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城塞都市テザール
75.ピンチはチャンス(炎國喪帝斬)
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あれ?何かがおかしい。
確かにシェルドムートの身体は二つに別れて地面に倒れている。
そして下半身の方の傷口には、ナツキさんの放った炎がメラメラと燃え続けており、そのおかげか回復の様子は見られない。
なんなら、これまで切り落としてきた腕と同様に、塵になって消えようとしている。
ならば、もう片方は上半身だけのはずだよな?
なのにどうして上半身だけでなく、下半身も付いているのだろう。
あぁそうか、マジかよ。
「上半身の方が回復してるっ…………!」
この違和感に気付くまでの時間、実に0.5秒。
だがその時間があれば、シェルドムートが再び"何かを触る"事は十分に可能だった。
「ナツキさん!!」
「分かっている!おそらく傷口を炎ごと転移させたのだろう!クソ、このままじゃ再び逃げられてしまうじゃないか。ツメが甘かったのは私の方だったか………!」
そしてとうとうシェルドムートは、手のひらで自分の体に触れて、戦場から離脱する…………かと思われた。
だが、その誰でも出来るような予測は、まさかのハズれる事になるとは。
【バンッ!】
そう!ヤツは自分の体ではなく、なんと地面に勢いよく両手のひらを置いていたのだ!
するとそれを見た瞬間に、俺はここまでの戦いで感じていた"小さな違和感"を思い出す。
それは”もっと前の段階から、この戦場を離脱するチャンスはあったはず”という違和感だ。
そしてどうやら、ナツキさんもその違和感には気付いていたようだ。
「あぁ、やはりそうか。シェルドムートは、サンに首元を握られた時点で転移スキルを使って逃げれば良かったはずだ。だがヤツは逃げるどころか反撃をしてきた。
まるでこの鉱山の中から逃げる選択肢が無いかのようにな」
「ナツキさん、つまりそれって………」
「これは仮説だが、ヤツはこの鉱山から、なんならこの鉱山内の限られた空間からは”出られない縛り”があるのかもしれない!」
そしてこのナツキさんの仮説が正しいという事は、2秒と経たずに判明する事になる。
なぜなら突然、俺たちの体には”無重力”が襲いかかってきたのだから。
【グウォンッ】
なんだ!?何が起こった!?
突然俺たちの体がフワッと宙に浮いたかと思えば、そのまま天井に押し付けられるように体が動き始めている!
この感覚、まるでこの鉱山内の空間が、突然下に向かって勢いよく落下しているかのような感覚だ。
「えぇぇえ!?ナツキさん、なんか分からないけど落ちてます!!鉱山の中にいるはずなのに、なんか下に落ちていってます!?」
「………信じられない事だが、おそらくシェルドムートが”鉱山内の空間ごと”転移させたのだろう」
「は、はいぃ!?」
この岩場に囲まれた小さな空間ごと、どこかに飛ばしたっていうのか!?
そんな事も出来るのかシェルドムート、さすがに強スキルすぎる。
………いやいやいや、感心している場合じゃないだろ!?
果たして俺たちはどこに飛ばされて、なぜ落下しているのかを考えなくては!
考えなくてはいけないのだが…………。
【シュゥオオンッ!!】
あっ、最悪な音が聞こえたような気がする。
先ほどまでずっと聞き続けていた、空気を切り裂くような音。
そう、紛れもないシェルドムートの腕が暴れ出した時の音だっ!
「なるほどなシェルドムート、無重力に近い状態なら、俺達に攻撃を当てられるって考えたワケね!?クソ、陰湿な策士めっ!だから悪魔族は嫌いなんだよぉおお!!」
最悪の展開だ。こんな体の自由が利かない空間において、あのシェルドムートの高速攻撃を全て避けられるはずがない。
刀でいなすか?
いやいや、もう刀はとっくの前にシェルドムートのスキルによって消されている。
控えめに言って詰んでいるんだ。
あぁもう、こうなったら結局”あの人”に頼るしかないよな。
まったく、最後にはこの人頼りになってしまうクセは早く治したいのになぁ。
だけどここは、とてつもない安心感が時には毒にもなるという事を肝に銘じた上で、あえて言わせてくれ。
いや、叫ばせてくれっ!
「ナ、ナツキさぁぁああん!!大ピンチッ!大ピンチですぅッッ!!」
「落ち着けサン!なぜ無重力に近い状態になったのかを考えろ。そして周りの魔力にも集中しろ。そうすれば、我々がどこに転移させられたのかスグに理解できるはずだ」
するとナツキさんは、宙に浮いた状態にも関わらず、刀に膨大な魔力を込め始める。
そしてアテラ戦でも見せた超高温の炎を蓄え始めていたのだった。
待ってくれ、そんな大技を放ってしまったら、俺達は鉱山内に生き埋めになってしまうんじゃないか!?
でも百戦錬磨のナツキさんが下した判断だ。
彼女の言った通り、周りの魔力に集中してみよう。
…………ん?地面の奥の方から、微かだけれど見慣れた魔力を複数感じる。
まるでそこに街があるかのように…………。
あぁ、なるほど。そういう事か!
「ここはテザールの上空!!」
「あぁ、そういう事だサン!シェルドムートにとって有利な環境は、私にとっては、もっと有利な環境に変わったという事だよ。さぁ、鉱山内では出せなかった大技で決めようじゃないか」
そしてナツキさんは洗練された炎を刀身に纏わせ、数十メートルにも達する大技を放つのだった。
「炎國喪帝斬ッッ!!」
その日、城塞都市テザールの上空には、大きな炎の三日月が観測された。
確かにシェルドムートの身体は二つに別れて地面に倒れている。
そして下半身の方の傷口には、ナツキさんの放った炎がメラメラと燃え続けており、そのおかげか回復の様子は見られない。
なんなら、これまで切り落としてきた腕と同様に、塵になって消えようとしている。
ならば、もう片方は上半身だけのはずだよな?
なのにどうして上半身だけでなく、下半身も付いているのだろう。
あぁそうか、マジかよ。
「上半身の方が回復してるっ…………!」
この違和感に気付くまでの時間、実に0.5秒。
だがその時間があれば、シェルドムートが再び"何かを触る"事は十分に可能だった。
「ナツキさん!!」
「分かっている!おそらく傷口を炎ごと転移させたのだろう!クソ、このままじゃ再び逃げられてしまうじゃないか。ツメが甘かったのは私の方だったか………!」
そしてとうとうシェルドムートは、手のひらで自分の体に触れて、戦場から離脱する…………かと思われた。
だが、その誰でも出来るような予測は、まさかのハズれる事になるとは。
【バンッ!】
そう!ヤツは自分の体ではなく、なんと地面に勢いよく両手のひらを置いていたのだ!
するとそれを見た瞬間に、俺はここまでの戦いで感じていた"小さな違和感"を思い出す。
それは”もっと前の段階から、この戦場を離脱するチャンスはあったはず”という違和感だ。
そしてどうやら、ナツキさんもその違和感には気付いていたようだ。
「あぁ、やはりそうか。シェルドムートは、サンに首元を握られた時点で転移スキルを使って逃げれば良かったはずだ。だがヤツは逃げるどころか反撃をしてきた。
まるでこの鉱山の中から逃げる選択肢が無いかのようにな」
「ナツキさん、つまりそれって………」
「これは仮説だが、ヤツはこの鉱山から、なんならこの鉱山内の限られた空間からは”出られない縛り”があるのかもしれない!」
そしてこのナツキさんの仮説が正しいという事は、2秒と経たずに判明する事になる。
なぜなら突然、俺たちの体には”無重力”が襲いかかってきたのだから。
【グウォンッ】
なんだ!?何が起こった!?
突然俺たちの体がフワッと宙に浮いたかと思えば、そのまま天井に押し付けられるように体が動き始めている!
この感覚、まるでこの鉱山内の空間が、突然下に向かって勢いよく落下しているかのような感覚だ。
「えぇぇえ!?ナツキさん、なんか分からないけど落ちてます!!鉱山の中にいるはずなのに、なんか下に落ちていってます!?」
「………信じられない事だが、おそらくシェルドムートが”鉱山内の空間ごと”転移させたのだろう」
「は、はいぃ!?」
この岩場に囲まれた小さな空間ごと、どこかに飛ばしたっていうのか!?
そんな事も出来るのかシェルドムート、さすがに強スキルすぎる。
………いやいやいや、感心している場合じゃないだろ!?
果たして俺たちはどこに飛ばされて、なぜ落下しているのかを考えなくては!
考えなくてはいけないのだが…………。
【シュゥオオンッ!!】
あっ、最悪な音が聞こえたような気がする。
先ほどまでずっと聞き続けていた、空気を切り裂くような音。
そう、紛れもないシェルドムートの腕が暴れ出した時の音だっ!
「なるほどなシェルドムート、無重力に近い状態なら、俺達に攻撃を当てられるって考えたワケね!?クソ、陰湿な策士めっ!だから悪魔族は嫌いなんだよぉおお!!」
最悪の展開だ。こんな体の自由が利かない空間において、あのシェルドムートの高速攻撃を全て避けられるはずがない。
刀でいなすか?
いやいや、もう刀はとっくの前にシェルドムートのスキルによって消されている。
控えめに言って詰んでいるんだ。
あぁもう、こうなったら結局”あの人”に頼るしかないよな。
まったく、最後にはこの人頼りになってしまうクセは早く治したいのになぁ。
だけどここは、とてつもない安心感が時には毒にもなるという事を肝に銘じた上で、あえて言わせてくれ。
いや、叫ばせてくれっ!
「ナ、ナツキさぁぁああん!!大ピンチッ!大ピンチですぅッッ!!」
「落ち着けサン!なぜ無重力に近い状態になったのかを考えろ。そして周りの魔力にも集中しろ。そうすれば、我々がどこに転移させられたのかスグに理解できるはずだ」
するとナツキさんは、宙に浮いた状態にも関わらず、刀に膨大な魔力を込め始める。
そしてアテラ戦でも見せた超高温の炎を蓄え始めていたのだった。
待ってくれ、そんな大技を放ってしまったら、俺達は鉱山内に生き埋めになってしまうんじゃないか!?
でも百戦錬磨のナツキさんが下した判断だ。
彼女の言った通り、周りの魔力に集中してみよう。
…………ん?地面の奥の方から、微かだけれど見慣れた魔力を複数感じる。
まるでそこに街があるかのように…………。
あぁ、なるほど。そういう事か!
「ここはテザールの上空!!」
「あぁ、そういう事だサン!シェルドムートにとって有利な環境は、私にとっては、もっと有利な環境に変わったという事だよ。さぁ、鉱山内では出せなかった大技で決めようじゃないか」
そしてナツキさんは洗練された炎を刀身に纏わせ、数十メートルにも達する大技を放つのだった。
「炎國喪帝斬ッッ!!」
その日、城塞都市テザールの上空には、大きな炎の三日月が観測された。
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