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北城市記録会 1年編

第20走 緑山記念陸上競技場

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 5月3日木曜 憲法記念日
 天気予報 : 晴れのち曇り

 北城市記録会、当日。

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 キタ高陸上部のメンバーは、朝の7時前には寮を出て、最寄りの駅から今回の北城市記録会が行われる緑山記念みどりやまきねん陸上競技場(通称:緑山記念)へと向かっていた。

 緑山記念は県内でもトップクラスに設備が整った競技場として知られており、数十年前にココで国体が行われた際に”緑山記念”という名称が付けられた。

 ちなみに名前の通り北城市内にある競技場なのだが、そもそも北城市自体が非常に広い。
 なので北城高校からは電車で40~50分程かかる距離に存在している。

 そして来週から始まる北城市予選と兵庫県予選大会も、この緑山記念陸上競技場で行われる予定だ。
 まさに名実めいじつ共に間違いなく”兵庫県を代表する競技場”なのである。

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 そんな緑山記念に向かう電車の中で、結城は1つ上の先輩・相沢麗音あいざわれおんの隣に座っていた。
 麗音は結城と同じ短距離の選手だが、タイムはお世辞にも早いとはいえない。
 自己ベストは現短距離パートの中では最も遅い12.98である。

 もちろんこれは極端に遅すぎるタイムではない。
 だがレベルが高いキタ高短距離パートに加え、ただでさえ人数が少ない2年生の影響で、部内では遅く見えてしまうのだ。
 ちなみに彼は、北城高校で1、2番を争う変わり者とも言われている……。


「早馬くん、昨日のきゅんパリ見たぁ?」
「……!?!?」


 あまりに唐突に放たれた麗音の言葉に、隣に座っていた結城もビクッと体を震わせる。
 なにせ結城も麗音とは話した事はないのだ、驚くのも無理はなかった。

「えっと……きゅん?何ですかソレ?」

「きゅんパリだよ、見てないの?”きゅんきゅんパリランド”。間違いなく今期最強アニメだよ?」

「は、はぁ……。アニメはそんなに見ないんですよね……」

「ふ~~~ん。アニメ見ないのかぁ。アニメは人生を潤してくれるから、絶対に見たほうがいいよぉ」

「は、はい。時間があればチェックしときます……時間があれば……」

 なんとか話を切りたかった結城は、電車の窓に頭をつき、とうとう寝ているフリを始めた。
 麗音はもう少し話したそうだったが、そんな後輩の様子を見て大人しくしているのだった。

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 競技場に着いた部員達は、開場直前の門へと足を運ぶ。
 なぜなら今回参加する学校同士の”陣地取り”が始まるからだ。

 大きい大会になれば学校ごとの場所は事前に決まっているのだが、今回はただの記録会である。
 なので朝イチで広い陣地を取らなければ、多くの選手を抱える陸上部は窮屈きゅうくつな思いをしながら1日を過ごす事になってしまう。

 とはいえ緑山記念はメインスタンド側だけでも十分に広く、激しく争わなくても陣地は確保出来る。
 だがいつものクセで部員達は会場前の門に集まっていたのだ。



 ちなみに北城陸上部はというと、緑山記念ではトラック※から見て右端の上部に陣取るのが伝統になっている。
 1年生にとって最初の仕事は、そこにブルーシートを1番に広げる事だ。

 昔は門が開いた瞬間に各学校の部員が猛ダッシュで陣取り合戦を始めていたが、近年は”危険”と判断された事により走る事は禁止されている。
 なので現在はブルーシートを持った各学校の”陣地取りプロ”の部員が、開門したスタッフに怒られない”ギリギリの早歩き”でスタンドへと向かっていくのだ。

 とはいえ、暗黙の了解で各学校の陣地は何となく決まってはいるので、そこまで焦る必要も無いのだが……。

 ————————

 そして午前7時30分を過ぎた頃にようやく門が開き、北城高校も無事に陣地を確保する事ができた。

「よっしゃ!広げろ広げろ!そこの7段目ぐらいまでは取っとこうぜ!?」

 ちなみに記念すべき1年生初のブルーシートは、高原一縷によって敷かれていた。
 さすがは中学時代のキャプテン、物怖じする事なく仲間に指示を出し、正確に陣地を確保して見せたのだ。

 こうしていよいよ、新生北城高校陸上部の初記録会が始まっていく。


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 ※トラック・・・競技場内にある1周400mの走路のこと。競技場によって赤色や青色などの種類があり、硬さや反発性が変わる。ちなみにトラック上で行われる短距離や長距離などの種目を”トラック競技”、それ以外の跳躍ちょうやく(幅跳びや三段跳び)や投擲とうてき(砲丸投げや円盤投げ)の種目は”フィールド競技”と呼ばれる。
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