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北城市地区予選 1年生編
第58走 灰色
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スタートの号砲と同時に、一斉にスタンドからは声援が飛んだ!
◇
結論から言うと、結城は完璧なスタートを切る事が出来ていた。
リラックスしていた訳ではないが、1年以上のブランクが逆に”思い切りの良さ”に繋がったのだ。
既に3歩目にして集団から数センチ抜け出し、リードを奪う。
「早馬、スタート完璧に決めやがったぞ!!?」
スタンドで応援していた3年の渚を中心に、キタ高の部員達も湧き上がる!
そしてその期待に応えるように、なんと結城はリードを保ったまま20mまで進んでいたのだ。
ここから選手達は上半身を起こし、いよいよトップスピードへとギアを上げていく。
【タッタッタッタ……!!!】
だがここのギアチェンジでは、さすがに練習不足の影響が見えた。
加速しきれない結城は、隣の前田に一瞬で横に並ばれてしまったのだ。
そして気付けば50m地点を前にして前田が当然のようにトップに立つ。
だが結城も”元々は”日本記録を出す程の才能を持ったスプリンター。
そうそう簡単に離されるような走り方はしていない。
そもそも「走る」というのは、若ければ若いほど”天性の才能”が大きく影響する。
本質的に”早く走る”という才能を持って生まれた結城は、ブランクがあろうが”早く走る体の使い方”は身体に染み付いているのだ。
普通の選手がどれだけ努力しても届かない、努力するのが馬鹿らしくなるほどの圧倒的な才能。
それが早馬結城という存在だ。
しかし50mを過ぎた現在、結城自身にそんな余裕など無い。
栄光を極めた過去とは圧倒的に違う部分が、そこに現れたからだ。
(…………は?)
気付けば結城の視界は”灰色のみ”になっていた。
————————
————————
トラック、メインスタンド、空、全てが灰色。
途端に結城の身体はスローモーションになり、1歩を踏み出す事すら困難を極め始めた。
足元も泥のように不安定になっており、結城の脚をスグにでも飲み込もうとしているようだ。
結城は次第にフォームも乱れ始めた事に気付く。
肩が前後にブレ始め、脚も思うように上らなくなってきた。
(ちょっと待て、なんだよこれ……!?)
結城は鉛のように重くなった身体に困惑を隠せない。
今までの経験でいけば、トップスピードに差し掛かる段階で筋肉の切れる音が聴こえ、ケガをした時のフラッシュバックが脳内を駆け巡っていた。
だが今回は、それとは全く違う状況である。
たった数十秒のレースが、何時間にも感じられるような空間に放り込まれた気分なのだ。
すると……。
「おい、お前」
気付けば結城の視線の先に立つ”誰か”が、結城に語りかけていた。
結城をニラむように見つめる、見慣れた顔だ。
(これは……俺自身か……!?)
そう、そこにはなぜか”左脚の無い結城”が立っていた。
そして彼は続ける。
「なぜお前は、また走っている?」
脚のない結城が真顔で問いかけていた。
————————
————————
50m地点の辺りから、結城のフォームが明らかに乱れ始めた。
スタンドで結城に注目していたキタ高の面々は、スグに異変に気付く。
「おいおいおい!どうした早馬!?ふんばれ!!」
気付けば渚はスタンドで叫んでいた。
だがその思いとは裏腹に、肩や頭はドンドンとブレ始め、先頭の前田との距離はどんどん開いていく。
それどころか、中盤まで粘って手に入れた2番手の位置も、既に3番手の選手に奪われる寸前だ。
スタンドにいる誰もが”ここから7レーンの選手(結城)は抜かされる一方だ”と感じざるをえない状況になりつつある。
「あぁ、ダメだ、早馬が落ちていく……」
そしてその予想は現実となっていた。
70m地点にさしかかった辺りで、結城は完全に3番手に下がってしまったのだ。
さらには4番手の選手との距離も30cmほどにまで詰められている。
「早馬ぁ!!このまま終わんじゃねぇえ!!」
ここで渚達に出来るのは、腹の底からの声援を送る事だけだった。
————————
◇
結論から言うと、結城は完璧なスタートを切る事が出来ていた。
リラックスしていた訳ではないが、1年以上のブランクが逆に”思い切りの良さ”に繋がったのだ。
既に3歩目にして集団から数センチ抜け出し、リードを奪う。
「早馬、スタート完璧に決めやがったぞ!!?」
スタンドで応援していた3年の渚を中心に、キタ高の部員達も湧き上がる!
そしてその期待に応えるように、なんと結城はリードを保ったまま20mまで進んでいたのだ。
ここから選手達は上半身を起こし、いよいよトップスピードへとギアを上げていく。
【タッタッタッタ……!!!】
だがここのギアチェンジでは、さすがに練習不足の影響が見えた。
加速しきれない結城は、隣の前田に一瞬で横に並ばれてしまったのだ。
そして気付けば50m地点を前にして前田が当然のようにトップに立つ。
だが結城も”元々は”日本記録を出す程の才能を持ったスプリンター。
そうそう簡単に離されるような走り方はしていない。
そもそも「走る」というのは、若ければ若いほど”天性の才能”が大きく影響する。
本質的に”早く走る”という才能を持って生まれた結城は、ブランクがあろうが”早く走る体の使い方”は身体に染み付いているのだ。
普通の選手がどれだけ努力しても届かない、努力するのが馬鹿らしくなるほどの圧倒的な才能。
それが早馬結城という存在だ。
しかし50mを過ぎた現在、結城自身にそんな余裕など無い。
栄光を極めた過去とは圧倒的に違う部分が、そこに現れたからだ。
(…………は?)
気付けば結城の視界は”灰色のみ”になっていた。
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トラック、メインスタンド、空、全てが灰色。
途端に結城の身体はスローモーションになり、1歩を踏み出す事すら困難を極め始めた。
足元も泥のように不安定になっており、結城の脚をスグにでも飲み込もうとしているようだ。
結城は次第にフォームも乱れ始めた事に気付く。
肩が前後にブレ始め、脚も思うように上らなくなってきた。
(ちょっと待て、なんだよこれ……!?)
結城は鉛のように重くなった身体に困惑を隠せない。
今までの経験でいけば、トップスピードに差し掛かる段階で筋肉の切れる音が聴こえ、ケガをした時のフラッシュバックが脳内を駆け巡っていた。
だが今回は、それとは全く違う状況である。
たった数十秒のレースが、何時間にも感じられるような空間に放り込まれた気分なのだ。
すると……。
「おい、お前」
気付けば結城の視線の先に立つ”誰か”が、結城に語りかけていた。
結城をニラむように見つめる、見慣れた顔だ。
(これは……俺自身か……!?)
そう、そこにはなぜか”左脚の無い結城”が立っていた。
そして彼は続ける。
「なぜお前は、また走っている?」
脚のない結城が真顔で問いかけていた。
————————
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50m地点の辺りから、結城のフォームが明らかに乱れ始めた。
スタンドで結城に注目していたキタ高の面々は、スグに異変に気付く。
「おいおいおい!どうした早馬!?ふんばれ!!」
気付けば渚はスタンドで叫んでいた。
だがその思いとは裏腹に、肩や頭はドンドンとブレ始め、先頭の前田との距離はどんどん開いていく。
それどころか、中盤まで粘って手に入れた2番手の位置も、既に3番手の選手に奪われる寸前だ。
スタンドにいる誰もが”ここから7レーンの選手(結城)は抜かされる一方だ”と感じざるをえない状況になりつつある。
「あぁ、ダメだ、早馬が落ちていく……」
そしてその予想は現実となっていた。
70m地点にさしかかった辺りで、結城は完全に3番手に下がってしまったのだ。
さらには4番手の選手との距離も30cmほどにまで詰められている。
「早馬ぁ!!このまま終わんじゃねぇえ!!」
ここで渚達に出来るのは、腹の底からの声援を送る事だけだった。
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