上 下
87 / 119
スザクの龍神王

80.扉の先にいるのは

しおりを挟む

 シージェンの山峡やまかいに並ぶ飲食店は、日中でも賑わいを見せていた。

 客層で言うと、ほとんどが冒険者。
 あとは観光客がチラホラ見えるといった所か。
 そして治安維持のためか、所々に【龍族】に雇われたであろう兵士も常在していた。

 この世界における龍神王の血、すなわち龍族の血はとても貴重だ。
 それこそ"王族の血"とも言い換えられる。

 その龍神王の血を持つ者は、漏れなくシージェンの要職に就いているし、とてつもない戦闘力も持っている。

 普段は人型に近い姿で生活しているらしいが、俺の記憶が確かなら、龍の姿にもなれるって話だ。
 それこそ俺が昔に討伐した空飛ぶ雷光龍は、その龍族の内の1体だった。


 ちなみに、どうして龍神王の血を持つ雷光龍を討伐するクエストが出たのか?
 それに関しては話が長くなるから、また別の機会に話すとして……。


「美味しかったですねナツキさん!クローブ大陸では中々食べられない料理ばっかりで、食べ過ぎちゃいましたよ」


 山峡の繁華街を歩いている俺達夫婦は、一通りの料理を食べ終えてから、奥へ奥へと進んでいた。
 それにしてもシージェンの料理というのは、前世でいう”中華料理”のような感じだな。

 味や油は濃く、独特の香辛料が食欲をドンドンと引き立たせてくれる。
 まさに”中毒性”という言葉がピッタリの料理だ。


「あぁ、最高の料理の数々だった。毎日食べるとなると重たいかもしれないが、定期的に食べる分にはこれ以上ないほどのご馳走だった。あれはサンも作れるのか?カルマルに戻っても作れるのか?」
「うーん、どうでしょうね。素材さえ揃えば、ある程度近づける事は出来ると思いますよ?香辛料は特に重要ですね」
「そうかっ!なら帰りに買って帰らないとなっ!!」


 美味しい料理のことになると、いつもよりも3割マシでテンションが高くなるナツキさん。
 こうやって近くで喜んでくれる人がいると、料理する側としても嬉しいモノだ。
 ぜひナツキさんが満足のいくシージェン料理を考えておこう。



 シージェンの山峡を進んでいくと、徐々に飲食店の数は減ってきていた。
 そして気付けば頭上に空は見えなくなり、山峡から洞窟のような場所へと入っていく。

 ちなみに飲食店は減っていくとは言ったが、それとは反対に、徐々に増えていく店も存在する。

 そう、それは主にサキュバスが働く風俗店だ。

 桃色の看板が増え始めたと思えば、洞窟の壁面に建っている店の奥から、こちらを手招きするサキュバスのお姉さんが目に入ってくる。
 俺の顔を見ては舌なめずりをして、心も体も誘惑しようとしてくるのだ。

 マッサージ、SM、ソープ…………。
 あらあら、ここでは口にできないようなサービスの数々が、夢の中にも夢の外にも広がっているらしい。

 俺は生唾をゴクっと飲み込む。
 もちろん隣を歩くナツキさんには悟られないように必死だ。


「サン、周りをキョロキョロしすぎじゃないのか?まさか、店に入りたいと思っている訳ではあるまいな?」
「ふ、ふぇ!?そ、そんな訳ないじゃないですか。いきなり襲われたりしないように警戒しているだけですっ!!」
「そうか。ならさっき紫色の下着を付けていたサキュバスの女を3秒間も見つめていたのは、ヤツが危険だと思ったからなんだな?」
「確かにあの下着は危険で…………。あっ違、そうです!あのサキュバス、なぜか俺だけに殺気を向けてたんです。いやぁ、シージェンは怖い場所ですね、本当に!!」


 そう答えた俺に対し、ナツキさんは遥か上から俺を見下ろしていた。
 その目には当然光など無く、前髪の影に隠れているのも相まってか、さながら殺人鬼のような目になっている。


「私たちは龍神王に会いに来たのだ。遊びに来たのではない。断じてだ」
「わ、分かっております。肝にも股間にも命じております…………」
「…………切り落とすぞ?」
「えぇ!?ナニをっっ!?」


 突如俺の下半身に向けられた殺気……!
 俺は咄嗟に両手でアソコを覆い隠していた。

 これ以降、視線を正面から一切動かすことをやめた俺は、ただひたすらに洞窟の奥へと邁進まいしんしていくのだった。



 風俗街を抜けると、いよいよ両サイドに滝が流れている場所にたどり着いていた。
 先ほどまでの華やかさとは打って変わり、ここは殺風景な洞窟そのものって感じの雰囲気だ。

 だが自然の洞窟とは言えない部分が、ただ一つだけある。
 それは真正面にドンッと構えている”大型の鉄製の扉”だった。

 洞窟の形に沿って作られた鉄扉の大きさは、縦が50m・横は80mぐらいだろうか?
 使われている鉄の質などを見ても、絶対に関係者以外は立ち入らせないという強い意志を感じさせる。

 だが見方を変えれば、この奥はシージェンにおいて最重要の場所という事でもある。
 そう、つまりは俺達の目的でもある”龍神王”がこの先にいるのだ。


「ここからが本番って感じですねナツキさん。でもどうやってここを通るのか…………。門番がいますし、許可を貰わないとダメそうですね」


 すると俺の提案に対して、ナツキさんは当然のように刀のつかに手を置いていた。
 そしていつもの凛々しい声で衝撃の発言をする。


「よし、壊すか」


 俺はたまに、この人は悪魔族なんじゃないかと錯覚する時がある。
 何とも恐ろしい作戦を、さも当然のように遂行しようとしているのだから当然である。


「ちょちょちょ!?待ってくださいナツキさん!!みんな生き埋めになるでしょうが!?シェルドムート戦から何も学んでないんですか!!?」
「シェルドムート戦………あっ。いや、冗談に決まっているじゃないかサン。扉を壊そうなんて、本気で言っている訳ないだろう?」


 ウソだ。だって”あっ”て言ってたもん。
 もう俺がこの人の手綱を握っていないと、知らない間に世界が滅びてもおかしくなさそうだ。

 ────だがそんなやりとりをしている内に、突然鉄扉から”ガチャンッ”と大きな音が鳴っていた。
 それはまるで、カギが開いた時の音だ。

【ゴゴゴゴゴゴ…………】

 いや、どうやら本当にカギが開いた音だったらしい。
 何と目の前の巨大な鉄扉が、重低音な響きと共にゆっっっくりと観音かんのん開きを始めていたのだ!!

 すると気圧などの関係なのか、背後からドンドンと風が吹いてくる。
 まるで引き返す事を許さないような強風が、俺達の背中を強く押していたのだ。


「勝手に開いたな…………」
「勝手に開きましたね…………」


 このように困惑している俺達だったが、スグに視線の先に立っている男の存在に気付く。
 もちろんそれは門番ではない。
 もっと遥か先の高みに上り詰めたであろう、龍王の血を”多く持っている”であろう戦士だった。

 だが彼は俺の、いや、ナツキさんの顔だけを見て表情を曇らせる。
 どうやら彼にとって、ナツキさんの存在は予想外だったようだ。


栄真えいしん殿………ではないだと!?」


 驚いたように言い放つ龍族の男は、腰元に携えた刀身の太い刀をさやから抜き、俺達に向かって刃を向けるのだった。


「えーっと、ナツキさんの知り合いですか?」
「いや、知らんな。また面倒な事になりそうだ」


 大きなため息をつく俺達夫婦は、果たして無事に龍神王の元へと辿りつけるのだろうか?


────
【重要なお知らせ】
2月中旬頃に作品タイトルを変えます。
新タイトルは………

雷霆らいていのサン・ベネット ~強すぎるクーデレ妻は魔王討伐の英雄でした~」

となります。
これからもよろしくお願いします。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...