3人とも美人だし、相性もよかったからな。
ラミアが正式にパーティーに加入してしばらくした頃、女性陣で色々と話をしたらしく、誰と付き合いたいのか聞いてきたのだ。俺としては誰と決められなくて、正直に3人と付き合いたいと言ったところ、なんとそれでいいと答えてくれたんだ。
家に、かわいい3人の妻に、十分な資金、そしてまもなく子供も授かりそうだ。子供には冒険者にはならないようにしてもらいたいな。まあもしもの時のために話だけはしておくつもりだけどな。
俺が最後にパーティーを組んでいたメンバーのうち二人は死んでしまったらしく、一人は優階位に上がっていた。周りはうらやましそうにしているが、何がいいのか理解できなくなっている。このあとも特階位を目指すんだろうが、たとえなれたとしても10年努めて引退してもらえる年金は500万ドールだ。たしかに大金だが、俺たちはその10倍以上を稼ぐことができるのだ。
このシステムが作られたのは200年前だが、国が爵位を与えるシステムになったのは100年ほど前らしい。そのときになにかしたのだろう。爵位を与えると言っても領地をもらえるわけでも役職をもらえるわけでもない、年金をもらえると言ってもそれまでに本当に稼いだ額にしたら雀の涙だ。おそらく国がこのシステムを作ったのだろう。
冒険者の階位は低いが、裕福な生活をしている人間を見たことがある。目が合ったことがあったが、お互いに何も言わずにすれ違った。ただお互いの顔を見れば意図していることはわかった。
自分たちは幸せになろうと・・・。
~あとがき~
連載の方はまだ書き続けているんですが、なんとなく思い浮かんだ設定でちょっと書いてみました。
冒険者としてなぜ上の階位を目指すのかと考えたときに名声というのはあるとは思うんですが、それだけで命をかけるのか?ということに疑問を持ってしまったからです。
本当はもっといろいろな設定を考えないといけないのですが、とりあえずそのあたりの裏の事情をすっ飛ばして書いてみたというところです。
まあ出会いについては小説ならではのご都合主義と思ってください。
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