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北城市地区予選 準備編
第31走 残り1枠を
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話は4月にさかのぼる。
————4月26日(木)
吉田先生は頭を抱えていた。
その原因は、市予選に出場するメンバー選考についてであった。
さらにいうと、男子100mに出場するメンバーを最後の最後まで悩んでいたのだ。
期限は明日の金曜日まで。
メンバー表の郵送をふまえると、今日決めなければならない。
◇
そもそもなぜ悩んでいるのか?
その理由を生み出す最大の原因は”参加人数の制限”だった。
具体的に言うと、地区予選からは各種目ごとに各校3名までしか参加できない。
”学年別”ではなく”1校の中”で3人までだ。
つまり、ほとんどの学校はベスト記録の上位3名を選抜するのが必然であり、キタ高の100mで言うと隼人・翔・渚の順番だった。
【じゃあこの3人を100mの代表として選べば良いじゃないか】
なんて声も聞こえてくるが、残念ながらそう単純には進まなかった。
その発端となったのが、3年生の山口渚の発言だ。
「僕は100mは出なくても良いです。200mにもリレーにも出てますし、何より将来の事を考えて早馬を出した方が良いと思うんです」
まさかの渚による、結城の推薦だったのだ。
だが県大会に進む選手を1人でも多くしたいというのは全顧問の願いだ。
渚のタイムであれば、大きなミスがない限りは県大会に進む可能性は非常に高かった。
それに対して”今の結城の走り”では、県大会に進む事は非常に難しいだろう。
さらに付け加えると、仮に渚を100mで出さないにしても、4番目に100mのタイムが速い2年生の菅原健太郎を使うのが妥当である。
しかし渚本人から結城の名前を出されてしまったので、安易にそれを提案する事も出来なかったのだ。
おそらくそれは、吉田先生自身が”山口は菅原がいる事を分かった上で早馬を提案している”と、シッカリと理解していたからだ。
少なくとも渚がそこまで考えていないような人間では無いと知っているのだ。
「うーーーん。そうだねぇ……」
吉田先生は深く悩んだ結果、隼人と結城と健太郎の3人を職員室に呼び、そこで話し合って決める事にした。
————————
「…………という事を山口に言われたんだけどね。やっぱり最後は本人達に決めて貰おうと思ってね」
吉田先生は、立って話を聞く3人に議題を持ちかけた。
すると意外な事に、最初に口を開いたのは結城だった。
「あの、俺はまだ1年ですし、何よりまともに走れる状態になってないと思います。なので、菅原先輩でいいと思います」
この議題を聞いた瞬間に、結城はこれが1番正しい答えだと確信していた。
そもそも数週間後に実戦復帰している自分の姿が、全く想像できなかったのだ。
しかしそれに反論したのは、普段から寡黙で真面目なスガケンだった。
「僕は早馬が良いと思ってます。なぜかと言いますと、僕の専門はハードル種目だからです。今年は良い手応えもあるので、全く練習していない100mに出るくらいなら、ハードルに集中したいと思ってます」
さらにスガケンは続けた。
「それに、山口先輩の言う事も分かるんです。確かに今の早馬は県大会に進むのは厳しいかもしれません。でも最近の練習の走りを見ていると、何かやってくれそうな期待感を感じさせてくれるんです。どちらにしろ、今後のキタ高を引っ張っていく存在になる為に、経験として出た方が良いと思います」
そう言って健太郎は銀ブチのメガネをクイッと上げた。
結城は当然驚いた表情を浮かべており、日本記録保持者という箔が結城の思っている以上に価値のあるモノなのだと再認識させられていた。
「なるほどね。キャプテンはどう思う?」
唯一口を開いていなかった隼人は、吉田先生からの問いに悩みながらも”提案”をした。
「そう……ですね。菅原本人がそう言うのなら、早馬でも良いとは思います。ただ、郡山以外にも現状で早馬より速い1年生はいます。先輩が譲っている事ですし、早馬を含めたその1年達全員で、残りの1枠を決めるのが全員が納得出来る形じゃないでしょうか?」
それを聞いた吉田先生は、どこか納得の表情を浮かべていた。
健太郎も細かく頷き、同意したように見える。
そして当の本人である結城は、予想していなかった結果に少し動揺しているのだった。
————————
今日の練習が始まる前に、吉田先生から1年生で100mを走れる結城・一縷・康太の3人で集まり、スグに100mに出場する1人を決めるように指示が出た。
そして3人の話し合いは、要求通りスグに終わった。
「吉田先生!最後の1枠は早馬に出てもらう事にしました」
一縷は何の未練も無く吉田先生に報告をした。
というのも既に一縷は400mの出場が内定しており、康太も200mに出場する事が内定していたのだ。
なので、自然と何の種目にも出ていない結城に譲る形となったのだ。
”とある出来事”以降、2年生が少なくなったキタ高陸上部だからこそ回って来た大きなチャンスだった。
だが自分が試合に出られるのは”せいぜい秋頃”と勝手に予想していた結城にとって、それは大きなプレッシャーになっていく……。
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————4月26日(木)
吉田先生は頭を抱えていた。
その原因は、市予選に出場するメンバー選考についてであった。
さらにいうと、男子100mに出場するメンバーを最後の最後まで悩んでいたのだ。
期限は明日の金曜日まで。
メンバー表の郵送をふまえると、今日決めなければならない。
◇
そもそもなぜ悩んでいるのか?
その理由を生み出す最大の原因は”参加人数の制限”だった。
具体的に言うと、地区予選からは各種目ごとに各校3名までしか参加できない。
”学年別”ではなく”1校の中”で3人までだ。
つまり、ほとんどの学校はベスト記録の上位3名を選抜するのが必然であり、キタ高の100mで言うと隼人・翔・渚の順番だった。
【じゃあこの3人を100mの代表として選べば良いじゃないか】
なんて声も聞こえてくるが、残念ながらそう単純には進まなかった。
その発端となったのが、3年生の山口渚の発言だ。
「僕は100mは出なくても良いです。200mにもリレーにも出てますし、何より将来の事を考えて早馬を出した方が良いと思うんです」
まさかの渚による、結城の推薦だったのだ。
だが県大会に進む選手を1人でも多くしたいというのは全顧問の願いだ。
渚のタイムであれば、大きなミスがない限りは県大会に進む可能性は非常に高かった。
それに対して”今の結城の走り”では、県大会に進む事は非常に難しいだろう。
さらに付け加えると、仮に渚を100mで出さないにしても、4番目に100mのタイムが速い2年生の菅原健太郎を使うのが妥当である。
しかし渚本人から結城の名前を出されてしまったので、安易にそれを提案する事も出来なかったのだ。
おそらくそれは、吉田先生自身が”山口は菅原がいる事を分かった上で早馬を提案している”と、シッカリと理解していたからだ。
少なくとも渚がそこまで考えていないような人間では無いと知っているのだ。
「うーーーん。そうだねぇ……」
吉田先生は深く悩んだ結果、隼人と結城と健太郎の3人を職員室に呼び、そこで話し合って決める事にした。
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「…………という事を山口に言われたんだけどね。やっぱり最後は本人達に決めて貰おうと思ってね」
吉田先生は、立って話を聞く3人に議題を持ちかけた。
すると意外な事に、最初に口を開いたのは結城だった。
「あの、俺はまだ1年ですし、何よりまともに走れる状態になってないと思います。なので、菅原先輩でいいと思います」
この議題を聞いた瞬間に、結城はこれが1番正しい答えだと確信していた。
そもそも数週間後に実戦復帰している自分の姿が、全く想像できなかったのだ。
しかしそれに反論したのは、普段から寡黙で真面目なスガケンだった。
「僕は早馬が良いと思ってます。なぜかと言いますと、僕の専門はハードル種目だからです。今年は良い手応えもあるので、全く練習していない100mに出るくらいなら、ハードルに集中したいと思ってます」
さらにスガケンは続けた。
「それに、山口先輩の言う事も分かるんです。確かに今の早馬は県大会に進むのは厳しいかもしれません。でも最近の練習の走りを見ていると、何かやってくれそうな期待感を感じさせてくれるんです。どちらにしろ、今後のキタ高を引っ張っていく存在になる為に、経験として出た方が良いと思います」
そう言って健太郎は銀ブチのメガネをクイッと上げた。
結城は当然驚いた表情を浮かべており、日本記録保持者という箔が結城の思っている以上に価値のあるモノなのだと再認識させられていた。
「なるほどね。キャプテンはどう思う?」
唯一口を開いていなかった隼人は、吉田先生からの問いに悩みながらも”提案”をした。
「そう……ですね。菅原本人がそう言うのなら、早馬でも良いとは思います。ただ、郡山以外にも現状で早馬より速い1年生はいます。先輩が譲っている事ですし、早馬を含めたその1年達全員で、残りの1枠を決めるのが全員が納得出来る形じゃないでしょうか?」
それを聞いた吉田先生は、どこか納得の表情を浮かべていた。
健太郎も細かく頷き、同意したように見える。
そして当の本人である結城は、予想していなかった結果に少し動揺しているのだった。
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今日の練習が始まる前に、吉田先生から1年生で100mを走れる結城・一縷・康太の3人で集まり、スグに100mに出場する1人を決めるように指示が出た。
そして3人の話し合いは、要求通りスグに終わった。
「吉田先生!最後の1枠は早馬に出てもらう事にしました」
一縷は何の未練も無く吉田先生に報告をした。
というのも既に一縷は400mの出場が内定しており、康太も200mに出場する事が内定していたのだ。
なので、自然と何の種目にも出ていない結城に譲る形となったのだ。
”とある出来事”以降、2年生が少なくなったキタ高陸上部だからこそ回って来た大きなチャンスだった。
だが自分が試合に出られるのは”せいぜい秋頃”と勝手に予想していた結城にとって、それは大きなプレッシャーになっていく……。
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