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北城高校 入学編!
第12走 想像以上
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新生北城高校陸上部がいよいよ始動した!
◇
結城にとっては約1年半ぶりの部活動だ。
さすがにブランクもあってか、少し緊張の面持ちを浮かべている。
ちなみに全ての陸上部員は結城の”走りの状態”については聞いていた。
なので現在”別メニュー”を行っている結城に対して文句などを言う部員は居ない。
1人を除いては……。
「特別待遇は、うらやましいの~!」
皮肉めいたセリフを言っているのは郡山翔だ。
もちろん結城はそんなイジリなど完全に無視している。
————————
そもそも結城は、入部するまでの1週間で軽いランニングは再開していた。
軽く走る程度なら特に問題はないからだ。
するとそんな状況を聞いていた吉田先生は、ふと結城に問いかける。
「ちょっと50m走やってみるかい?今出せる範囲でいいからね。自分の現状を知っておく事は今後も必要になってくるんじゃないかい?」
「50m……!はい」
結城にとっては久しぶりのタイム測定だ。
正直怖さもあったが、断る理由も特に無い。
スピードを出しすぎなければフラッシュバックも起きないと分かっているからだ。
「じゃあマネージャー、タイム測ってあげてね」
そう言われた1年マネージャーの唯は、スグにストップウォッチを用意する。
他の先輩マネージャーは結城以外の部員のサポートに回っているので、今手が空いているのは唯だけだったのだ。
ちなみに北城高校のグラウンドが広いことは過去にも触れたが、陸上部は主にグラウンドの端の直線を使っており、直線距離は110mもある。
そんなグラウンドの”さらに狭い一部”を使ってアップを終えた結城は、いよいよ50m走のスタート位置に移動していた。
その様子を見た唯も、早速50mのゴール地点にスタンバイしている。
◇
そしてスタートに向けて息を整える結城だったが、ここで何か違和感を感じる。
そう、何か強い視線を感じたのだ。
(ん……?なんか変だぞ)
結城はサッと周りに目を向ける。
すると、なんと先ほどまで普段の練習を行っていた陸上部員の視線が、全て結城へと集まっていたのだ!
(なんか注目されてるぅぅう!?見ないで欲しいんですけど……)
そう感じる結城だったが、さすがに面識の無い先輩に”ちょっと見ないで下さいよ!”とは言えない。
結城は仕方なく集中を高め、ゆっくりとスタートの姿勢へと入ったのだった。
「いきまーす!位置に付いてーー!よーーーい!」
そして唯の声がキタ高のグラウンドに響きわたる。
「パンッ!!」
そして簡易ピストルの音も遅れてグラウンドに響いた。
【タッタッタ……!】
直後、結城は低い姿勢でどんどんスピードを上げていく!
1年以上短距離から離れていたとはいえ、この辺りのスムーズな加速はさすが中学の日本記録保持者といった所か。
だがそのまま順調にトップスピードへ乗っていくかと思われた、その時だった。
明らかに加速の途中で脚の回転は遅くなり、スタートの時に感じさせた”期待感”はスグに消えていったのだ。
————————
「えーーーっと、7秒58です!」
ゴールした結城に対し、唯がタイムを告げる。
日本記録保持者にしてはあまりに寂しすぎるタイムであり、中学時代の面影は皆無だった。
タイムを聞いた部員たちにも”まあ、仕方ないか……”といった落胆の様子も見える。
しかし意外にも、結城本人と吉田先生の反応だけは違っていた。
「ホントに?思ってたより全然早いじゃん。8秒台は行くと思ってた……ハァ……ハァ」
結城の息はかなり上がっているが、なぜか充実した表情にも見える。
吉田先生にいたっては……。
「あれれ、普通に走れるね~。1年以上走ってなかったのに全然早いじゃないの」
2人からすれば、どうやら思った以上の成果を得たようだ。
するとここで吉田先生が結城に問いかける。
「今のは何割の力だった?」
「えっと、4~5割ぐらいっすね」
「おお、立派立派!身体は走り方を忘れてなかったみたいだね。しばらくはその割合ぐらいで、走りのクオリティを上げていけるようにしようか。力を抑えてもスピードが出るようになれば、きっと新たに見えてくる事があるはずだよ」
「なるほど?そうっすね、何とかやってみます!」
明るく返事をした結城は、どこか楽しそうに見えた。
ちなみにタイムを測った唯だが、結城はタイムが遅くて落ち込んでしまうのではないか?と心配していた。
だがその予想とは全く逆の反応を見せた結城に少し驚いているようだ。
そして何かが吹っ切れた様子の結城は、どこか幼い子供のようにも映るのだった。
————————
日が沈み始め、今日の陸上部の練習が終了する。
新1年生は思っていた以上にハードな練習にヘトヘトになっているようだった。
「まぁ初日で1年も疲れたと思うから、ゆっくり身体を休めるようにな」
キャプテンの隼人は、まだ高校の環境に慣れきっていいない1年生を労っている。
だが最後にまだ何かをするようだ。
「じゃあ最後円陣組むぞ!」
「「はい!!」」
すると2、3年生は慣れた様子で円陣を作り、急に両手をヒザに付いた。
それを見た1年生達も、少し遅れて先輩達と同じ体勢になる。
実はこの”円陣”とはキタ高陸上部の伝統で、練習や試合終わりに円陣を組んで大きな声を出す事なのだ。
「キタコーーーーーファイ!!!」
隼人が大声で叫び、そして部員達も続く。
「「オォォ!!!!!」」
残りの部員達も、それに続くように大声を上げた。
この瞬間だけは、陸上部がグラウンドの主役と言っても過言ではない。
こうして新1年生達は、またキタ高陸部の一員としての1歩を踏み出していくのだった。
————————
……そして練習後、部室で着替えている結城に隼人が問いかけた。
「早馬はいつ寮に入るの?」
結城にも、新入部員としての大きな一歩が迫っていた。
————————
◇
結城にとっては約1年半ぶりの部活動だ。
さすがにブランクもあってか、少し緊張の面持ちを浮かべている。
ちなみに全ての陸上部員は結城の”走りの状態”については聞いていた。
なので現在”別メニュー”を行っている結城に対して文句などを言う部員は居ない。
1人を除いては……。
「特別待遇は、うらやましいの~!」
皮肉めいたセリフを言っているのは郡山翔だ。
もちろん結城はそんなイジリなど完全に無視している。
————————
そもそも結城は、入部するまでの1週間で軽いランニングは再開していた。
軽く走る程度なら特に問題はないからだ。
するとそんな状況を聞いていた吉田先生は、ふと結城に問いかける。
「ちょっと50m走やってみるかい?今出せる範囲でいいからね。自分の現状を知っておく事は今後も必要になってくるんじゃないかい?」
「50m……!はい」
結城にとっては久しぶりのタイム測定だ。
正直怖さもあったが、断る理由も特に無い。
スピードを出しすぎなければフラッシュバックも起きないと分かっているからだ。
「じゃあマネージャー、タイム測ってあげてね」
そう言われた1年マネージャーの唯は、スグにストップウォッチを用意する。
他の先輩マネージャーは結城以外の部員のサポートに回っているので、今手が空いているのは唯だけだったのだ。
ちなみに北城高校のグラウンドが広いことは過去にも触れたが、陸上部は主にグラウンドの端の直線を使っており、直線距離は110mもある。
そんなグラウンドの”さらに狭い一部”を使ってアップを終えた結城は、いよいよ50m走のスタート位置に移動していた。
その様子を見た唯も、早速50mのゴール地点にスタンバイしている。
◇
そしてスタートに向けて息を整える結城だったが、ここで何か違和感を感じる。
そう、何か強い視線を感じたのだ。
(ん……?なんか変だぞ)
結城はサッと周りに目を向ける。
すると、なんと先ほどまで普段の練習を行っていた陸上部員の視線が、全て結城へと集まっていたのだ!
(なんか注目されてるぅぅう!?見ないで欲しいんですけど……)
そう感じる結城だったが、さすがに面識の無い先輩に”ちょっと見ないで下さいよ!”とは言えない。
結城は仕方なく集中を高め、ゆっくりとスタートの姿勢へと入ったのだった。
「いきまーす!位置に付いてーー!よーーーい!」
そして唯の声がキタ高のグラウンドに響きわたる。
「パンッ!!」
そして簡易ピストルの音も遅れてグラウンドに響いた。
【タッタッタ……!】
直後、結城は低い姿勢でどんどんスピードを上げていく!
1年以上短距離から離れていたとはいえ、この辺りのスムーズな加速はさすが中学の日本記録保持者といった所か。
だがそのまま順調にトップスピードへ乗っていくかと思われた、その時だった。
明らかに加速の途中で脚の回転は遅くなり、スタートの時に感じさせた”期待感”はスグに消えていったのだ。
————————
「えーーーっと、7秒58です!」
ゴールした結城に対し、唯がタイムを告げる。
日本記録保持者にしてはあまりに寂しすぎるタイムであり、中学時代の面影は皆無だった。
タイムを聞いた部員たちにも”まあ、仕方ないか……”といった落胆の様子も見える。
しかし意外にも、結城本人と吉田先生の反応だけは違っていた。
「ホントに?思ってたより全然早いじゃん。8秒台は行くと思ってた……ハァ……ハァ」
結城の息はかなり上がっているが、なぜか充実した表情にも見える。
吉田先生にいたっては……。
「あれれ、普通に走れるね~。1年以上走ってなかったのに全然早いじゃないの」
2人からすれば、どうやら思った以上の成果を得たようだ。
するとここで吉田先生が結城に問いかける。
「今のは何割の力だった?」
「えっと、4~5割ぐらいっすね」
「おお、立派立派!身体は走り方を忘れてなかったみたいだね。しばらくはその割合ぐらいで、走りのクオリティを上げていけるようにしようか。力を抑えてもスピードが出るようになれば、きっと新たに見えてくる事があるはずだよ」
「なるほど?そうっすね、何とかやってみます!」
明るく返事をした結城は、どこか楽しそうに見えた。
ちなみにタイムを測った唯だが、結城はタイムが遅くて落ち込んでしまうのではないか?と心配していた。
だがその予想とは全く逆の反応を見せた結城に少し驚いているようだ。
そして何かが吹っ切れた様子の結城は、どこか幼い子供のようにも映るのだった。
————————
日が沈み始め、今日の陸上部の練習が終了する。
新1年生は思っていた以上にハードな練習にヘトヘトになっているようだった。
「まぁ初日で1年も疲れたと思うから、ゆっくり身体を休めるようにな」
キャプテンの隼人は、まだ高校の環境に慣れきっていいない1年生を労っている。
だが最後にまだ何かをするようだ。
「じゃあ最後円陣組むぞ!」
「「はい!!」」
すると2、3年生は慣れた様子で円陣を作り、急に両手をヒザに付いた。
それを見た1年生達も、少し遅れて先輩達と同じ体勢になる。
実はこの”円陣”とはキタ高陸上部の伝統で、練習や試合終わりに円陣を組んで大きな声を出す事なのだ。
「キタコーーーーーファイ!!!」
隼人が大声で叫び、そして部員達も続く。
「「オォォ!!!!!」」
残りの部員達も、それに続くように大声を上げた。
この瞬間だけは、陸上部がグラウンドの主役と言っても過言ではない。
こうして新1年生達は、またキタ高陸部の一員としての1歩を踏み出していくのだった。
————————
……そして練習後、部室で着替えている結城に隼人が問いかけた。
「早馬はいつ寮に入るの?」
結城にも、新入部員としての大きな一歩が迫っていた。
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