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城塞都市テザール

63.まさかのトラブル!?

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 【城塞都市テザール】は、クローブ大陸の最西部に位置している。

 クローブ王国からは徒歩で8時間ほどかかる距離にあるが、チーリン山脈の真横にあるカルマルからすれば4時間ほどの距離にある。
 まぁ近くはないが、極端に遠くもない位置にあると言えるだろう。

 最初は馬を使う事も考えたが、最終的にはいつものように徒歩で目的地へと向かう事に決めていた。
 特別に急いでいる訳でもないし、ナツキさんとの会話をゆっくり楽しめるという点でも徒歩は十分に魅力的だったのだ。


 それにしてもクローブ大陸の地形は面白い。
 きっとそれは、かつて第二次人魔会戦の最終決戦がクローブ大陸で行われたのも影響しているのだろう。

 どんな魔法を使ったのかも想像できないような底なし穴や、異様な形に抉り取られた山。
 無限に続く回廊ダンジョンもあれば、地平線まで続く一本の白い川なんてのもある。

 この大陸に移り住んで10年以上経つが、クエストに出る度にクローブ大陸の新しい景色を見れる事はいまだに珍しく無い。ましてや今はそれを最愛の人と見る事ができるのだから、これ以上の幸福もないよな。


「見てくださいナツキさん!小さな滝がありますよ!舗装されてますし、ここで休みませんか?」

「そうだな」

「見てくださいナツキさん!グスパオニオンが生えてます!これは薬味としても使えますよ」

「そうだな!」

「見てくださいナツキさん!デッッカイ石が二つ並んでますよ!オッパイみたいですね!」

「…………そうだな」


 俺たちは色々な景色、色々な会話を共有した。
 ナツキさんはいつだって言葉少なく俺に反応していたが、表情を見ていれば彼女もキラキラとした気持ちを感じてくれているのは伝わって来る。

 はぁ、勝手に口角が上がってしまうクセはいつか直さないとな。
 ナツキさんといる時にいつもニヤニヤしていては、夫として頼りなく見られてしまうかもしれないからね。


「ナツキさん、いつまでもこんな時間が続けばいいですね」

「急にどうしたんだサン?」

「いや、幸せを噛み締めてるだけですよ」

「ただ一緒に歩く事がか?」

「きっと死ぬ時に思い出すのは、こういう時間だと思いますよ」

「そういうものなのか……?」


 クールながらも疑問の表情を浮かべるナツキさんの横顔を目に焼き付け、俺は少しだけ歩くスピードを上げているのだった。

————————

「見えましたね、城壁都市テザール!」

「相変わらずの仰々しい壁だな」


 ようやくテザールへとたどり着いた俺たち2人は、早速街の入り口へと足を運ぶ。
 それにしても城塞都市と言われるだけあり、近づけば近づくほどに周りを囲む壁の大きさに驚かされる。

 高さは大体50mぐらいか?正確な高さまでは分からないが、ジャンプで飛び超えるにはそれなりの魔力量が必要になりそうだ。もちろん飛び越えるなんて危険なマネはしないけど……。


「あ、門番みたいなのがいますね。そりゃこれだけ高い壁が囲ってるんだから、そう易々と入れる訳はないか」

「そうだな。特にこのテザールに関しては、他の城塞都市に比べても審査はかなり厳しいぞ」

「まぁ僕らみたいにSランク冒険者の証明書とかなければ厳し…………」


 ハッとした。なぜこの瞬間まで気付かなかったのだろう。
 以前入れたのだから、今回も問題なく門をくぐれると思っていた数時間前の自分を殴ってやりたい。

 そう、何せ今の俺はSランク冒険者どころか冒険者ですらない。
 なんの身分もない、ただの旅人でしかないのだ。

 あれ、控えめに言って詰んでね?


「な、なんで入れると錯覚してたんだろう?テザールは世界中から色んな物作り分野の職人が集まる、いわばクローブの産業を支える街。冒険者カードも持たない自称元Sランク冒険者が入れる訳ないですよナツキさん!!?」


 顔面蒼白になりながら焦る俺。ここまでナツキさんを長時間歩かせた結果が”街に入れず帰宅”だったら、マジで100回分ぐらい殺されるぞ。

 やばい、体が震えてきた。ナツキさんへの恐怖に体が震えてきたよ。


「何を言ってるんだサン」

「何って、俺の生死……じゃなくて街に入れないって話を」


 だがナツキさんには焦っている様子は見られなかった。なにせ彼女には俺が持っていない最高の称号が与えられているのだから。


「私は特級鍛治師だと言っただろう。職人の街を守る門番など顔パスで通してくれるよ」

「な、なるほど!!…………それはもちろん、付き添いの俺も一緒に入れますよね?」

「知らん。無理だったら壁の外で野宿して待っていてくれ。安心しろサン、最低でも1年ぐらいで帰って来るよ」

「み、見捨てないでぇナツキさぁああん!?旦那ぞ?我アンタの旦那ぞ!?一緒に連れて行きなさいよ!?ていうか素材の有無と製法を確認するだけで最低1年かかる訳ないでしょ!?」

「君のような煩悩まみれの男には、それぐらいの期間は野宿して自分を見直すべきだ」


 ナツキさんはそう言い残すと、なんと俺を置いてドンドンと門番の方へと早歩きで向かっていくのだった!待て待て待て無理無理無理!
 1年野宿よりも1年ナツキさんに会えないのが無理なんですけどっ!?


「ごめんなさいぃぃ……!もうセクハラしないですからぁあ!!理由も無く胸をチラ見とかしないですからぁあ!!」

「待て、そんな事をしていたのか初耳だぞ!?もういい、そこで1年間泣いて反省しておけっ!!」


 ナツキさんの腰に抱きつきながら地面を引きずられる俺だったが、彼女は歩くスピードを緩めない。何という強靭な足腰なのだろう。
 そしてとうとう門番が俺たち2人に気付き、困惑した表情で語りかけて来るのだった。


「な、何をしている貴様たち!不審すぎるだろう!?」

「気にしないでくれ。腰についているのはアクセサリーのようなモノだ。それはそうと、私はココを通って良いな?私を誰だか分かっていない訳じゃあるまい」


 そしてナツキさんは当然のように門番の横を通り過ぎようとしていた。
 だが残念ながら彼女の進路は、なぜか長い槍によって遮られる。どうやらもう1人の門番が横から槍を倒してきたようだ。


「待て、止まれ。得体の知れない人間を2人も入れる訳ないだろう。とっとと身分を証明できるモノを出せ!何の目的でここに来た!?」

「え?あ、その……」


 強めに正論を言われたナツキさんは、珍しく狼狽うろたえる。それにしてもさすがは街の治安を守るために毎日働いているプロの門番だ、体の大きなナツキさんに臆する様子など微塵もない。

 ていうかさ?そんな事よりさ?


「ナツキさん、さっき”私は顔パスに決まってる”みたいにドヤ顔してませんでs…………」

「サン、それ以上喋るな。私はお前をここで殺したくはない」


 そう言う彼女の顔は、信じられないほどに赤くなっていた。首まで赤くなっていた。
 なんか俺がプロポーズした時より赤くなってる気がするんだけど?普通にこっちも恥ずかしいんで、やめてもらっていいですかね?

 ちなみにこの後、めちゃくちゃ身分証明した。

————————
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