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逸れ龍と天地の神子
104.ピースサイン
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「さて、それでは改めて聞き直そうか。………お主らの願いはなんじゃ?」
低い身長から俺たちに向かって願いを聞いてきた神子様。まだ信じられない部分は多いが、もはやここまでに起こった様々な超常現象を思い返せば、彼女の力は信じざるを得ない。
「ダオタオ、急に現れてすまないな。ビックリしただろ?でもこの少女は敵じゃなかった。安心してお前の願いを言ってくれ」
「ね、願いですか?えーっと、話が急すぎて付いていけないです………」
そりゃそうだ。ダオタオの立場になってみれば、先ほどまで姿を消していた俺が、急に謎の少女と共に現れたんだ。警戒するに決まってる。
だが仮に経緯を詳しく説明した所で、完全に理解してもらうのも難しいと思う。
なぜなら、俺自身もまだ平和の神子の存在を信じきれていないんだから。
「えーっと、俺も完全に理解できている訳じゃないんだが………。とりあえずこの少女は人間じゃなくて、この場所で何千年も生きてきた特殊な存在らしいんだ。それで、俺たちの願いを何でも一つ叶えてくれるって決まりがあるらしいんだよ」
「サ、サンさんはそれを信じているんですか?」
「まぁ………信じざるを得ない事が、目の前で沢山起こっちゃったからな。急に俺がお前の場所に戻ってこれたのも、その内の一つだ。幻術や単なる瞬間移動とは違う、全く理解できない領域の技だった。念のために言っておくが、俺も完全に彼女の存在を信じた訳ではないぞ?」
「そ、そうなんですね………」
まだダオタオの表情は晴れない。
まぁ人間これぐらい警戒心が強い方が、誰かに騙されなくて済むだろうから良いと思う。ただ、今だけはスグに信じて欲しいんだけどね………。
すると少し考え込んだダオタオは、ある提案を俺たちに持ちかける。
「とりあえず真偽は分かりませんが、少なくともこの空の上に大地があった時点で不思議なのは間違いないですもんね。じゃ、じゃあ!願いを叶えてくれたら信じるって事にしませんか?」
「そうだな、俺もそれで良いと思う」
俺はダオタオの提案に対し、首をタテに振っていた。まぁ正直な事を言うと、既に俺は神子様の存在をある程度信じているし、信頼も置き始めていた。
だがダオタオにも信じさせる為に、あえてここはダオタオ側に立つ事にしていたのだ。
「ほぉ、小僧同士がワシに交換条件を出すとは、生意気じゃな!」
「………もしかして神子様、失敗するのが怖いんですか」
「サン、それは”脅し”か?」
「ただの”期待”ですよ」
そう言って笑みを浮かべた俺。
失礼な事を言った自覚があったが、リアクションの良い神子様をイジってみたくなった結果だ。
「期待されたのなら仕方がないなぁ!小僧達にワシの力を見せてやろう!!」
「是非お願いします」
そして俺はダオタオに同じ質問を投げかける。
「ダオタオ。改めてにはなるが、お前の願いはなんだ?どうやら強い願いがあればこの場所に辿り着くらしいんだが、俺には思い当たらなかったんだ」
「願い………ですか………」
するとダオタオは、スゥッと地面に視線を下ろす。実は俺もある程度は予想できていたが、やはり彼の願いは一つのようだ。
「親父を………親父を助けて下さい………ッッ!!」
彼の視線の先に居たのは、地面で冷たくなった彼の父親の姿だった。
あぁ、そうだよな。ダオタオも、さすがに親父さんが手遅れな事に気付いていたのだ。
ちなみに親父さんを小型飛行艇の中で救命措置をしたのは俺だが、既にその時から完全に心臓は止まっていた。既にこの世を去って、何分も経っているのは明白だ。
だがもしこの状態から助けられたら、いよいよ俺はこの神子を”本物”として見る事になる。地上では絶対に存在する事のない、死んだ者を甦らせる力。
そんな術が地上にあっては、世界のバランスは大きく崩れるだろう。
「親父を助けて欲しいという願いじゃな?なるほど、生きている魂は二人しか感じなかったのじゃが、既に一人死んでおったのか。通りで違和感があった訳だ」
すると神子様はゆっくりと俺の横を過ぎ去り、親父さんの横でヒザをついて座っていた。フワッと揺れる彼女の純白のワンピースは、この世の素材とは思えない程にきめ細やかで、汚れのない綺麗な色をしている。
「お主、ダオタオと言ったか?少し離れておれ。魂が壊れるぞ」
「こわ………えぇ!?」
すると恐ろしい忠告を聞いたダオタオは、スグに親父さんと神子様の元から距離を取っていた。結果的には、俺とダオタオの間で神子様が治療をするという構図になる。
「さて、死者を甦らせるのは久しぶりじゃが、上手くいくかのぉ~?」
「成功したら、いつでもキャラメル作ってあげますよ」
「たった今、成功率が100パーセントになったぞ」
何とも(食)欲深い神子様だな。だがキャラメルを作るだけで一つの命が蘇るのなら、これほどコスパの良いものはない。
俺は今出来る最大のエールを神子様に送っただけなのだ。
「それでは始めるかの。本当は魂を甦らせる際は神に確認が必要なのじゃが、今回は特別じゃ。ワシの独断で蘇らせてやろう」
そして彼女は、ダオタオの親父さんの左胸にそっと手を置いた。
────次の瞬間だった。
【キュゥゥゥウウン………!!!】
突如神子様と親父さんの周りに、小さな竜巻のような風が起こり始める!そしてその中心にいる二人は、強く青白い光を発し始めていた!
「おぉ………すげぇっ!!」
思わず声を漏らしてまう俺。だがそれもそのはず、この魔力を一切使わない、見た事も無い高度な術を目にしてしまったら、興奮しない方がおかしな話だ。きっと俺は、この光景を数十年先も忘れる事はないだろう。
………そして徐々に落ち着きを取り戻し始めた二人の周りの竜巻は、まさに蘇生の完了を告げていた。
「ホレ、終わったぞ。これでピンピンのピンの助じゃ!」
「ピンの助?」
「特に意味はないぞ。聞き流せサンよ」
とりあえず、神子様の治療術は成功したようだ。こうなると、残るは本当に生き帰っているのか確かめるだけだな。
「ダオタオ、お前が確かめてくれ。きっと親父さんもそれを望んでる」
「は、はい………」
疑心暗鬼な顔のまま、ダオタオは重たい足取りで親父さんの横へと移動していた。だけど、これでもし生き返ってなかったら俺はどうすればいいんだろう?神子様の胸ぐらでも掴むべきなのか?
まぁ掴んだ所で、手も足も出ない未来しか見えないな。だから頼む、奇跡よ起きてくれ。
ダオタオが右耳を親父さんの胸に当て始めた。さぁ………どうだ!?
「………………」
「………どうだダオタオ?」
「………………てます」
ダオタオの蚊の鳴くような声が響く。あぁ、嫌な予感がする。生きてたら、もっと喜ぶはずだよな?おいおい勘弁してくれよ。
「すまないダオタオ、もう一回言ってくれるか?」
恐る恐る聞き直す俺。だがダオタオから帰ってきたのは、俺の嫌な予感を完全に裏切る報告だった。
「う……………動いてます!心臓が、動いてますッッ!!!」
「ほ、本当か!?よしっ!よし!!」
俺は思わずガッツポーズをしてしまっていた。なにせ一度諦めかけた命なんだ、この結果は素直に嬉しかった。
そして俺とは対照的に、ダオタオはその場に突っ伏している。どうやら嗚咽の声を親父さんの胸の上で漏らしているようだ。
「神子様!親父を生き返らせてくれて、ありがとうございます!本当にありがとうございます………!!」
「そんな感謝される事かの?」
するとダオタオの患者に対し、意外にも神子様は少し冷たい反応を見せていた。
だが神子様にとっては、恐らく人間如きの命を甦らせる事など朝飯前なのだろう。だから彼女に悪気はない。ただ当たり前のことをしただけなのだ。
まさに"人間の一生に対する価値観"が全く違う事をハッキリと理解させられた、そんなやり取りだった。
「あの、神子様」
「ん?なんじゃサンよ」
「人間は短い一生だからこそ、一つ一つの出来事に意味を価値を見出そうとする生き物なんです。だから神子様にとっては一瞬の出来事でも、ダオタオにとってコレは死ぬ直前まで忘れないような大きな意味を持つ瞬間なんです」
「うむ………?」
「だから堂々と感謝を受け取ってあげて下さい。アナタのした事は、きっと正しく立派な事なので」
すると神子様は口を尖らせながら首をかしげた後、組んでいた腕を解いて再びダオタオへと向き直った。どうやら何かが彼女の中で変わったようだ。
「ダオタオよ、もう一度ワシに感謝せよ」
「え?………あ、あぁ!もちろんです。ありがとうございました神子様っ!!この御恩は一生忘れません!!!」
するとそれを聞いた神子様は、先ほどまでとは別人のように可愛らしい笑顔を浮かべる。そして右手の人差し指と中指を立てて、ダオタオの感謝に応えるのだった。
「うむ!その感謝、シッカリと受け取ったぞ!!」
彼女の周りには、平和な空間が広がっていく。
低い身長から俺たちに向かって願いを聞いてきた神子様。まだ信じられない部分は多いが、もはやここまでに起こった様々な超常現象を思い返せば、彼女の力は信じざるを得ない。
「ダオタオ、急に現れてすまないな。ビックリしただろ?でもこの少女は敵じゃなかった。安心してお前の願いを言ってくれ」
「ね、願いですか?えーっと、話が急すぎて付いていけないです………」
そりゃそうだ。ダオタオの立場になってみれば、先ほどまで姿を消していた俺が、急に謎の少女と共に現れたんだ。警戒するに決まってる。
だが仮に経緯を詳しく説明した所で、完全に理解してもらうのも難しいと思う。
なぜなら、俺自身もまだ平和の神子の存在を信じきれていないんだから。
「えーっと、俺も完全に理解できている訳じゃないんだが………。とりあえずこの少女は人間じゃなくて、この場所で何千年も生きてきた特殊な存在らしいんだ。それで、俺たちの願いを何でも一つ叶えてくれるって決まりがあるらしいんだよ」
「サ、サンさんはそれを信じているんですか?」
「まぁ………信じざるを得ない事が、目の前で沢山起こっちゃったからな。急に俺がお前の場所に戻ってこれたのも、その内の一つだ。幻術や単なる瞬間移動とは違う、全く理解できない領域の技だった。念のために言っておくが、俺も完全に彼女の存在を信じた訳ではないぞ?」
「そ、そうなんですね………」
まだダオタオの表情は晴れない。
まぁ人間これぐらい警戒心が強い方が、誰かに騙されなくて済むだろうから良いと思う。ただ、今だけはスグに信じて欲しいんだけどね………。
すると少し考え込んだダオタオは、ある提案を俺たちに持ちかける。
「とりあえず真偽は分かりませんが、少なくともこの空の上に大地があった時点で不思議なのは間違いないですもんね。じゃ、じゃあ!願いを叶えてくれたら信じるって事にしませんか?」
「そうだな、俺もそれで良いと思う」
俺はダオタオの提案に対し、首をタテに振っていた。まぁ正直な事を言うと、既に俺は神子様の存在をある程度信じているし、信頼も置き始めていた。
だがダオタオにも信じさせる為に、あえてここはダオタオ側に立つ事にしていたのだ。
「ほぉ、小僧同士がワシに交換条件を出すとは、生意気じゃな!」
「………もしかして神子様、失敗するのが怖いんですか」
「サン、それは”脅し”か?」
「ただの”期待”ですよ」
そう言って笑みを浮かべた俺。
失礼な事を言った自覚があったが、リアクションの良い神子様をイジってみたくなった結果だ。
「期待されたのなら仕方がないなぁ!小僧達にワシの力を見せてやろう!!」
「是非お願いします」
そして俺はダオタオに同じ質問を投げかける。
「ダオタオ。改めてにはなるが、お前の願いはなんだ?どうやら強い願いがあればこの場所に辿り着くらしいんだが、俺には思い当たらなかったんだ」
「願い………ですか………」
するとダオタオは、スゥッと地面に視線を下ろす。実は俺もある程度は予想できていたが、やはり彼の願いは一つのようだ。
「親父を………親父を助けて下さい………ッッ!!」
彼の視線の先に居たのは、地面で冷たくなった彼の父親の姿だった。
あぁ、そうだよな。ダオタオも、さすがに親父さんが手遅れな事に気付いていたのだ。
ちなみに親父さんを小型飛行艇の中で救命措置をしたのは俺だが、既にその時から完全に心臓は止まっていた。既にこの世を去って、何分も経っているのは明白だ。
だがもしこの状態から助けられたら、いよいよ俺はこの神子を”本物”として見る事になる。地上では絶対に存在する事のない、死んだ者を甦らせる力。
そんな術が地上にあっては、世界のバランスは大きく崩れるだろう。
「親父を助けて欲しいという願いじゃな?なるほど、生きている魂は二人しか感じなかったのじゃが、既に一人死んでおったのか。通りで違和感があった訳だ」
すると神子様はゆっくりと俺の横を過ぎ去り、親父さんの横でヒザをついて座っていた。フワッと揺れる彼女の純白のワンピースは、この世の素材とは思えない程にきめ細やかで、汚れのない綺麗な色をしている。
「お主、ダオタオと言ったか?少し離れておれ。魂が壊れるぞ」
「こわ………えぇ!?」
すると恐ろしい忠告を聞いたダオタオは、スグに親父さんと神子様の元から距離を取っていた。結果的には、俺とダオタオの間で神子様が治療をするという構図になる。
「さて、死者を甦らせるのは久しぶりじゃが、上手くいくかのぉ~?」
「成功したら、いつでもキャラメル作ってあげますよ」
「たった今、成功率が100パーセントになったぞ」
何とも(食)欲深い神子様だな。だがキャラメルを作るだけで一つの命が蘇るのなら、これほどコスパの良いものはない。
俺は今出来る最大のエールを神子様に送っただけなのだ。
「それでは始めるかの。本当は魂を甦らせる際は神に確認が必要なのじゃが、今回は特別じゃ。ワシの独断で蘇らせてやろう」
そして彼女は、ダオタオの親父さんの左胸にそっと手を置いた。
────次の瞬間だった。
【キュゥゥゥウウン………!!!】
突如神子様と親父さんの周りに、小さな竜巻のような風が起こり始める!そしてその中心にいる二人は、強く青白い光を発し始めていた!
「おぉ………すげぇっ!!」
思わず声を漏らしてまう俺。だがそれもそのはず、この魔力を一切使わない、見た事も無い高度な術を目にしてしまったら、興奮しない方がおかしな話だ。きっと俺は、この光景を数十年先も忘れる事はないだろう。
………そして徐々に落ち着きを取り戻し始めた二人の周りの竜巻は、まさに蘇生の完了を告げていた。
「ホレ、終わったぞ。これでピンピンのピンの助じゃ!」
「ピンの助?」
「特に意味はないぞ。聞き流せサンよ」
とりあえず、神子様の治療術は成功したようだ。こうなると、残るは本当に生き帰っているのか確かめるだけだな。
「ダオタオ、お前が確かめてくれ。きっと親父さんもそれを望んでる」
「は、はい………」
疑心暗鬼な顔のまま、ダオタオは重たい足取りで親父さんの横へと移動していた。だけど、これでもし生き返ってなかったら俺はどうすればいいんだろう?神子様の胸ぐらでも掴むべきなのか?
まぁ掴んだ所で、手も足も出ない未来しか見えないな。だから頼む、奇跡よ起きてくれ。
ダオタオが右耳を親父さんの胸に当て始めた。さぁ………どうだ!?
「………………」
「………どうだダオタオ?」
「………………てます」
ダオタオの蚊の鳴くような声が響く。あぁ、嫌な予感がする。生きてたら、もっと喜ぶはずだよな?おいおい勘弁してくれよ。
「すまないダオタオ、もう一回言ってくれるか?」
恐る恐る聞き直す俺。だがダオタオから帰ってきたのは、俺の嫌な予感を完全に裏切る報告だった。
「う……………動いてます!心臓が、動いてますッッ!!!」
「ほ、本当か!?よしっ!よし!!」
俺は思わずガッツポーズをしてしまっていた。なにせ一度諦めかけた命なんだ、この結果は素直に嬉しかった。
そして俺とは対照的に、ダオタオはその場に突っ伏している。どうやら嗚咽の声を親父さんの胸の上で漏らしているようだ。
「神子様!親父を生き返らせてくれて、ありがとうございます!本当にありがとうございます………!!」
「そんな感謝される事かの?」
するとダオタオの患者に対し、意外にも神子様は少し冷たい反応を見せていた。
だが神子様にとっては、恐らく人間如きの命を甦らせる事など朝飯前なのだろう。だから彼女に悪気はない。ただ当たり前のことをしただけなのだ。
まさに"人間の一生に対する価値観"が全く違う事をハッキリと理解させられた、そんなやり取りだった。
「あの、神子様」
「ん?なんじゃサンよ」
「人間は短い一生だからこそ、一つ一つの出来事に意味を価値を見出そうとする生き物なんです。だから神子様にとっては一瞬の出来事でも、ダオタオにとってコレは死ぬ直前まで忘れないような大きな意味を持つ瞬間なんです」
「うむ………?」
「だから堂々と感謝を受け取ってあげて下さい。アナタのした事は、きっと正しく立派な事なので」
すると神子様は口を尖らせながら首をかしげた後、組んでいた腕を解いて再びダオタオへと向き直った。どうやら何かが彼女の中で変わったようだ。
「ダオタオよ、もう一度ワシに感謝せよ」
「え?………あ、あぁ!もちろんです。ありがとうございました神子様っ!!この御恩は一生忘れません!!!」
するとそれを聞いた神子様は、先ほどまでとは別人のように可愛らしい笑顔を浮かべる。そして右手の人差し指と中指を立てて、ダオタオの感謝に応えるのだった。
「うむ!その感謝、シッカリと受け取ったぞ!!」
彼女の周りには、平和な空間が広がっていく。
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